飛竜誤誕顛末記

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第三章 将軍様はご乱心!

第34話 各軍の特徴

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「確かに。3軍それぞれで結構印象は違ぇな」
ザウラが茶を飲みながら頷いた。

「じゃあさ!じゃあさ!馬軍は?さっきの話だと怖い印象しかないけど、もっとこう飛軍みたいな好感度高い話は無いわけ?」
バルギーにも何かナルガスみたいな逸話は無いのか。
プリーズ!バルギーの浮かれ話!
「バルギーのモテ話とかそういうの無いの?」
「馬将軍様に関しては、そう言う話はきかねぇな。不正を働いた貴族を鞭打ちの刑にしてメッタ打ちにしたとか、汚職官僚達を纏めて締め上げて血祭りに上げたとか、そう言う話は沢山あるけどよぉ」
おおん・・・血生臭・・・。
「そうじゃなくてー、もっとこう、浮かれた話が聞きたいんだけどー」
「いや、あの馬将軍様だぞ。浮かれた話なんてある訳無いだろ」
無いのかよー。
「馬将軍様ってのは兎に角、真面目で厳しいお方だ。馬軍も然りだぜ」
ザウラに続いてバンが話し出した。
「さっきも話したけどよ、馬将軍様は身分問わず不正は許さずって方だ。その姿勢に共鳴する奴らが集まるから、馬軍の兵士達は潔癖で真面目な気質の奴が多いんだよ」
つまり、馬軍は規律に厳しいクソ真面目な軍って事か。
飛軍とのギャップがエグー。
でも、確かにバルギーが筆頭ならそれも頷けるな。
バルギーってホント真面目だもんなぁ。
でも、そういう硬派な感じ、俺は結構かっこいいと思うぜ。うん。

その後、浪軍のイメージも聞いたけど、そちらも中々だった。
浪軍ってのは前科がある人間でも入隊できる軍らしくて、とにかく気性の荒い軍隊なのだそうだ。
素行が悪くて手のつけられない若者とかも、親が更生目的で浪軍にぶち込んだりするらしいし、志願して入る奴らも大体が暴れたい気性の人間なんだと。
浪将軍もちょっと粗暴で気性が激しい人物らしいけど、人情に厚く面倒見が良い性格で浪軍兵達には凄い慕われてるらしい。
俺の中で出来上がったイメージは完全にただのヤンキー軍団だ。
不良校の番長と子分。
暴走族のヘッドとメンバー。
そんなイメージ。
なんか、竜たちが話す浪竜のイメージも中々酷かったけど、浪軍ってのは人間側も結構癖が強そうだ。
浪軍は海沿いの街に駐屯してるから俺は会う機会が無いけど、ちょっと見てみたい気もするな。
気になるから、実際浪軍ってどんな感じなのかバルギーにも今度聞いてみよ。

「じゃぁ、明日からまた仕事を再開するつもりなんで。ザウラよろしくな」
「あぁ、お前指名の依頼もぎょうさん来てっから、またバリバリ働いてくれ」
「おう!」
まだ雑談を続ける3人に別れを告げ、早めだけど俺は家に戻る事にした。
市場をうろついて行くのも良いけど、この前バルギー達と買い物に来た時に結構散財しちゃったからな。
またバリバリ働いて貯金が増えるまでは少し財布の紐を締めねぇと。
また、エリーの服とか家具とか買いたいし。
ホント、エリーには無限課金できるわ。
『エリー、明日からまた仕事頑張ろうな!エリーの服とかもっと買いたいからなー』
籠の中を覗けば、ザウラ達のところで退屈したエリーがへそ天で爆睡していた。
『ありー寝てる・・・、ふへへ、可愛い腹』
ぷっくりお腹が可愛いけど、起こしたら可哀想だからな!
つつくのは我慢だ!
にしても、エリー、完全に野生忘れてるなぁ。
油断し切った姿が最高ー。

『さて、どうするか』
予定よりも早い時間に家に帰ってきたのは良いけど、やる事が無い。
エリーは相変わらず爆睡で起きないから、人形用の小さなベッドに入れといてやった。
地竜トリオも今日は来ていないから、遊んでくれる相手がいない。
『っちぇ、仕方ねぇ。こうなったら』
小さな本棚に並べられた絵本と、ノートを一冊。
『やるかぁ・・・』
書き取りの練習。
俺、お喋りな性格のお陰か会話の方ではだいぶ言葉を覚えたけど、書く方に関してはからきしなんだよな。
今だに自分の名前くらいしかちゃんと書けないし。ウケる。
面倒臭いけど、ちゃんと基本の文字くらいは書けるようにならないとだから、今日はちゃんと勉強するか。
よしっ!
今までサボってた分、一気にやるぜ!
よしよし!やる気出してこっ!


「ケイタ、夕飯の時間だ。起きなさい」
甘渋い低音に鼓膜を揺さぶられ、意識がゆっくりと浮上してくる。
「ふがっ・・?」
あ、あれ?
俺、寝てた?
シバつく目を開けば、バルギーの優しい眼差しが俺を見下ろしている。
「起きたか?今日は帰りが早かったそうだが、勉強していたのか。偉いなケイタ」
俺が顔の下に敷いていたノートを見て、バルギーがごく自然な動作で俺の頭を撫でてくる。
ちょ、撫でんなって。
「あー・・・おかえりバルギー。あれ、もうそんな時間?」
頭に置かれたデカイ手をそっと外して窓の外を見れば、日は完全に落ちて暗くなっている。
うそん。
俺どんだけ寝てたんだ。
「うわー・・・超寝ちった」
ノートは俺の涎でヨレヨレで、練習に書いていた文字もノートの半分も埋めずに終わっている。
やる気が終わるの早すぎだ俺。
「久しぶりの外出だ。それだけ疲れたのだろう」
「いやー、全然今日は何もせずに帰ってきたんだけど。ははは」
お勉強に退屈しただけだ。
「あぁ、文字の練習か。うむ、ちゃんと書けているし、上手くなっている」
ノートに書かれた俺のヘニャヘニャ文字を見て、それでもバルギーは褒めてくれた。
「はは、恥ずかしいからあんま見ないで・・・。」
明らかに早々に寝落ちたと分かるノート内容だし、涎でふやけてる。
絵に描いたようなおバカのノートだ。
恥ずかしくて、思わず隠すようにノートを閉じてしまった。
「ふむ・・・上手く書けていると思うのだがな」
バルギーは何でもかんでも褒めてくれるから、アテになんねぇんだよ。
バルギーにかかったら、目を瞑って書いた文字だって上手いって評価になりそうだし。

「今日はどうであった?変な人間に声を掛けられたりしなかったか?大丈夫だったか?」
夕食を食べながら、早速バルギーが今日の出来事を聞いてくる。
「変な人間って・・・・、別に普通だったよ。明日からまた仕事再開するんで、斡旋所で話してきただけ。直ぐに帰ってきたし」
「そうか・・・。何事も無かったのだな?」
「うん、無かったってば」
バルギーの過保護は相変わらずだな。
「あ、そう言えば」
「何だ!やはり何かあったのか?!」
「うわっ!」
バルギーがいきなり体を乗り出してきたもんだから、圧にビビって持ってたパンを取り落としちまった。
「ビビらすなよ!何も無かったってば!そうじゃなくて、今日ジョルテに会ったんだ」
「ジョルテ?・・・あぁ、あの衛兵か・・」
バルギーの眉間に少し皺が寄る。
「なぜ衛兵なんぞに会ったのだ?まさか詰所まで会いに行ったのか?」
拾ったパンを口に運ぼうとしたら、それはバルギーに取り上げられてしまい直ぐに新しいパンを渡された。
すぐ拾ったんだから汚くないだろ、別に。
「ううん。詰所に行くのは仕事の邪魔になるんだろ?行かないよ。そうじゃなくて、斡旋所の前で偶然会ってさ。斡旋所のおっちゃんとオナナナジミなんだって」
「・・・幼馴染か?」
「ふっ。そうとも言う」
また、間違えたね。
「串焼きのおっちゃんもな、2人とオサ・・幼馴染?なんだって。なんか意外な所で知り合いが繋がったから驚いた」
「そうか・・・・ちなみに、その3人は全員結婚しているのか?」
「ん?多分?ジョルテもザウラも、あ、ザウラってのは斡旋所のおっちゃんな。2人とも子供いるらしいし、バンも多分結婚してんじゃ無いのか?歳的に」
「ふむ・・・なら良いが・・・」
何が?
「何かあるの?結婚してるかどうかって」
「いや・・・何でも無い。お前はどうもその3人によく懐いているようだ」
「おぉ、おっちゃん達には色々世話になってるからな!ジョルテも砦で世話になったし。頼りになる人達だよ」
バンもザウラも何だかんだ面倒見が良いからな。
常識を知らない俺に色々と教えてくれるし、時には厳しく叱ってくれる。
ジョルテも俺が分からない事には丁寧に答えてくれる。
言うなればこっちの世界での親父みたいな人達だ。
そう思って答えれば、何でかバルギーがムッとした顔になった。
「できれば、頼るのは私だけにして欲しいのだが」
あ、外で人に迷惑を掛けるなって事かな。
「だ、大丈夫!そんなに迷惑は掛けてないと思う!・・・多分!」
「そう言う事では無くて・・・・はぁ・・」
な、なんで、そんなデッカいため息をつくんだ。
「兎に角、困ったことがある時は他を頼らず、まず私に言いなさい。良いな?」
「う、うん」
もう、既にバルギーには頼りっぱなしなんだけどなぁ。
「それで?今日はその者達と話しただけで帰ってきたのか?」
「あぁ、うん。それで、帰ってきた後は勉強始めて直ぐ寝ちったの。あははは」
さっきの無様なノートを思い出したのか、バルギーの眉間の皺がフッと消えて微笑ましげな笑みを浮かべられた。
「勉強を頑張って偉いぞ、ケイタ」
「いやいや、あの帳面のどこをどう見たら頑張ったと思えるんだよバルギー。頑張れなかった痕跡しかなかったっしょ」
「そんな事はない。お前は此処に来てからまだ半年程度しか経っていないのだぞ。それであれだけ出来ていれば立派なものだ。言葉もたくさん覚えているし、正直こんな短期間で此処までお前が喋れるようになるとは思っていなかった。お前はとても良く学んでいる」
思った以上に真面目に評価されて、ちょっと照れてしまう。
「へへ、俺お喋りだからな。会話の方は結構覚えられたね。でも文字の方は全然だよ。まだ自分の名前くらいしかちゃんと書けないもん」
「焦らなくていい、ゆっくりやりなさい」
「うん。まぁ、マッタリ頑張ります」

「バルギーはどうだった?今日も仕事忙しかったのか?」
「私か?そうだな・・・今日は少し忙しかった」
「そうなんだ。大変な仕事?あんまり無理しない様にな」
働くのが大好きなバルギーだけど、世の中には過労死って死因があるからな。
死なないにしても、疲れて体調崩したら大変だ。
いくら昨日休んだばかりって言っても、働いてる時間を考えればバルギーはもっと休んでも良いと思うくらいだから。
そう思って気遣ったら、ふと真面目な表情になったバルギーが姿勢を正した。
「ケイタ、お前に手を出した下手人達だがな。今日馬軍によって全員裁かれた」
「お・・・・ん」
突然切り出された重い内容に、咄嗟にきちんと返事が出来なかった。
「どのような裁きだったか詳しい事は言わん。だが、少なくとも今後お前の前に連中が姿を現すことは決してない」
「・・・・・」
日中ザウラ達から聞いた話を思い出して、何となく鉛の塊を飲み込んだような重苦しい感覚に襲われた。
馬軍の裁きは苛烈だって話だった。
あの変態達がどうなろうと知ったこっちゃ無いとは思ってたけど、実際に話を聞くと何とも言えないモヤモヤした気持ちになる。
俺の世界であれば、有罪ってのは罰金刑とか重くて禁固刑とかが大体だ。
でも、こっちの世界は違う。
多分、こっちでの罰って体罰刑が基本な気がする。
ザウラ達も鞭打ちとか怖い事言ってたし。
加害者とは言え、俺が関わったことで誰かが大きく傷付く事になったのだと思うと、とても苦い思いが込み上げてきた。
「えっと・・・・・はい。分かりました」
どのような刑だったのか気にはなるけど、きっと聞いたら怖い思いをしそうだし、なんとなくバルギーも言いたくなさそうな感じだ。
俺の前に決して姿を現さないと言うのがどう言う意味なのか、湧いてくる色々な怖い想像に俺はそっと蓋をした。
それに向き合う様な覚悟は、正直俺には無い。
「すまない、怖がらせたな」
何となく握りしめた拳を、バルギーにそっと持ち上げられた。
「裁きの事については、お前は何も気にしなくて良い。ただ、もう安心して良いのだと言いたかっただけだ」
力の入っていた拳をほぐす様に開かれ、まるで慰めるかのように手の甲をそっと摩られる。

「ケイタ、今回私はきちんとお前を守ることが出来なかった。本当にすまなかったと思っている」
「それは・・・バルギーが謝る事じゃないだろ?」
それにバッチリ助けてもらった。
「いや、私の責任だ。私の印さえ付けさせておけば大丈夫だと慢心したのだ。今後、同じような愚行を犯す者達はそうそう出てこないであろうが、絶対とは言い切れない」
あ、まただ。
またバルギーのあの心配で仕方がないという不安げな目だ。
「出来れば常に目の届くところにお前を置いておきたいが、お前の自由を奪うのは本意では無いし、可能な限りお前には好きな事をさせてやりたい」
「うん」
「だが、やはりどうしても私は不安なのだ。またお前が私の目の届かない所で誰かに傷付けられるのでは無いかと」
うーん・・・・・犯人達が捕まって裁きが下されても、やっぱりバルギーの心配は変わらないんだな。
「バルギー心配してくれるのは嬉しいけどさ、俺ってそんなに頼りない?」
思わず苦い笑みが浮かんでしまう。
「いや、お前はしっかりしている。私が思っている以上にな。だが実際お前は攫われたであろう?」
「う、それは、そうだけど・・・」
そう言われてしまえば、返す言葉がねぇけどさ。
でも、あの誘拐は例外だろ。
そうそう同じ様なことがまた起こるとは思えないんだけど。
俺はそう思うんだけど、バルギーの目は真剣で拭いきれない不安を纏っている。
「ケイタ、油断してはならぬぞ。近寄ってくる人間に対してはちゃんと警戒心を持ちなさい。相手がどんなに親切そうに見えても気を抜いてはいかん。どんな下心があるとも分からぬからな」
・・・・・あぁ、バルギーは本当に俺のことが心配で仕方が無いんだな。
「分かった。気をつけるよ」
忠告に素直に頷いても、バルギーの目は不安そうなままだった。
やっぱ俺が頼りないから、安心できないんだろうな。
バルギーの不安と心配を見て思う。
俺はもっとしっかりしないといけないと。

やっぱり自立に向けてそろそろちゃんと本腰入れて仕事探すかな・・・。
仕事も住むとこもきちんと見つけて、俺は大丈夫だと、1人でもちゃんと生きていけると、しっかりと自立した姿を見せてバルギーを安心させてやりたい。
ザウラにも改めて相談してみよ。

待ってろよバルギー。
立派に独立して、きっと安心させてやるからな。
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