128 / 163
第四章 将軍様一局願います!
第18話 5匹の大竜
しおりを挟む
巨大な竜が飛び去る姿を見ながら、頭の中がぼんやりと飽和状態になっているのを自覚する。
ちょっと・・・・情報量が多かった・・・な。
元々、下での騒ぎの後で心身共にそれなりに疲れていた。
なのにそこへ、驚きの新事実!ってな感じで、色々な情報を一気に詰め込まれたから、俺の頭はパンク寸前だ。
『デュマン、俺って竜だったんだなー・・・・びっくりした。・・・・本当かなぁ』
今だにちょっと信じられない部分があるんだけど。
【大竜が言うなら間違い無い。まさか生まれ方を間違えて此処に来ていたとはな。面白い奴だなお前は】
【ほんとデュマンの言う通りだ。普通の人間とは違うと思ってたけど、まさか卵から産まれ損なった竜だったなんてなー。前の器ごとこっちに来ちゃうとか、ケイタはせっかちだなぁ】
アントがプスススと可笑しそうに口を震わせてる。
『うーん・・・やっぱりイマイチ実感が湧かないなぁ。自分の事なのに全然分かんないんだよ』
確かに俺は竜達と話せるし、匂い?ってやつも竜っぽいらしい。
神島にも入れた。
そもそも、この世界に来た理由自体が俺が竜だと言う事の証明らしい。
けど。
そうは言われても、やっぱり意識としては自分は人間だ。
魔法だって使えないし、他の竜みたいに強くもない。
【まぁ、器は人間のままだからな】
『半分だけ竜って感じだよな』
【半分でも良いじゃないか。半分でもお前は竜だ】
【そうだぞケイタ。半分でも竜は竜だ。嬉しいなぁ、ケイタが仲間だったなんて】
アントが肩に飛んできて、猫みたいに頭を擦り寄せてきた。
『そうね。それは俺も嬉しい。なんか皆ともっと近くなった気がするもんな』
【さて、お前達】
デュマンが後ろを振り向き、一緒に来ていた飛竜達を見渡す。
何時もは結構賑やかな竜達だけど、大竜の前だと流石に大人しくしていた。
大竜と話をしている時も基本的にはデュマンと俺が話をしてて、他の竜達は口を挟んでこなかったし。
【そろそろ下に戻れ。あまり長く空けると人間達がやきもきするからな】
【分かった。デュマンはどうするんだ】
【私は大竜にケイタを任されたから、大竜が戻るまでは共にいる】
『デュマン、良いのか?戻らないとナルガスに怒られないか?皆もきっと怒られるよな。俺のせいで、あんな騒ぎを起こしちゃったんだもん。』
【大丈夫だ、別に人間達など怖くは無い。お前を虐げた方が許し難い】
いや、兵士の皆さんは一応カイマンから俺を助けているつもりだったんだと思うけど・・・。
【そうだぞ、ケイタ。気にするな】
【ケイタ。俺たちは下に戻るけど、元気になったらまた会いに来てくれよ】
飛竜達は怒られるかもしれない事は全く気にした様子もなく、口々に別れを告げながら飛び去っていった。
空は、いつの間にか夕焼けで赤く染まっている。
ふと横を見れば、ダイル達はいつの間にか腹を出して爆睡だ。
大竜の話、分かんなかったんだな・・・。
竜達の声が聞こえないエリーも、やっぱり膝の上で眠っている。
【何だ、皆寝ちゃってるじゃん】
トリオとエリーを見て、アントは苦笑気味だ。
【ケイタ、お前も疲れているだろう。今日はもう寝るといい】
『え、まだ夕方だぜデュマン。早すぎないか』
【だが、疲れているだろう?】
『・・・・まぁ、そうね。それは否定しないけど』
【明日はまた他の大竜達がいらっしゃる。今のうちに休んでおいた方がいい】
【そうだぞ、ケイタ。お前は弱りすぎだ。腹は減ってないか?寝る前に何か餌を取ってこようか?】
『ありがとうアント。でも腹は空いてないから大丈夫』
【なら、寝てしまいなさい。体が冷えているな。ダイル達と一緒に寝るといい】
デュマンがぐいぐいとダイル達の寝ている場所へ俺を押す。
『おわっ』
地竜トリオの隙間に倒れれば、すぐに上から布団をかけるようにデュマンの翼で覆われた。
【俺も寝るー】
アントも機嫌良さそうにデュマンの翼の下に入りこんでくる。
倒れる時に咄嗟に掴み上げたエリーを顔の横に下ろしたら、アントが抱き枕のようにエリーを抱き込んだ。
仲が良くて微笑ましいな。
【ケイタ、あったかいだろう?】
翼越しにデュマンの優しい声が降ってくる。
『うん・・・凄いあったかい』
ダイル達の体温ごとデュマンの翼に包まれて、冷えていた体がポカポカと暖まってくる。
まだ夕方なのに・・・・・。
溜まり溜まった疲れと、心地良い温もりのせいか、しばらくすればあっという間に意識が睡魔に飲み込まれていった。
*********
【ほぉ、これが新しい竜か】
【私の言った通り、器は人間だろう?】
【あらぁ、想像以上に小さいわねぇ】
【本当に器ごと来たのじゃのう。面白い】
【こんなに小さくて大丈夫なのかねぇ。栄養が足りて無いんじゃないのかい?あたしゃ心配だよぅ】
何だか賑やかな声が聞こえるな・・・・・。
【ケイタ!ケイタ!大竜様達が来たぞ!起きろ!】
いまだ半分夢の中だった俺だけど、突然アントの声が耳元で響いて、次いで頭をガクガクと揺すられた。
『んがががっ・・・・ちょっ、まっ・・・!お、お、起きたっ!おおお起きたからっ!あぅあぅあっ』
一気に夢の世界から引き摺り出され覚醒したけど、アントの容赦のない揺すりは終わらない。
咄嗟に顔に張り付いているアントを両手で掴んで、ベリっと剥がす。
うぅ・・脳みそが揺れてる・・・・・。
【起きたな、ケイタ!】
手の中でアントが満足そうにフスンと鼻を鳴らしたけど、もうちょっと優しい起こし方をして欲しかった・・。
『アント・・・・おはよう・・』
頭をクラクラさせながら起き上がり、顔を上げる。
そして、ビビった。
朝日をバックに巨大な竜の顔が5つ、俺を囲んで見下ろしていたから。
『おぉわぁー・・・』
寝起き直ぐの頭には、ちょっと刺激が強すぎるって・・・。
思わず、横にいたデュマンの翼の下へ隠れるように尻で後ずさってしまった。
【ケイタ、どうしたのだ?大竜達にご挨拶を】
情けなく逃げたビビリ腰の俺だけど、デュマンに容赦なく翼の下から追い出されてしまった。
ままま待って、俺今起きたばっかなんだってばっ。
頭がまだ動いてないっ!
『だだ大竜様にご挨拶・・・いたしままま?』
【ケイタ、緊張してるー】
【俺たちはさっきちゃんと挨拶できたぞ!】
【ケイタも、頑張れ!】
ダイル達もいつの間にか起きてたらしい。
アリの上では、エリーも元気に足踏みしている。
俺が一番最後か!
流石に頭もしっかりと起きてきて、目が覚めてきた。
大きく息を吸って、緊張する気持ちを落ち着ける。
『だ、大竜様にご挨拶申し上げます』
ゴクリと唾を飲み込みながら、改めて居住まいを正し頭を下げる。
『初めまして、ケイタと言います』
【ほぉ、礼儀正しい子竜だ!】
【まぁ、新しい竜はケイタというのね】
【可愛いのぉ、いい子じゃのぉ】
【あらまぁ、しっかりした子竜じゃないかい!】
簡単な挨拶だけなのに、初めて会う大竜達は凄い褒めてくれた。
小さい子供を褒める大人達って感じで・・・・何これ、めっちゃ恥ずかしい。
そろりと頭を上げて、改めて大竜達を見た。
1匹は昨日会ったウラだけど、4匹はお初だ。
皆姿は様々だけど、共通するのはそのデカさだった。
5匹の巨竜は俺たちをグルリと取り囲み、頭を寄せ合いながら見下ろしている。
【ふむ、では私達も自己紹介せねばな】
そう口を開いたのは、俺の正面に腰を下ろしていた淡い金色の飛竜だった。
薄らと白に近い金色だけど、光が当たると濃い金色が浮かぶ鱗は、とてもメタリックな光沢を持っていた。
多分、大竜達の中で一番大きい。
【私はカロー。この世界で最も永く生きている大竜の長だ】
だ、大竜の長って・・・・。
ひえー、もう神様みたいな存在じゃーん。
『初めまして・・・』
【ケイタ、島に戻って来てくれて嬉しいぞ。大竜の長として、そしてこの島の長として、新たな仲間として歓迎する】
朝日を逆光にしたカローは、体の輪郭が金色の光に縁取られ、まるで神を描いた宗教画みたいに現実離れした神々しさに溢れていた。
【次は私よ】
カローの神々しさに呆然としてたら、今度は右横から綺麗な女性の声が降ってきた。
ハッとして、慌ててそちらに体を向ける。
【初めましてケイタ、私はインブラ。普段はあの山の上に住んでいるわ】
そう言って雪の降る山を見上げた竜は、翼は無く全身を真っ白な毛で覆われた姿だった。
所々鱗のある肌が出ているけど、どちらかというと獣に近い感じ。
大型の猫科動物と竜を混ぜ合わせたような、不思議な姿だ。
他の竜とは違い猫みたいな耳があるし、手も鱗と毛に覆われているけれど形はちょっとライオンっぽい。
鋭い爪は出しっぱなしだけど。
『初めまして・・・えっとインブラ様は』
【そんな畏まった呼び方は不要よ、島の竜は皆兄弟だもの。皆は私達大竜を呼ぶ時には、姉様、兄様と呼ぶわ。だからケイタもそう呼んでちょうだい】
『えっと、はい・・・それじゃインブラ姉様は・・』
兄弟の居ない俺としては、兄とか姉とかの呼び名を口にするのはちょっと気恥ずかしいところがあるけど、インブラは嬉しそうに目を細めてくれた。
【えぇ、なぁに?】
『インブラ姉様は、翼が無いから地竜ですか?』
【あら。私は地竜では無いわ。私は獣竜よ】
『獣竜・・・・』
【あぁ、ケイタはこの世界の知識が無いから竜の種類も分からないのね】
【ケイタ、竜にも色々と種類が居るのだよ】
【まぁ、カロー。今は私がケイタとお話をしているのよ。邪魔しないでちょうだい】
横から口を挟んだカローに向かって、インブラがプンと拗ねたような声を出す。
【おっと、すまんすまん】
【いいこと?ケイタ。竜には大まかに分けて飛竜、地竜、水竜、獣竜というものがあるわ。翼を持つ者を飛竜。翼を持たない者を地竜。水棲の者を水竜。そして、獣のような姿の獣竜よ】
『馬竜は?』
【獣竜の一種よ】
『へぇ・・・・。あ、浪竜は?水棲の竜は浪竜って言うんじゃないんですか?』
【浪竜は海の竜のことよ。川や湖などに住む竜達は浪竜では無いわ】
『なるほどー』
【まぁ、どんな竜がいるかはこれから少しずつ覚えていけば良いわ。とにかく私は獣竜よ。よろしくね】
【よし、次はワシじゃ!】
インブラの自己紹介が終わったのを待ち侘びていたのか、やや被せ気味にしわがれた老人のような声が響いた。
その声に、俺はさらに右側に体の向きを変える。
そこにはデッカい山みたいな赤い亀がいた。
うん。
亀だ。
めちゃくそデカい亀。
リクガメ系な感じで、甲羅に木とか草とか生えてて本当に山だ。
よく見れば、山と化した甲羅の上には小動物や鳥達が居るのも見えた。
【ワシの名前はジャハラじゃ。あ、地竜じゃぞ】
『ジャハラ兄様・・』
【うむ!うむ!久しぶりの子竜だが、やはり子供は可愛いのぉ】
兄ってよりも、どちらかというと爺ちゃんだな。
【かっこいいー】
動く山と化している大竜を見上げていたら、横でダイルが声を上げた。
見れば、トリオ達がジャハラを見上げて目をキラッキラに輝かせている。
【ジャハラ様大っきぃー】
【かっこいいなぁ】
【爺ちゃんよりも大っきい・・・】
ヒーローを見るような憧れを込めた目だ。
【爺ちゃんよりも大きい地竜、初めて見たー】
【爺ちゃんが一番カッコイイって思ってたけど、ジャハラ様が一番かっこいい!】
あぁっ!会ったこと無いけど、なにやら爺ちゃんアッサリ一番の座を奪われちゃったぞ!
可哀想!
『えっと・・ダイル達の爺ちゃんって、そんなに大きいのか?前に会った地響きも大きかったけど』
【大っきいよ!地響きよりも大きい!】
【えっとね、ジャハラ様の半分位】
え、デカ・・・・。
そんなん、地響きのサイズも余裕で越えるじゃん。
【んー?そんな大きな地竜、地上にいたかのぉ?ウラ、お前はよく下に行くが、知っておるか?】
【あぁ、北の大地の地竜だな。泉の水ごと住んでいる魚を全部丸呑みにしたやつであろう?】
【そう!それ爺ちゃんです!】
泉ごと丸呑み・・・。
なんちゅー雑で大掛かりな狩りなんだ・・・。
【爺ちゃん大きくて強くてカッコいい。俺たちが住んでいた山の主だ】
【俺たちの目標!】
【でもジャハラ様の方が大きくてカッコいいから、俺は今日からジャハラ様目指す!】
【俺もー】
【俺も俺も!】
どうやらダイル達にとっては、大きい事がかっこいいの基準らしい。
【ふっふっふ、そう言われると悪い気はせんのぉ】
トリオ達から尊敬の眼差しを送られ、ジャハラがフフンと得意そうに顎を上げた。
【もういいかい?いい加減、あたしに譲ってくれよぅ】
最後に聞こえたのは、肝っ玉母ちゃんみたいな元気で力強い女性の声だった。
今までと同じように体を右回りに回して、声の方向へ向く。
【初めましてケイタ。あたしはアイハン】
そう言った竜は、薄ピンク色の飛竜だった。
【ケイタ、島に戻ってきてくれて良かったよ。全く心配をかけてっ、この子は!】
少し叱るような感じで言うけど、響きはとっても優しくて温かさを感じた。
【随分小さいけど、ちゃんと餌は取れてるのかい?きちんと食べないと駄目だよ】
『・・これから一杯食べます。頑張ります』
何だか地球に残してきた母親を思い出して、ちょっと嬉しくなった。
【うんうん。いい子だね】
俺の返事に、アイハンも満足気だ。
それから、アイハンはジィッと俺を見て目を細めた。
目線の先は、俺の胸元。
【ケイタ、怪我をしているねぇ。それは呪いの傷だわね】
『あ・・・これは・・』
バルギーの印が浮かぶ火傷跡だ。
【可哀想に、痛いだろう?】
アイハンの言葉に、胸がキュウと痛んだ。
確かに傷は痛い、凄く痛い。
ずっと焼けるような鋭い痛みが走っているから。
でも、それよりもバルギーとの事を思い出して、心臓が締め上げられるような切ない苦しみを感じた。
【とりあえず治してあげようね】
『え?』
と思ったら、何やら体が白い光に包まれた。
ほんわり暖かくて、体の緊張が一気に抜けるような心地良さを感じる。
その心地良さに思わずウットリと目を閉じたけど、残念なことにそれは直ぐに終わってしまった。
温泉に浸かった時のような気持ち良さだったから、直ぐに終わってしまったのはちょっと残念だ。
だけど、目を開けた時には不思議な事に火傷の痛みが綺麗に消えていた。
胸元を見下ろせば、真っ赤に腫れあがっていた筈の火傷跡はすっかり炎症が治ってて、古傷のような状態になっていた。
『痛くない・・・治ってる』
印の形に引き攣れた肌を指でなぞってみる。
ポコポコと火傷跡の凹凸が指先に伝わるけど、痛みは全く感じなかった。
『これ、今アイハン姉様が治してくれたんですか?』
【あぁ、そうだよ。だけど・・・うーん、やっぱり呪いの傷は中々消えにくいわねぇ】
痛みが引いたのに感動していたけど、跡が残ったままなのがアイハン的には不満だったみたいで小さく唸っている。
『でも、もう痛く無いです。ありがとうございます!今のは治癒魔法ですか?』
【そうだよ】
『前に治癒魔法を受けた時は、凄く痛かったけど、今回は全然痛くなかったです』
暴走ラビクのせいで尻がズル剥けた時にカディの治癒魔法を受けた事があるけど、あの時はすっげぇ痛かった記憶がある。
【それは人間の治癒魔法かい?】
『そうです』
【それじゃぁ、仕方ないわね。人間は光魔法が下手だからねぇ。光属性の魔力をきちんと使えれば治癒魔法で痛みを感じさせる事なんか無いんだよ】
そうなんだ。
【普通の傷であれば跡も残らないはずなんだけど、呪いの傷はどうしてもね。術者の掛けた魔力に打ち勝てれば跡も消えたんだけど、どうやらお前さんは魔力がとても少ないみたいだ。魔力負けで跡が残ってしまったね。残念だよ】
『傷跡くらいは全然問題ないです!』
痛みさえ無くなれば俺的にはオッケーだ!
傷は男の勲章って言うしな。
昔、実家の猫に噛みつかれた跡とかも幾つか残ってるし。
似たようなもん、似たようなもん。
【・・・・前向きな子だね。まぁケイタが気にしないのであれば良いさ】
【さて、これで全員だ】
右回りに1周して、大竜の長カローの正面に体を戻す。
【ケイタ、私たちの名前は覚えられたか?】
5匹の大竜に期待に満ちた目を向けられる。
名前を復唱しろってことだな。
『はい。カロー兄様とウラ兄様、インブラ姉様とジャハラ兄様、そしてアイハン姉様ですね』
【うむ、物覚えが良い】
【ちゃんと一回で覚えてくれたわ。嬉しいわねぇ】
インブラが猫のようにゴロゴロと喉を鳴らすけど、体と同様に音も大きいからまるで雷が轟いているみたいだ。
【よし!では、次だな!】
ちょっとインブラのフワフワさらさらの毛を触りたいなとか思っていたところで、ウラが立ち上がった。
【うむ。イクファのところに行くか】
カローも立ち上がり、それを見て他の大竜達も腰を上げる。
うーん・・・デッカい・・・。
『イクファって、卵を守ってた竜ですよね』
【そうだ。ずっと拗ねているからな。お前を見れば元気になるだろう】
【ワシはもう動くのが面倒じゃ。新しい子竜を見て満足したし、お前達だけで行くと良い】
他の竜達が腰を上げる中、大きな亀のジャハラだけは動こうとせずに、ゆっくりと甲羅の中に首を引っ込めていく。
【ジャハラ、お前はいつも直ぐに寝てしまうな】
呆れたようにウラが言うけど、ジャハラは気にした様子もなく甲羅の中に体を全部引っ込めて、そのまま返事もなく静かになってしまった。
【まぁ、いいでは無いか。ジャハラが動くと木が沢山倒れるからな。此奴もそれが嫌なのであろう】
ジャハラの甲羅を前足でユサユサ揺らすウラを、カローがやんわりと止める。
確かに他の竜達と違って小回りのきかなそうな大きな亀は、歩くだけで周りへの影響がデカそうだ。
実際ジャハラの後ろを見ればここまで歩いてきた跡だろうな、木々が倒れ見通しの良い道が出来上がっている。
デカいって、それだけで大変なんだな・・。
【それじゃあ、イクファのところへ行こうか】
『あ、はい』
俺が返事をしたのと同時に、カローがズシンと音を立てて大きな一歩を踏み出した。
ちょっと・・・・情報量が多かった・・・な。
元々、下での騒ぎの後で心身共にそれなりに疲れていた。
なのにそこへ、驚きの新事実!ってな感じで、色々な情報を一気に詰め込まれたから、俺の頭はパンク寸前だ。
『デュマン、俺って竜だったんだなー・・・・びっくりした。・・・・本当かなぁ』
今だにちょっと信じられない部分があるんだけど。
【大竜が言うなら間違い無い。まさか生まれ方を間違えて此処に来ていたとはな。面白い奴だなお前は】
【ほんとデュマンの言う通りだ。普通の人間とは違うと思ってたけど、まさか卵から産まれ損なった竜だったなんてなー。前の器ごとこっちに来ちゃうとか、ケイタはせっかちだなぁ】
アントがプスススと可笑しそうに口を震わせてる。
『うーん・・・やっぱりイマイチ実感が湧かないなぁ。自分の事なのに全然分かんないんだよ』
確かに俺は竜達と話せるし、匂い?ってやつも竜っぽいらしい。
神島にも入れた。
そもそも、この世界に来た理由自体が俺が竜だと言う事の証明らしい。
けど。
そうは言われても、やっぱり意識としては自分は人間だ。
魔法だって使えないし、他の竜みたいに強くもない。
【まぁ、器は人間のままだからな】
『半分だけ竜って感じだよな』
【半分でも良いじゃないか。半分でもお前は竜だ】
【そうだぞケイタ。半分でも竜は竜だ。嬉しいなぁ、ケイタが仲間だったなんて】
アントが肩に飛んできて、猫みたいに頭を擦り寄せてきた。
『そうね。それは俺も嬉しい。なんか皆ともっと近くなった気がするもんな』
【さて、お前達】
デュマンが後ろを振り向き、一緒に来ていた飛竜達を見渡す。
何時もは結構賑やかな竜達だけど、大竜の前だと流石に大人しくしていた。
大竜と話をしている時も基本的にはデュマンと俺が話をしてて、他の竜達は口を挟んでこなかったし。
【そろそろ下に戻れ。あまり長く空けると人間達がやきもきするからな】
【分かった。デュマンはどうするんだ】
【私は大竜にケイタを任されたから、大竜が戻るまでは共にいる】
『デュマン、良いのか?戻らないとナルガスに怒られないか?皆もきっと怒られるよな。俺のせいで、あんな騒ぎを起こしちゃったんだもん。』
【大丈夫だ、別に人間達など怖くは無い。お前を虐げた方が許し難い】
いや、兵士の皆さんは一応カイマンから俺を助けているつもりだったんだと思うけど・・・。
【そうだぞ、ケイタ。気にするな】
【ケイタ。俺たちは下に戻るけど、元気になったらまた会いに来てくれよ】
飛竜達は怒られるかもしれない事は全く気にした様子もなく、口々に別れを告げながら飛び去っていった。
空は、いつの間にか夕焼けで赤く染まっている。
ふと横を見れば、ダイル達はいつの間にか腹を出して爆睡だ。
大竜の話、分かんなかったんだな・・・。
竜達の声が聞こえないエリーも、やっぱり膝の上で眠っている。
【何だ、皆寝ちゃってるじゃん】
トリオとエリーを見て、アントは苦笑気味だ。
【ケイタ、お前も疲れているだろう。今日はもう寝るといい】
『え、まだ夕方だぜデュマン。早すぎないか』
【だが、疲れているだろう?】
『・・・・まぁ、そうね。それは否定しないけど』
【明日はまた他の大竜達がいらっしゃる。今のうちに休んでおいた方がいい】
【そうだぞ、ケイタ。お前は弱りすぎだ。腹は減ってないか?寝る前に何か餌を取ってこようか?】
『ありがとうアント。でも腹は空いてないから大丈夫』
【なら、寝てしまいなさい。体が冷えているな。ダイル達と一緒に寝るといい】
デュマンがぐいぐいとダイル達の寝ている場所へ俺を押す。
『おわっ』
地竜トリオの隙間に倒れれば、すぐに上から布団をかけるようにデュマンの翼で覆われた。
【俺も寝るー】
アントも機嫌良さそうにデュマンの翼の下に入りこんでくる。
倒れる時に咄嗟に掴み上げたエリーを顔の横に下ろしたら、アントが抱き枕のようにエリーを抱き込んだ。
仲が良くて微笑ましいな。
【ケイタ、あったかいだろう?】
翼越しにデュマンの優しい声が降ってくる。
『うん・・・凄いあったかい』
ダイル達の体温ごとデュマンの翼に包まれて、冷えていた体がポカポカと暖まってくる。
まだ夕方なのに・・・・・。
溜まり溜まった疲れと、心地良い温もりのせいか、しばらくすればあっという間に意識が睡魔に飲み込まれていった。
*********
【ほぉ、これが新しい竜か】
【私の言った通り、器は人間だろう?】
【あらぁ、想像以上に小さいわねぇ】
【本当に器ごと来たのじゃのう。面白い】
【こんなに小さくて大丈夫なのかねぇ。栄養が足りて無いんじゃないのかい?あたしゃ心配だよぅ】
何だか賑やかな声が聞こえるな・・・・・。
【ケイタ!ケイタ!大竜様達が来たぞ!起きろ!】
いまだ半分夢の中だった俺だけど、突然アントの声が耳元で響いて、次いで頭をガクガクと揺すられた。
『んがががっ・・・・ちょっ、まっ・・・!お、お、起きたっ!おおお起きたからっ!あぅあぅあっ』
一気に夢の世界から引き摺り出され覚醒したけど、アントの容赦のない揺すりは終わらない。
咄嗟に顔に張り付いているアントを両手で掴んで、ベリっと剥がす。
うぅ・・脳みそが揺れてる・・・・・。
【起きたな、ケイタ!】
手の中でアントが満足そうにフスンと鼻を鳴らしたけど、もうちょっと優しい起こし方をして欲しかった・・。
『アント・・・・おはよう・・』
頭をクラクラさせながら起き上がり、顔を上げる。
そして、ビビった。
朝日をバックに巨大な竜の顔が5つ、俺を囲んで見下ろしていたから。
『おぉわぁー・・・』
寝起き直ぐの頭には、ちょっと刺激が強すぎるって・・・。
思わず、横にいたデュマンの翼の下へ隠れるように尻で後ずさってしまった。
【ケイタ、どうしたのだ?大竜達にご挨拶を】
情けなく逃げたビビリ腰の俺だけど、デュマンに容赦なく翼の下から追い出されてしまった。
ままま待って、俺今起きたばっかなんだってばっ。
頭がまだ動いてないっ!
『だだ大竜様にご挨拶・・・いたしままま?』
【ケイタ、緊張してるー】
【俺たちはさっきちゃんと挨拶できたぞ!】
【ケイタも、頑張れ!】
ダイル達もいつの間にか起きてたらしい。
アリの上では、エリーも元気に足踏みしている。
俺が一番最後か!
流石に頭もしっかりと起きてきて、目が覚めてきた。
大きく息を吸って、緊張する気持ちを落ち着ける。
『だ、大竜様にご挨拶申し上げます』
ゴクリと唾を飲み込みながら、改めて居住まいを正し頭を下げる。
『初めまして、ケイタと言います』
【ほぉ、礼儀正しい子竜だ!】
【まぁ、新しい竜はケイタというのね】
【可愛いのぉ、いい子じゃのぉ】
【あらまぁ、しっかりした子竜じゃないかい!】
簡単な挨拶だけなのに、初めて会う大竜達は凄い褒めてくれた。
小さい子供を褒める大人達って感じで・・・・何これ、めっちゃ恥ずかしい。
そろりと頭を上げて、改めて大竜達を見た。
1匹は昨日会ったウラだけど、4匹はお初だ。
皆姿は様々だけど、共通するのはそのデカさだった。
5匹の巨竜は俺たちをグルリと取り囲み、頭を寄せ合いながら見下ろしている。
【ふむ、では私達も自己紹介せねばな】
そう口を開いたのは、俺の正面に腰を下ろしていた淡い金色の飛竜だった。
薄らと白に近い金色だけど、光が当たると濃い金色が浮かぶ鱗は、とてもメタリックな光沢を持っていた。
多分、大竜達の中で一番大きい。
【私はカロー。この世界で最も永く生きている大竜の長だ】
だ、大竜の長って・・・・。
ひえー、もう神様みたいな存在じゃーん。
『初めまして・・・』
【ケイタ、島に戻って来てくれて嬉しいぞ。大竜の長として、そしてこの島の長として、新たな仲間として歓迎する】
朝日を逆光にしたカローは、体の輪郭が金色の光に縁取られ、まるで神を描いた宗教画みたいに現実離れした神々しさに溢れていた。
【次は私よ】
カローの神々しさに呆然としてたら、今度は右横から綺麗な女性の声が降ってきた。
ハッとして、慌ててそちらに体を向ける。
【初めましてケイタ、私はインブラ。普段はあの山の上に住んでいるわ】
そう言って雪の降る山を見上げた竜は、翼は無く全身を真っ白な毛で覆われた姿だった。
所々鱗のある肌が出ているけど、どちらかというと獣に近い感じ。
大型の猫科動物と竜を混ぜ合わせたような、不思議な姿だ。
他の竜とは違い猫みたいな耳があるし、手も鱗と毛に覆われているけれど形はちょっとライオンっぽい。
鋭い爪は出しっぱなしだけど。
『初めまして・・・えっとインブラ様は』
【そんな畏まった呼び方は不要よ、島の竜は皆兄弟だもの。皆は私達大竜を呼ぶ時には、姉様、兄様と呼ぶわ。だからケイタもそう呼んでちょうだい】
『えっと、はい・・・それじゃインブラ姉様は・・』
兄弟の居ない俺としては、兄とか姉とかの呼び名を口にするのはちょっと気恥ずかしいところがあるけど、インブラは嬉しそうに目を細めてくれた。
【えぇ、なぁに?】
『インブラ姉様は、翼が無いから地竜ですか?』
【あら。私は地竜では無いわ。私は獣竜よ】
『獣竜・・・・』
【あぁ、ケイタはこの世界の知識が無いから竜の種類も分からないのね】
【ケイタ、竜にも色々と種類が居るのだよ】
【まぁ、カロー。今は私がケイタとお話をしているのよ。邪魔しないでちょうだい】
横から口を挟んだカローに向かって、インブラがプンと拗ねたような声を出す。
【おっと、すまんすまん】
【いいこと?ケイタ。竜には大まかに分けて飛竜、地竜、水竜、獣竜というものがあるわ。翼を持つ者を飛竜。翼を持たない者を地竜。水棲の者を水竜。そして、獣のような姿の獣竜よ】
『馬竜は?』
【獣竜の一種よ】
『へぇ・・・・。あ、浪竜は?水棲の竜は浪竜って言うんじゃないんですか?』
【浪竜は海の竜のことよ。川や湖などに住む竜達は浪竜では無いわ】
『なるほどー』
【まぁ、どんな竜がいるかはこれから少しずつ覚えていけば良いわ。とにかく私は獣竜よ。よろしくね】
【よし、次はワシじゃ!】
インブラの自己紹介が終わったのを待ち侘びていたのか、やや被せ気味にしわがれた老人のような声が響いた。
その声に、俺はさらに右側に体の向きを変える。
そこにはデッカい山みたいな赤い亀がいた。
うん。
亀だ。
めちゃくそデカい亀。
リクガメ系な感じで、甲羅に木とか草とか生えてて本当に山だ。
よく見れば、山と化した甲羅の上には小動物や鳥達が居るのも見えた。
【ワシの名前はジャハラじゃ。あ、地竜じゃぞ】
『ジャハラ兄様・・』
【うむ!うむ!久しぶりの子竜だが、やはり子供は可愛いのぉ】
兄ってよりも、どちらかというと爺ちゃんだな。
【かっこいいー】
動く山と化している大竜を見上げていたら、横でダイルが声を上げた。
見れば、トリオ達がジャハラを見上げて目をキラッキラに輝かせている。
【ジャハラ様大っきぃー】
【かっこいいなぁ】
【爺ちゃんよりも大っきい・・・】
ヒーローを見るような憧れを込めた目だ。
【爺ちゃんよりも大きい地竜、初めて見たー】
【爺ちゃんが一番カッコイイって思ってたけど、ジャハラ様が一番かっこいい!】
あぁっ!会ったこと無いけど、なにやら爺ちゃんアッサリ一番の座を奪われちゃったぞ!
可哀想!
『えっと・・ダイル達の爺ちゃんって、そんなに大きいのか?前に会った地響きも大きかったけど』
【大っきいよ!地響きよりも大きい!】
【えっとね、ジャハラ様の半分位】
え、デカ・・・・。
そんなん、地響きのサイズも余裕で越えるじゃん。
【んー?そんな大きな地竜、地上にいたかのぉ?ウラ、お前はよく下に行くが、知っておるか?】
【あぁ、北の大地の地竜だな。泉の水ごと住んでいる魚を全部丸呑みにしたやつであろう?】
【そう!それ爺ちゃんです!】
泉ごと丸呑み・・・。
なんちゅー雑で大掛かりな狩りなんだ・・・。
【爺ちゃん大きくて強くてカッコいい。俺たちが住んでいた山の主だ】
【俺たちの目標!】
【でもジャハラ様の方が大きくてカッコいいから、俺は今日からジャハラ様目指す!】
【俺もー】
【俺も俺も!】
どうやらダイル達にとっては、大きい事がかっこいいの基準らしい。
【ふっふっふ、そう言われると悪い気はせんのぉ】
トリオ達から尊敬の眼差しを送られ、ジャハラがフフンと得意そうに顎を上げた。
【もういいかい?いい加減、あたしに譲ってくれよぅ】
最後に聞こえたのは、肝っ玉母ちゃんみたいな元気で力強い女性の声だった。
今までと同じように体を右回りに回して、声の方向へ向く。
【初めましてケイタ。あたしはアイハン】
そう言った竜は、薄ピンク色の飛竜だった。
【ケイタ、島に戻ってきてくれて良かったよ。全く心配をかけてっ、この子は!】
少し叱るような感じで言うけど、響きはとっても優しくて温かさを感じた。
【随分小さいけど、ちゃんと餌は取れてるのかい?きちんと食べないと駄目だよ】
『・・これから一杯食べます。頑張ります』
何だか地球に残してきた母親を思い出して、ちょっと嬉しくなった。
【うんうん。いい子だね】
俺の返事に、アイハンも満足気だ。
それから、アイハンはジィッと俺を見て目を細めた。
目線の先は、俺の胸元。
【ケイタ、怪我をしているねぇ。それは呪いの傷だわね】
『あ・・・これは・・』
バルギーの印が浮かぶ火傷跡だ。
【可哀想に、痛いだろう?】
アイハンの言葉に、胸がキュウと痛んだ。
確かに傷は痛い、凄く痛い。
ずっと焼けるような鋭い痛みが走っているから。
でも、それよりもバルギーとの事を思い出して、心臓が締め上げられるような切ない苦しみを感じた。
【とりあえず治してあげようね】
『え?』
と思ったら、何やら体が白い光に包まれた。
ほんわり暖かくて、体の緊張が一気に抜けるような心地良さを感じる。
その心地良さに思わずウットリと目を閉じたけど、残念なことにそれは直ぐに終わってしまった。
温泉に浸かった時のような気持ち良さだったから、直ぐに終わってしまったのはちょっと残念だ。
だけど、目を開けた時には不思議な事に火傷の痛みが綺麗に消えていた。
胸元を見下ろせば、真っ赤に腫れあがっていた筈の火傷跡はすっかり炎症が治ってて、古傷のような状態になっていた。
『痛くない・・・治ってる』
印の形に引き攣れた肌を指でなぞってみる。
ポコポコと火傷跡の凹凸が指先に伝わるけど、痛みは全く感じなかった。
『これ、今アイハン姉様が治してくれたんですか?』
【あぁ、そうだよ。だけど・・・うーん、やっぱり呪いの傷は中々消えにくいわねぇ】
痛みが引いたのに感動していたけど、跡が残ったままなのがアイハン的には不満だったみたいで小さく唸っている。
『でも、もう痛く無いです。ありがとうございます!今のは治癒魔法ですか?』
【そうだよ】
『前に治癒魔法を受けた時は、凄く痛かったけど、今回は全然痛くなかったです』
暴走ラビクのせいで尻がズル剥けた時にカディの治癒魔法を受けた事があるけど、あの時はすっげぇ痛かった記憶がある。
【それは人間の治癒魔法かい?】
『そうです』
【それじゃぁ、仕方ないわね。人間は光魔法が下手だからねぇ。光属性の魔力をきちんと使えれば治癒魔法で痛みを感じさせる事なんか無いんだよ】
そうなんだ。
【普通の傷であれば跡も残らないはずなんだけど、呪いの傷はどうしてもね。術者の掛けた魔力に打ち勝てれば跡も消えたんだけど、どうやらお前さんは魔力がとても少ないみたいだ。魔力負けで跡が残ってしまったね。残念だよ】
『傷跡くらいは全然問題ないです!』
痛みさえ無くなれば俺的にはオッケーだ!
傷は男の勲章って言うしな。
昔、実家の猫に噛みつかれた跡とかも幾つか残ってるし。
似たようなもん、似たようなもん。
【・・・・前向きな子だね。まぁケイタが気にしないのであれば良いさ】
【さて、これで全員だ】
右回りに1周して、大竜の長カローの正面に体を戻す。
【ケイタ、私たちの名前は覚えられたか?】
5匹の大竜に期待に満ちた目を向けられる。
名前を復唱しろってことだな。
『はい。カロー兄様とウラ兄様、インブラ姉様とジャハラ兄様、そしてアイハン姉様ですね』
【うむ、物覚えが良い】
【ちゃんと一回で覚えてくれたわ。嬉しいわねぇ】
インブラが猫のようにゴロゴロと喉を鳴らすけど、体と同様に音も大きいからまるで雷が轟いているみたいだ。
【よし!では、次だな!】
ちょっとインブラのフワフワさらさらの毛を触りたいなとか思っていたところで、ウラが立ち上がった。
【うむ。イクファのところに行くか】
カローも立ち上がり、それを見て他の大竜達も腰を上げる。
うーん・・・デッカい・・・。
『イクファって、卵を守ってた竜ですよね』
【そうだ。ずっと拗ねているからな。お前を見れば元気になるだろう】
【ワシはもう動くのが面倒じゃ。新しい子竜を見て満足したし、お前達だけで行くと良い】
他の竜達が腰を上げる中、大きな亀のジャハラだけは動こうとせずに、ゆっくりと甲羅の中に首を引っ込めていく。
【ジャハラ、お前はいつも直ぐに寝てしまうな】
呆れたようにウラが言うけど、ジャハラは気にした様子もなく甲羅の中に体を全部引っ込めて、そのまま返事もなく静かになってしまった。
【まぁ、いいでは無いか。ジャハラが動くと木が沢山倒れるからな。此奴もそれが嫌なのであろう】
ジャハラの甲羅を前足でユサユサ揺らすウラを、カローがやんわりと止める。
確かに他の竜達と違って小回りのきかなそうな大きな亀は、歩くだけで周りへの影響がデカそうだ。
実際ジャハラの後ろを見ればここまで歩いてきた跡だろうな、木々が倒れ見通しの良い道が出来上がっている。
デカいって、それだけで大変なんだな・・。
【それじゃあ、イクファのところへ行こうか】
『あ、はい』
俺が返事をしたのと同時に、カローがズシンと音を立てて大きな一歩を踏み出した。
98
お気に入りに追加
5,110
あなたにおすすめの小説
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!
ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー]
特別賞受賞 書籍化決定!!
応援くださった皆様、ありがとうございます!!
望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。
そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。
神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。
そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。
これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、
たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!
ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました
。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。
令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。
そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。
ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる