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幕間Ⅱ -悪女は微笑む-
#044.ある日、森の中……そして聖女は慈愛に微笑む
しおりを挟む異世界大陸の西域を覆い尽くす黒き樹林群――”魔の森”――
その最奥秘境、妖樹精が宿る”古代樹”の回廊を【豚頭鬼の王】とエルフ達が調べ回っていた頃、時を同じくして――
『あらあらァ~…”精”を吸い過ぎちゃったのかしらァ~…♪』
妖樹精が宿る”古代樹”回廊の端にて――
まだ樹齢の若い【妖樹精霊】の”緑髪の娘”が――”古代樹”の樹下にて横たわっていた。
うっとり酔い痴れ、桃色吐息に喘ぐ淫靡な表情――
薄紅色に火照る艶肌には、妖艶に薫る艶汗でしっとり濡れ――
股ぐらの蜜壺はたっぷり吸い上げた”精”で膨らみ孕んでいる――
『うふふゥ~♪ あと数日もすればァ~…芳醇な妖樹精の”蜜酒”を…”豚”さんに振る舞えますわァ~♪』
酔い痴れて”熟して”しまった若木の”緑髪の娘”を優しく撫でながら、妙齢の”緑髪美女”が妖艶に微笑む。そして――ねっとり淫らな視線を若き”古代樹”に向けた。
その樹齢若き”緑髪の娘”が宿っていた”古代樹”の枝蔦には――”干からびた青年エルフ”が数匹吊るされている。
いくら樹齢若き【妖樹精霊】とは言え、半精霊の”緑髪の娘”の蜜袋を満たしてしまうとは、なかなかの剛毅ぶり。おそらく……あの中に”絶品なエルフ”がいたのであろう。
『んんゥ~羨ましいわァ~♪…ちょっとだけェ~…お相伴しちゃおうかしらァ~…♪』
妙齢の”緑髪美女”は妖艶に微笑むと――若木の”緑髪の娘”の股ぐらを開帳させる。そして、まるで淑女が果実を頬張るように……そのトロリと熟れた蜜壺に舌先を”じゅるり…”と潜り込ませ、たっぷり滴り溢れる”精”を吸い上げる――だがその瞬間。
『……んんくゥ~…ッ!?……そんなァ…めしべが…膨れ……はあァ~…あァ…ぁ……』
ただの”精”の残滓で、その蜜腹を瞬く間に”孕みイキ”させられた妙齢の”緑髪美女”は――甘息漏らし喘ぐ余裕すらなく”熟されて”しまう。
半精霊である【妖樹精霊】の魂魄すら揺さぶる”快感”――
その人間業ならざる”精力絶倫”ぶりは、あの【豚頭鬼の王】にすら匹敵しよう。
妖樹精の≪妖樹の吸精≫により――若木の”緑髪の娘”の記憶が、妙齢の”緑髪美女”の脳内へ”快感”と共に逆流してくる。
そこで妙齢の”緑髪美女”が見たのは――
七日前の晩、四つの満月が夜空を飾る”月天の宵”が明けた頃――
ひとりの”幼いエルフの少年”が泣きながら、森を駆けていく――
そして、妖樹精の蔦枝が”幼いエルフの少年”を縛り吊るすと――
若木の”緑髪の娘”の饗宴が始まる――
幾晩にも渡り、止め処なくむさぼり喰らう芳醇なる”精”に――
若き”緑髪の娘”はドロドロに酔い痴れてゆく――
そして、あとに遺された”幼いエルフの少年”が――
ひと晩かけて、何とか身体を拘束する蔦枝を解くと――
静かにこの場を離れていった――
”魔森の支配者”たる【妖樹精霊】の監視網――≪樹海の瞳≫に感知される事もなく――!!
その事実に――妙齢の”緑髪美女”はゾクリと背筋を震わせる。
この”幼いエルフの少年”には――半精霊たる我ら【妖樹精霊】すら超越した”得体の知れない加護”がある――。
この事を……誰かに……報せねば――
だが、そう思い及ばせた妙齢の”緑髪美女”の意識は――ずぶずぶと”快感”に塗り潰され、そこでふつりと途絶えるのだった――
◆◇◆
同時刻、黒き樹林が鬱蒼と茂る”魔の森”中層にて――
「はあ…ッ、はあ…ッ、はあ…ッ…!!」
妖樹精の”古代樹”を何とか逃げ出した”幼いエルフの少年”は――命懸けで森を駆け抜けていた。
時折り、何かを恐れる様に背後を振り返る。
その端整な顔立ちは泥土埃に汚れ、疲弊の色を隠せない。
だが、その駆ける足を止めるわけにはいかない。なぜなら――
「……っ、うわあ…っ!!?」
次の瞬間、”幼いエルフの少年”の真横に聳え立っていた樹木がメキメキ…ッと軋みヘシ折られ――”幼いエルフの少年”が木屑と共に吹き飛ばされる。
地面に背中を強かに叩きつけた”幼いエルフの少年”は、痛みや恐怖に叫び声を上げる事すら叶わない。
その眼前で仁王立っていたのは――昨晩、”幼いエルフの少年”がその”縄張り”を通り抜けた事で怒りを買い、その後ひと晩中ずっと逃げ回るハメになった”魔の森”中層の最強牙獣――【梟熊獣】――だった。
――【梟熊獣】――
”熊”の体躯に”梟”の頭部をもつ合成獣型の肉食魔獣。全身は鋼鎧のような毛皮に覆われ、その凄まじい膂力と爪腕は大樹すら容易にヘシ折ってしまう。その性質は極めて獰猛で凶悪――昼行性の”熊”と夜行性の”梟”の特徴を併せ持つため、一度狙った”獲物”は昼夜を問わず執拗に追い回し続け、いたぶり愉しんでは最後に必ず捕食する。この”魔の森”中層を統べる最強牙獣である。
「く…っ、う…うぅ…やだぁ……こんなとこで…こんなとこで…死にだぐな…い…ぃ…ッ!!」
眼前に迫り来る凶悪牙獣に――”幼いエルフの少年”はガタガタ怯え震えながら地面を這い、悔し涙を流して慟哭する。
それを眺め遣った【梟熊獣】が、まるで嘲笑うかの様に咆哮する――だがその時。
「――お逝きなさい――」
”聖なる少女の声”が凛と響き渡る――。
次の瞬間、”幼いエルフの少年”の背後から、”魔の森”の暗闇を斬り裂く様にして――”白き幻獣馬”が光陰の如く疾駆するや、その額に聳え尖れた”一角”で【梟熊獣】の心臓を穿ち貫き、刹那に絶命させる――!!
凄まじい激突音と共に噴き荒ぶ”血肉”の嵐に――”幼いエルフの少年”は呆然と座り込む。
その眼前では――巨体躯に風穴を穿ち抜かれた【梟熊獣】の亡骸から、その額に聳え生える螺旋角をブルンッと引き抜いた”白き幻獣馬”が、後脚で蹴り立ちながら勇ましく嘶き吼えている。
「…ゆ、ユニ…コーン…?……すごい……は、初めて見た……ッ」
――【一角獣】――
”秩序”にして”善”を司ると伝承される”白き幻獣馬”の聖魔獣。外貌は美しい”白馬”だが、その体躯は仔牛ほども大きく精悍であり、その額には鋭利な”螺旋角”が聳え生える。その性質は勇猛果敢にして強靭・無敵・最強――その神聖崇高な気位ゆえに、清純なる”処女”のみに安寧を求める”聖獣”であるらしい……。
「――そこの貴方、御無事でございましたか――?」
気づけば”幼いエルフの少年”のすぐ傍らには――白き”聖十字”の神官服を身に纏った”美少女”が居た。
神官用の頭巾から僅かに零れる金髪は陽光の如く輝き、その華奢な指先で髪を掻き撫でれば、ほのかに花の香りが薫ってくる。聖母愛に溢れる豊かな乳房や腰尻が、神官服を魅惑的に膨らませようとも……その天空色の碧眼と相まって、崇高で神秘的な美しさを醸し出していた――。
その聖なる美貌に――”幼いエルフの少年”は頬を赤らめドギマギすると、小さく頷き返すのが精一杯だった。
ふと周囲を見れば、彼女と同じ”聖十字”の神官服を着た”女神官”達が、”幼いエルフの少年”を守るように周辺を警戒してくれている。先程まで気炎を吐いていた”白き幻獣馬”も――他の”女神官”が優しく添い撫でると、まるで”犬”のように従順になった。そこで”幼いエルフの少年”は――ぼんやりと思い出す。
――≪聖十字教会≫――
かつては小さな孤児院を営む地方宗派のひとつだったが、そこに仕える女神官から”救世の使徒”――≪聖女≫――が降臨した事により、瞬く間に大陸中に信徒を増やした新興宗派だ。その≪聖女≫は、かの伝説の≪勇者≫にして王位継承候補≪第八王子≫と共に”徒党”を結成すると、冒険者として”魔竜”退治など幾多の偉業を成し遂げ……今やその信仰度は絶大なモノとなっている。
また、その≪聖女≫は”白き幻獣馬”――【一角獣】――を使役する”聖法”を見出すと、幾頭もの”白き幻獣馬”を従えた≪聖十字騎士団≫を創設する。聖獣を従えし”聖処女騎士”の軍勢は、聖戦遠征において常勝不敗――今や≪王国騎士団≫に比肩する戦闘集団となっているとか……。
「ひょ…ひょっとして、貴女…様は……≪聖女ソフィア様≫…ですか……?」
「――まあ。うふふ。そうですね……私は慈母神様に仕えるただの”神官”ですが……ええ、貴方の仰る…その≪聖女≫ですわ――」
いと慈悲深き慈母神のような慈愛に溢れた≪聖女≫の微笑みに――”幼いエルフの少年”は、ようやく自分が助かったのだと認識する。
安堵から溢れる涙の雫――。
だが、それと同時に噴き出したのは――満身創痍の”疲労感”だった。
「ぼく…逃げて…きて……たすけ…て……」
「――ええ。御安心ください。もう大丈夫ですから――」
≪聖女≫は慈愛に微笑むと――自身の神官服が血肉と泥土埃で薄汚れるのも厭わず、”幼いエルフの少年”を優しく抱き締める。
そして、その耳元で”回復魔法”の祈りをそっと唱えると――優しき慈愛の温もりに包まれた”幼いエルフの少年”は……こくりと意識を落として眠りにつく。
疲れ果てた”幼いエルフの少年”の寝顔を≪聖女≫は優しく眺めながら――その麗しく潤む唇をれろりと舌先で舐めまわした。
と、周囲を警戒していた”女神官”のひとりが、≪聖女≫の傍らに跪いた。
「聖女様、後来いかが致しましょう。まだ、深層へ”エルフ狩り”に行かせた冒険者どもが戻りませんが……」
「――うふふ。これだけの”上玉”が手に入ったのです……捨ておけば宜しいでしょう――」
いと慈悲深き慈母神の使徒≪聖女≫は――溢れる慈愛に”ハァ…ハァ…ッ”と恍惚に昂奮しながら、じゅるりと仄暗く微笑む。
気づけば、その周囲を取り囲む”女神官”達も――その恍惚とした表情をニタァ~と仄暗く微笑ませていた。
そして、誰からともなく”幼いエルフの少年”――本来ならば、次代の”精霊王”を戴冠するはずだった”少年エルフ”の衣服を剥ぎ取ると……優しくまさぐり始めた。
「――ああ。いと慈悲深き慈母神様……我ら秩序にして善なれば、その悪しき混沌の肉芽を……我らの肉体をもって摘み取り…捧げましょう…っ――」
その光景をウットリ眺めながら、神秘なる美を纏いし≪聖女≫は祈りを捧げると――慈愛に溢れる”聖母”の様に…優しくニタァ~と微笑むのだった――。
◆幕間Ⅱ前篇・完◆
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