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第四章 将軍様一局願います!
第17話 飛竜誤誕
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『神島の竜・・・・は、例外なんですか?』
大竜の言葉に、俺の小さい脳みそがまた置いてけぼりになっている。
頑張れ、ミニマム脳みそ。
【こちらは、魂の性質のせいで引き起こされる現象のようだ】
【魂の性質ですか】
【そうだ。魂にはそれぞれ大きさと言うものがあってな。大きな魂は大きな器に、小さな魂は小さな器に。例えば、虫の器にピッタリの魂が、大きな獣や巨木等の器を動かそうとするには原動力が足りない。反対に、大きな魂が小さな器に入るのも無理がある。器の方が魂の力に負けて壊れてしまうからの】
『はぁー・・・・』
【だから、魂はそれぞれ自分にあった大きさの器に宿るのだ】
『神島の竜が例外っていうのは、つまり、この世界に循環する魂だと大きさが合わないって事ですか?』
【その通りだ。察しが良いのぉ】
俺の答えに、大竜先生が正解だと頷く。
【そもそも我々島の竜自体が、この世界では特殊な生態だ。他の生物とは生まれ方も異なるし、器を構成するものも違う。我々の血肉は他の生物とは違い魔力で作られているからな】
言いながら、俺たちに見せつけるように大きな翼が広げられる。
エメラルドグリーンの翼膜に太陽光が透けて、まるでステンドグラスみたいで綺麗だった。
【この特殊な生態のせいか、この世界に循環する魂では我々の器を動かすには力が足りぬらしい】
なるほどなぁ、この世界の魂じゃメモリが足りないって事か。
【そこで2つ目の例外が発生する。島の竜の卵ができると、その器に合う魂が外の世界から呼ばれるのだ】
大竜とデュマンとアントの視線が俺に集まった。
ダイル達は・・・・・・あっ、あっ、あっ、ヤバいヤバいヤバい。
3匹とも口をカパリと開けながら左右の黒目がチグハグな方向に向かってて、相当ヤバイ顔をしている。
何も理解出来ないって顔だ。
地竜トリオには、ちょっと話が難しかったみたいだな。
【島の竜が死ねばその魂が次の竜へと引き継がれるのだが、何しろ我々には寿命がない。滅多に死なんから、新しい器に宿る魂もそうそう居ないのだ。だから、大体は外の世界から魂が呼ばれて宿る】
ダイル達を置いてけぼりに、無情にも大竜の話は続く。
【つまり、ケイタが今回の卵に宿るはずの魂だったと】
【そうだ】
【しかし、ケイタは魂だけではなく器も一緒に来ました。これは、どう言う事なのでしょうか。】
デュマンの質問に、大竜がうーん・・・っと首を捻った。
【そこが分からんのだ。こんな事は初めてでな。本当なら器は向こうの世界に置いて魂だけがこちらに来るはずなのだが・・・・】
それはつまり、本来だったら向こうで死んで魂だけこっちに来るはずだったって事なのか。
【それでは大竜。ケイタがこの状態で此方に来た理由は分からないので?】
【ふむ。全く分からん!】
デュマンの質問に、大竜が気持ちいい程にキッパリと言い切った。
『えぇ・・・』
そのまさかの返答に、思わず気の抜けた声が漏れてしまった。
【ははは、そうガッカリするなケイタ】
拍子抜けする俺に、大竜が軽快に笑う。
【先程説明した命の循環については、我々大竜が長い時の中で魂を観察し続けて知った事に過ぎん。自分の目で見た事しか分からんから、お前のように初めての事になると流石の我々でも知識が及ばぬのだ】
『原因不明って事ですか・・・』
【まぁ、あくまでも自然現象だからな。うまくいく事もあれば、いかない事もあるのだろう。詳しい理由は分からんが、お前は此方への来かたを少し間違えたのだな】
『そういうもんですか・・』
そんな雑に話を纏めないで欲しいけど、まぁでも、分からないならしょうがないか。
【大竜よ。今までの魂はどの様に此方に来て、どの様に卵に宿ったのですか?そもそも、私は魂と言うものを見た事が無いのですが、島の竜は魂が見えるものなのですか?】
おぉ、デュマンは貪欲に食いついていくなぁ。
大竜の説明に特に疑問を持つこともなく、そっかそういうもんかと深く考えない俺とは大違いだ。
知識欲の塊な感じのデュマンは、大竜の話が楽しくて仕方ないらしく、目がキラッキラと輝いている。
デュマン、めっちゃ楽しそうじゃん。
【魂は見える者もいれば、見えない者もいる。大竜の中でも見えない者はいるぞ。私は見えるが】
あ、それはあれだ。
霊感だ、霊感。
【ほぉっ!そうなのですね!では、魂とはどの様なものなのですか?生前と同じ姿をしているのですか?今、此処にも居るのですか?】
【姿というのは無いな。小さな光の玉のようなものだ。今もこの辺りをいくつか漂っている】
【そうなのですか?!あぁっ、見てみたいっ】
デュマンが周りをキョロキョロと見渡した後、悔しそうに天を仰いだ。
【漂っている魂は自分に合った器を見つけると、吸い込まれるようにそこに宿るのだ】
『あの・・大竜』
ふと小さな疑問を感じて、そっと手を挙げる。
【なんだ?ケイタ】
『違う世界の魂って見て分かるんですか?どうして大竜は、例外の魂達が違う世界から来たと分かるんですか?』
【あぁ、異世界の魂は色が違うからな】
『色?』
【そうだ。この世界の魂は皆白く光るだけだが、異世界からの魂は色が付いている。色は様々だ。世界によって色が決まっているのかどうかは分からんが、色彩豊かで面白いぞ】
『へぇー、そんな見分け方が・・』
【まぁ、その魂も循環を繰り返すうちに段々と色が薄くなって、いつかはこの世界の魂と同じ白へと変わっていくのだがな。島の竜の魂も同じだ。循環を繰り返せば白くなる。そうなれば、もうこの地の竜の器には入れない】
はー、つまり異世界の魂も循環し続けると、この世界に馴染んで同化しちゃうって事か。
【と言っても、さっき言った通り島の竜は滅多に死なないからの。色が完全に白くなるほど循環を繰り返す事はほぼ無いがな】
『なるほどー・・・うーん・・・』
【どうした?何か納得できない事があるのか?】
『いえ・・・魂に色がついているからって、それが異世界の魂だって断言できるのは何でですか。ただ単にちょっと珍しい魂なのかもしれないし・・・』
【あぁ、そういう事か。それはな、異世界の魂が此方に来る瞬間も見ているから知っているのだ】
『魂が来る瞬間ですか』
【そうだ。あれが中々に面白いのだ】
突然、大竜の目がニヤリと笑う。
それを見て。
【そ、それはどの様な光景なのですか?】
デュマンの喉がゴクリと鳴った。
【空間にな。ヒビが入るのだ】
『ヒビ?』
【そうだ、岩に亀裂が走るが如く宙にヒビが入る。最初は僅かなヒビだが、それがだんだんと広がり、そのうちに今度はそのヒビの隙間が広がっていく】
それはファンタジックな光景だな。
【そして、その隙間から色付きの魂が此方にやってくるのだ。魂が此方に来れば、瞬く間にヒビは消えてしまうのだが、時々その隙間から異世界の光景が少し見える事があってなぁ】
大竜が記憶を手繰るように、少し空を見上げながら目を閉じた。
【私は、それを見るのが大好きなのだ】
どこかうっとりとした響きで、大竜が呟く。
【この世界では決して見ることが出来ない景色だ。たとえ一瞬、ほんの僅かな隙間から見える小さな景色でも、大きな衝撃と感動を得ることができる。今まで見てきたものは、全て覚えているぞ。色彩豊かな光に溢れる世界、火に包まれた世界、光の無い闇の世界、見た事も無い不思議な生物達に溢れる世界、鉄の塊が蠢く世界。どの景色も色褪せる事なく記憶している】
【そのような世界が存在するとは・・なんて素晴らしい・・・あぁ、本当に見てみたいっ】
大竜の語る異世界の景色を想像しているのか、デュマンが切なそうにギュギュギュと喉を鳴らした。
でも、デュマンの気持ちも分かるなぁ。
正直、俺もそれはちょっと見てみたいもん。
なんだかSF映画みたいで、ワクワクするじゃん。
【島の卵に魂が宿る時、卵のすぐ上の空間にその現象が発生するのだ】
【その瞬間に立ち会えば、私にもその素晴らしい景色は見る事ができるのでしょうか】
【残念だが、魂が見える者にしかそれは見えないらしい】
【・・・無念】
大竜の答えに、心底ガッカリした感じでデュマンの首がガクリと落ちた。
『デュマン、残念だったな』
【あぁ・・・残念だ。しかし仕方がない事だ】
ションボリと首を落とすデュマンに、大竜も少し苦笑気味だ。
【それで、今回も魂が宿る瞬間を見るのを楽しみに、ほかの大竜達と見守っていたのだが】
大竜がチラリと俺を見る。
【結局お前の魂は卵の元には来ず、器の方が溶け始めてしまってなぁ】
『溶けっ!?』
【あぁ、魔力が固まって形成された器だ。魂が宿らなければ、また只の魔力に戻るだけだ】
『じゃぁ、卵の中の器ってもう消えちゃったんですか?』
【いや、まだ僅かに溶け出しただけだ。器の大部分はまだ残っているだろう。しかし、その状態になった時点で私たちは子竜は死んだと判断した。しかし】
大きな顔がふふふと笑う。
【まさか、器ごと此方に来ていたとは想像もしていなかった】
『ははは・・・なんか、すんません』
なんだか、待ち合わせ場所を間違えたような恥ずかしさがあるな。
【実はな、卵の上に一瞬だけ空間のヒビは入ったのだ】
『え、そうなんですか?』
【うむ。だが、後少しで隙間が開くというところで、新たなヒビが発生してな】
『新たなヒビ・・』
【そうだ。あれは初めて見る現象だったから驚いたぞ。そのヒビが一気に空間に広がり、信じられない勢いで大きく口を開いたんだ。それで、私たちが驚いている間に、そのヒビは最初のヒビを飲みこんで、あっという間に消えてしまった】
初めての現象と言うだけあって、大竜が少し興奮したようにその時の様子を語る。
【そして、その後はもう新たに空間にヒビが入る事は無かった】
『それは、俺が器ごと来たのが原因ですか?いや・・それとも、その現象の方が器ごと来る事になった原因・・・?』
【どうかのぉ。はっきりとした理由は分からんが、この世界で定められた命の巡りの仕組みに反する何かしらの要因があったのかもしれんな。それで世界が混乱したのかもしれん】
それはつまり、俺の異世界への飛ばされ方ってバグだったって事か。
【しかし、その大きなヒビから見えた景色は、この世界のものだった】
【つまり最初のヒビは、この世界の何処かへ飛ばされたと?】
【あぁ、他の大竜達と話をして、その可能性があるかもしれないと予想はしていた。だが、初めての事だからな。それは、あくまでも予想にしか過ぎなかった】
【なるほど】
【それで、もしかすると飛ばされた先でヒビが開いて子竜の魂が彷徨っているかもしれないと思ってな。一応景色が似ている場所を探してはみたのだが、世界は広いからな。流石に見つける事はできなかった】
『確かに一瞬見た景色だけじゃ、場所は分かんないですよね・・』
ちなみに、俺がこの世界に来た時に島は真上だったから、結構近くに居たんだけどね。
【あぁ。そんな事をしている間に、卵の中の器が溶け出し始めてしまってな。もう駄目だと諦めていた】
ふと大きな竜の目が優しげに細められる。
【だが、幸運な事に子竜は島に帰って来てくれた。ケイタ、よく戻ってきてくれた。私たちはずっとお前を待っていたのだ。大切な新しい家族よ】
それは凄く、慈しみに溢れる声だった。
常に感じていた異世界人という、この世界における自分自身の異物感。
大竜の家族という言葉が、俺の胸にずっとあったその違和感を見事に消してくれた。
不安定だった地盤が固められ、地に足がついた心地だった。
『・・ありがとうございます。そう言って貰えて嬉しいです。でも、俺ちゃんと竜になれなかったんですけど、良いんですか?』
【安心しなさい、お前はきちんと竜だよ。器は人間だが、魂はちゃんと竜になっている。私たちと言葉を交わせるし、人間の匂いも無い。島にも入れただろう?不安に思うことは無い】
うーん・・・体が人間のままだからあんまり実感が無いけど、大竜が言うなら竜を名乗っても良いのかな。
【ふむ・・・・大竜よ、素晴らしいお話ありがとうございました。ケイタの不思議の謎が解けて、スッキリしました】
自分が竜だったという驚きの事実を飲み込んでいたら、横から飛竜の満足気な鼻息を感じた。
【いいや、礼を言うのは私の方だデュマン。よくケイタを連れて来てくれた】
【とんでもございません。人間からケイタを保護して正解でした】
デュマンの言葉に、バルギーの存在が心に浮かびジクリと痛む。
駄目だ。忘れないと・・・。
【ケイタ?どうした?】
少し俯いたら、デュマンと大竜が心配気に覗き込んでくる。
『いや・・・色々と急展開で、ちょっと疲れちゃって・・』
【あぁ、そうか。そうだな。お前はだいぶ弱っているからな】
デュマンが労るように顔を擦り寄せてくる。
【おぉ、そうだった、そうだった。すまぬなケイタ。弱っているところに、少し一気に詰め込み過ぎたな】
『いえ。色々と分かって俺もスッキリしました』
【ふむ・・・イクファの元へ連れて行こうかと思っていたが、それは明日にしよう。今日はもう休みなさい】
『イクファ?』
【お前の卵を守っていた竜だ】
『・・・あ、洞窟に引き篭もってるって噂の?』
【あぁ、そうだ。卵が死んでしまって酷く落ち込んでいるからな。お前に会えば、きっと元気になる】
『それは・・・早く会いに行った方が良さそうですね』
【いや、明日で構わん。その間に私は他の大竜達にお前が来た事を伝えてくる】
そう言うと、大竜がよっこいしょっと腰を上げた。
【デュマン、明日までケイタを見ててくれるか】
【畏まりました】
【ではケイタ、また明日会おう。明日には他の大竜達にも会えるから、それまではゆっくり休みなさい】
『はい、ありがとうございます。・・・・あっ』
【ん?】
翼を広げ今にも飛びそうな大竜を見ながら、俺は今更ながらにとても大切な事を聞き忘れている事に気がついた。
『大竜』
【なんだ?】
『貴方の名前は?』
俺の問いに、大竜が虚を突かれたような顔をする。
それから、ふっふっふっと笑うような息を溢した。
【私とした事が、名乗るのを忘れていたな。すまぬすまぬ】
そして広げた翼を一度閉じ、俺の前で居住まいを正す。
【私は5匹の大竜が内の1匹、ウラと言う。これから長い付き合いになる。よろしくのぉ、ケイタ】
大竜の言葉に、俺の小さい脳みそがまた置いてけぼりになっている。
頑張れ、ミニマム脳みそ。
【こちらは、魂の性質のせいで引き起こされる現象のようだ】
【魂の性質ですか】
【そうだ。魂にはそれぞれ大きさと言うものがあってな。大きな魂は大きな器に、小さな魂は小さな器に。例えば、虫の器にピッタリの魂が、大きな獣や巨木等の器を動かそうとするには原動力が足りない。反対に、大きな魂が小さな器に入るのも無理がある。器の方が魂の力に負けて壊れてしまうからの】
『はぁー・・・・』
【だから、魂はそれぞれ自分にあった大きさの器に宿るのだ】
『神島の竜が例外っていうのは、つまり、この世界に循環する魂だと大きさが合わないって事ですか?』
【その通りだ。察しが良いのぉ】
俺の答えに、大竜先生が正解だと頷く。
【そもそも我々島の竜自体が、この世界では特殊な生態だ。他の生物とは生まれ方も異なるし、器を構成するものも違う。我々の血肉は他の生物とは違い魔力で作られているからな】
言いながら、俺たちに見せつけるように大きな翼が広げられる。
エメラルドグリーンの翼膜に太陽光が透けて、まるでステンドグラスみたいで綺麗だった。
【この特殊な生態のせいか、この世界に循環する魂では我々の器を動かすには力が足りぬらしい】
なるほどなぁ、この世界の魂じゃメモリが足りないって事か。
【そこで2つ目の例外が発生する。島の竜の卵ができると、その器に合う魂が外の世界から呼ばれるのだ】
大竜とデュマンとアントの視線が俺に集まった。
ダイル達は・・・・・・あっ、あっ、あっ、ヤバいヤバいヤバい。
3匹とも口をカパリと開けながら左右の黒目がチグハグな方向に向かってて、相当ヤバイ顔をしている。
何も理解出来ないって顔だ。
地竜トリオには、ちょっと話が難しかったみたいだな。
【島の竜が死ねばその魂が次の竜へと引き継がれるのだが、何しろ我々には寿命がない。滅多に死なんから、新しい器に宿る魂もそうそう居ないのだ。だから、大体は外の世界から魂が呼ばれて宿る】
ダイル達を置いてけぼりに、無情にも大竜の話は続く。
【つまり、ケイタが今回の卵に宿るはずの魂だったと】
【そうだ】
【しかし、ケイタは魂だけではなく器も一緒に来ました。これは、どう言う事なのでしょうか。】
デュマンの質問に、大竜がうーん・・・っと首を捻った。
【そこが分からんのだ。こんな事は初めてでな。本当なら器は向こうの世界に置いて魂だけがこちらに来るはずなのだが・・・・】
それはつまり、本来だったら向こうで死んで魂だけこっちに来るはずだったって事なのか。
【それでは大竜。ケイタがこの状態で此方に来た理由は分からないので?】
【ふむ。全く分からん!】
デュマンの質問に、大竜が気持ちいい程にキッパリと言い切った。
『えぇ・・・』
そのまさかの返答に、思わず気の抜けた声が漏れてしまった。
【ははは、そうガッカリするなケイタ】
拍子抜けする俺に、大竜が軽快に笑う。
【先程説明した命の循環については、我々大竜が長い時の中で魂を観察し続けて知った事に過ぎん。自分の目で見た事しか分からんから、お前のように初めての事になると流石の我々でも知識が及ばぬのだ】
『原因不明って事ですか・・・』
【まぁ、あくまでも自然現象だからな。うまくいく事もあれば、いかない事もあるのだろう。詳しい理由は分からんが、お前は此方への来かたを少し間違えたのだな】
『そういうもんですか・・』
そんな雑に話を纏めないで欲しいけど、まぁでも、分からないならしょうがないか。
【大竜よ。今までの魂はどの様に此方に来て、どの様に卵に宿ったのですか?そもそも、私は魂と言うものを見た事が無いのですが、島の竜は魂が見えるものなのですか?】
おぉ、デュマンは貪欲に食いついていくなぁ。
大竜の説明に特に疑問を持つこともなく、そっかそういうもんかと深く考えない俺とは大違いだ。
知識欲の塊な感じのデュマンは、大竜の話が楽しくて仕方ないらしく、目がキラッキラと輝いている。
デュマン、めっちゃ楽しそうじゃん。
【魂は見える者もいれば、見えない者もいる。大竜の中でも見えない者はいるぞ。私は見えるが】
あ、それはあれだ。
霊感だ、霊感。
【ほぉっ!そうなのですね!では、魂とはどの様なものなのですか?生前と同じ姿をしているのですか?今、此処にも居るのですか?】
【姿というのは無いな。小さな光の玉のようなものだ。今もこの辺りをいくつか漂っている】
【そうなのですか?!あぁっ、見てみたいっ】
デュマンが周りをキョロキョロと見渡した後、悔しそうに天を仰いだ。
【漂っている魂は自分に合った器を見つけると、吸い込まれるようにそこに宿るのだ】
『あの・・大竜』
ふと小さな疑問を感じて、そっと手を挙げる。
【なんだ?ケイタ】
『違う世界の魂って見て分かるんですか?どうして大竜は、例外の魂達が違う世界から来たと分かるんですか?』
【あぁ、異世界の魂は色が違うからな】
『色?』
【そうだ。この世界の魂は皆白く光るだけだが、異世界からの魂は色が付いている。色は様々だ。世界によって色が決まっているのかどうかは分からんが、色彩豊かで面白いぞ】
『へぇー、そんな見分け方が・・』
【まぁ、その魂も循環を繰り返すうちに段々と色が薄くなって、いつかはこの世界の魂と同じ白へと変わっていくのだがな。島の竜の魂も同じだ。循環を繰り返せば白くなる。そうなれば、もうこの地の竜の器には入れない】
はー、つまり異世界の魂も循環し続けると、この世界に馴染んで同化しちゃうって事か。
【と言っても、さっき言った通り島の竜は滅多に死なないからの。色が完全に白くなるほど循環を繰り返す事はほぼ無いがな】
『なるほどー・・・うーん・・・』
【どうした?何か納得できない事があるのか?】
『いえ・・・魂に色がついているからって、それが異世界の魂だって断言できるのは何でですか。ただ単にちょっと珍しい魂なのかもしれないし・・・』
【あぁ、そういう事か。それはな、異世界の魂が此方に来る瞬間も見ているから知っているのだ】
『魂が来る瞬間ですか』
【そうだ。あれが中々に面白いのだ】
突然、大竜の目がニヤリと笑う。
それを見て。
【そ、それはどの様な光景なのですか?】
デュマンの喉がゴクリと鳴った。
【空間にな。ヒビが入るのだ】
『ヒビ?』
【そうだ、岩に亀裂が走るが如く宙にヒビが入る。最初は僅かなヒビだが、それがだんだんと広がり、そのうちに今度はそのヒビの隙間が広がっていく】
それはファンタジックな光景だな。
【そして、その隙間から色付きの魂が此方にやってくるのだ。魂が此方に来れば、瞬く間にヒビは消えてしまうのだが、時々その隙間から異世界の光景が少し見える事があってなぁ】
大竜が記憶を手繰るように、少し空を見上げながら目を閉じた。
【私は、それを見るのが大好きなのだ】
どこかうっとりとした響きで、大竜が呟く。
【この世界では決して見ることが出来ない景色だ。たとえ一瞬、ほんの僅かな隙間から見える小さな景色でも、大きな衝撃と感動を得ることができる。今まで見てきたものは、全て覚えているぞ。色彩豊かな光に溢れる世界、火に包まれた世界、光の無い闇の世界、見た事も無い不思議な生物達に溢れる世界、鉄の塊が蠢く世界。どの景色も色褪せる事なく記憶している】
【そのような世界が存在するとは・・なんて素晴らしい・・・あぁ、本当に見てみたいっ】
大竜の語る異世界の景色を想像しているのか、デュマンが切なそうにギュギュギュと喉を鳴らした。
でも、デュマンの気持ちも分かるなぁ。
正直、俺もそれはちょっと見てみたいもん。
なんだかSF映画みたいで、ワクワクするじゃん。
【島の卵に魂が宿る時、卵のすぐ上の空間にその現象が発生するのだ】
【その瞬間に立ち会えば、私にもその素晴らしい景色は見る事ができるのでしょうか】
【残念だが、魂が見える者にしかそれは見えないらしい】
【・・・無念】
大竜の答えに、心底ガッカリした感じでデュマンの首がガクリと落ちた。
『デュマン、残念だったな』
【あぁ・・・残念だ。しかし仕方がない事だ】
ションボリと首を落とすデュマンに、大竜も少し苦笑気味だ。
【それで、今回も魂が宿る瞬間を見るのを楽しみに、ほかの大竜達と見守っていたのだが】
大竜がチラリと俺を見る。
【結局お前の魂は卵の元には来ず、器の方が溶け始めてしまってなぁ】
『溶けっ!?』
【あぁ、魔力が固まって形成された器だ。魂が宿らなければ、また只の魔力に戻るだけだ】
『じゃぁ、卵の中の器ってもう消えちゃったんですか?』
【いや、まだ僅かに溶け出しただけだ。器の大部分はまだ残っているだろう。しかし、その状態になった時点で私たちは子竜は死んだと判断した。しかし】
大きな顔がふふふと笑う。
【まさか、器ごと此方に来ていたとは想像もしていなかった】
『ははは・・・なんか、すんません』
なんだか、待ち合わせ場所を間違えたような恥ずかしさがあるな。
【実はな、卵の上に一瞬だけ空間のヒビは入ったのだ】
『え、そうなんですか?』
【うむ。だが、後少しで隙間が開くというところで、新たなヒビが発生してな】
『新たなヒビ・・』
【そうだ。あれは初めて見る現象だったから驚いたぞ。そのヒビが一気に空間に広がり、信じられない勢いで大きく口を開いたんだ。それで、私たちが驚いている間に、そのヒビは最初のヒビを飲みこんで、あっという間に消えてしまった】
初めての現象と言うだけあって、大竜が少し興奮したようにその時の様子を語る。
【そして、その後はもう新たに空間にヒビが入る事は無かった】
『それは、俺が器ごと来たのが原因ですか?いや・・それとも、その現象の方が器ごと来る事になった原因・・・?』
【どうかのぉ。はっきりとした理由は分からんが、この世界で定められた命の巡りの仕組みに反する何かしらの要因があったのかもしれんな。それで世界が混乱したのかもしれん】
それはつまり、俺の異世界への飛ばされ方ってバグだったって事か。
【しかし、その大きなヒビから見えた景色は、この世界のものだった】
【つまり最初のヒビは、この世界の何処かへ飛ばされたと?】
【あぁ、他の大竜達と話をして、その可能性があるかもしれないと予想はしていた。だが、初めての事だからな。それは、あくまでも予想にしか過ぎなかった】
【なるほど】
【それで、もしかすると飛ばされた先でヒビが開いて子竜の魂が彷徨っているかもしれないと思ってな。一応景色が似ている場所を探してはみたのだが、世界は広いからな。流石に見つける事はできなかった】
『確かに一瞬見た景色だけじゃ、場所は分かんないですよね・・』
ちなみに、俺がこの世界に来た時に島は真上だったから、結構近くに居たんだけどね。
【あぁ。そんな事をしている間に、卵の中の器が溶け出し始めてしまってな。もう駄目だと諦めていた】
ふと大きな竜の目が優しげに細められる。
【だが、幸運な事に子竜は島に帰って来てくれた。ケイタ、よく戻ってきてくれた。私たちはずっとお前を待っていたのだ。大切な新しい家族よ】
それは凄く、慈しみに溢れる声だった。
常に感じていた異世界人という、この世界における自分自身の異物感。
大竜の家族という言葉が、俺の胸にずっとあったその違和感を見事に消してくれた。
不安定だった地盤が固められ、地に足がついた心地だった。
『・・ありがとうございます。そう言って貰えて嬉しいです。でも、俺ちゃんと竜になれなかったんですけど、良いんですか?』
【安心しなさい、お前はきちんと竜だよ。器は人間だが、魂はちゃんと竜になっている。私たちと言葉を交わせるし、人間の匂いも無い。島にも入れただろう?不安に思うことは無い】
うーん・・・体が人間のままだからあんまり実感が無いけど、大竜が言うなら竜を名乗っても良いのかな。
【ふむ・・・・大竜よ、素晴らしいお話ありがとうございました。ケイタの不思議の謎が解けて、スッキリしました】
自分が竜だったという驚きの事実を飲み込んでいたら、横から飛竜の満足気な鼻息を感じた。
【いいや、礼を言うのは私の方だデュマン。よくケイタを連れて来てくれた】
【とんでもございません。人間からケイタを保護して正解でした】
デュマンの言葉に、バルギーの存在が心に浮かびジクリと痛む。
駄目だ。忘れないと・・・。
【ケイタ?どうした?】
少し俯いたら、デュマンと大竜が心配気に覗き込んでくる。
『いや・・・色々と急展開で、ちょっと疲れちゃって・・』
【あぁ、そうか。そうだな。お前はだいぶ弱っているからな】
デュマンが労るように顔を擦り寄せてくる。
【おぉ、そうだった、そうだった。すまぬなケイタ。弱っているところに、少し一気に詰め込み過ぎたな】
『いえ。色々と分かって俺もスッキリしました』
【ふむ・・・イクファの元へ連れて行こうかと思っていたが、それは明日にしよう。今日はもう休みなさい】
『イクファ?』
【お前の卵を守っていた竜だ】
『・・・あ、洞窟に引き篭もってるって噂の?』
【あぁ、そうだ。卵が死んでしまって酷く落ち込んでいるからな。お前に会えば、きっと元気になる】
『それは・・・早く会いに行った方が良さそうですね』
【いや、明日で構わん。その間に私は他の大竜達にお前が来た事を伝えてくる】
そう言うと、大竜がよっこいしょっと腰を上げた。
【デュマン、明日までケイタを見ててくれるか】
【畏まりました】
【ではケイタ、また明日会おう。明日には他の大竜達にも会えるから、それまではゆっくり休みなさい】
『はい、ありがとうございます。・・・・あっ』
【ん?】
翼を広げ今にも飛びそうな大竜を見ながら、俺は今更ながらにとても大切な事を聞き忘れている事に気がついた。
『大竜』
【なんだ?】
『貴方の名前は?』
俺の問いに、大竜が虚を突かれたような顔をする。
それから、ふっふっふっと笑うような息を溢した。
【私とした事が、名乗るのを忘れていたな。すまぬすまぬ】
そして広げた翼を一度閉じ、俺の前で居住まいを正す。
【私は5匹の大竜が内の1匹、ウラと言う。これから長い付き合いになる。よろしくのぉ、ケイタ】
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*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
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陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
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![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
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王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
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※
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![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
そばかす糸目はのんびりしたい
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由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
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