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第四章 将軍様一局願います!
第47話 そんな設定だったの!?
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初めて見るバルギーの情けない姿に、正直ちょっと溜飲が下がった。
笑うだけ笑ってやれば、バルギーは髭を撫でながら気まずそうに目を泳がせる。
その照れを隠す時の癖を見るのも久々で、何となく緊張が解れた。
一通り笑って気が済んだ後、ベッドの上に上がるのを手伝ってやろうと改めて手を差し出したけど、バルギーは大丈夫だと言って腕力だけで普通に上がってきた。
流石だ、ゴリラめ。
寝台の上、2人並んで座る。
こうやって、バルギーと肩を並べて座るの久しぶりだ。
「じゃぁ何から話そうかなぁ・・・・んー・・やっぱ最初から話すのが一番か」
話す事が多すぎて何から伝えれば良いのか迷ったけど、やっぱりここは最初から順番に話すのが一番分かりやすいだろう。
「まずは俺が何処から来たかってとこから話すな。バルギーもそこんとこ気になるだろ?」
「あぁ。だが、お前が嫌では無い範囲で話してくれれば良い」
「うん、ありがとう。もし分かんない事あったら、後で聞くんでもいいし、その時に聞いてくれてもいいからな」
「分かった」
「あ、それと。これは先に言っておくけど」
「なんだ」
「俺にとってもバルギーは特別だよ」
「?!」
一応先に気持ちだけは伝えておいたら、バルギーの目が今まで見た中で一番大きく見開かれた。
「ケ、ケイタ、それは一体どういう意味・・」
「じゃぁ、話すなー」
「待ってくれ。今言った意味は」
「まぁまぁまぁまぁ」
「ケイタ」
「そう。あれは森でバルギーに会うよりも少し前の出来事です・・・」
「ケイタ!?」
面白い程に動揺しているバルギーを放置して、俺はこの世界に初めて来た時の話を始めた。
「俺な、あの日いつも通りに仕事をしてたんだ。そしたら突然、地面が揺れてさ」
俺に話を止める気が無いってのに気がついたのか、バルギーは何か聞きたそうにしながらも諦めて口を閉じた。
まぁ、バルギーに対する気持ちの自覚とかは、後でイクファやニギルの話をする時に詳しく説明するつもりだし。
それは後でのお楽しみってことで。
バルギーだって想いを隠して俺を人形扱いしたんだから、仕返しにちょっと焦らすくらいは許されるだろう。
とりあえずバルギーへの想いについての話は横に置いておいて、まずはここに来た時の事を思い出せる限り詳しく話すことにする。
「その時、俺は建物の中に居てな。でもちょっと不気味な感じの揺れ方で、怖くなってさ。仕事で使ってた荷車掴んで外に逃げたんだ」
「・・・誰かから、その・・・仕事が嫌になって逃げたわけでは無いのか?」
何故だか少し苦しげにバルギーが聞いてきた。
「?別にそういうんじゃ無いよ。てか、その時俺1人だったし。ただちょっと怖くなって外に飛び出しただけ」
「そうか・・」
何に引っ掛かってんだかよく分かんないけど、それ以上は質問してこないから話を続ける。
「うん。そしたらな。驚いたことにさ、外が知らない場所だったんだ」
「?」
バルギーがよく分からないという顔になった。
そうだよな。
俺だって、あの時そう思ったもん。
「よく分かんないだろ?俺もよく分かんなかった。でもとにかく、建物の外が俺の知らない場所になってたんだ」
「気づかないうちに転移魔法で飛ばされたという事か?」
「うーん・・・そういうんじゃ無いんだけど、いや、でも似たような事かな」
首を傾げたら、バルギーの首も少しだけ傾いた。
「えっと、結果から言うとね。俺、どうやら違う世界に飛ばされたみたいでさ」
「・・・ん?」
バルギーの首が更に傾く。
「分かんないよな。でも本当なんだ。俺、こことは違う世界から来たんだ」
ズバリ言ってやれば、バルギーが首を傾けたまま固まった。
固まってはいるけど、きっと頭の中はフル回転なんだろうな。
俺が言った事を必死で理解しようとしていると思う。
もしくは俺の正気を疑ってるかも。
「バルギー大丈夫か?ついてきてるか?」
「・・・・よし、続けなさい」
お。
すごい、本当に俺の言っていることを受け入れようとしてくれている。
こんなに荒唐無稽な話なのに。
なんていう気持ちが顔にそのまま出てたらしく、俺を見てバルギーが少しだけ苦笑した。
「今の時点ではまだ何も分からぬ。最後まで聞かねばな」
「そっか。うん・・・ありがとう」
バルギーの言葉に不安が解けていく。
このまま話を続けても大丈夫なんだと、バルギーの表情が勇気をくれた。
初めてこの世界に来て、空に浮かぶ島にビビったこと、見た事ない生き物達にビビったこと、走る茸にビビったこと、初めてバルギーに出会って人間がいる事に安心したけどデカい体躯にビビったこと、魔法のない世界から来たからバルギーの放った火の玉にビビったこと、色々なビビり話をした。
森を抜けた後、怪我がいつの間にか治っていた事にもビビり、転移魔法でビビりゲロしたりとビビリ話は尽きないが、何よりもビビったのがラビク達との出会いだった。
ラビク達と初めて会った時の事、彼らと話ができた事を詳細に伝えれば、バルギーは口をポカリと開けたまま、また固まってしまった。
その反応、わかるぅー。
だよねー、そうだよねー、そうだと思う。
でも、本当なんだから仕方がない。
「信じられないよな?」
絶句するバルギーの表情を窺えば。
「いや・・・うむ。そうだな・・・驚きはした、が」
少し考えるような間を開けて、バルギーは自分を納得させるように小さく頷き。
「大丈夫だケイタ、お前を信じると言っただろう。私はお前を信じている」
顔色を窺っていた俺に、安心しろと今度は力強く頷いてくれた。
「確かに驚いたが、お前がラビク達に懐かれていた様子を考えれば成程納得できた」
「そっか。よかった」
バルギーの言葉に俺もホッとする。
「ラビク達と言葉が交わせるという事は、もしや他の竜達も同じか?」
「あ、うん。竜だったら種類関係なく話せるよ」
「なるほど・・・・では、初めて馬軍の訓練場に連れて行った時に馬竜達が暴走したのも、同じように飛竜達が興奮したのも、その事が関係していたのか?」
「あぁ、あの時ね。はは、そうそう。竜達の間でも話ができる人間がいるって噂になってて、皆俺に興味津々だったみたい」
「そういう事だったのか・・・妙に竜に懐かれると思っていたが、まさかそんな事情があったとは」
俺の不思議話に驚いてはいたけど、むしろ今までの出来事の原因が分かってバルギーはスッキリ納得といった感じの顔をしていた。
それが、俺の話をちゃんと信じてくれている証のようで嬉しかった。
ついでに、そのおかげでダイル達と友達という関係で契約に至った話とか、それに関連して魔物狩りの時に野生の竜達の大騒動が起こった事も教えてやれば、バルギーは目元を抑えて少しだけ俯いた
頭の痛い話を聞いたって感じだ。
「なるほど・・・なるほどな・・・あの大騒ぎはそういう事か・・・」
「ごめんな?俺もまさかあんな事になると思ってなかったからさ」
凄い騒ぎだったもんな。
「いや、私も理由が分かってスッキリした。それよりも」
「ん?」
「何故、その事を隠していたのだ?何故もっと早く私に言ってくれなかった。・・・いや、私が信頼に足る人間ではなかっただけなのかもしれぬが・・」
自分で自分の言った言葉に傷ついたのか、バルギーの厳つい肩がシュンと落ちる。
「いやいや、バルギーの事は信じてたんだけどね。ラビク達がさ・・・」
「ラビク?」
「うん」
最初ラビクと話せた時にそれをバルギー達にも言うつもりだったけど、それはラビク達から止められた事を話す。
竜と話せる事は政治的に利用されるかも、戦に駆り出されるかもって忠告に、俺も怖くなって打ち明けられなくなったって正直に話したら、あ奴らってバルギーが小さく舌打ちを溢した。
それと異世界から来たって事の方は、飛竜のデュマンにやっぱり政治的に利用されるから人間には言うなって止められた事も伝えた。
「ごめんな。バルギー達の事はもちろん信じてたんだけど、何も分からない俺にとっては竜達の言葉も重要だったんだ」
竜達が今までどれだけ俺の助けとなっていたか。
「それに、ラビク達が言うみたいにもしバルギーが俺を道具扱いしてきたらって思ったら、どうしても怖くなっちゃってさ。それで言えなかったんだ」
「お前が謝る事は何も無い。ただ、お前からの信頼を得るための私の努力が足りなかっただけだ。それに結局私はお前を裏切ったのだから、ラビク達の忠告もあながち間違いではなかった・・・」
「まぁ、それは確かに・・・。閉じ込められてる間、バルギーすっげぇ冷たい目で見てくるから、俺本当に悲しかったんだからな」
悲しい記憶を思い出し、ついジトリと睨んでやれば、バルギーの喉の奥からウッと息の詰まる音が聞こえた。
「本当にすまなかった・・」
「二度とすんなよ」
「誓って」
「よし!・・・・ま、それはもう良いとして。そんな感じで色々と言えなかったわけね。ほら、俺って凄くあの、あれ、なんつーの?ウカツ?な性格じゃん?気を抜いたら絶対にすぐボロが出るって思って、なるべく自分の事を言わないようにしてたんだわ」
そのせいで、年齢のこととかも誤解されてたりした訳だけど。
「そうか。知らなかったとはいえ、お前には随分と窮屈な思いをさせてしまっていたのだな」
「いや、そこまでじゃ無いけど。普段は結構何も考えずに生活してたし」
「だが、全く知らない場所で何も分からずに生きていく事は、どれだけ不安だった事か・・・」
そこでバルギーが何か考えるように言葉を切り、それから少しだけ言いにくそうにまた口を開く。
「ケイタ、一つ確認したいのだが」
「うん、何?」
「お前の故郷はこの世界とは違う世界にあるということで間違いないのだな?」
妙に深刻そうなバルギーの表情に、どんな事を聞かれるのか俺も少し身構えてしまう。
「うん、そう」
何が聞きたいのか分かんないけど、俺としてはできる限りどんな事でも正直に答えるつもりだ。
でも、その答え次第で俺の立場がマズくなるような質問は嫌だなと心の端っこでちょっと思う。
だけど、バルギーからの質問は全然俺が思っているようなものじゃ無かった。
「では・・・お前は故郷ではどのような職を?」
「ん?」
予想外の質問に、頭の中にクエッションマークがプカリと浮かんだ。
「職?って、仕事?」
それは重要な事なのか?
「そうだ」
質問の意味が分からなかったけど、バルギーがとても真剣な表情なので、とりあえず答える。
「えーっと、『学校』・・ってなんて言うんだろ。あれ、子供が集まって勉強をする場所があるんだけどな。セフ先生みたいな人が沢山居て、子供達がいろんな事を教わる場所」
「学舎のことか」
「よく分かんないけど、多分それかな。そこで建物とか勉強道具とかが壊れたりしてないか管理したり、先生達の手伝いをしたり、って色々なことをする感じの仕事。なんだろう。リーフ達の仕事にも似てるかもね。家の中を管理するような」
「そうか・・・」
「どうしたバルギー?顔色が悪い」
俺がどんな仕事をしていたか説明してやれば、バルギーの表情は暗く強張りどんどんと俯いていく。
「なんか、俺の仕事って問題あったか?」
「いや問題は無い。むしろ安心した・・・」
「何が?」
よく分かんないけど、安心とは程遠い表情してんぞ。
「すまないケイタ。私はとんでもない勘違いをしていた」
バルギーは苦しげな表情で息を吐き出すと、俺に向かって突然深く頭を下げた。
何?なんなの?
「実は・・・」
バルギーから聞いた話に眩暈がした。
俺の過去についての、とんでもない勘違い。
年齢を勘違いされていた時よりも、衝撃的な内容だ。
「え、つまり、俺って金持ちの変態に飼われてた可哀想な男の子っていう理解のされかただったの・・・」
声を絞り出して、バルギーからの話を要約すれば。
「すまない・・」
バルギーも絞り出すような声で謝ってきた。
「・・・・」
「・・・・」
俺とバルギーの間に気まずい空気が流れる。
「・・・なんで、そうなった?」
「お前は印も持たず、当たり前の常識も何も知らなかったから・・・きっと何処かに閉じ込められていた外を知らない不憫な子なのだろうと・・・」
な、なるほど?
「でもそれって、変態に飼われてたって要素はいらなくね?いらないよね?」
なんでそんな余計な設定ぶち込んだんだ。
「印を与えられていないという時点で人として扱われていなかったという事だ。しかし、その割にはお前の体は虐待を受けていたような痕もないし、人に怯えるような様子も無い。だから、お稚児として可愛がられていたのだろうと・・・」
「オチゴ・・・・って何?」
あれ、なんか前にどっかで聞いたことある気がするな。
どこで聞いたんだっけ。
何やら記憶に引っかかる単語に、必死で思い出そうと腕を組んで天を仰ぐけど、俺の残念な記憶力だと細かいところまでは思い出せなかった。
そんな俺に、バルギーはとても言いにくそうにしながらもオチゴの説明をしてくれた。
「あー・・・・そういうね」
なるほど、子供の性奴隷みたいなもんか。
「いやー無いでしょう。無い無い。なんでそんな現実感ない予想立てちゃったんだよ」
「状況を見ると他に考えられなかったのだ」
「いやいやいや。ほら印が無かったのは、うっかり落としちゃっただけってのもあるかもしんないじゃん?」
「お前はそもそも証明印を知らなかっただろう」
「・・・・・常識が無いのは、すげぇ田舎の山奥とかで人と関わらずに生きてきたとか」
「山奥で暮らしてて走り茸を珍しがる奴がおるか。それに神島を知らぬなど常識が無いどころの話ではない。太陽や月を知らないのと同じ事だ」
「・・・びょ・・病気がちで外に出たことが無かったとか・・」
「そんな人間が、あの森で1週間も私を乗せた荷車を引き続けられるか?」
俺、元気いっぱいだったよね。
「それに、お前は人の前で肌を出すことに抵抗が無さすぎた」
「肌?」
「川で湯に浸かった時、平気で私の前で肌を出していただろう」
「だって風呂入る時は普通裸だろ。軍の風呂でも普通に皆裸じゃん」
「下は隠すものだ」
「あー・・・」
「それに・・・・その後も、お前は、その・・」
突然、バルギーがモニョモニョと言葉を濁し始める。
「何?」
「た・・・勃ったそれを笑いながら平気で私に見せてきただろう」
そう言って、指さされたのは俺の股間。
「・・・・・・あー、はいはい」
あったね、そんな事も。
「そんなだから、そう言う事に慣れているのかと思ったのだ」
俺のトンデモ訳ありな設定はバルギーの強い思い込みのせいだと思ったけど、一つ一つ説明を聞けば、確かにまぁ頷けなくもない。
あと、俺の行動にも結構問題があったんだな。
「それに、他の世界から来たというよりは現実味はあった」
「う・・・それを言われると、何も言えない」
「イヴァン達からも異論は無かった」
「うぉおっと、ちょっと待てっ!」
バルギーにサラリと告げられた言葉は、サラリとは流せない内容だった。
「え?え?待って?待って?イバン?も?そういう風に俺を見てたの?」
「イヴァンというか・・・、全員その理解だった」
「へぁ」
信じらんねぇ。
俺って、周りからずっとそういう目で見られてたのかよ・・。
知らなかったとはいえ、自分がそんなふうな誤解を受けていたなんて。
「ケイタ、すまなかった。私の勘違いだったのだ」
「はは・・・・なんか、予想外の衝撃だったわ」
俺が自分の出自を言わなかっただけで、こんな誤解を招いてしまっていたとは。
「やっぱり、ちゃんと話し合いをするって大切だな」
「あぁ。痛感している」
俺たちは顔を見合わせながら、コミュニケーションがいかに大切かを思い知った。
「とは言え。ケイタ、よく打ち明けてくれた。このような事は実際のところ話すのには勇気が必要であっただろう。私の元に戻って来るだけでも、どれほどの勇気が必要だったか」
いつもはキリッと凛々しいバルギーの眉が少し垂れている。
「夢の中でバルギーは謝ってくれたからな。それで勇気を出せたんだ」
「そうか」
「うん」
お互いに短い返事だけして、それから少しだけ間が空いたけど。
でも、なんとなくバルギーからは安堵の空気が伝わってきた。
「それにしても、異なる世界から人がやってくるなど不思議な事があるものなのだな」
「なー。信じてくれて嬉しいよ」
「勿論だ、信じると誓っただろう。しかし・・・」
バルギーが何か考えるように、立派な顎髭をスルリと撫でる。
「イヴァンやカディ達にはどう説明をしたものか」
「あー、ね」
そうか。
今後の事を考えると、バルギー以外にも同じ説明をしなくちゃならないのか。
「お前が今までのように隠しておきたいと言うのであれば、適当に誤魔化す事も出来なくは無いが・・・」
「でも、それだと俺は可哀想な元オチゴって思われ続けるんだろ?」
「うむ、まぁ・・・それが一番都合が良いのは事実だが」
やだぁ、そんなん。
「俺は信じてもらえるなら別に隠すつもりは無いよ。ラビク達に言われたような心配が無いでも無いけど・・・・」
「そこは心配しなくて良い。そんな事は私が絶対に許さない。誰にもお前を利用させたりはしない」
「はは、心強いな。それならやっぱり隠す必要は無いよ。イバン達にもちゃんと俺を知ってほしいし。でも・・・信じてもらえないよな、多分」
「簡単にはいかないだろうな。しかし、信じてもらわねば。それにお前が世界を越えた原因も調べなくてはな。私は初めて聞く話だったが、神殿や王宮の学者達に聞けばもしかしたら過去の事例を知っているかもしれん」
「あ、それは大丈夫。原因は分かってるんだ」
「ふむ?そうなのか?」
俺の返答に、バルギーが少し驚いたように眉を上げた。
「うん。大竜に聞いた」
「大竜!?」
コニャックの瞳がグワリと開く。
「ま、まさか、お前は大竜にも会ったのか・・・」
ワナワナと震える声で聞かれ頷く。
「うん、会った会った」
俺の軽い返事に、バルギーが顔色をなくした。
「なんと恐ろしい事を・・・・よく、よく無事であった・・」
「無事って・・・だから俺、竜と話せるんだってば。そんないきなり襲われる事は無いよ」
「そうは言っても大竜は別であろう。あれは神に最も近い存在だ。他の竜とは何もかもが違う・・・本当に大竜と言葉を交わしたのか?」
俺が他の世界から来たって言った時よりも驚いているな。
「うん、話したよ。それで色々と教えてくれた」
大きくて神々しくて思慮深い、そして何よりも優しい5匹の大竜。
「俺がこの世界に来た理由。なんで竜と話せたのか、なんで神島の結界を越えられたのか」
「神島の結界・・・・そうか・・・やはりお前はあの時、結界を越えたのだな」
「うん、越えた。なぁバルギー。知りたいだろ?大竜が俺に教えてくれた事。それに俺が今まで何処で何をしていたのか」
「どうやら・・・お前の驚くべき話はまだまだ続きがあるようだな」
「おうよ。最初に言っただろ。凄い驚かせるって。俺の話まだ真ん中くらいだからな?」
「なんと」
「だから、覚悟を決めろよ?言っとくけど、こっから更に凄い話になるから」
俺だって神島でぶったまげたんだから。
「大丈夫だ。もう覚悟はできている」
「よぉし!じゃあ、俺の秘密を教えてやろう!」
話を終えた後、バルギーはどんな反応をするだろうか。
この整った顔が更に驚きに染まるのを想像してちょっとワクワクする気持ちと、俺が竜だと知って気味悪がられたらって不安になる気持ちと、相反する感情が渦巻き、なんとも言えない高揚感に包まれる。
きっと、このとんでもない自分の秘密を打ち明ける緊張で、変に興奮しているんだ。
でも、これくらいのハイテンションがちょうどいい。
だってテンションを上げないと、不安が勝って何も言えなくなりそうだもん。
気持ちを切り替えるように、コホンと咳払いを一つ。
「では、聞いてください。神島に行った俺のドキドキ冒険話を」
笑うだけ笑ってやれば、バルギーは髭を撫でながら気まずそうに目を泳がせる。
その照れを隠す時の癖を見るのも久々で、何となく緊張が解れた。
一通り笑って気が済んだ後、ベッドの上に上がるのを手伝ってやろうと改めて手を差し出したけど、バルギーは大丈夫だと言って腕力だけで普通に上がってきた。
流石だ、ゴリラめ。
寝台の上、2人並んで座る。
こうやって、バルギーと肩を並べて座るの久しぶりだ。
「じゃぁ何から話そうかなぁ・・・・んー・・やっぱ最初から話すのが一番か」
話す事が多すぎて何から伝えれば良いのか迷ったけど、やっぱりここは最初から順番に話すのが一番分かりやすいだろう。
「まずは俺が何処から来たかってとこから話すな。バルギーもそこんとこ気になるだろ?」
「あぁ。だが、お前が嫌では無い範囲で話してくれれば良い」
「うん、ありがとう。もし分かんない事あったら、後で聞くんでもいいし、その時に聞いてくれてもいいからな」
「分かった」
「あ、それと。これは先に言っておくけど」
「なんだ」
「俺にとってもバルギーは特別だよ」
「?!」
一応先に気持ちだけは伝えておいたら、バルギーの目が今まで見た中で一番大きく見開かれた。
「ケ、ケイタ、それは一体どういう意味・・」
「じゃぁ、話すなー」
「待ってくれ。今言った意味は」
「まぁまぁまぁまぁ」
「ケイタ」
「そう。あれは森でバルギーに会うよりも少し前の出来事です・・・」
「ケイタ!?」
面白い程に動揺しているバルギーを放置して、俺はこの世界に初めて来た時の話を始めた。
「俺な、あの日いつも通りに仕事をしてたんだ。そしたら突然、地面が揺れてさ」
俺に話を止める気が無いってのに気がついたのか、バルギーは何か聞きたそうにしながらも諦めて口を閉じた。
まぁ、バルギーに対する気持ちの自覚とかは、後でイクファやニギルの話をする時に詳しく説明するつもりだし。
それは後でのお楽しみってことで。
バルギーだって想いを隠して俺を人形扱いしたんだから、仕返しにちょっと焦らすくらいは許されるだろう。
とりあえずバルギーへの想いについての話は横に置いておいて、まずはここに来た時の事を思い出せる限り詳しく話すことにする。
「その時、俺は建物の中に居てな。でもちょっと不気味な感じの揺れ方で、怖くなってさ。仕事で使ってた荷車掴んで外に逃げたんだ」
「・・・誰かから、その・・・仕事が嫌になって逃げたわけでは無いのか?」
何故だか少し苦しげにバルギーが聞いてきた。
「?別にそういうんじゃ無いよ。てか、その時俺1人だったし。ただちょっと怖くなって外に飛び出しただけ」
「そうか・・」
何に引っ掛かってんだかよく分かんないけど、それ以上は質問してこないから話を続ける。
「うん。そしたらな。驚いたことにさ、外が知らない場所だったんだ」
「?」
バルギーがよく分からないという顔になった。
そうだよな。
俺だって、あの時そう思ったもん。
「よく分かんないだろ?俺もよく分かんなかった。でもとにかく、建物の外が俺の知らない場所になってたんだ」
「気づかないうちに転移魔法で飛ばされたという事か?」
「うーん・・・そういうんじゃ無いんだけど、いや、でも似たような事かな」
首を傾げたら、バルギーの首も少しだけ傾いた。
「えっと、結果から言うとね。俺、どうやら違う世界に飛ばされたみたいでさ」
「・・・ん?」
バルギーの首が更に傾く。
「分かんないよな。でも本当なんだ。俺、こことは違う世界から来たんだ」
ズバリ言ってやれば、バルギーが首を傾けたまま固まった。
固まってはいるけど、きっと頭の中はフル回転なんだろうな。
俺が言った事を必死で理解しようとしていると思う。
もしくは俺の正気を疑ってるかも。
「バルギー大丈夫か?ついてきてるか?」
「・・・・よし、続けなさい」
お。
すごい、本当に俺の言っていることを受け入れようとしてくれている。
こんなに荒唐無稽な話なのに。
なんていう気持ちが顔にそのまま出てたらしく、俺を見てバルギーが少しだけ苦笑した。
「今の時点ではまだ何も分からぬ。最後まで聞かねばな」
「そっか。うん・・・ありがとう」
バルギーの言葉に不安が解けていく。
このまま話を続けても大丈夫なんだと、バルギーの表情が勇気をくれた。
初めてこの世界に来て、空に浮かぶ島にビビったこと、見た事ない生き物達にビビったこと、走る茸にビビったこと、初めてバルギーに出会って人間がいる事に安心したけどデカい体躯にビビったこと、魔法のない世界から来たからバルギーの放った火の玉にビビったこと、色々なビビり話をした。
森を抜けた後、怪我がいつの間にか治っていた事にもビビり、転移魔法でビビりゲロしたりとビビリ話は尽きないが、何よりもビビったのがラビク達との出会いだった。
ラビク達と初めて会った時の事、彼らと話ができた事を詳細に伝えれば、バルギーは口をポカリと開けたまま、また固まってしまった。
その反応、わかるぅー。
だよねー、そうだよねー、そうだと思う。
でも、本当なんだから仕方がない。
「信じられないよな?」
絶句するバルギーの表情を窺えば。
「いや・・・うむ。そうだな・・・驚きはした、が」
少し考えるような間を開けて、バルギーは自分を納得させるように小さく頷き。
「大丈夫だケイタ、お前を信じると言っただろう。私はお前を信じている」
顔色を窺っていた俺に、安心しろと今度は力強く頷いてくれた。
「確かに驚いたが、お前がラビク達に懐かれていた様子を考えれば成程納得できた」
「そっか。よかった」
バルギーの言葉に俺もホッとする。
「ラビク達と言葉が交わせるという事は、もしや他の竜達も同じか?」
「あ、うん。竜だったら種類関係なく話せるよ」
「なるほど・・・・では、初めて馬軍の訓練場に連れて行った時に馬竜達が暴走したのも、同じように飛竜達が興奮したのも、その事が関係していたのか?」
「あぁ、あの時ね。はは、そうそう。竜達の間でも話ができる人間がいるって噂になってて、皆俺に興味津々だったみたい」
「そういう事だったのか・・・妙に竜に懐かれると思っていたが、まさかそんな事情があったとは」
俺の不思議話に驚いてはいたけど、むしろ今までの出来事の原因が分かってバルギーはスッキリ納得といった感じの顔をしていた。
それが、俺の話をちゃんと信じてくれている証のようで嬉しかった。
ついでに、そのおかげでダイル達と友達という関係で契約に至った話とか、それに関連して魔物狩りの時に野生の竜達の大騒動が起こった事も教えてやれば、バルギーは目元を抑えて少しだけ俯いた
頭の痛い話を聞いたって感じだ。
「なるほど・・・なるほどな・・・あの大騒ぎはそういう事か・・・」
「ごめんな?俺もまさかあんな事になると思ってなかったからさ」
凄い騒ぎだったもんな。
「いや、私も理由が分かってスッキリした。それよりも」
「ん?」
「何故、その事を隠していたのだ?何故もっと早く私に言ってくれなかった。・・・いや、私が信頼に足る人間ではなかっただけなのかもしれぬが・・」
自分で自分の言った言葉に傷ついたのか、バルギーの厳つい肩がシュンと落ちる。
「いやいや、バルギーの事は信じてたんだけどね。ラビク達がさ・・・」
「ラビク?」
「うん」
最初ラビクと話せた時にそれをバルギー達にも言うつもりだったけど、それはラビク達から止められた事を話す。
竜と話せる事は政治的に利用されるかも、戦に駆り出されるかもって忠告に、俺も怖くなって打ち明けられなくなったって正直に話したら、あ奴らってバルギーが小さく舌打ちを溢した。
それと異世界から来たって事の方は、飛竜のデュマンにやっぱり政治的に利用されるから人間には言うなって止められた事も伝えた。
「ごめんな。バルギー達の事はもちろん信じてたんだけど、何も分からない俺にとっては竜達の言葉も重要だったんだ」
竜達が今までどれだけ俺の助けとなっていたか。
「それに、ラビク達が言うみたいにもしバルギーが俺を道具扱いしてきたらって思ったら、どうしても怖くなっちゃってさ。それで言えなかったんだ」
「お前が謝る事は何も無い。ただ、お前からの信頼を得るための私の努力が足りなかっただけだ。それに結局私はお前を裏切ったのだから、ラビク達の忠告もあながち間違いではなかった・・・」
「まぁ、それは確かに・・・。閉じ込められてる間、バルギーすっげぇ冷たい目で見てくるから、俺本当に悲しかったんだからな」
悲しい記憶を思い出し、ついジトリと睨んでやれば、バルギーの喉の奥からウッと息の詰まる音が聞こえた。
「本当にすまなかった・・」
「二度とすんなよ」
「誓って」
「よし!・・・・ま、それはもう良いとして。そんな感じで色々と言えなかったわけね。ほら、俺って凄くあの、あれ、なんつーの?ウカツ?な性格じゃん?気を抜いたら絶対にすぐボロが出るって思って、なるべく自分の事を言わないようにしてたんだわ」
そのせいで、年齢のこととかも誤解されてたりした訳だけど。
「そうか。知らなかったとはいえ、お前には随分と窮屈な思いをさせてしまっていたのだな」
「いや、そこまでじゃ無いけど。普段は結構何も考えずに生活してたし」
「だが、全く知らない場所で何も分からずに生きていく事は、どれだけ不安だった事か・・・」
そこでバルギーが何か考えるように言葉を切り、それから少しだけ言いにくそうにまた口を開く。
「ケイタ、一つ確認したいのだが」
「うん、何?」
「お前の故郷はこの世界とは違う世界にあるということで間違いないのだな?」
妙に深刻そうなバルギーの表情に、どんな事を聞かれるのか俺も少し身構えてしまう。
「うん、そう」
何が聞きたいのか分かんないけど、俺としてはできる限りどんな事でも正直に答えるつもりだ。
でも、その答え次第で俺の立場がマズくなるような質問は嫌だなと心の端っこでちょっと思う。
だけど、バルギーからの質問は全然俺が思っているようなものじゃ無かった。
「では・・・お前は故郷ではどのような職を?」
「ん?」
予想外の質問に、頭の中にクエッションマークがプカリと浮かんだ。
「職?って、仕事?」
それは重要な事なのか?
「そうだ」
質問の意味が分からなかったけど、バルギーがとても真剣な表情なので、とりあえず答える。
「えーっと、『学校』・・ってなんて言うんだろ。あれ、子供が集まって勉強をする場所があるんだけどな。セフ先生みたいな人が沢山居て、子供達がいろんな事を教わる場所」
「学舎のことか」
「よく分かんないけど、多分それかな。そこで建物とか勉強道具とかが壊れたりしてないか管理したり、先生達の手伝いをしたり、って色々なことをする感じの仕事。なんだろう。リーフ達の仕事にも似てるかもね。家の中を管理するような」
「そうか・・・」
「どうしたバルギー?顔色が悪い」
俺がどんな仕事をしていたか説明してやれば、バルギーの表情は暗く強張りどんどんと俯いていく。
「なんか、俺の仕事って問題あったか?」
「いや問題は無い。むしろ安心した・・・」
「何が?」
よく分かんないけど、安心とは程遠い表情してんぞ。
「すまないケイタ。私はとんでもない勘違いをしていた」
バルギーは苦しげな表情で息を吐き出すと、俺に向かって突然深く頭を下げた。
何?なんなの?
「実は・・・」
バルギーから聞いた話に眩暈がした。
俺の過去についての、とんでもない勘違い。
年齢を勘違いされていた時よりも、衝撃的な内容だ。
「え、つまり、俺って金持ちの変態に飼われてた可哀想な男の子っていう理解のされかただったの・・・」
声を絞り出して、バルギーからの話を要約すれば。
「すまない・・」
バルギーも絞り出すような声で謝ってきた。
「・・・・」
「・・・・」
俺とバルギーの間に気まずい空気が流れる。
「・・・なんで、そうなった?」
「お前は印も持たず、当たり前の常識も何も知らなかったから・・・きっと何処かに閉じ込められていた外を知らない不憫な子なのだろうと・・・」
な、なるほど?
「でもそれって、変態に飼われてたって要素はいらなくね?いらないよね?」
なんでそんな余計な設定ぶち込んだんだ。
「印を与えられていないという時点で人として扱われていなかったという事だ。しかし、その割にはお前の体は虐待を受けていたような痕もないし、人に怯えるような様子も無い。だから、お稚児として可愛がられていたのだろうと・・・」
「オチゴ・・・・って何?」
あれ、なんか前にどっかで聞いたことある気がするな。
どこで聞いたんだっけ。
何やら記憶に引っかかる単語に、必死で思い出そうと腕を組んで天を仰ぐけど、俺の残念な記憶力だと細かいところまでは思い出せなかった。
そんな俺に、バルギーはとても言いにくそうにしながらもオチゴの説明をしてくれた。
「あー・・・・そういうね」
なるほど、子供の性奴隷みたいなもんか。
「いやー無いでしょう。無い無い。なんでそんな現実感ない予想立てちゃったんだよ」
「状況を見ると他に考えられなかったのだ」
「いやいやいや。ほら印が無かったのは、うっかり落としちゃっただけってのもあるかもしんないじゃん?」
「お前はそもそも証明印を知らなかっただろう」
「・・・・・常識が無いのは、すげぇ田舎の山奥とかで人と関わらずに生きてきたとか」
「山奥で暮らしてて走り茸を珍しがる奴がおるか。それに神島を知らぬなど常識が無いどころの話ではない。太陽や月を知らないのと同じ事だ」
「・・・びょ・・病気がちで外に出たことが無かったとか・・」
「そんな人間が、あの森で1週間も私を乗せた荷車を引き続けられるか?」
俺、元気いっぱいだったよね。
「それに、お前は人の前で肌を出すことに抵抗が無さすぎた」
「肌?」
「川で湯に浸かった時、平気で私の前で肌を出していただろう」
「だって風呂入る時は普通裸だろ。軍の風呂でも普通に皆裸じゃん」
「下は隠すものだ」
「あー・・・」
「それに・・・・その後も、お前は、その・・」
突然、バルギーがモニョモニョと言葉を濁し始める。
「何?」
「た・・・勃ったそれを笑いながら平気で私に見せてきただろう」
そう言って、指さされたのは俺の股間。
「・・・・・・あー、はいはい」
あったね、そんな事も。
「そんなだから、そう言う事に慣れているのかと思ったのだ」
俺のトンデモ訳ありな設定はバルギーの強い思い込みのせいだと思ったけど、一つ一つ説明を聞けば、確かにまぁ頷けなくもない。
あと、俺の行動にも結構問題があったんだな。
「それに、他の世界から来たというよりは現実味はあった」
「う・・・それを言われると、何も言えない」
「イヴァン達からも異論は無かった」
「うぉおっと、ちょっと待てっ!」
バルギーにサラリと告げられた言葉は、サラリとは流せない内容だった。
「え?え?待って?待って?イバン?も?そういう風に俺を見てたの?」
「イヴァンというか・・・、全員その理解だった」
「へぁ」
信じらんねぇ。
俺って、周りからずっとそういう目で見られてたのかよ・・。
知らなかったとはいえ、自分がそんなふうな誤解を受けていたなんて。
「ケイタ、すまなかった。私の勘違いだったのだ」
「はは・・・・なんか、予想外の衝撃だったわ」
俺が自分の出自を言わなかっただけで、こんな誤解を招いてしまっていたとは。
「やっぱり、ちゃんと話し合いをするって大切だな」
「あぁ。痛感している」
俺たちは顔を見合わせながら、コミュニケーションがいかに大切かを思い知った。
「とは言え。ケイタ、よく打ち明けてくれた。このような事は実際のところ話すのには勇気が必要であっただろう。私の元に戻って来るだけでも、どれほどの勇気が必要だったか」
いつもはキリッと凛々しいバルギーの眉が少し垂れている。
「夢の中でバルギーは謝ってくれたからな。それで勇気を出せたんだ」
「そうか」
「うん」
お互いに短い返事だけして、それから少しだけ間が空いたけど。
でも、なんとなくバルギーからは安堵の空気が伝わってきた。
「それにしても、異なる世界から人がやってくるなど不思議な事があるものなのだな」
「なー。信じてくれて嬉しいよ」
「勿論だ、信じると誓っただろう。しかし・・・」
バルギーが何か考えるように、立派な顎髭をスルリと撫でる。
「イヴァンやカディ達にはどう説明をしたものか」
「あー、ね」
そうか。
今後の事を考えると、バルギー以外にも同じ説明をしなくちゃならないのか。
「お前が今までのように隠しておきたいと言うのであれば、適当に誤魔化す事も出来なくは無いが・・・」
「でも、それだと俺は可哀想な元オチゴって思われ続けるんだろ?」
「うむ、まぁ・・・それが一番都合が良いのは事実だが」
やだぁ、そんなん。
「俺は信じてもらえるなら別に隠すつもりは無いよ。ラビク達に言われたような心配が無いでも無いけど・・・・」
「そこは心配しなくて良い。そんな事は私が絶対に許さない。誰にもお前を利用させたりはしない」
「はは、心強いな。それならやっぱり隠す必要は無いよ。イバン達にもちゃんと俺を知ってほしいし。でも・・・信じてもらえないよな、多分」
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「あ、それは大丈夫。原因は分かってるんだ」
「ふむ?そうなのか?」
俺の返答に、バルギーが少し驚いたように眉を上げた。
「うん。大竜に聞いた」
「大竜!?」
コニャックの瞳がグワリと開く。
「ま、まさか、お前は大竜にも会ったのか・・・」
ワナワナと震える声で聞かれ頷く。
「うん、会った会った」
俺の軽い返事に、バルギーが顔色をなくした。
「なんと恐ろしい事を・・・・よく、よく無事であった・・」
「無事って・・・だから俺、竜と話せるんだってば。そんないきなり襲われる事は無いよ」
「そうは言っても大竜は別であろう。あれは神に最も近い存在だ。他の竜とは何もかもが違う・・・本当に大竜と言葉を交わしたのか?」
俺が他の世界から来たって言った時よりも驚いているな。
「うん、話したよ。それで色々と教えてくれた」
大きくて神々しくて思慮深い、そして何よりも優しい5匹の大竜。
「俺がこの世界に来た理由。なんで竜と話せたのか、なんで神島の結界を越えられたのか」
「神島の結界・・・・そうか・・・やはりお前はあの時、結界を越えたのだな」
「うん、越えた。なぁバルギー。知りたいだろ?大竜が俺に教えてくれた事。それに俺が今まで何処で何をしていたのか」
「どうやら・・・お前の驚くべき話はまだまだ続きがあるようだな」
「おうよ。最初に言っただろ。凄い驚かせるって。俺の話まだ真ん中くらいだからな?」
「なんと」
「だから、覚悟を決めろよ?言っとくけど、こっから更に凄い話になるから」
俺だって神島でぶったまげたんだから。
「大丈夫だ。もう覚悟はできている」
「よぉし!じゃあ、俺の秘密を教えてやろう!」
話を終えた後、バルギーはどんな反応をするだろうか。
この整った顔が更に驚きに染まるのを想像してちょっとワクワクする気持ちと、俺が竜だと知って気味悪がられたらって不安になる気持ちと、相反する感情が渦巻き、なんとも言えない高揚感に包まれる。
きっと、このとんでもない自分の秘密を打ち明ける緊張で、変に興奮しているんだ。
でも、これくらいのハイテンションがちょうどいい。
だってテンションを上げないと、不安が勝って何も言えなくなりそうだもん。
気持ちを切り替えるように、コホンと咳払いを一つ。
「では、聞いてください。神島に行った俺のドキドキ冒険話を」
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