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第四章 将軍様一局願います!
第7話 砂漠を行けば
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どこまでも、どこまでも、地平線の彼方まで白い砂丘が続いている。
見渡す限りの砂漠には、何の色も無い。
『わぁ、良い天気だなぁ』
地面と同様の真っ白な空は、太陽は無いけど凄く明るい。
『これは散歩日和だね』
風も無く何の音もしない世界は、まるで時間が止まっているみたいだった。
空も地面も全部白いもんだから、地平線まで目をやれば天地の境界があやふやになってる。
ふと胸の辺りがスカスカしている気がして見下ろせば、胸の真ん中にでかい風穴が空いているのに気がついた。
『うぉー!ドーナツみてー!』
手を突っ込んでみれば、遮るものもなく後ろへと手が貫通する。
『はー、風通し良くなっちゃってまぁ。中身、何処に落としてきたかなぁ』
色々と大切なもんが詰まってた気がするんだけど。
『・・・・・ま、いっか』
むしろ胸が軽くなって良いじゃないか。
『あそこの砂丘まで歩こうか。散歩しようぜ』
隣を見下ろせば、エリーがウンウンと頷いている。
いつも側に居てくれる姿が可愛くて、ニパリと笑ってしまった。
差し出されたエリーの手を握って、一緒に意気揚々と歩き出す。
はて、エリーってこんなに大きかったっけ。
いや、別におかしくないか。
『あの砂丘を越えたらオアシスがあるんだ』
まだ見えてこないけど、俺は知っている。
砂丘の向こうには小さな白いオアシスがあるんだ。
真っ白な草木が沢山生えている。
『お~て~て~、つ~ないで~、砂漠をゆ~け~ば~」
エリーと繋いだ手をブンブン振り回し、今時子供でも歌わないような懐かしい曲を大声で歌いながら楽しい気持ちで砂丘を越えていく。
『おぉー!あったあった』
予想していた通りの景色が、目の前に広がっていた。
白い木々がまっすぐ元気に生えた、小さなオアシス。
足を踏み入れてみれば、中心地に黒い小さな水溜りがあった。
『なんだこりゃー』
エリーと一緒にしゃがみこんで、澄んだ黒い水を覗き込む。
よくよく見れば水溜りの底から新しい水が湧いているっぽい。
『お、湧き水だな』
でも、何か詰まっているみたいに細々とした湧き方で、水溜りは一向に大きくはならない。
湧いているってよりも、ちょっと水が滲み出てるみたいな感じだな。
『んー、これじゃあオアシス枯れちゃうなー』
エリーに聞いてみれば、やっぱりウンウンと頷いてくれる。
こんな水の量じゃ、このオアシスもそう長く保たないと思う。
『ここが枯れたら、この世界も無くなっちゃうのに』
ごく自然に出た自分の言葉に、ゾワリとした。
そうだ。
このオアシスが枯れたら、砂漠もろともここは消えてしまう。
俺と一緒に。
『やべぇじゃん』
でも、俺にはどうしようも無い。
ちょっと怖くなって、思わず側にいたエリーに抱きついてしまった。
エリーは嫌がる事もなく抱き返してくれて、慰めるみたいに俺の穴の空いた背中をぽんぽんと叩いてくれた。
『エリー、一緒に居てな』
頼りない水の湧き方が不安で、俺はエリーの手を握って逃げるようにオアシスから飛び出した。
それから、何もない砂漠をまた当て所もなく歩き出す。
どれくらい歩いた頃だろうか。
背後から小さく馬のいななく声が聞こえた。
小さな声だったけど、音の無い砂漠ではしっかりと耳に入ってきた。
何だろうかと振り返ったら、俺から少し離れたところに大きな馬竜が静かに佇んでいた。
ダークチョコレートみたいな濃いブラウンの馬竜が、コニャックの瞳でジッとこちらを見ている。
初めて会うやつだけど、知っているやつな気もする。
馬は話しかけてくる事もなくただ俺を見つめてくるけど、その目はどこか寂しそうで何か言いたげな雰囲気だ。
『なんだ?』
俺に用があるのかと尋ねてみるけど、馬は答えない。
『なに?』
答えないけど、俺から目を逸らすこともない。
『何だよ』
何が言いたいんだよ。
『言ってくれなきゃ分かんねぇよ』
それでも答えない馬に焦れて背中を向けようとしたら、俺を止めるように馬竜がブルルと小さく鳴いた。
そして駄々をこねるみたいに首を振って、足元の砂をかく。
まるで俺を呼んでいるみたいだ。
こっちに来いって。
でも、自分からは近寄ってこない。
近寄って来れない?
何となく悲しんでいるように見えて、仕方無いからひと撫でしてやろうかと足を踏み出したところで、エリーに手をひかれた。
そっちには行くなと、エリーが傘を横に振る。
俺の手を引っ張りながら、馬とは真逆の方向を指差す。
あっちへ行こうと、白い砂漠の地平線を指さす。
そうか。
そうだね。
そっちに行こうか。
ちょっと考えたけど、あの馬は俺が近寄ったところできっと話すことはできない。
それよりも、エリーの指差す方に行く方が楽しそうだ。
コニャックの寂しそうな瞳は少し気になったけど、俺は馬に背を向けて再び果てのない砂漠へと足を踏み出した。
見晴らしの良いこの砂漠で、俺は何処までも自由なんだ。
何処にでも行ける。
どの方角に進んだところで砂漠しか無くても。
それでも自由なんだ。
だから、例えゴールの見えない砂漠であっても俺は歩き続ける。
自由という事に意義があるのだから。
白い砂を踏みしめながら、遠く背後で馬の力無いいななきを聞いた気がした。
見渡す限りの砂漠には、何の色も無い。
『わぁ、良い天気だなぁ』
地面と同様の真っ白な空は、太陽は無いけど凄く明るい。
『これは散歩日和だね』
風も無く何の音もしない世界は、まるで時間が止まっているみたいだった。
空も地面も全部白いもんだから、地平線まで目をやれば天地の境界があやふやになってる。
ふと胸の辺りがスカスカしている気がして見下ろせば、胸の真ん中にでかい風穴が空いているのに気がついた。
『うぉー!ドーナツみてー!』
手を突っ込んでみれば、遮るものもなく後ろへと手が貫通する。
『はー、風通し良くなっちゃってまぁ。中身、何処に落としてきたかなぁ』
色々と大切なもんが詰まってた気がするんだけど。
『・・・・・ま、いっか』
むしろ胸が軽くなって良いじゃないか。
『あそこの砂丘まで歩こうか。散歩しようぜ』
隣を見下ろせば、エリーがウンウンと頷いている。
いつも側に居てくれる姿が可愛くて、ニパリと笑ってしまった。
差し出されたエリーの手を握って、一緒に意気揚々と歩き出す。
はて、エリーってこんなに大きかったっけ。
いや、別におかしくないか。
『あの砂丘を越えたらオアシスがあるんだ』
まだ見えてこないけど、俺は知っている。
砂丘の向こうには小さな白いオアシスがあるんだ。
真っ白な草木が沢山生えている。
『お~て~て~、つ~ないで~、砂漠をゆ~け~ば~」
エリーと繋いだ手をブンブン振り回し、今時子供でも歌わないような懐かしい曲を大声で歌いながら楽しい気持ちで砂丘を越えていく。
『おぉー!あったあった』
予想していた通りの景色が、目の前に広がっていた。
白い木々がまっすぐ元気に生えた、小さなオアシス。
足を踏み入れてみれば、中心地に黒い小さな水溜りがあった。
『なんだこりゃー』
エリーと一緒にしゃがみこんで、澄んだ黒い水を覗き込む。
よくよく見れば水溜りの底から新しい水が湧いているっぽい。
『お、湧き水だな』
でも、何か詰まっているみたいに細々とした湧き方で、水溜りは一向に大きくはならない。
湧いているってよりも、ちょっと水が滲み出てるみたいな感じだな。
『んー、これじゃあオアシス枯れちゃうなー』
エリーに聞いてみれば、やっぱりウンウンと頷いてくれる。
こんな水の量じゃ、このオアシスもそう長く保たないと思う。
『ここが枯れたら、この世界も無くなっちゃうのに』
ごく自然に出た自分の言葉に、ゾワリとした。
そうだ。
このオアシスが枯れたら、砂漠もろともここは消えてしまう。
俺と一緒に。
『やべぇじゃん』
でも、俺にはどうしようも無い。
ちょっと怖くなって、思わず側にいたエリーに抱きついてしまった。
エリーは嫌がる事もなく抱き返してくれて、慰めるみたいに俺の穴の空いた背中をぽんぽんと叩いてくれた。
『エリー、一緒に居てな』
頼りない水の湧き方が不安で、俺はエリーの手を握って逃げるようにオアシスから飛び出した。
それから、何もない砂漠をまた当て所もなく歩き出す。
どれくらい歩いた頃だろうか。
背後から小さく馬のいななく声が聞こえた。
小さな声だったけど、音の無い砂漠ではしっかりと耳に入ってきた。
何だろうかと振り返ったら、俺から少し離れたところに大きな馬竜が静かに佇んでいた。
ダークチョコレートみたいな濃いブラウンの馬竜が、コニャックの瞳でジッとこちらを見ている。
初めて会うやつだけど、知っているやつな気もする。
馬は話しかけてくる事もなくただ俺を見つめてくるけど、その目はどこか寂しそうで何か言いたげな雰囲気だ。
『なんだ?』
俺に用があるのかと尋ねてみるけど、馬は答えない。
『なに?』
答えないけど、俺から目を逸らすこともない。
『何だよ』
何が言いたいんだよ。
『言ってくれなきゃ分かんねぇよ』
それでも答えない馬に焦れて背中を向けようとしたら、俺を止めるように馬竜がブルルと小さく鳴いた。
そして駄々をこねるみたいに首を振って、足元の砂をかく。
まるで俺を呼んでいるみたいだ。
こっちに来いって。
でも、自分からは近寄ってこない。
近寄って来れない?
何となく悲しんでいるように見えて、仕方無いからひと撫でしてやろうかと足を踏み出したところで、エリーに手をひかれた。
そっちには行くなと、エリーが傘を横に振る。
俺の手を引っ張りながら、馬とは真逆の方向を指差す。
あっちへ行こうと、白い砂漠の地平線を指さす。
そうか。
そうだね。
そっちに行こうか。
ちょっと考えたけど、あの馬は俺が近寄ったところできっと話すことはできない。
それよりも、エリーの指差す方に行く方が楽しそうだ。
コニャックの寂しそうな瞳は少し気になったけど、俺は馬に背を向けて再び果てのない砂漠へと足を踏み出した。
見晴らしの良いこの砂漠で、俺は何処までも自由なんだ。
何処にでも行ける。
どの方角に進んだところで砂漠しか無くても。
それでも自由なんだ。
だから、例えゴールの見えない砂漠であっても俺は歩き続ける。
自由という事に意義があるのだから。
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