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ミシガン号乗船
しおりを挟む小型三輪トラックを降りた久野先生とリンコ先生は子供たちと合流した。久野先生がミシガン号を物珍しそうに眺める。
「小森が住んでる船っていうのはあれなのか。思ってたよりずっと巨大だなぁ。それにしてもこんなにオンボロでよく沈まないもんだ。」
リンコ先生も一緒になって見上げていた。
「感慨深いですわ。子供の頃に"ビワ湖の七不思議"という本で読んだ幽霊船が目の前にあるんですもの。」
「さあ、こっちなのだ。」
ヒララが先頭に立ち、階段状になった岩場を通って乗船口へ行く。
「子供4人、大人2人の団体割引なのだ。」
冗談を言いながら、船内へ入っていった。中に入ると薄暗くてホコリ臭い。ちゃぷん、ちゃぷん、と波で船体がわずかに揺れる。その度にギィ~ギッと錆びた金属音がした。通路には椅子や破損した設備品があふれ、土砂やゴミも積もって荒れ果てている。
「つまずかないように気を付けるのだ。使う所以外は片付けてないのだギシ」
突然クラリが悲鳴を上げた。
「ひーーっ!ほ、骨!」
クラリが指差した所を見ると、ガラクタの中から小さな骨が突き出ている。
「ギシ、この前食べたフライドチキンの骨なのだ。」
「まぎらわしい所に捨てるんじゃないわよ!」
怖がりのクラリは、リンコ先生の白衣をぎゅっと握って後ろに隠れながら、顔だけ出しておっかなびっくり付いて来ていた。
「ギッシッシ、まるで人見知りのちっちゃい子がお母さんの後ろに隠れてるみたいなのだ。」
「う、うるさいわよ!」
「違うよー、人見知りじゃなくて幽霊見知りだよー」
ユルミは怖いもの見たさのワクワク顔だった。
「倉田さんはちょっと怖がり過ぎなのです。」
そう言う萩知トオルも表情が少し硬かった。リンコ先生に誘われてノコノコついて来た久野サトオ先生は自問自答していた。
「俺はなんでこんな所に来てるんだ?小楠先生が美人だからか?うん、確かにそれもある。だが元々の理由は…そう、転校生の家庭訪問だった。ルマニア島まで行くよりいいと思って来てみたがとっとと帰って酒のんで寝たい。」
と、いつも通り"やる気"を節約し、いつも通り真っ直ぐ立っているのに斜めに見えていた。リンコ先生は先程落ちていた骨のことを考えていた。
(あの骨、フライドチキンには見えませんでしたわ。ずっと古い物のようでしたし。拾って帰って壺で煮込めば何か薬が出来るかもしれませんわ。)
先生の医師免許は手作りだ。5億年後の世界でも、本物の医師は壺で煮込んで薬を作ったりはしない。
「ここなのだ。」
ヒララは3階にある大きな客室にみんなを案内した。その部屋だけはきれいに片付けられている。カーテンが全て閉められていて薄暗かった。照明として柱ごとにランプが灯されている。
「ガランとしてるわねぇ。」
クラリが言う通り、家具らしきものはあまりない。物干し竿(ヒララがコウモリになってぶら下がるため)、ベッドとテーブル、椅子があるくらいだ。
「これが寝たきりの父上なのだギシ。」
言われてみんなは部屋の真ん中に置かれたベッドを囲んだ。そして横たわっている病人を見てぎょっとした。お化け屋敷の人形みたいだった。頭は灰色の乱れ髪、カサカサの皮膚も灰色だった。体には掛け布団のようにマントが掛けてある。全体にくすんでいる中で、口から覗く牙だけがツヤツヤしていた。歯にこだわりがある萩知トオルはその牙に不穏なものを感じた。
「小森さんと同じ八重歯の出っ歯なのは親子だからでしょうけど、小森さんの芸術的な輝きと違って、このツヤは何と言いますか…」
言葉を濁したその続きを、クラリがはっきり言った。
「邪悪なのよ、このツヤは!これはもう間違いなく牙よ牙!」
「ギシギシまあまあ委員ちょ、病気のせいでそんなふうに見えるだけなのだ。」
リンコ先生は一目見るなり小さく首を振った。
「小森さん、お気の毒ですけれどお父様はもう…」
言葉を濁したその続きを、クラリがずばり言った。
「これ以上ないってくらいハッキリくっきり死んでるわよ。」
萩知トオルが肩を下げた。
「はぁ、倉田委員長、あなたって人は。」
「ごめん、幽霊怖さに変なテンションになってたわ。ヒララ、そのう…」
「いいのだ委員ちょ、実はあたしも薄々分かっていた事なのだ。むしろはっきり言ってもらって気持ちを切り替えられそうなのだギシ。」
そう言うヒララに動揺した様子はない。久野先生が部屋の隅に置いてある棺を見て、らしくない引き締まった顔をした。
「棺桶も用意して、覚悟はしていたんだな。これまで一人で頑張ってきて偉かったよ。これからは俺たちが力になるからな。」
いつも脱力のあまり真っすぐ立っていても斜めに見える久野先生が、今は真っすぐに見える。普段節約しているやる気を出しているのだった。
ユルミが黒い棺をじっと見た。
「なんか見覚えがある気がするんだよー、蓋の十字架とか。」
「気のせいなのだギシ。外国ではよくある形なのだ。」
「そうだよね、映画で見たことあるからそんな気がしただけだよねー」
ユルミはまさかジョギング中に湖岸の砂浜に埋もれていた棺だとは思わなかった。もしも科捜研の人が調べれば、ユルミが膝をぶつけて付いた血の痕跡に気付いたことだろう。
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