飛竜誤誕顛末記

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第三章 将軍様はご乱心!

第36話 大浴場

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「バルギー」
「あぁ、ケイタ。来たな」

家具工房での仕事を終えた後、すっかり歩きなれた道を辿って軍の基地へとやって来た。
今日はバルギーと一緒に帰る約束をしていたから。
「すまないケイタ、この後に緊急の会議が入ってしまってな。1時間位で終わるのだが、待っていてくれるか?」
「うん、分かった」
頷けば、バルギーが俺の前に菓子皿を置いてくれた。
「ん?ケイタ今日は何の仕事をして来たのだ?木の匂いがする」
家具工房で付いた匂いに気づいたのか、バルギーが確認するように俺の髪へと鼻を近づけてくる。
「バルギー鼻がいいな!今日は家具工房で仕事して来たんだ」
「あぁ成る程な。それでか。木の良い香りだ」
確かに工房入った瞬間とか、めっちゃ木のいい匂いしてたもんな。
鼻が慣れちゃって気付かなかったけど、匂い体にも移ってたんだ。
思わず自分でも腕の辺りをスンスンと嗅いでしまった。

「あ、なぁバルギー」
「どうした?」
会議に向かう準備中のバルギーの隣で、貰った菓子を口に放り投げる。
「訓練場の水浴び場使っても良いか?」
「・・・・何故だ?」
「服ん中に細かい木屑が入ってるみたいでチクチクすんだよ。だからザッと流したい」
実は仕事終わってから、ずっと身体中がチクチクしてんだ。
工房中木屑まみれだったから、服の中にも入り込んじまったらしい。
訓練場の端っこには兵士達が汗を流すための水浴び場があるから、そこをちょっと使わせて欲しいんだけど。
「水浴び場で服を脱ぐのか?」
「そりゃ、水浴びるんだから脱ぐに決まってるじゃん」
「駄目に決まっているだろう」
えー、何でだよ。ケチー。
「痒いんだってばー!」
ズボンの中にも入り込んでるから、股もチクチクだ。
思わずガニ股になって内股をバリバリ掻きむしってみたら、バルギーに手を掴まれてしまった。
「やめなさい、はしたない。それにそんな乱暴にしたら肌を傷つける」
「だって、マジで痒いんだよ。流したいー」
「それなら我々が使う浴場があるから、そちらを使いなさい。水浴び場は人目があるから絶対に駄目だ」
「浴場!助かる!」
お湯が使えるならそっちのが良い。

会議室へと向かうバルギーとイバンの2人と一緒に執務室を出ると、バルギーが浴場までの道を教えてくれた。
「私たちはもう会議に行かなくてはならないから、すまないが浴場には1人で行ってくれ。全員会議に出ているから今なら浴場は誰も居ない」
「分かった!」
「良いか、この廊下の突き当たりを右に曲がって真っ直ぐ行くと右手に階段がある。そこを上がって廊下を左に行き、突き当たりにある扉が浴場だ」
覚えたか?とバルギーが少し心配そうに聞いてきた。
めっちゃ簡単な道順だから問題ない。
「大丈夫、覚えた」
「そうか、体を拭くための布等は脱衣所に置いてあるから好きに使いなさい」
「うん、分かった。ありがとう」
「将軍、そろそろ行きませんと」
「分かっておる。ケイタ長湯をしてはいかんぞ。軽く体を流したら直ぐに部屋に戻って来なさい。良いな」
時間が迫っているらしく、イバンに急かされたバルギーは俺が向かうのとは逆の方向へと去っていった。

バルギーに言われた通りに廊下を進む。
説明通り右手に現れた階段を登ろうとしたところで、ちょうど下の階から上がって来た飛軍兵に気がついた。
階段を上がって来た飛軍のお兄さんは髪の毛が少し濡れていて、石鹸の匂いをまとっている。
明らかに湯から出てきたところだと分かる出立ちだ。
あれ?バルギーは階段を上がるって言ってたよな?
俺の聞き間違い?
階段を上がるかどうするか迷っている俺に、飛軍のお兄さんも気がついたらしい。
「おや、君は確か馬将軍の・・・」
「あ、こんにちは。えっと、すいません。浴場ってこの階段を降りた所ですか?」
「浴場?あぁ、そうだよ。ここを降りて左の突き当たりだ」
お兄さんが親切に教えてくれた。
階段を上がるってのは、やっぱり俺の聞き間違いだったらしい。
上じゃなくて下の階だって。
「ありがとうございます」
親切なお兄さんにお礼を言って、俺は早速階段を降りた。

「おぉ~、銭湯だ」
扉を開けた先は、驚く程に広い脱衣所だった。
俺は砦の浴場とバルギーん家の浴室しか見た事無かったけど、ここはもっと大人数用の浴場らしくて今までで一番大きな脱衣所だった。
さすが軍の中にある浴場だ。
脱衣所には厳つく逞しい兵達が沢山いる。
俺に気づいた兵達が何故か少し驚いたように此方を見ているけど、多分俺が物珍しいんだろう。
ま、こっちの世界に来てから物珍しさで注目されるのは慣れちゃったから、特に気にならないけど。
さて、脱衣用の籠が空いてる場所を探さなきゃ。
兵達の視線を集めながら脱衣所に入れば、少し離れた所に見知った顔を見つけた。
「カルシク!ハガン!」
名前を呼びながら近寄れば、2人が驚いたように目を剥いた。
「ケイタ!?は?え?何でこんなとこにいるんだ!?」
慌てるカルシクの隣に丁度空いた籠があったので、まずはエリーの籠をそこに入れる。
「仕事で服の中に木屑が入っちゃってさ。痒くてしょうがないから湯を浴びにきたんだ」
そう言いながら勢いよく上を脱いだら、カルシクがいきなり叫んだ。
「ばーーっ!!ななな何してんだお前は!」
うるっせぇ・・・。鼓膜破けるかと思った。
っつーか、カルシク今馬鹿って言おうとしただろう。
「早く、服を着ろ!将軍に知られたら殺されるぞ!俺たちが!」
ギャーギャー騒ぐカルシクの隣で、ハガンが無言で俺の体に大きなタオルをかけてくる。
「意味分かんないんだけど・・・・」
なんでカルシク達がバルギーに殺されるんだ。
「っつーか、バルギーが浴場使えって言ったんだけど」
「・・・・・それ、本当か?」
「信じられん」
2人が顔を見合わせてるけど、信じていない顔だ。
「本当だよ!バルギーに教えてもらったから、俺ここに来てんだし」
「ふむ・・・それは確かにそうか・・」
「確かに、ケイタだけじゃここの場所知らないか?」
「なぁ!それよりも早くお湯浴びたいんだけど!」
股がチクチクしてんだよ!
「どうするハガン?」
「将軍が良しとしたなら我々が口を出す事では無いが・・」
2人の視線が俺に向けられる。
「ケイタ。本当に将軍がここを使って良いと言ったのだな?」
念を押すようなハガンに頷き返したら、首を傾げながらも2人は納得してくれたようだ。
何でそんなに疑うのか分からねぇ。
「よし、それなら俺達と一緒に入るぞ。良いかケイタ、絶対俺達から離れるなよ!ここには飛軍の連中もいるんだ。変なちょっかい出されたく無いだろ?」
「変なちょっかいって何?」
「え、変なってのは・・・・い、色々だよ!色々!とにかく、ちゃんと俺達と一緒にいるんだぞ!」
色々って何だ・・・・。
揶揄われるからって事かな。
「よく分かんないけど、分かった」
「心配だなぁ・・」
「俺たちでしっかり見ておけば大丈夫だろう」

服を脱ぎながら、同じように隣で脱いでいるカルシクとハガンを横目でチラリと見る。
わー、やっぱりでっけぇ・・・。
何って、ナニが。
やっぱり気になっちゃうじゃん。見ちゃうよねー。
2人とも直ぐに腰巻きをしたから隠れちゃったけど、中々にご立派なモノだった。
やっぱり体格の差なのかなぁ。
「うわ、細・・・・」
「カルシク、死にたくなければあまり見るな」
「分かってる。分かってるけどさぁ・・・」
何かヒソヒソ話す2人に挟まれながら、俺も服を全て脱ぎ切る。
『エリー、お待たせ。一緒に行こうなー。今日は人がいっぱい居るから1人で走っちゃ駄目だぞ』
籠からエリーを取り出して、肩に乗せる。
「ケイタ、それも持っていくの?」
「勿論!いつも一緒だもん」
こんな所に、エリー1人置いていく訳無いだろ。
こんな凶悪なまでにプリティなエリーだ。誘拐されたら大変じゃん。
よし、準備万端!行くぞ!
「カルシク、ハガンお待たせー。行こうぜー」
「ま、待てっ!」
浴場に向かって一歩踏み出そうとした瞬間、カルシクにガシリと肩を掴まれた。
「腰布を巻け!何剥き出しのまま行こうとしてるんだ!」
「何時まで丸出しのままなのかと思ってたら・・・」
ハガンが顔を片手で覆いながら、大きな溜息を吐いている。
駄目なのか?
「俺、何時も巻かないよ?」
「1人の時の話だろそれは。他にも人がいる場合は巻くんだよ」
「ほら、こうやって巻くんだ」
説明しながら素早くハガンが俺の腰に布を巻きつけてくる。
あれー、もしかしてあれか。
腰に布巻くのって、マナー的に絶対な感じなのか?
「バルギーは何時も何も言わないけどな」
・・・いや、最初の頃は言ってたかもしれない。
俺が忘れてるだけかも。
でも、最近はバルギーも何も巻かずに入ってたしなぁ。
もしかして俺に合わせてくれてたんかな。
「へ・・・・何時もって・・」
「ケイタお前、将軍と共に湯に入っているのか?」
「ん?うん。バルギーの部屋は蒸し風呂があるからさ、時々一緒に入らせて貰ってる」
普通の風呂のほうも、まるでミニ銭湯みたいでデカイしな。
「それで、その時は腰布を巻かないのか?」
「おう」
「もしかして将軍も・・?」
「おう」
「う・・わぁ」
「馬鹿、カルシク。余計な事を考えるな」
え、2人ともそんなに引く?
布巻かずに風呂入るのって、そんなにヤバいんか。
うわ、次からはちゃんと気を付けよ・・・。
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