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幕間Ⅰ -女だけの村-

#016.行商人は奸計をめぐらし、獣耳娘は酔いどれる <Ⅱ>

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「……かなり高いですわね」


 村長邸宅にある応接室に”ブルワーズ商会”の≪副会頭アルバロ≫を案内した≪美人妻メリダ≫は、小太り禿げ男アルバロから手渡された”数枚の書類”に目を通すと……眉間にしわを寄せた。

 それは明日の”朝市の商い”に卸される”商品価格”の一覧表だった。村で行商を営む場合、販売利益から徴税するため、村営側は行商側からあらかじめ価格表を提示してもらうのだが……どれもかなり”値上がり”している。しかも≪副会頭アルバロ≫の話では、この価格帯がしばらく続くと言うのだ。これでは村の住民達が、必要分の生活必需品を買えなくなる恐れがある。


「ご理解くださいよぉ奥さん、私らも慈善事業ではないのですな。この地域は”魔の森”も近ぇので、ただでさえ魔獣モンスターとの遭遇対策に護衛費が掛かりますがぁ……そこに今回の”サキュバス事件”と来たもんだ。女冒険者に指名依頼を出したり、男の冒険者に”危険手当”として特別報酬を支払ったりで……いつもの倍は経費がかさんどるんですわ」


「それは理解しておりますわ。ただこれだと……」


 ≪美人妻メリダ≫は困ったように溜息を漏らす。
 逆に小太りの≪副会頭アルバロ≫はその様子を眺めて……ニタリィと微笑む。


「そこで奥さんにご提案がありましてなぁ?」


 ≪副会頭アルバロ≫はそう言うや、懐から”もうひと組の書類”を取り出して≪美人妻メリダ≫にスッと手渡す。いぶかしげに思いながらも≪美人妻メリダ≫はその”書類”に目を通す――それは先程と同じく”商品価格”の一覧表だった。

 ただ少し異なるのは――価格がいつも通りになっている点だ。


「……こちらの”価格表”は何ですの?」


「そちらにご提示した内容の”用意もある”という事ですなっ」


 小太り男の≪副会頭アルバロ≫はそう言いながら薄ら笑いを浮かべると、応接室の長椅子ソファからのっそりと立ち上がる。そして、対面に座っていた≪美人妻メリダ≫の背後へ回り込むようにゆっくりと歩き始める。


「なぁに難しい取引ではありませんぞ。私どもがこうむる損失を、ほんの少ぉしだけ……奥さんに”違うかたち”で補填して頂きたいのですなぁ?」


「それは……どういう意味でしょう?」


「むほほっ、例えばですなぁ――」


 すると≪副会頭アルバロ≫はでっぷり肥えた両手を≪美人妻メリダ≫の両肩に乗せるや――衣服の上から、その豊満で少しだらしない乳房の艶肉をぶるるんっと揉み揺らす。


「今回の”行商”に参加した殿方へ支払う”危険手当”として……奥さんが”お気持ち”を施されるとかぁ?」


「……や、やめてください…っ//」


「おほう、私はそれでも良いですぞ。ただそうなると……村民の生活は立ち往きますかなぁ?」


「……っ!!」


 ≪美人妻メリダ≫が思い悩むように表情を暗くすると……その様子を舐めるように眺めていた≪副会頭アルバロ≫が、再びニタリと微笑んだ――


 ◆◇◆


「んにゃはぁ~♪ この村の”蜂蜜酒”はサイッコーにゃあ~♪」

「わふぅん♪ 美味しくてスイスイ飲めちゃうんですけどぉー♪」

「あぁ~やっべ、ムラムラする。どっかにイイオスいねぇかな?」

「きゃははっ♪ ≪兎耳娘ラァナ≫ちゃんったら発情期にはまだ早いにゃあ♪」

「わふっ♪ そういう≪猫耳娘ミィミィ≫ちゃんも尻尾しっぽが勃起してるしぃー♪」

「んにゃあ~ちょっと≪犬耳娘ワンルゥ≫ちゃん、下着パンツが見えるから触っちゃダメにゃん♪」


 待ち合わせ場所の”食堂兼酒場レストランバー”に到着した獣耳ケモみみの女冒険者三名は……この村の美味しい食事&酒に舌鼓を打ちっぱなして超ご機嫌になっていた。

 特にこの村の特産である”蜂蜜酒メドリ”は樽ごと飲み干しており、衣服も乱れぎみな”酔いどれ獣耳ケモみみ娘”が出来上がっている。


「まったくぅ…私が”今日は奢る”と言った途端にゲンキンな娘達だにゃあ♪」


 そんな獣耳ケモみみ娘達の食事を楽しげに眺めながら……今回の”待ち合わせ相手”であり、先輩冒険者にして同郷の仲間でもある”お姉系”美女ギャルの≪黒猫耳娘ニィニャ≫が、白髪房メッシュの混じる美しい黒髪を手櫛で撫でながら優しく微笑む。


「それなら≪黒猫耳娘ニィニャ≫姉さん、そろそろ説明して欲しいなぁ?」

「わふん。さっきから濃淡はあれど、すれ違う”村民”全員から匂うのぉー」

「そうだにゃ≪黒猫耳娘ニィニャ≫お姉ちゃん。どうしてこの村はこんなに”豚”オークの匂いがぷんぷんするにゃ?」


 獲物を狙う肉食獣の如き眼光――
 さすが年若くとも”熟練ベテランの冒険者”である三人娘達は、”切り替え時”が分かっている。その様子に≪黒猫耳娘ニィニャ≫は満足げに微笑んだ。


「皆はこの村で起きた”サキュバス襲撃事件”の事は知ってるにゃあ?」

「もちろん知ってるにゃ、王国中で噂になってるにゃ」

「……おそらく”サキュバスが襲撃した”というのはウソだにゃあ」

「わふっ!?」

「おいおいマジかよ。でも≪黒猫耳娘ニィニャ≫姉さんどうして?」

「私は”事件”が起きた夜、ちょうど同郷の冒険者仲間と共に”魔の森”へ長期遠征に出ていて、”村”にいなかったのにゃあ。そして遠征を終えて”村”に帰ってみると……村中が”豚”オークの匂いまみれだったにゃあ」


 【豚頭鬼オーク】を筆頭とした”亜人型魔獣モンスター”の特徴は――”メス”がいないという歪な生態系にある。それゆえに”亜人型魔獣モンスター”は、他種族の”メス”をさらっては”孕み袋”にする事で繁殖を為していく。そして結論を言えば――”亜人型魔獣モンスター”にとって”女冒険者”は恰好の獲物なのだ。

 だからこそ、嗅覚の鋭敏な【獣人族テリアン】の女冒険者は”その匂い”を必ず最初に覚え、決して忘れない。それは最も警戒せねばならない”危険臭”なのだから――


「犠牲になった男衆の遺体からも、強烈な”豚”オークの匂いがしたのにゃあ。私はこの事を王国騎士団が派遣した”調査部隊”にも報告したけど……結局、王国騎士団は”サキュバスの襲撃事件だった”と公表したのにゃあ」

「わふぅ! それって王国騎士団が事実を隠蔽したって事ぉー?」

「駐在騎士団が下級魔獣ザコモンスター”豚”オークにヤられた上に、村民全員を虐殺&凌辱レイプされたとなれば”大失態スキャンダル”だからなぁ……これマジでヤバイ話じゃん」

「……それで≪黒猫耳娘ニィニャ≫お姉ちゃんはどうしたいのにゃ?」

「事実を公表したいわけじゃないにゃあ。むしろ事実を伏せた事で、この村の女性が”醜聞”に苦しまず済んだにゃあ。同じ”女”としてそれを嬉しく思うのにゃあ」


 ≪黒猫耳娘ニィニャ≫は決意を秘めた眼差しで獣耳ケモみみ娘達を見やる。


「この”秘密”を一緒に守って欲しいのにゃあ」

「……具体的には?」

「まずはこの村から”匂い”が消えるまで、同郷テリアンの”オス”を遠ざけるにゃあ」

「わふん。【獣人族テリアン】なら、この村に来ただけですぐに”事実”に気づいちゃうもんねぇー」

「この事は、うちら”メス”だけの”秘密”にしよってわけだ?」

「それなら隣町でナンパでもして”オス”を足止めするにゃん♪」

「それともうひとつ……真の襲撃犯である”豚”オークの討伐に協力して欲しいにゃあ」

「そりゃイイねぇ、”豚”オークを殺すのに理由は要らないさ」

「わふぅ、けど私達四人だけでやるのぉー?」

「まさかにゃあ。今この村にいる私の冒険者仲間と手分けして、信頼できる同郷仲間テリアンへ”鷹便エアメール”を飛ばしているところにゃあ。あと五日もすれば、三十人規模の獣耳ケモみみ美女ギャルいっぱいの”強襲連隊レイドパーティ”が完成するにゃあ♪」


 お姉系美女ギャルの≪黒猫耳娘ニィニャ≫はニヤリと微笑むと、蜂蜜酒の満ちた杯を掲げる。それを見た獣耳ケモみみの三人娘は――同じく笑い返すと、蜂蜜酒の満ちた杯をカキンッとぶつけあった。

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