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第一章 -村娘凌辱篇-
#013.淫夢悪魔-サキュバス-襲撃事件
しおりを挟むミッドガルド王国≪王都ガルディア≫――
それは大陸中央に広がる草原地帯≪シャンパニア≫のほぼ中心に位置する”人類繁栄の地”であり、王家が居を構える軍務執政御所≪王城≫が聳え立つ”城砦都市”である。
そして今、王城内の廊下を”ひとりの若い軍務官”が規律正しく歩み進んでいる。
軍務官の向かっていた先は――王国が誇る最高軍務機関≪王国騎士団≫の執務室だ。軍務官は執務室前に到達すると、その重厚な扉を軽く二回叩く。すると室内から”入りたまえ”と厳かな声が返ってきた――
◆
「失礼いたします」
若い軍務官は木製扉を開けて執務室に入ると、頭に載せていた軍帽を小脇に抱えて綺麗に挙手敬礼した。軍帽の装飾からして、この若い軍務官が”上級士官”である事は窺い知れる。それでも若干緊張した面持ちで敬礼しているのは、部屋の主にして執務机に座する老齢の偉丈夫――王国騎士団長≪ミハイル=ダアブ=ヴィットマン≫の威厳が為せる業であろう。
ミハイル騎士団長は手元の書類から少しだけ視線をズラすと、若い軍務官に剣刃の如く鋭い眼光を向けた。
「――お前だったかバルクホルン。調査任務ご苦労であった。王都帰還の直後で悪いが、早速”例の事件”に関して報告を聞きたい」
「かしこまりました」
若い軍務官――バルクホルン将校は即答すると”調査報告書”を執務机に置き、説明を始めた。
◆
「十日前の夜、”魔の森”にほど近い王国最西端の重要拠点集落≪メドック村≫にて、計三百八十六名の成人男性全員が”謎の腹上死”を遂げる怪事件が発生したとの”急報”が入りました――これは事実です」
バルクホルン将校の簡潔な説明に、ミハイル騎士団長は眉根を寄せる。
「男だけが全滅か……”腹上死”である根拠は?」
「全ての遺体の”下半身の状態”を確認しましたが――”確実”かと思われます」
ミハイル騎士団長は”うぅむ…”と思案する様に低く唸ると、調査報告書をザッと一読した。
「村に暮らす全ての女性が……”その晩、夜の営みは無かった”と証言しておるのだな?」
「そうであります」
「そうか。そうなると巷の噂通り【淫夢悪魔-サキュバス-】の襲撃事件という線が濃くなるな……他の魔獣が原因である可能性は?」
「仮に”他の魔獣”が襲撃犯だとしても――同じ夜晩に、村の男衆全員が、妻以外の女婦と通姦する――その様な可能性は無きに等しいかと考えます」
バルクホルン将校の推論を聞き、ミハイル騎士団長は同意する様に深く溜息をこぼした。
「うぅぬ。今から百年程前、当時の王国騎士団が手塩にかけて育てた若き少年≪剣聖≫が【淫夢悪魔】に摂り殺された。王国騎士団の誇る≪剣聖≫が淫魔に敗れたという醜聞を払拭するため、王国騎士団は威信を懸けて”サキュバス狩り”を行い、この大陸から全ての【淫夢悪魔】を滅ぼした……そう思われておった」
「今回の襲撃犯が【淫夢悪魔】の生き残りとなれば……厄介な事になりますね」
――【淫夢悪魔-サキュバス-】――
高い知性と絶大な魔力を誇る高位魔獣種≪悪魔族≫の中でも”上級悪魔”に分類される存在。その高度な魔法戦闘能力もさる事ながら、恐るべきは種族特性≪魅惑≫――その妖しい美貌で”男を洗脳する”という凶悪権能である。
過去には一匹の【淫夢悪魔】に小国が滅んだ事さえあり、現代でも”第一級討伐指定魔獣”に認定されている。詰まるところ、その凶悪な権能ゆえに【淫夢悪魔】の討伐戦には”鉄則”が存在する――
「――”男は逃げろ、隠れろ、戦うな”――ですか?」
「あれに”男”は勝てんからな。だが、今から騎士団内の”女騎士”を転属&再編成するのは骨が折れそうだわい……」
ミハイル騎士団長は短い白髪をガリガリと掻くと、再び溜息を漏らす。
【淫夢悪魔】ほどの上級悪魔と互角に戦える優秀な”女騎士”は、王妃や王女殿下が暮らす≪王城・大奥宮≫を守護する”近衛騎士”として編成されている事が多い。王族子女の”選り好み”まで考慮すれば、その再編成は全く容易ではない。
常在戦場を信条に戦果を挙げ続けてきた”叩き上げ”の騎士団長も、差し詰め晩年の事務仕事には参っている様子だ。バルクホルン将校は苦笑しながら同情する。
「こんな時に≪女騎士アレシア≫が健在であれば……と思えてなりません」
「……あの様子では難しいだろうな。御懇意にしていた≪第八王子殿下≫の失踪から早三ヶ月、いまだに消息の手掛かりも無いのだ」
ミハイル騎士団長は執務机に頬杖をつくと、別の書類を取り出す。
「逆に≪第一王子殿下≫は活力旺盛の御様子だな。何ゆえか今回の”サキュバス事件”を耳にして……”魔の森”周辺一帯の”オーク狩り”をせよ、と申しておる」
「……はぁ、オークでありますか?」
「うむ。今回の調査任務中、オークは出没したか?」
――――――ぽた。
「いえまったく。そもそもあの地域は、数ヶ月前に耳長族と冒険者が”オーク狩り”をしたばかりと聞きます。恐れながら≪第一王子殿下≫は政治手腕こそ優秀ですが、武勲がございません。おそらく”王太子”御指名に向けた武功稼ぎかと思われます」
それを聞いたミハイル騎士団長は腕組みした姿勢のまま豪快に笑う。
そして立場上として”口を慎め、不敬罪で罰せられるぞ”と将来有望な若き軍務官を窘めながらも……”なるほど、それも一理あるか…”と顎をさする。
「だが≪第一王子殿下≫には確信めいたものがある御様子でな……気には留めておけ」
「はっ。それでは――?」
「うむ。あの村は重要拠点集落ゆえに”駐在騎士団”が不在とはいかんのだ。だが、【淫夢悪魔】が潜むやもしれん地域に”男”の騎士団員は送れんからな。用心のため、今回の調査部隊と同様に”女騎士”のみの編成で派遣する必要がある。王都帰還の直後で悪いが、お前たちバルクホルン部隊以下九名は、”サキュバス事件”の調査継続――それと≪メドック村≫駐在警護の任務に就け」
――――――ぽた。
「はっ、かしこまりました」
軍靴の高踵をカッと踏み鳴らすと――≪女将校エステラ=バルクホルン≫は毅然と挙手敬礼した。
その”剃刀”の如く眼光鋭い黒眼を見返しながら、ミハイル騎士団長は”この女将校であれば適任だろう”と満足げに頷いた。
彼女が着ている”竜灰色”の軍服――それは”竜の血族”と伝承される≪ミッドガルド王家≫に仕える”王国騎士”のみに装着を許された、”復活”を象徴する軍服礼装だ。そして、その胸元には幾多の武功勲章が飾られている。
彼女こそは王国騎士官学校を首席卒業し、弱冠三十歳にして将軍候補に名を連ねる”若き精鋭”なのだ。
≪女将校エステラ≫が軍帽を被り直し、顎の輪郭で切り揃えられた漆黒髪を凛と靡かせながら、颯爽と退室する。
その背中を、ミハイル騎士団長は全幅の信頼をもって見送るのだった――
◆
――――――ぽた。
だが、ミハイル騎士団長は気づいていなかった。
執務室に敷かれた赤毛絨毯に、”粘液”が数滴ほど滴り落ちていた事を――
その”竜灰色”の軍服腰布の下には、ツツ…っと”粘液”の垂れた内腿が隠れていて、その魅惑的な太ももには”赤黒い紋様”が刻まれていた事を――
そして、騎士団長に背を向けた瞬間――惚けた様に興奮した表情で、≪女将校エステラ≫が薄紅色の唇を”れろり…❤”と淫靡に舌舐めずりした事を――ぶひひっ!
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