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第二章 -エルフ凌辱篇-
#030.エルフの隠れ里に侵入する
しおりを挟むミッドガルド王国西域に鬱蒼と広がる大森林、通称”魔の森”――。
凶悪な魔獣が徘徊する”魔の森”の最深部、魔の瘴気が溢れる”深層”を抜けたさらにその先に…――小さな断崖に囲まれた”隕石跡地のような窪地”があった。
その中心地には、天をも仰ぐ巨大な樹木≪世界樹≫が聳え立っており、その≪世界樹≫の纏う聖気が魔獣を追い祓うのか…――その大樹の麓は、”魔の森”にありながらも陽光に溢れる、平和で穏やかな”緑の楽園”となっていた。
そんな大森林奥地の秘境に…――≪耳長族の隠れ里-ラシル-≫はあった。
◆
”女だけの村”での蜂蜜貿易を無事に終えた、三日後の昼下がり…――。
耳長族側の使節団が乗った一台の馬車が、明るい木漏れ陽が照らす緑のくぐり道を通り抜け……ようやく耳長族の≪隠れ里≫に到着した。
「お、御帰りなさいませっ! ダリエ様、ノナ様、ニナ様…っ!!」
耳長族の集落≪隠れ里≫の門番を務める少年エルフは、御者台で馬を操る≪エルフ姉妹≫と、荷台の木樽に腰掛ける≪黒曜耳長≫を見てとると、頬を赤らめカチコチに緊張しながら出迎えの言葉を述べた。
それも無理はない。耳長族の最高戦力にして軍務担当”長老”の≪黒曜耳長ダリエ≫も、その親衛隊を務める≪エルフ姉妹ノナ&ニナ≫も、この少年エルフにとっては”憧れの御方”であり”高嶺の華”なのだ。
そんな少年エルフのイジらしさに……≪エルフ姉妹≫は優しく”ふふっ”と微笑むと、出迎えを労うように頷き返した。
「うむ。≪メドック村≫との春季・蜂蜜貿易から、ただいま帰還しました」
「とても良い”蜂蜜酒”が手に入りましたよ。楽しみにして下さいね」
「そ、それはとても嬉しゅうございますっ!」
「我々の不在時、何か”里”に変わりはありましたか?」
「ここ最近は【小鬼】の襲撃が頻発してましたからね。心配しておりました」
「はいっ、ここ数日の間はとても平和でございましたっ!」
「そうでしたか」
「それは何よりです」
少年エルフから”里”の近況を聞き、≪エルフ姉妹≫がホッと安堵する。
とその時、馬車荷台から少年エルフへ御声が掛かる。
「――では、≪巫女姫≫エルマ様に御変わりは? ”精霊王の戴冠儀式”の準備も恙無いか?」
「は、はひっ// そ、そちらも順調とのことですっ!」
馬車荷台の木樽に腰掛けていた≪黒曜耳長≫が、艶やかな褐色肌のムッチリ太ももを組みかえながら問い掛ける。民族衣装の腰布を翻らせるその脚線美の艶めかしさに、少年エルフはドキドキと赤面しながらも何とか返答する。
「ふふっ、ご苦労…もう下がっていいぞ?」
≪黒曜耳長≫は、少年エルフの泳ぐ瞳がチラチラと自身の太ももを舐めるのを秘かに愉しみながら……少年エルフに色っぽく微笑み返す。
その微笑みに心臓を弾ませながら、少年エルフは飛び退くように道を空ける。その様子に≪エルフ姉妹≫はクスクスと微笑みながら手綱を振るった。
ゆっくりと≪耳長族の隠れ里≫を走り進む馬車…――。
のどかな風景を馬車の荷台から望みながら、≪黒曜耳長≫は静かに呟いた。
「何とか”精霊王の戴冠儀式”にも間に合ったな。あとは早くこれを≪巫女姫≫様にお届けしなくては……な?❤」
そう言いながら、≪黒曜耳長≫は自身が腰掛ける”木樽”を優しく撫でやり――そして、その樽の中に隠れていた”俺様”も秘かに豚笑いするのだった。ぶひひっ!
◆◇◆
”精霊王の戴冠儀式”――
そもそも【耳長族】とは、種族特性≪精霊契約≫の恩恵により、先天的に”精霊”との親和性が高い種族である。だがそんな【耳長族】の中でも、さらに”精霊”と高次元の親和性を誇る者がいる。
それが精霊神より加護≪精霊の寵愛≫を授かりし者――”巫女”――である。
一般の耳長族が精霊を”使役”するのに対して、”巫女”は精霊と魂魄同調する事で”精霊憑依”を可能とする。精霊憑依状態となった”巫女”は、一般の耳長族を遙かに凌駕する精霊魔法を行使できるのだ。
尚、精霊との親和性の問題なのか、加護≪精霊の寵愛≫は【耳長族】の極一部の女性のみに顕現する……故に”巫女”である。
そんな”巫女”には、二つの大事な”務め”がある。
一つは、その麓に耳長族の集落≪隠れ里≫を抱える巨樹≪世界樹≫の世話役である。≪世界樹≫の纏う聖気は、その麓を対魔獣の”安全地帯”とする耳長族の生存圏の要である。巫女エルフ達は日夜≪世界樹≫に祈りを捧げ、聖気を潤おし、守護しているのだ。
そしてもう一つは、精霊憑依状態の”巫女”が男性と”寵愛”する事により……本来は授かる事のない耳長族の男性に、加護≪精霊の寵愛≫を疑似的に付与する事である。ひとりの”巫女”が寵愛できる男性はひとり限りだが、この方法で≪精霊の寵愛≫を授かった男性は”精霊憑依”こそ使えないが、精霊魔法の”使役”権能が格段に強化されるのだ。
まさに”巫女”を礎に繁栄してきた耳長族――。
そんな”巫女”を統べるのは、精霊神より最上級の加護≪精霊神の寵愛≫を授かりし今世に唯ひとりの者――”巫女姫”――である。
そして当然の事ながら、”巫女姫”にも男性を”寵愛”する事が可能なのだが……その強過ぎる”寵愛”ゆえに、男性側にも”特別な条件”が求められる。
”巫女姫”の寵愛を享受できる者、民を導く耳長族最強の精霊使い……それが今世の”精霊王”となるのだ。
だが、数年前に先代の”精霊王”が里を襲撃した伝承級魔獣【八岐大蛇】と相討ち、戦死して以後……耳長族の里では、既に幾年も”精霊王”が空位となっていた。
耳長族の民が永らく待ち望んだ”精霊王”の継承――。
そして今年、今代の”巫女姫”エルマ様が齢十八歳を迎え……ついに”寵愛”の赦される年齢となる。あとは”王の素質”を持つ若者をあてがい……”巫女姫の寵愛”を執り行うのみ。
それこそが”精霊王の戴冠儀式”であり……その儀式は十日後に迫っていた。
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