16 / 74
幕間Ⅰ -女だけの村-
#016.行商人は奸計をめぐらし、獣耳娘は酔いどれる <Ⅱ>
しおりを挟む「……かなり高いですわね」
村長邸宅にある応接室に”ブルワーズ商会”の≪副会頭≫を案内した≪美人妻≫は、小太り禿げ男から手渡された”数枚の書類”に目を通すと……眉間にしわを寄せた。
それは明日の”朝市の商い”に卸される”商品価格”の一覧表だった。村で行商を営む場合、販売利益から徴税するため、村営側は行商側からあらかじめ価格表を提示してもらうのだが……どれもかなり”値上がり”している。しかも≪副会頭≫の話では、この価格帯がしばらく続くと言うのだ。これでは村の住民達が、必要分の生活必需品を買えなくなる恐れがある。
「ご理解くださいよぉ奥さん、私らも慈善事業ではないのですな。この地域は”魔の森”も近ぇので、ただでさえ魔獣との遭遇対策に護衛費が掛かりますがぁ……そこに今回の”サキュバス事件”と来たもんだ。女冒険者に指名依頼を出したり、男の冒険者に”危険手当”として特別報酬を支払ったりで……いつもの倍は経費が嵩んどるんですわ」
「それは理解しておりますわ。ただこれだと……」
≪美人妻≫は困ったように溜息を漏らす。
逆に小太りの≪副会頭≫はその様子を眺めて……ニタリィと微笑む。
「そこで奥さんにご提案がありましてなぁ?」
≪副会頭≫はそう言うや、懐から”もうひと組の書類”を取り出して≪美人妻≫にスッと手渡す。訝しげに思いながらも≪美人妻≫はその”書類”に目を通す――それは先程と同じく”商品価格”の一覧表だった。
ただ少し異なるのは――価格がいつも通りになっている点だ。
「……こちらの”価格表”は何ですの?」
「そちらにご提示した内容の”用意もある”という事ですなっ」
小太り男の≪副会頭≫はそう言いながら薄ら笑いを浮かべると、応接室の長椅子からのっそりと立ち上がる。そして、対面に座っていた≪美人妻≫の背後へ回り込むようにゆっくりと歩き始める。
「なぁに難しい取引ではありませんぞ。私どもが蒙る損失を、ほんの少ぉしだけ……奥さんに”違うかたち”で補填して頂きたいのですなぁ?」
「それは……どういう意味でしょう?」
「むほほっ、例えばですなぁ――」
すると≪副会頭≫はでっぷり肥えた両手を≪美人妻≫の両肩に乗せるや――衣服の上から、その豊満で少しだらしない乳房の艶肉をぶるるんっと揉み揺らす。
「今回の”行商”に参加した殿方へ支払う”危険手当”として……奥さんが”お気持ち”を施されるとかぁ?」
「……や、やめてください…っ//」
「おほう、私はそれでも良いですぞ。ただそうなると……村民の生活は立ち往きますかなぁ?」
「……っ!!」
≪美人妻≫が思い悩むように表情を暗くすると……その様子を舐めるように眺めていた≪副会頭≫が、再びニタリと微笑んだ――
◆◇◆
「んにゃはぁ~♪ この村の”蜂蜜酒”はサイッコーにゃあ~♪」
「わふぅん♪ 美味しくてスイスイ飲めちゃうんですけどぉー♪」
「あぁ~やっべ、ムラムラする。どっかにイイ男いねぇかな?」
「きゃははっ♪ ≪兎耳娘≫ちゃんったら発情期にはまだ早いにゃあ♪」
「わふっ♪ そういう≪猫耳娘≫ちゃんも尻尾が勃起してるしぃー♪」
「んにゃあ~ちょっと≪犬耳娘≫ちゃん、下着が見えるから触っちゃダメにゃん♪」
待ち合わせ場所の”食堂兼酒場”に到着した獣耳の女冒険者三名は……この村の美味しい食事&酒に舌鼓を打ちっぱなして超ご機嫌になっていた。
特にこの村の特産である”蜂蜜酒”は樽ごと飲み干しており、衣服も乱れぎみな”酔いどれ獣耳娘”が出来上がっている。
「まったくぅ…私が”今日は奢る”と言った途端にゲンキンな娘達だにゃあ♪」
そんな獣耳娘達の食事を楽しげに眺めながら……今回の”待ち合わせ相手”であり、先輩冒険者にして同郷の仲間でもある”お姉系”美女の≪黒猫耳娘≫が、白髪房の混じる美しい黒髪を手櫛で撫でながら優しく微笑む。
「それなら≪黒猫耳娘≫姉さん、そろそろ説明して欲しいなぁ?」
「わふん。さっきから濃淡はあれど、すれ違う”村民”全員から匂うのぉー」
「そうだにゃ≪黒猫耳娘≫お姉ちゃん。どうしてこの村はこんなに”豚”の匂いがぷんぷんするにゃ?」
獲物を狙う肉食獣の如き眼光――
さすが年若くとも”熟練の冒険者”である三人娘達は、”切り替え時”が分かっている。その様子に≪黒猫耳娘≫は満足げに微笑んだ。
「皆はこの村で起きた”サキュバス襲撃事件”の事は知ってるにゃあ?」
「もちろん知ってるにゃ、王国中で噂になってるにゃ」
「……おそらく”サキュバスが襲撃した”というのはウソだにゃあ」
「わふっ!?」
「おいおいマジかよ。でも≪黒猫耳娘≫姉さんどうして?」
「私は”事件”が起きた夜、ちょうど同郷の冒険者仲間と共に”魔の森”へ長期遠征に出ていて、”村”にいなかったのにゃあ。そして遠征を終えて”村”に帰ってみると……村中が”豚”の匂いまみれだったにゃあ」
【豚頭鬼】を筆頭とした”亜人型魔獣”の特徴は――”雌”がいないという歪な生態系にある。それゆえに”亜人型魔獣”は、他種族の”女”を攫っては”孕み袋”にする事で繁殖を為していく。そして結論を言えば――”亜人型魔獣”にとって”女冒険者”は恰好の獲物なのだ。
だからこそ、嗅覚の鋭敏な【獣人族】の女冒険者は”その匂い”を必ず最初に覚え、決して忘れない。それは最も警戒せねばならない”危険臭”なのだから――
「犠牲になった男衆の遺体からも、強烈な”豚”の匂いがしたのにゃあ。私はこの事を王国騎士団が派遣した”調査部隊”にも報告したけど……結局、王国騎士団は”サキュバスの襲撃事件だった”と公表したのにゃあ」
「わふぅ! それって王国騎士団が事実を隠蔽したって事ぉー?」
「駐在騎士団が下級魔獣の”豚”にヤられた上に、村民全員を虐殺&凌辱されたとなれば”大失態”だからなぁ……これマジでヤバイ話じゃん」
「……それで≪黒猫耳娘≫お姉ちゃんはどうしたいのにゃ?」
「事実を公表したいわけじゃないにゃあ。むしろ事実を伏せた事で、この村の女性が”醜聞”に苦しまず済んだにゃあ。同じ”女”としてそれを嬉しく思うのにゃあ」
≪黒猫耳娘≫は決意を秘めた眼差しで獣耳娘達を見やる。
「この”秘密”を一緒に守って欲しいのにゃあ」
「……具体的には?」
「まずはこの村から”匂い”が消えるまで、同郷の”男”を遠ざけるにゃあ」
「わふん。【獣人族】なら、この村に来ただけですぐに”事実”に気づいちゃうもんねぇー」
「この事は、うちら”女”だけの”秘密”にしよってわけだ?」
「それなら隣町でナンパでもして”男”を足止めするにゃん♪」
「それともうひとつ……真の襲撃犯である”豚”の討伐に協力して欲しいにゃあ」
「そりゃイイねぇ、”豚”を殺すのに理由は要らないさ」
「わふぅ、けど私達四人だけでやるのぉー?」
「まさかにゃあ。今この村にいる私の冒険者仲間と手分けして、信頼できる同郷仲間へ”鷹便”を飛ばしているところにゃあ。あと五日もすれば、三十人規模の獣耳美女いっぱいの”強襲連隊”が完成するにゃあ♪」
お姉系美女の≪黒猫耳娘≫はニヤリと微笑むと、蜂蜜酒の満ちた杯を掲げる。それを見た獣耳の三人娘は――同じく笑い返すと、蜂蜜酒の満ちた杯をカキンッとぶつけあった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
502
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる