飛竜誤誕顛末記

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第三章 将軍様はご乱心!

第35話 良い仕事みーっけ!

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ようやく俺の生活は日常を取り戻した。

また以前と同じように仕事に向かい、時にはバルギーを迎えに行って一緒に帰ってきたり。
極々平和な日々を過ごしている。

「そんじゃ行ってくるな」
「おー、気を付けて行ってこい」
ザウラから依頼書を貰って、今日も意気揚々と職場へ向かう。
今日は初めての場所だ。
家具工房だって。
どんな仕事内容かは分からないけど、楽しそうだから此処に決めた。

「こんにちはー」
「あ?なんだ坊主。うちに何の用だ」
工房に着き、とりあえず最初に目に付いたおっちゃんに声を掛ける。
「仕事貰いにきました」
依頼書を手渡すと、おっちゃんが中を確かめて少し驚いた様な顔をした。
「あぁ、お前ザウラんとこの・・・仕事ぶりが良いって評判は聞いてるけど、思ってたより若いな。まぁ、良いや。そんなら仕事説明してやるからこっち来な」
手招かれて工房に入れば、途端に濃厚な木の香りに包まれる。
色んな木材がそこかしこに置かれ、たくさんの職人達が削ったり彫ったりと忙しそうだ。
工房の端っこ、木材が沢山積まれた場所に連れて行かれると、俺以外にも日雇いっぽい人達が何人か仕事をしている。
「よし、いいか。お前の仕事はここの木材を決まった寸法で切っていくことだ。こういう大きさに揃えていくんだ」
おっちゃんが、見本の木材を見せてくれながら説明してくれる。
めっちゃ簡単な仕事だ。
長い角材を決まった長さで切って、木のブロックを作っていくだけ。
「大きさはちゃんと揃えろ。ちゃんと出来た角材の数だけ報酬が出る。ある程度出来たら、あそこの職人に渡せばいい。出来るか?」
「大丈夫です。分かりました」
おっちゃんも忙しいらしく、簡単な説明をしたらさっさと仕事に戻っていってしまった。
まぁ簡単な仕事だから、そんなに複雑な説明もいらないもんな。
ザクザク切って、いっぱい納品しよ。

早速言われた寸法を測って、木材に印を入れていく。
後はこれを切るだけ。
猿でも出来る簡単なお仕事です。
と思いながら、同じ作業をしている隣のおっさんを見て、俺は絶句する。
寸法を測りもせずに適当な目分量でガツガツ切っている。
他の作業員を見ても、皆同じ感じ。
目分量でも慣れていて大体近いサイズで作れているならともかく、俺が見ても分かるくらいにサイズがマチマチだ。
いや・・・おい・・・何のための定規だ・・・。
え、それで良いの?
それくらいのクオリティでOKなの?
様子を伺っていれば、おっさんが乱暴に作られたブロックを持って職人に渡しに行く。
遠巻きに見ていれば。
あぁ・・・・職人さん、めっちゃ機嫌悪い顔してんじゃん。
だよねー。
大量に作られたブロックが仕分けられて、ちゃんとOKが出てるのは半分にも満たない感じだ。
それでも、ブロックを作ったおっさんは何とも無い感じで戻ってきて、また同じ様な作業をする。
えぇ・・・あんなに検品で落とされたのに・・・。
そうそう、この感じこの感じ。
こっちの世界の人の大雑把さよ。

「出来ました」
取り敢えず、さっきおっさんが持って行っていたのと同じくらいの量のブロックを作って、職人さんに渡しに行く。
「あぁ?お前さっき来たばっかの奴だろ。妙に早ぇな。適当な仕事したらただじゃおかねぇぞ」
職人らしい気難しくちょっと怖そうなおっちゃんが、渡した木材を確認していく。
「ちゃんと出来てなければ金はださねぇからな・・・・・・・・・うん?出来てるな」
イエー、持ってきたブロック全部OK貰ったぜ。
まぁ、俺はちゃんと測ってるからな!
取り敢えずどんな感じかは分かったから、その後もひたすらブロックを作り続けて、職人のおっちゃんに納品を繰り返す。
ブロックを持っていくたびに、険しかったおっちゃんの表情が満足気に解れてく。
まともな奴が来たって、えらくご機嫌だ。
まぁ、あのクオリティのばっかり納品されてたらな・・・。

昼休みに入って、俺はリーフに持たせて貰ってたサンドイッチを頬張りながら、家具の装飾部分の彫刻をしていた若い職人さんの手元を見学していた。
「すげぇ・・・」
ほぼフリーハンドで削られていく彫刻は見事なものだ。
「楽しいか?こんなん見て」
職人の兄ちゃんが苦笑気味に出来上がったモノを見せてくれる。
「めっちゃ楽しい。兄ちゃんすげぇな!よく下書きなしでこんなん彫れるな」
「お、おう。毎日同じの彫ってるからな。これくらいなら簡単だよ」
尊敬の眼差しを送れば、照れたのか少し耳を赤くして顔を逸らされた。
「おう、坊主。何見てんだ」
出来上がりの彫刻を見てたら、後ろからいきなり頭をガシリと掴まれた。
「へぁっ!」
ビビって、ウルトラな宇宙人みたいな声が出ちゃった。
振り返れば、角材の品質チェックをしてくれてた強面の職人さんだ。
「えっと、見学してます」
「見学・・・面白いか?」
「はい、凄く」
「ふん、こんな半端な仕事見るくらいなら、あっちで親っさんの仕事見せて貰えばいい」
「ちょ、酷いっすよガングさん!」
「うるせぇ。お前まだ半人前のくせにちっと可愛いのに褒められただけで鼻の下伸ばしやがって。そんな暇あんならもっと腕を磨けバウロ」
可愛い・・・・って、俺の事だよな。
はぁ・・こっちの世界来てからよく言われんだよなぁ・・・。
多分、こっち基準で見ると俺は体が小さいからだろうけど。
可愛い。
地味にプライドに傷をつけてくる言葉だわ。
最初は必死に否定してたけど、最近じゃすっかり慣れてもう言い返す気力も無いけどさ。

ガングと呼ばれた職人さんは俺の事を気に入ってくれたらしく、工房内を軽く見学させてくれた。
「いやー、日雇いの連中は仕事が雑でよ。本当は工房内の人間だけでやれば良いんだが、繁忙期は中々手が回らなくてな。簡単な作業だけだから大丈夫かと思ったんだが、想像以上に仕上がりが悪くてよぉ、困ってたんだ」
「ははは、日雇いだと何処でも大体あんな感じです」
「マジかよ・・・失敗したな・・」
ガングの愚痴を聞きながら、工房内を見て回る。
色々な職人さんの作業を見せてくれたり、制作途中の家具を見せてくれたり、ガングの愚痴付きだけど工房内ツアーは中々楽しかった。
「お前ぇ、良かったら明日からもウチ来てくれよ。報酬上乗せするからよ。正直お前が居れば、他の連中2・3人減らしても問題無さそうだし、そっちの方が木材の無駄が無ぇ」
おー、早速ご指名いただきましたー!
あんな簡単な作業で指名貰えるとか、ありがてぇ。
どうしようかな。
作業的には俺でも簡単にできるし、職人さんの見学楽しいからな。
「時間がある時、職人さん達の仕事見学しても良いですか?」
「おぉ、別にかまわねぇぜ。仕事の邪魔さえしなきゃ誰も文句は言わねぇよ」
「じゃぁ、考えておきます」
「あぁ、頼むぜ。お前だったら他の作業も頼めそうだしな。ほら、こっちは商品見本が置いてある部屋だ」
そう言ってガングが開けた扉の向こうには、広い広間の中に所狭しと色々な家具が置かれていた。
「おぉー、すげぇ」
どれも綺麗な装飾がされていて、多分富裕層向けな商品っぽいな。
「ここにあるのはどれも歴代の職人達の最高傑作達だ。うちの工房の誇りだ」
言葉通り、誇らしげにガングが胸をはる。
「この部屋に自分の作った物が置かれるのは職人達の夢なんだぜ。ここに置かれるって事は職人としての腕が最高だと認められた証だからな。俺もいつか絶対に此処に自分の仕事を置いてみせる」
真っ直ぐに前を見据えるガングは目標に一直線に立ち向かう一本気な職人といった感じで、中々渋くてかっこいいと思った。

「おぉっ!」
見本の家具を眺めながら部屋の中を周ってたら、奥に面白い場所を見つけた。
棚が沢山置かれているんだけど、そこにはミニチュアの家具が沢山並べられてた。
「玩具だ!」
「玩具じゃねぇよ」
俺のセリフにガングが苦笑混じりに答える。
違うの?
「それも商品見本だ。お貴族様のお屋敷とかに行くときに見本に持っていくんだよ。流石に実物大のは持っていけねぇだろ?」
おぉ、成る程。
「この辺のはうちの職人達が全員で手分けして作ってる。俺が作ったのもいくつかあるな」
この辺のだ、と細かい彫刻がされた引き出しや椅子を見せてくれた。
「こう言うのは家具の構造を覚える良い勉強になるし、彫刻が小さい分、職人の技術の度合いを測るのに丁度良い。どれくらい正確に緻密に作れるかが大切だ」
手渡されたミニチュア家具は本当に精巧で、本物の家具を魔法か何かでそのまま小さくしたようなクオリティだ。
「凄い綺麗ですね」
「若手職人は空いた時間とかに、技の練習としてこう言うのを沢山作るんだ。練習で作ったのは流石に客に見せる見本としては使えねから、本当に玩具として商人達に売っちまうんだけどな。練習になるし見習いの職人達には良い小遣い稼ぎになる」
俺が返したミニチュアを棚に戻しながら、ガングが俺も若い頃は大量に作ってたと笑った。
もしかして、俺が買った人形用の家具とかもそういうやつなのかな。
って事は・・・・もしや・・。
「もしかして、そういうの職人さん達から直接買う事とか出来ますか?」
もし買えたら、市場で購入するよりも安いんじゃ。
「あ?何だ市場に売りにでも行きたいのか?」
「いえ、自分用に欲しいです」
「・・・・坊主、男の癖に人形遊びでもするのか?」
ガングがちょっと引いた感じだけど、ちげぇよ。
いや、別に男でも好きなら人形遊びしたって良いと思うけど。
そうじゃなくて、勿論エリー用だ。
「違います。この子用に欲しいです」
いつも通り首にかけていた籠をそっと開く。
寝ていたエリーが俺に気付いて、モソリと起きた。
「・・・あー・・・さっきから気にはなってたが、何か触れちゃいけねぇモンかと思ってたぜ」
何時もは結構変な目で見られるのにガングは特に気にしていないなと思ってたけど、ただ単に俺がちょっと変な趣味の奴なんだと思われてたらしい。
「それ何なんだ。なんで茸なんか持ってるんだ」
「この子は家族です。とっても賢くて可愛いんです」
俺の返事に、ガングがちょっぴり哀れみの籠った目を送ってきた。
可哀想なやつを見る目だ。
やめて、そんな目で人を見ちゃダメ。
「・・・この子はベッドとか椅子とか使います。だから、色々と欲しい」
「いやいやいや、茸がそんなん使う訳無ぇだろ?」
使うもん!本当だもん!
「そこの椅子、借りてもいいですか?」
「これか?壊すなよ」
手渡された椅子を近くにあった引き出しの上に置いて、エリーを下ろす。
『エリー、座ってごらん』
「・・おぉっ?!なんだこの茸は!」
素直にお行儀よく座ったエリーを見て、ガングが心底驚いたように声をあげた。
そして、何故か手を叩いて大爆笑。
エリーの超絶プリティな着席姿が、なんかツボに入ったらしい。

「いやー、面白ぇもん見せてもらったぜ。茸飼い慣らす奴とか初めて見たわ」
飼うとか言うな。
大切な家族なんだぞ。
「ははは、面白いな。坊主気に入ったぜ。お前がまたこっちに仕事来てくれんなら、そいつ用の家具安く売ってやるよ」
「え、本当ですか」
「あぁ。だから仕事継続で来てくれねぇか」
「分かりました!」
そう言う事なら来る来るー!

エリーの家具を餌にされたら、簡単に喰いついちゃうわ。
『エリー、広間用に新しい椅子とか欲しいなー』
椅子に座ったエリーが俺に答えるように頷いたのを見て、ガングがまた愉快そうに笑った。
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