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第三章 将軍様はご乱心!
第47話 服に込められた想い
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【デカイ人間、ずっとそこに居るぞ】
アリが示した方向を振り返れば、そこには大きな木が。
え、うそだよね。
居るの?
「バ・・・・バルギー?」
半信半疑ながら恐る恐る声を掛ければ、そう待つこともなく木の影から当たり前のようにバルギーが姿を現した。
「ふむ、気付いたか」
暗闇から現れたバルギーは少し意外そうな顔をしてたけど、大丈夫、全然気付いてなかったよ。
アリに教えてもらわなかったら、ずーっと気付かなかったよ。
って言うか、気付きたくなかった。
バルギーが苺畑に足を踏み入れ、静かに俺の前に立つ。
あ・・・・怒られる・・・・。
落ちる雷に備えて首を引っ込めれば、バルギーがくれたのはお説教ではなくて暖かいコートだった。
バルギーが買ってくれた毛皮付きの黒いコート。
それがふわりと肩にかけられる。
そのコートの暖かさに、思っていた以上に自分の体が冷えていた事を知った。
「着なさい。あぁ、だいぶ冷えてしまっているな」
コートの袖に腕を通すのを手伝ってくれながら、バルギーは確かめるように俺の首や頬に触れて体温を測ってくる。
その大きな手が異様に熱く感じるのは、多分俺の体温が低くなってるからだ。
「まったく・・・・お前は本当に目が離せんな」
そう言って困ったように小さく笑ったバルギーからは、予想に反して怒りの気配は感じなかった。
「・・怒らねぇの?」
「お前の意思で来たわけでは無いだろ。仕方あるまい」
「もしかして、ダイル達に運ばれてたの最初から見てた?」
「当たり前であろう。同じ天幕の中に居るのだから気付かぬ方がおかしい。其奴ら、私の目の前で堂々とお前を運び出しおって」
わー、ダイル達。
隠そうって気ゼロかよ。
「起こしてよ・・・・」
バルギー、何で俺が誘拐されるのそのまま見てたんだ。
「起こした」
「え、そうなの?」
「当然だ。何度もお前に声を掛けたのだが全然起きぬから困ったぞ。手を出そうとすると地竜達に威嚇されるし、あまり刺激してお前にも攻撃したら大変だからな。仕方なく付いて来たのだ」
「マジかー・・・・」
「何故あんな状態で寝続けられるのか・・・・。布団ごと地竜に運ばれるお前に声を掛けながら野営地の中を練り歩いた私の気持ちが分かるか」
え、それって・・・・まさか・・・。
「も、もしかして・・・皆に見られてるのか?」
「しばらくは揶揄われる覚悟をしておきなさい。話を聞きつけてナルグァスも見に来ていたし、イヴァンも大笑いしていたぞ」
うわー、死にたいー。
恥ずかしすぎる!
「あははは!!やっばいな!」
あまりにも恥ずかしくて、とりあえず誤魔化すように大笑いしておいた。
「それにしても、先程は生きた心地がしなかった」
俺の隣に腰を下ろしながら、バルギーが竜達のいた場所を示す。
「お前が竜に囲まれているのを見て、いつ襲われるのでは無いかと気が気では無かったぞ。何かあれば直ぐに助けに入るつもりではあったが、あの数の竜が相手では流石の私でも勝てはしないからな」
そうだよな。
見た感じでも、竜ってなんか強そうなヤツら多いもんな。
多分、肉食恐竜の集団VS人間1人って感じになっちゃう。
いくらバルギーが強くても、それは流石に勝ち目が無いと思う。
「群れでもないのに、あんなに沢山の竜が集まるところなど見た事がない。種類もバラバラで共通点が分からぬし」
俺を見に来てただけだ。
パンダに群がる見物客と同じだね。
「本当にお前は不思議だ。なぜこうも竜に好かれるのか」
「なー、不思議だよなー」
本当、何で俺は竜と話す事ができるのかね。
どうして、人間の匂いがしないと言われるのか。
やっぱり異世界人なのが関係してるのかな。
そう言えば、異世界から来た謎について大竜に聞きに行ってくれるってデュマン言ってたけど、その後どうなったんだろう。
明日聞きに行ってみよ。
「きっとお前は神に愛されているのだな。だから神の眷属の竜達にも好かれるのだ」
あ、バルギーが神様に不思議を押し付けた。
「はは、そうだと良いんだけどね」
お前は祝福されているとバルギーが目元を緩めた。
【ケイター!大っきいの見つけた。これラビクおじちゃんのお土産にする】
バルギーと幻想的な苺畑を眺めながらマッタリと雑談を楽しんでいたら、カイマンが蔦ごと引きちぎった立派な苺を見せてくれた。
『うぉー、でけー!』
もはや両手サイズだ。
「ほう、見事な“星苺”だ」
バルギーも感心したように、カイマンの咥える苺を見下ろしている。
なるほど、人間語だとこれは“星苺”って呼ぶんだな。
【蔦取って】
『はいはい』
今日一番の大きな苺を蔦から外してカイマンに渡してやれば、傷つかないようにそっと大事に咥えた。
そして・・・・苺を咥えたまま大量の涎を流し始める。
『カイマン、俺が持ってようか?それ森出るまで食べずに我慢できる?』
【・・・持ってて】
カイマンも自信が無かったのか、俺の膝の上に苺がそっと置かれた。
はーい、お預かりしますよー。
ラビクの土産が確保できたから今度はジャビの分をと、カイマンがまた苺を取りに走り出す。
ダイルとアリも、大きいのを探すんだと走り回っている。
エリーもいつの間にかアリの背中から降りて、トリオと一緒に楽しそうに走ってる。
仲が良くて、大変素晴らしい。
「俺この星苺っての初めて見たけど凄い綺麗だよな。こんな光る果物があるなんて知らなかった」
カイマンから預かった大きな苺を持ち上げれば、その光でバルギーの顔が照らされる。
おぉ、ライトに良いなこれ。
「苺がなってる場所も、夜空が落ちてきたみたいで綺麗だし」
「正にその通りだケイタ。夜空に輝く星のようだから、これは星苺と言うんだ」
あ、なるほど。
「ケイタ、良いところに連れてきて貰ったな。こんな見事な群生地はそうそうお目にかかれないぞ」
「そうなの?」
「あぁ。星苺はとても希少だ。いくつか実っているのを見つけただけでも幸運と言うものだ」
「へー、珍しいんだコレ」
最初からこの苺畑を見てるからそう言うもんだと思ってたけど、ここは特別なのか。
「星苺は魔力溜まりにしか実らなくてな」
「え、ここ魔力溜まりなの?」
「あぁ。しかもかなり濃い」
昼間行ったところは幽霊が出そうな不気味な雰囲気を感じたけど、そもそも夜の森自体がもう不気味だから分かんなかった。
「うへぇ、気づかなかった」
「まぁお前は魔力慣れしていないようだからな。気が付かないのも仕方あるまい」
バルギーが手元の苺をもぎ取り、それを俺の目の高さに持ち上げる。
「この星苺は、此処のような濃い魔力溜まりに夜のみ実る果実だ」
柔らかい黄色い光が、俺の顔まわりを優しく照らしてくれる。
「だが、魔力溜まりの近くには魔物が居る。わざわざそんな危険なところに夜に近付く者など普通は居るまい。自殺行為だからな。だから、星苺は簡単には見つからず希少で高価なんだ」
「ちょ、え、ま、待って。魔物・・・・いるかもなの・・?」
ここ、もしかして危険なのか?
あ、でも前デュマンに教えてもらった話では、確かに魔力溜まりで魔物化が起こるっての聞いたわ。
やだ、忘れてた。
「大丈夫だ。あれだけ竜が集まっていれば魔物も避けていく」
「そ、そうか!・・・・はは、ビビったぁ。なるほどね、そりゃこの苺も中々人間には見つからない訳だわな」
実る条件が危なすぎる。
「高価な理由は希少性だけではないぞ。実る環境ゆえか、とても豊富な魔力が含まれているのも理由の一つだ」
「へー、魔力が多いと何か良い事あんの?」
「普通の食材に比べて、食べて得られる魔力量が桁違いだ。魔力は生きるのに必要不可欠なもの。多くの魔力を取り込めば体の健康にも繋がる」
「なるほどな。健康食か」
「まぁ、そうだな。希少で美しく魔力量も豊富で味も良い。どんなに高い価格をつけても買い手には困らないな」
「マジか」
「今のお前にはうってつけの食べ物だ。コレだけの量があれば不足している魔力もかなり補えるし、こんなに濃度の高い魔力溜まりであれば居るだけでも良い。本当に良いところに連れてきてもらった」
「こりゃ、ダイル達にお礼をしなきゃだな」
「あぁ、帰ったら地竜達に褒美をやろう」
「肉だな」
「分かった、用意しよう」
やったな地竜トリオ!
「そんなに希少なら、俺も沢山摘んで帰ろ」
自分の土産分を摘もうと腰を上げれば、バルギーも一緒に腰を上げる。
「それが良い。星苺をこんなに入手できる機会はそうそう無い。摘めるだけ摘んでいこう」
「うん。あー・・・分かってたら籠とか持ってきたんだけどな」
何しろ寝てたからなぁ。
手で持てる分しか持ち帰れないから、土産にできる数はどうしても限られる。
こんなに沢山なっているのに、それはちょっと惜しい気がする。
「少し待っていなさい」
どうやれば少しでも沢山の苺を持ち帰れるか頭を捻っていれば、バルギーが木の影から丸めた布団を持ってきた。
俺が寝てたやつだ。
そう言えば、落とされたところに置いたままにしてたけど、バルギーが回収してくれてたんだ。
布団からシーツを剥ぎ取り、地面の上に広げる。
「これに包んで帰ろう。沢山持ち帰れるぞ」
「おぉ!やった!」
それからは、ひたすらバルギーと一緒に苺の収穫祭だ。
目につく実を手当たり次第摘んでいく。
「この星苺は、服や装身具を飾る模様にも良く使われるのだぞ」
バルギーが苺を摘みながら、話題の一つとして教えてくれた。
「お前の服にもいくつか星苺の刺繍が入っている」
「あ、なんか赤い実の模様の腰帯とかあったな。あれか?」
「そうだ。星苺は豊富な魔力を象徴するものの一つ、そして魔力は健康と力の源だ。だから、豊富な魔力を得ますように、健やかでありますように、強い力を得ますようにという願いを込めて、身に付けるものに星苺の図を入れるのだ」
「ほー・・・・」
健康食なうえに、縁起物みたいな感じなんだ。
っていうか、そんな願いが俺の服に込められてたなんて。
バルギーの優しさに胸が暖かくなる。
っつーか、ちょっと気恥ずかしい。
「そんな意味があったなんて知らなかった。なんて言うか・・・ありがとうね」
「お前には健やかであってほしいからな」
ごく真面目にさらりと返すあたり、流石バルギーだな。
「持ち帰ったら長く保存できるように砂糖漬けにしよう。果汁でできた砂糖水ができる。水で割って飲むと美味いぞ」
なるほどシロップだな。
「蜜煮も良いな。パンやチーズにかけると美味い」
ジャムかな。それも美味そうだな。
「酒は?」
「む、酒か。酒に漬けても勿論美味いだろうが・・・ケイタは酒が飲めるのか?」
「大好きよ。バルギーはあんまり飲まないよね。好きじゃない?」
「いや、私も酒は飲む。・・・すまぬ、お前が子供だと思っていたから酒は出さないようにしていたのだ。そうかケイタは酒が好きか」
「あ、俺を気にして飲んで無かったのか」
「子供の前で酒は飲まん」
さすがバルギー、真面目ー。
「だが飲めるなら話は別だ。お前が嫌ではなければ、今度一緒に酌み交わそう」
「お、いいねぇ。美味しい酒飲ませてくれよ」
「良い酒を用意する。よし、ではこの星苺も酒に漬けよう。星苺の果実酒などとても贅沢だぞ。飲むのが楽しみだ」
「そうだな。果実酒に砂糖漬けに蜜煮。いっぱい摘んでかなきゃな」
苺つってるけど、味はライチだからな。
ライチ酒にライチシロップ、ライチのジャム、絶対どれも美味いに決まってる。
シロップとか酒は塩と一緒に水で割ったら、ソルトライチが楽しめるんじゃ・・・。
えー、やりたーい。
めっちゃ楽しみー。
カイマンじゃないけど、口の端から涎が垂れそうになっちゃった。
どっさりと摘んだ苺をシーツで包めば、良い感じにパンパンになっている。
それでも周りを見渡せば、まだまだ一杯実っているんだから凄い。
朝になったら消えちゃうのが勿体無いな。
「さぁ、そろそろ帰ろう。これだけ摘めば充分であろう」
「残った分が惜しい気するけど、仕方ないな」
あんまり欲張ると、大体何かしら失敗するからな。
それに、きっと俺たちが居なくなった後に他の生き物達も食べに来るだろうし。
独占しちゃいけない。
『皆、帰るぞー』
苺畑を走る可愛い友達に声を掛ければ、皆一斉にこちらへ勢いよく向かってくる。
【ケイター!見て見て!】
【エリーが!】
【頑張った!】
何やら3匹ともテンションが高い。
どうした?
と思ったら、エリーが大きな苺を抱えて蔦の間から飛び出してきた。
・・・・抱えて?
「え?・・は?うぇっ?!」
抱えてる。
エリーが、苺を、抱えてる。
「バババババルギーっ!バルギー!」
思わず混乱のまま、横にいるバルギーの太い腕を力一杯バシバシと叩いてしまった。
「どうしたのだケイタ?」
「エエエエリー!エリーが!て・・・て」
「て?」
「手が生えてる!」
見間違えじゃない。
確かに腕が生えている。
細く小さな手で大きな苺をぎゅっと抱きしめているのだ。
訝しげに覗き込んだバルギーもその姿を見た途端、驚いたように目を剥いた。
「しまったっ」
バルギーが何故か慌てたようにエリーに手を伸ばす。
けどエリーはそれをヒラリと華麗にかわして、俺の懐に飛び込んでくる。
「ケイタ!それをしっかりと捕まえておけ。急いでここを離れるぞ」
よく分からないけど言われるままエリーを抱きしめたら、バルギーが勢いよく俺を抱き上げた。
「うわ!何だ!」
「すまん、お前の靴は持ってきてなかったのでな、このまま戻るぞ」
そう言うと、バルギーは包んだ苺も掴みとり、大股で移動を始めた。
裸足だったから運んでくれるのはありがたいけど、何をそんなに慌ててるんだ。
「バルギー、どうしたんだ?」
「その茸、魔物化し始めておる」
「えぇっ!?」
「お前と一緒に魔力溜まりに居すぎた所為だな。此処は特に魔力濃度が高いから普通よりも早く魔物化が始まってしまったのだろう。私とした事がその可能性を失念しておった」
「ま、魔物化って。エリー凶暴になっちゃうの?」
俺の事分かんなくなっちゃったりするのか?
不安な気持ちでエリーを見るけど、エリーは苺を抱き抱えたまま大人しく俺の手の中にいる。
腕が生えた以外は、至っていつも通りの感じだ。
「まだ大丈夫だ。完全には魔物化していないから今ならまだ間に合う。此処を離れればこれ以上の変化は無い筈だ」
「うわー!バルギー、お願い急いでー!」
エリーが魔物になったら大変だ!
さっきまでの和やかな苺摘みからは一転、俺たちは大急ぎで森を抜ける羽目になったのだった。
アリが示した方向を振り返れば、そこには大きな木が。
え、うそだよね。
居るの?
「バ・・・・バルギー?」
半信半疑ながら恐る恐る声を掛ければ、そう待つこともなく木の影から当たり前のようにバルギーが姿を現した。
「ふむ、気付いたか」
暗闇から現れたバルギーは少し意外そうな顔をしてたけど、大丈夫、全然気付いてなかったよ。
アリに教えてもらわなかったら、ずーっと気付かなかったよ。
って言うか、気付きたくなかった。
バルギーが苺畑に足を踏み入れ、静かに俺の前に立つ。
あ・・・・怒られる・・・・。
落ちる雷に備えて首を引っ込めれば、バルギーがくれたのはお説教ではなくて暖かいコートだった。
バルギーが買ってくれた毛皮付きの黒いコート。
それがふわりと肩にかけられる。
そのコートの暖かさに、思っていた以上に自分の体が冷えていた事を知った。
「着なさい。あぁ、だいぶ冷えてしまっているな」
コートの袖に腕を通すのを手伝ってくれながら、バルギーは確かめるように俺の首や頬に触れて体温を測ってくる。
その大きな手が異様に熱く感じるのは、多分俺の体温が低くなってるからだ。
「まったく・・・・お前は本当に目が離せんな」
そう言って困ったように小さく笑ったバルギーからは、予想に反して怒りの気配は感じなかった。
「・・怒らねぇの?」
「お前の意思で来たわけでは無いだろ。仕方あるまい」
「もしかして、ダイル達に運ばれてたの最初から見てた?」
「当たり前であろう。同じ天幕の中に居るのだから気付かぬ方がおかしい。其奴ら、私の目の前で堂々とお前を運び出しおって」
わー、ダイル達。
隠そうって気ゼロかよ。
「起こしてよ・・・・」
バルギー、何で俺が誘拐されるのそのまま見てたんだ。
「起こした」
「え、そうなの?」
「当然だ。何度もお前に声を掛けたのだが全然起きぬから困ったぞ。手を出そうとすると地竜達に威嚇されるし、あまり刺激してお前にも攻撃したら大変だからな。仕方なく付いて来たのだ」
「マジかー・・・・」
「何故あんな状態で寝続けられるのか・・・・。布団ごと地竜に運ばれるお前に声を掛けながら野営地の中を練り歩いた私の気持ちが分かるか」
え、それって・・・・まさか・・・。
「も、もしかして・・・皆に見られてるのか?」
「しばらくは揶揄われる覚悟をしておきなさい。話を聞きつけてナルグァスも見に来ていたし、イヴァンも大笑いしていたぞ」
うわー、死にたいー。
恥ずかしすぎる!
「あははは!!やっばいな!」
あまりにも恥ずかしくて、とりあえず誤魔化すように大笑いしておいた。
「それにしても、先程は生きた心地がしなかった」
俺の隣に腰を下ろしながら、バルギーが竜達のいた場所を示す。
「お前が竜に囲まれているのを見て、いつ襲われるのでは無いかと気が気では無かったぞ。何かあれば直ぐに助けに入るつもりではあったが、あの数の竜が相手では流石の私でも勝てはしないからな」
そうだよな。
見た感じでも、竜ってなんか強そうなヤツら多いもんな。
多分、肉食恐竜の集団VS人間1人って感じになっちゃう。
いくらバルギーが強くても、それは流石に勝ち目が無いと思う。
「群れでもないのに、あんなに沢山の竜が集まるところなど見た事がない。種類もバラバラで共通点が分からぬし」
俺を見に来てただけだ。
パンダに群がる見物客と同じだね。
「本当にお前は不思議だ。なぜこうも竜に好かれるのか」
「なー、不思議だよなー」
本当、何で俺は竜と話す事ができるのかね。
どうして、人間の匂いがしないと言われるのか。
やっぱり異世界人なのが関係してるのかな。
そう言えば、異世界から来た謎について大竜に聞きに行ってくれるってデュマン言ってたけど、その後どうなったんだろう。
明日聞きに行ってみよ。
「きっとお前は神に愛されているのだな。だから神の眷属の竜達にも好かれるのだ」
あ、バルギーが神様に不思議を押し付けた。
「はは、そうだと良いんだけどね」
お前は祝福されているとバルギーが目元を緩めた。
【ケイター!大っきいの見つけた。これラビクおじちゃんのお土産にする】
バルギーと幻想的な苺畑を眺めながらマッタリと雑談を楽しんでいたら、カイマンが蔦ごと引きちぎった立派な苺を見せてくれた。
『うぉー、でけー!』
もはや両手サイズだ。
「ほう、見事な“星苺”だ」
バルギーも感心したように、カイマンの咥える苺を見下ろしている。
なるほど、人間語だとこれは“星苺”って呼ぶんだな。
【蔦取って】
『はいはい』
今日一番の大きな苺を蔦から外してカイマンに渡してやれば、傷つかないようにそっと大事に咥えた。
そして・・・・苺を咥えたまま大量の涎を流し始める。
『カイマン、俺が持ってようか?それ森出るまで食べずに我慢できる?』
【・・・持ってて】
カイマンも自信が無かったのか、俺の膝の上に苺がそっと置かれた。
はーい、お預かりしますよー。
ラビクの土産が確保できたから今度はジャビの分をと、カイマンがまた苺を取りに走り出す。
ダイルとアリも、大きいのを探すんだと走り回っている。
エリーもいつの間にかアリの背中から降りて、トリオと一緒に楽しそうに走ってる。
仲が良くて、大変素晴らしい。
「俺この星苺っての初めて見たけど凄い綺麗だよな。こんな光る果物があるなんて知らなかった」
カイマンから預かった大きな苺を持ち上げれば、その光でバルギーの顔が照らされる。
おぉ、ライトに良いなこれ。
「苺がなってる場所も、夜空が落ちてきたみたいで綺麗だし」
「正にその通りだケイタ。夜空に輝く星のようだから、これは星苺と言うんだ」
あ、なるほど。
「ケイタ、良いところに連れてきて貰ったな。こんな見事な群生地はそうそうお目にかかれないぞ」
「そうなの?」
「あぁ。星苺はとても希少だ。いくつか実っているのを見つけただけでも幸運と言うものだ」
「へー、珍しいんだコレ」
最初からこの苺畑を見てるからそう言うもんだと思ってたけど、ここは特別なのか。
「星苺は魔力溜まりにしか実らなくてな」
「え、ここ魔力溜まりなの?」
「あぁ。しかもかなり濃い」
昼間行ったところは幽霊が出そうな不気味な雰囲気を感じたけど、そもそも夜の森自体がもう不気味だから分かんなかった。
「うへぇ、気づかなかった」
「まぁお前は魔力慣れしていないようだからな。気が付かないのも仕方あるまい」
バルギーが手元の苺をもぎ取り、それを俺の目の高さに持ち上げる。
「この星苺は、此処のような濃い魔力溜まりに夜のみ実る果実だ」
柔らかい黄色い光が、俺の顔まわりを優しく照らしてくれる。
「だが、魔力溜まりの近くには魔物が居る。わざわざそんな危険なところに夜に近付く者など普通は居るまい。自殺行為だからな。だから、星苺は簡単には見つからず希少で高価なんだ」
「ちょ、え、ま、待って。魔物・・・・いるかもなの・・?」
ここ、もしかして危険なのか?
あ、でも前デュマンに教えてもらった話では、確かに魔力溜まりで魔物化が起こるっての聞いたわ。
やだ、忘れてた。
「大丈夫だ。あれだけ竜が集まっていれば魔物も避けていく」
「そ、そうか!・・・・はは、ビビったぁ。なるほどね、そりゃこの苺も中々人間には見つからない訳だわな」
実る条件が危なすぎる。
「高価な理由は希少性だけではないぞ。実る環境ゆえか、とても豊富な魔力が含まれているのも理由の一つだ」
「へー、魔力が多いと何か良い事あんの?」
「普通の食材に比べて、食べて得られる魔力量が桁違いだ。魔力は生きるのに必要不可欠なもの。多くの魔力を取り込めば体の健康にも繋がる」
「なるほどな。健康食か」
「まぁ、そうだな。希少で美しく魔力量も豊富で味も良い。どんなに高い価格をつけても買い手には困らないな」
「マジか」
「今のお前にはうってつけの食べ物だ。コレだけの量があれば不足している魔力もかなり補えるし、こんなに濃度の高い魔力溜まりであれば居るだけでも良い。本当に良いところに連れてきてもらった」
「こりゃ、ダイル達にお礼をしなきゃだな」
「あぁ、帰ったら地竜達に褒美をやろう」
「肉だな」
「分かった、用意しよう」
やったな地竜トリオ!
「そんなに希少なら、俺も沢山摘んで帰ろ」
自分の土産分を摘もうと腰を上げれば、バルギーも一緒に腰を上げる。
「それが良い。星苺をこんなに入手できる機会はそうそう無い。摘めるだけ摘んでいこう」
「うん。あー・・・分かってたら籠とか持ってきたんだけどな」
何しろ寝てたからなぁ。
手で持てる分しか持ち帰れないから、土産にできる数はどうしても限られる。
こんなに沢山なっているのに、それはちょっと惜しい気がする。
「少し待っていなさい」
どうやれば少しでも沢山の苺を持ち帰れるか頭を捻っていれば、バルギーが木の影から丸めた布団を持ってきた。
俺が寝てたやつだ。
そう言えば、落とされたところに置いたままにしてたけど、バルギーが回収してくれてたんだ。
布団からシーツを剥ぎ取り、地面の上に広げる。
「これに包んで帰ろう。沢山持ち帰れるぞ」
「おぉ!やった!」
それからは、ひたすらバルギーと一緒に苺の収穫祭だ。
目につく実を手当たり次第摘んでいく。
「この星苺は、服や装身具を飾る模様にも良く使われるのだぞ」
バルギーが苺を摘みながら、話題の一つとして教えてくれた。
「お前の服にもいくつか星苺の刺繍が入っている」
「あ、なんか赤い実の模様の腰帯とかあったな。あれか?」
「そうだ。星苺は豊富な魔力を象徴するものの一つ、そして魔力は健康と力の源だ。だから、豊富な魔力を得ますように、健やかでありますように、強い力を得ますようにという願いを込めて、身に付けるものに星苺の図を入れるのだ」
「ほー・・・・」
健康食なうえに、縁起物みたいな感じなんだ。
っていうか、そんな願いが俺の服に込められてたなんて。
バルギーの優しさに胸が暖かくなる。
っつーか、ちょっと気恥ずかしい。
「そんな意味があったなんて知らなかった。なんて言うか・・・ありがとうね」
「お前には健やかであってほしいからな」
ごく真面目にさらりと返すあたり、流石バルギーだな。
「持ち帰ったら長く保存できるように砂糖漬けにしよう。果汁でできた砂糖水ができる。水で割って飲むと美味いぞ」
なるほどシロップだな。
「蜜煮も良いな。パンやチーズにかけると美味い」
ジャムかな。それも美味そうだな。
「酒は?」
「む、酒か。酒に漬けても勿論美味いだろうが・・・ケイタは酒が飲めるのか?」
「大好きよ。バルギーはあんまり飲まないよね。好きじゃない?」
「いや、私も酒は飲む。・・・すまぬ、お前が子供だと思っていたから酒は出さないようにしていたのだ。そうかケイタは酒が好きか」
「あ、俺を気にして飲んで無かったのか」
「子供の前で酒は飲まん」
さすがバルギー、真面目ー。
「だが飲めるなら話は別だ。お前が嫌ではなければ、今度一緒に酌み交わそう」
「お、いいねぇ。美味しい酒飲ませてくれよ」
「良い酒を用意する。よし、ではこの星苺も酒に漬けよう。星苺の果実酒などとても贅沢だぞ。飲むのが楽しみだ」
「そうだな。果実酒に砂糖漬けに蜜煮。いっぱい摘んでかなきゃな」
苺つってるけど、味はライチだからな。
ライチ酒にライチシロップ、ライチのジャム、絶対どれも美味いに決まってる。
シロップとか酒は塩と一緒に水で割ったら、ソルトライチが楽しめるんじゃ・・・。
えー、やりたーい。
めっちゃ楽しみー。
カイマンじゃないけど、口の端から涎が垂れそうになっちゃった。
どっさりと摘んだ苺をシーツで包めば、良い感じにパンパンになっている。
それでも周りを見渡せば、まだまだ一杯実っているんだから凄い。
朝になったら消えちゃうのが勿体無いな。
「さぁ、そろそろ帰ろう。これだけ摘めば充分であろう」
「残った分が惜しい気するけど、仕方ないな」
あんまり欲張ると、大体何かしら失敗するからな。
それに、きっと俺たちが居なくなった後に他の生き物達も食べに来るだろうし。
独占しちゃいけない。
『皆、帰るぞー』
苺畑を走る可愛い友達に声を掛ければ、皆一斉にこちらへ勢いよく向かってくる。
【ケイター!見て見て!】
【エリーが!】
【頑張った!】
何やら3匹ともテンションが高い。
どうした?
と思ったら、エリーが大きな苺を抱えて蔦の間から飛び出してきた。
・・・・抱えて?
「え?・・は?うぇっ?!」
抱えてる。
エリーが、苺を、抱えてる。
「バババババルギーっ!バルギー!」
思わず混乱のまま、横にいるバルギーの太い腕を力一杯バシバシと叩いてしまった。
「どうしたのだケイタ?」
「エエエエリー!エリーが!て・・・て」
「て?」
「手が生えてる!」
見間違えじゃない。
確かに腕が生えている。
細く小さな手で大きな苺をぎゅっと抱きしめているのだ。
訝しげに覗き込んだバルギーもその姿を見た途端、驚いたように目を剥いた。
「しまったっ」
バルギーが何故か慌てたようにエリーに手を伸ばす。
けどエリーはそれをヒラリと華麗にかわして、俺の懐に飛び込んでくる。
「ケイタ!それをしっかりと捕まえておけ。急いでここを離れるぞ」
よく分からないけど言われるままエリーを抱きしめたら、バルギーが勢いよく俺を抱き上げた。
「うわ!何だ!」
「すまん、お前の靴は持ってきてなかったのでな、このまま戻るぞ」
そう言うと、バルギーは包んだ苺も掴みとり、大股で移動を始めた。
裸足だったから運んでくれるのはありがたいけど、何をそんなに慌ててるんだ。
「バルギー、どうしたんだ?」
「その茸、魔物化し始めておる」
「えぇっ!?」
「お前と一緒に魔力溜まりに居すぎた所為だな。此処は特に魔力濃度が高いから普通よりも早く魔物化が始まってしまったのだろう。私とした事がその可能性を失念しておった」
「ま、魔物化って。エリー凶暴になっちゃうの?」
俺の事分かんなくなっちゃったりするのか?
不安な気持ちでエリーを見るけど、エリーは苺を抱き抱えたまま大人しく俺の手の中にいる。
腕が生えた以外は、至っていつも通りの感じだ。
「まだ大丈夫だ。完全には魔物化していないから今ならまだ間に合う。此処を離れればこれ以上の変化は無い筈だ」
「うわー!バルギー、お願い急いでー!」
エリーが魔物になったら大変だ!
さっきまでの和やかな苺摘みからは一転、俺たちは大急ぎで森を抜ける羽目になったのだった。
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聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
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聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
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我が家に子犬がやって来た!
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【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
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別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
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「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
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チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
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性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
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フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
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【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
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☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
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少し冷めた村人少年の冒険記
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辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
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そばかす糸目はのんびりしたい
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懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
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