飛竜誤誕顛末記

タクマ タク

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第五章 将軍様強敵です!

1 ごめんねリーフ

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久しぶりの再会だったリーフは、俺の顔を見て。
悲鳴も上げずに気絶した。
なんでよ。

具体的にどんな感じだったのか簡単に説明するとだ。
とりあえず急に竜の姿のままで会うのは老体には刺激が強すぎるからって事で、リーフを心配したバルギーに頼まれてまず最初は人間体で会う事にしたわけ。
そんで角も鱗もバッチリ隠した状態で、扉を開けたリーフといざ対面。
したんだけど。
まぁ。
気絶したよね。
俺の顔を見たリーフは数秒固まった後、姿勢良い状態のまま静かに後ろに倒れていった。
驚かれるだろうなとは予想してたけど、まさか気絶される程とは思ってなかった。
直ぐにバルギーが抱き止めたから、リーフの体が床に叩きつけられる事が無かったのはホッとしたけどさ。

気持ちの良い気絶っぷりのリーフだったけれども、意識を取り戻すのも早かった。
バルギーが軽く頬を叩いて呼び掛ければ、ゆっくりと目を開けて少しだけボンヤリした後にハッと意識を戻した。
それで俺の顔を見た後にまた少しだけ混乱して動揺を見せたけど、さすがはリーフ。
そう時間もかからずに、表面上は冷静さを取り戻してくれた。
とはいえ。
やっぱり色々と聞きたそうな表情で、説明を求めるような視線を俺達に向けてきた。
そりゃそうだ。
だからバルギーに説明したように、リーフにも此処に戻ってくるまでの出来事を説明しようとしたんだけど、何故かそれはバルギーに止められてしまった。
何で?と視線で尋ねれば、バルギーは苦笑しながら同じ説明を何度もするのは大変であろうと答えた。
どう言う意味だろうかと思っていたら、バルギーがカディとイバンを呼ぶようにとリーフに指示を出したから、あぁ成る程と納得した。
「リーフ、色々と聞きたい事があるのは重々承知している。しかし、簡単に説明するには少し
事情が複雑すぎてな。カディ達が来たら一緒に詳しい話をするから、それまで少し待ってくれ」
「・・畏まりました」
少し申し訳無さそうに説明するバルギーに、聞きたことは山程あるだろうにリーフはそれ以上の説明を求める事はせず小さく微笑んで頷いた。
「カディ様とイヴァン様へは直ぐに使いを出します。しかし・・・・イヴァン様は直ぐにいらっしゃるかと思いますが・・・カディ様はどうでしょう」
「ケイタが戻ったと伝えれば良い。直ぐに来るであろう」
「ん?カディ、忙しくて来れなさそうなら別に無理に今来てもらわなくても大丈夫よ?都合が合う時に俺から行くし」
バルギー達の口ぶりから、カディがここに来るのが難しそうなのかと思って言えば、2人が何とも言えない顔をした。
「え、なに?」
「いや・・・別に忙しいという事では無いのだ。むしろ今呼ばずに後回しにする方がまずい事になる」
「ふぅん?・・・・まぁ、よく分かんないから、その辺はバルギーに任せるよ」
カディの仕事の都合とか、その辺の事情は俺にはさっぱりだけど、バルギーはある程度分かっているだろうから任せておけば間違いないだろ。
よろしくと言えば、バルギーは大丈夫だと頷いてくれた。

リーフがカディ達を呼ぶ為の手配をしている間、とりあえず朝食を食べて待っていようって事で俺たちは広間に来た。
「あー、ここも久しぶりだなー」
約1年ぶりに足を踏み入れた室内は、前に見た時と何も変わらないままの風景だった。
床には綺麗に織られた幾何学模様の絨毯に、刺繍みっしりな色とりどりのクッション達。
視線を少し上げれば、グレーを基調とした美しいタイル壁。
天井付近には、宝石みたいな綺麗なカットが施された灯りの為の魔法石。
記憶は全く色褪せる事なく俺の中に残っていたみたいで、全ての景色が懐かしさなど感じられないほどに見慣れたものだった。
懐かしいと言うよりも昨日まで居たかのような馴染んだ空気感で、一年ぶりという時間はほとんど感じない。
バルギーに促されて、定位置だったクッションの上に腰を落とす。
そうすれば、青空を切り取ったかのような色が綺麗でお気に入りだったクッションが、以前と変わらず俺の尻を優しく受け止めてくれた。
「ケイタ」
「ん?」
クッションの上で尻を少し揺らしながらベスポジを探していたら、隣に座ったバルギーがそっと俺の腰に手を添えてきた。
「身体は辛くないか」
気遣わし気な表情が近づいてきて、俺の耳の直ぐそばで震える様な低音が囁く。
・・・耳元でそんないい声出すなよん。
「・・・昨夜は無理をさせてしまった。痛いところは無いか?」
「あー・・・」
なるほど、俺のお尻を心配してくれてるのね。
昨日はちょっと盛り上がちゃったもんな!
「少しゴワゴワするけど大丈夫。バルギー、すげーゆっくりやってくれたから」
「そうか、それならば良いのだが・・・私とお前とでは体格差が大き過ぎるからな。すまない、お前には負担ばかり掛けてしまっている」
申し訳なさそうなその顔に、今更だろと言う言葉を口から出す寸前で飲み込んだ俺は偉いと思う。
と思ったんだけど。
口から出さなくても、表情にはバッチリ出てたらしい。
「今更な言葉だと言うことは十分自覚している」
俺の顔を見て、バルギーがとっても気まず気に咳払いを一つしながら髭を撫でたから。
「・・・・正直者でごめんね」
俺もちょっと気まずくなって、ウフって誤魔化し笑いしといた。

本当に体は大丈夫か、大丈夫よん、ってキャッキャウフフとバルギーとイチャッてたら、リーフが朝食の盆を持ってやってきた。
何時もなら食事を運ぶのは他の使用人たちでリーフはそれを監督するような感じだったけど、今日はリーフが1人で全ての盆を運んできて他に誰かが来ることは無かった。
多分、混乱を避けるために俺が戻っている事はまだ秘密にしておきたいんだろうな。
そんな雰囲気を感じる。
「旦那様、カディ様とイヴァン様お二方へは使いを出しました。直ぐにいらっしゃるかと存じます」
「あぁ、ご苦労だった」
目の前に盛り盛りな朝食が並べられる。
あぁ~、こう言う食事久しぶりだぁ。
島に行ってからは、基本狩った獲物を他の竜達と同じように生で喰らう野生的な食事だったし。
時々遊びに行く街では屋台飯とかばっかで、こう言うちょっと高級そうな食事はしてなかったからな。
「ケイタ、食べよう」
涎を垂らしそうな勢いの俺にバルギーが苦笑しながら、皿を差し出してくれた。
「いただきます!!」
瑞々しい野菜に、色とりどりの果物とヨーグルト、朝だからかスパイスはあまり効かせていない消化に良さそうな野菜の煮込みや、炒めた卵料理にスープなどなど。
種類の多い食事内容に目移りしちゃう。
「うまー!こういう食事ほんとに久しぶりー」
パンと一緒におかずを頬張り、幸せな気持ちを噛み締める。
「・・・ここに戻ってくるまでは、どの様な食事を?」
「ん?そうねー・・・森で木の実採ったり、動物捕まえたり、後は時々街に行った時に屋台飯楽しんだりって感じかな。ダイル達が一緒に狩りしてくれるから、ヘボヘボな俺でも何とか獲物捕まえられたよ。あっ、一回リス食ったぜ!羽の生えたヤツ!あれは食べるとこ少なくてイマイチだったな」
竜生活を振り返り、てんやわんやな狩りを回想すれば。
バルギーとリーフがほぼ同時にうっと口元を手で覆った。
「私のせいで、なんという苦労を・・・」
なんか、凄い可哀想なものを見る目を向けられている。
「・・・・多分、バルギー達が想像してるよりは豊かな食生活だったから大丈夫だよ?」
竜が集団で狩りをするんだ。
俺がヘボヘボでも、ダイル達やイクファがいれば立派な獲物にありつける。
それはもう、脂の乗った美味い肉を沢山食ってたし、島には美味い果物も沢山なっていた。
栄養バランスはバッチリだ。
でもバルギー達は、俺が森の中で雑草をむしり喰いながら生きていたとでも思ってそうな雰囲気で。
いや、リスを食ったなんて言った俺が悪いのか。
食べていた物の例が悪すぎた。
野生児みたいな生活をしていた可哀想なヤツだと思われるのは嫌なので、それは誤解だ、もっと良い物も沢山食っていたんだと主張しようとしたら。
俺が口を開けるよりも先に、リーフが俺の前に料理の皿をどんどんと置き始める。
「沢山お食べください。足りなければいくらでもお持ちいたしますから。どうぞっ・・・」
そう言うリーフの目には涙が浮かんでいて。
「リ、リーフ?」
慣れない老人の涙に、俺は狼狽えてしまった。
そんなに俺って哀れに見えたのか?
「いやいや、本当に大丈夫だったんだよ?俺、結構快適に愉快に生きてたからさ」
そんなに心配しないでって涙ぐむリーフと目を合わせれば、何故か瞳に浮かんでいた涙は更に膨れ上がって。
とうとう、目の縁に留まりきれなくなった雫が皺の刻まれた頬の上を伝い落ちていった。
う、うわ!?本当に泣いちった?!
老人をいじめてしまったような居心地の悪さに慌てふためけば、皺々な手がそっと俺の手を握りしめてきた。
そして、小さな声でポツリと言ったのだ。
生きていて良かったと。

俺の手を握りしめながら、リーフが何度も繰り返す。
良かった、生きていてくださって本当に良かったと。
「・・・リーフ、心配掛けてごめんなさい」
リーフの涙の意味を知り、心配してもらえた嬉しさと、心配させてしまった申し訳なさを覚えた。
きっとリーフも俺は死んだもんだと思っていたんだろうな。
そもそも別れ方が酷いもんだったし。
あの時は俺も必死だったから、ダイル達の力を借りて力技でこの家から逃げ出したんだ。
つまりリーフにしてみれば、突然俺は消えてしまったようなもんだ。
ってか、そもそも。
バルギーと大喧嘩をした“あの日”が、リーフと顔を合わせた最後の日だ。
バルギーを止めようと必死で庇ってくれたリーフの姿を思い出す。
普段は決してバルギーの命令に背かないこの人が、あの時だけは首を横に振ってくれた。
それが、どれだけリーフの立場的に難しかった事か、それを思うと本当に感謝の気持ちしかない。
優しい人だと思う。
「リーフ大丈夫、俺は本当にちゃんと元気だったよ。戻ってくるの遅くなってごめん。あと、あの日、バルギーから庇ってくれてありがとう」
色々な感謝の気持ちを込めて、リーフの手を両手で包み返せば。
リーフは一転して、頬を濡らす涙を再会の喜びから懺悔の色へと変えていった。
突然、申し訳ありませんでした。申し訳ありませんでした。と俺に謝り始めたのだ。
それはバルギーが俺を閉じ込めている間、見て見ぬふりをした事に対しての謝罪だった。
全然、考えてもいない事だったから驚いた。
「違う。リーフが謝る事なんか何も無いだろ」
「ケイタの言う通りだ。お前には何の咎も無い。あれは全て私の罪だ」
バルギーも言い聞かせるように言うけど、リーフは首を振り続ける。
「いいえ、いいえ。旦那様に罪があると言うのなら、私にも同じだけの咎があります。私は・・・私は・・・」
老いた細い肩が涙に震える様子に、自分の軽はずみな言動を反省した。
俺はただ本当に感謝を伝えたかっただけだけど、それはリーフにとっては罪悪感を刺激される事だったらしい。
あの日の事をずっとリーフが気に病んでいたと言うなら、俺の言葉はむしろ責められているような気持ちになったのかもしれない。
「リーフ、本当に謝らないで欲しい。立場的にリーフがあぁするしかなかったのは当然だろ?あれはリーフの意思でした事じゃない。あれはバルギーにやらされた事であって、悪いのはバルギーだ」
だろ?って隣のバルギーを見上げれば、本人もそうだと頷く。
「リーフ、お前はただ己の職務を全うしただけだ。どんなに道義に反する事であってもお前が決して背けないと分かっていて、私はその忠誠心につけ込んだのだ」
恥知らずな主ですまぬとバルギーが頭を下げれば、とんでもない事でございますとリーフが項垂れながら首を振った。
「主に従い行動を共にするのが我ら臣の務め。ですから、主に罪と責任があるならば、同じように我々にもあるのです」
いやー、凄い・・・・・この主人にして、この家来ありって感じだな。
バルギーの融通の効かない馬鹿真面目さは知ってたけど、こうやって見るとリーフも中々に・・・。
結局その後どんなに説得してもリーフは首を縦に振らず、不甲斐ない主ですまぬとバルギーは肩を落とした。
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