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第三章 将軍様はご乱心!
第21話 バルギーの買い物
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バルギーに連れられて来たのは、市場とは違い屋台ではなく普通に店舗が並ぶ通りだった。
店舗を構えられるのは卸売りなどの専門業者か、身分の高い客を相手にするような高級品の店だけど、この通りは、どうやら業者ではなく高級品を扱う方の商店が軒を連ねているみたいだ。
多分、日本で言うところの銀座とか青山とかそんな感じか?
市場とは全然雰囲気が違う。
通りを歩く人間達も、仕草が上品だし着ているものも上等な気がする。
高級な雰囲気に俺はちょっと萎縮しちゃうけど、バルギー達は慣れているみたいでごく自然体だ。
そうだよな。
バルギー達って、上流階級な紳士って感じだもんな。
皆、基本的に粗暴な所がなくて品がいいんだよな。
鈍い俺でも、バルギー達の育ちの良さは分かる。
うーん、それに比べて俺の場違い感ったら。
俺的には市場のあの気どらない庶民的な空気の方がしっくりくるなぁ。
通りの雰囲気にはちょっと緊張するけど、見慣れない街並みは目新しくて楽しい。
道の真ん中を馬車のような乗り物が走っていて、立派な装飾の車が止まれば、身なりの良い客が降り立って店の中に入っていく。
普通の馬車と違うのは、車を引くのは馬ではなく大きな鳥と言うところだ。
「車を引くのって、馬じゃなくて鳥なんだな」
「あぁ、ケイタは鳥車を見るのは初めてか」
「うん。鳥車って言うんだ?でっかい鳥だな。車を引くのって馬だけかと思ってた」
「馬竜は全て軍の管理下だからな、契約できるのは馬軍の兵だけだ。だから馬車は軍所属の者か、国の高官、あとは王族くらいしか使えぬ。市民はあのように鳥が引く鳥車を使うのが一般的だ」
へー、知らんかった。
馬竜って皆軍所属なんだ。
にしてもデカイ鳥だな。
見た目はずんぐりむっくりしているけど、サイズはダチョウとかそんな感じ。
もしかしたらもっとデカイか。
何だっけ、あれに似てるんだよ。絶滅しちゃった鳥。
えーっと・・・ドードー?だっけ?
あの嘴のでかい感じが似ている。
「アレって食えるの?」
俺の言葉にイバン達が揃って笑いを零した。
「お前はすぐにそれを聞くのだな。あれは食わんよ。大切な移動手段だからな」
バルギーも可笑しそうに目元を緩め、律儀に答えてくれる。
「そうなんだ。食いごたえありそうなのに」
「お前は少食の割には食い意地が張っている」
「だって気になるじゃん」
水族館でも美味そうとか食えるのだろうかとか、そんな事ばっか考えるタイプだからな俺。
昔彼女とデートで水族館行った時も、ペンギンコーナーで同じ事言って最低だと怒られた事があるし。
10代の頃の思い出だけど、あれから俺は全然変わってねぇんだな。
懐かしい記憶を噛み締めつつ、初めて見る巨大な鳥の丸焼きが頭の中に浮かんだ。
ぜってぇ食えると思うんだけどな。
通りに並ぶ店では、高価そうなジュエリーや衣服、帽子や靴、香油、文具など様々な商品が売られていて、どれも市場では見ないような上等なものばかりだ。
どこの店も、大きく開いた出窓部分に商品が並べられているから、何が売っているのかは直ぐに分かった。
元の世界でもお馴染みのショーウィンドウだけど、こちらの世界には透明のガラスは無いから窓は開けた状態だ。
こんなオープンな状態だと簡単に盗まれないか?
雨が降ったりしたら濡れちゃいそうだし。
「何を見ているんだ?欲しいものでもあったか」
「ん?ううん。そうじゃなくて、これ盗まれないのかなって。あと、雨とか風とかで商品が傷ついたりしそうで」
商品が陳列された無防備な窓を指さしたら、皆が少し不思議な顔をした。
「・・・・そうか。お前は魔法壁も知らないのだな」
「魔法ヘキ?」
「あぁ、そうだ。ケイタ手を貸してごらん」
言われるまま手を差し出したら、バルギーは俺の手を取って窓辺にそっと近づけた。
「っ!?」
何だこれ!?何だこれー!
何も無いはずの空間なのに、確かに手に触れる何かがあった。
「分かったか?」
バルギーに手を離されても、俺はそこをペタペタと触り続けた。
だって、見た目は何もないのに、ガラス窓があるように手を押し戻す感触があるんだ。
面白い。
「防護魔法の一つだ。風や雨も入らないし、外の暑さや寒さも防いでくれる。お前の部屋の窓にもかかっているのだが気付いていなかったのだな」
まんま窓ガラスと同じ役目だな。
見た目は何も無いから分からなかった。
そう言えば、俺の部屋は何時も格子窓全開だったけど、確かに夜になっても部屋の中が寒くなったりとかは無かったな。
「でも、外の風が入ってくる事はあったよ?」
「換気のために魔法壁を解いてる時もあるからな」
「はぁー、気付かなかった」
また一つ、俺の知らない常識を発見してしまった。
俺はびっくりしたけど、皆はそれを知らない俺の方にびっくりしてる感じだ。
やっぱりこういうごく当たり前の事程、意外と気が付かないんだよなー。
「ケイタここだ」
何もない空間に何かあると言うのが面白くて、通る店通る店全ての魔法壁を指でド突きながら歩いていたら、バルギーがある店の前で足を止めた。
衣服や靴などが並べられたそこは、重厚な雰囲気の店構えで何とも高級そうな店だ。
わー、凄いバルギーっぽい。
カルシクが素早く扉を開けば、バルギーが俺の背を押しながら慣れた様子で入店する。
「これは、馬将軍様!わざわざのお越しとは、ありがとうございます」
店に足を入れた途端、バルギーに気付いた店主が驚きの表情で慌てて奥から出てきた。
「直接こちらに来ていただけるとは光栄です。お申し付けいただければお屋敷まで参上いたしましたのに」
品の良い店主がとても恐縮したようにバルギーを迎え、深々と頭を下げている。
「突然すまぬな。今日はたまたま此方に来る事があったので、ついでにと思ってな」
「そうでございましたか。将軍様に直接ご来店いただくなど私どもにとってはこれ以上無いほどの光栄。ささ、こちらへどうぞ」
立派なソファへと案内されたけど、バルギーは自分が座るよりも先に俺に座れと促してきた。
言われるまま腰を下ろせば続いてバルギーとイバンも座る。
だけど、カルシクとハガンはソファの後ろにピシリと立ったままだ。
2人は座らないのか?
思わず後ろを振り向いてカルシク達を見上げたら、無言で前を向けと言う感じに顎をしゃくられてしまった。
そうか、座らないのか・・・。
「それでは、本日はどのような品をご希望でしょうか」
「あぁ、今日は私の服では無くこの子の服を揃えに来たのだ」
バルギーがそう言って、俺の背に手を添えてきた。
「え”?」
ちょっと、待て。
話が違う。
「お連れ様ですね。畏まりました。それでは採寸からでよろしいですか?」
「あぁ、頼む」
「ちょっ」
「では準備して参りますので、少々お待ちくださいませ」
いそいそと店の奥へと姿を消す店主を見送った後、思わず隣にあるバルギーの腕を強めに引っ張ってしまった。
「何で俺の服なんだよ!バルギーの服買うんだろっ!?」
「私の服を買うとは言っていないだろう」
「言っ・・・・てなかったけど・・・」
言ったっ!と文句をつけようと思ったけど、思い返せば確かに服を揃えるとしか言っていなかった。
「もう服はいっぱいあるから要らないってば!」
「だが、そろそろ季節が変わって寒くなってくる。寒さに備えた服も揃えなくては」
えぇ・・・あんな大量の服買っておいて、まさかの通年分の服じゃねぇのかよ。
「もう服くらい自分で買えるから、いいってば」
「いいや、お前の衣食住の世話は保護者である私の義務だ」
そんなこと無いと思う。
少ないとは言え、俺だって一応収入があるから身の回りのものくらい自分で買える。
「でも・・」
「ケイタ。将軍に買わせてあげなさい」
バルギーのプレゼント攻撃に抵抗しようとしたら、徐にイバンが口を開いた。
「だって、もういっぱい貰ってるし、自分で着る物くらい自分で買えるし・・」
「だが、お前が買うのは市場であろう?」
「?うん。そうだよ」
「自覚が無いかもしれないが、一応ケイタは将軍に保護されている立場だ」
「うん」
そうだな。それは分かっている。
客として迎えるって言ってくれたけど、現状どう見ても俺は客というよりも身元不明の迷子で、バルギーはその保護者だ。
「そうなると、お前にも一定の品格が求められるのだよ」
「ヒンカク」
「市場で買う服も悪くは無いが、将軍の家に滞在する人間が着るには少し格が落ちるからね。ケイタがその様な装いをしていれば、保護した者に服も満足に与えられないのかと保護者である将軍が笑われるのだよ」
それは・・・・考えていなかった。
そうか、身分が高いと面子ってもんが大切なんだな。
俺のせいでバルギーが侮られるのは・・・・駄目だ。
「じゃ・・・じゃあ、俺ここで服買う」
一揃え位なら多分自分でも買えると思う。
けど、もしかしたら財布が凄く軽くなっちまうかも・・・。
いや、でもイバンの言うことももっともだしなっ!
バルギーが馬鹿にされるのは絶対に嫌だ。
しかたなく覚悟を決め、震える手で財布を取り出したら、横から突然バルギーにそれを取り上げられた。
「きゃードロボー!返してー!俺の全財産ー!」
びっくりして取り返そうとしたけど、俺の手が届く前にバルギーは素早く懐にそれを突っ込んでしまった。
「誰が泥棒か。保護者として、お前が無駄遣いしないように預かるだけだ」
「ひーんっ、返せよー!無駄遣いじゃねーっ、俺の金だもん!イバンー!バルギーがー!」
思わず先生に言いつける子供のように、バルギーを指さしながらイバンを見れば、イバンは明らかに吹き出すのを我慢する顔だ。
「ヴァルグィ将軍を泥棒呼ばわりするとは・・さすがケイタだ」
笑い事じゃねぇぞ、イバン!
俺は大切なお財布を取られたんだぞ!
「先ほど将軍も仰っていたが、保護した者の世話は保護者の義務だ。将軍がお前に服を揃える事は当たり前の事だし、それは将軍の体面に関わる問題だ」
笑いを残しながらも、イバンが俺に言い聞かせるように説明してくれる。
「タイメン・・・何それ」
イバン、難しい言葉で俺を煙に巻こうとしていないか?
「何も気にせず、将軍に服を買ってもらいなさいという事だ」
やっぱり何も解決していないじゃないか!
話が戻ってる!
「お待たせいたしました。お部屋の準備が出来ましたのでどうぞ」
文句を言おうと口を開いた瞬間、奥から店主が戻ってきて、出かかった言葉が喉で止まった。
「あぁ、今行く。ほらケイタ行くぞ」
「ケイタ、将軍に恥をかかせてはいけないよ。さぁ、観念して行っておいで」
イバンに送り出され、バルギーに手を引かれ、これ以上駄々をこねられない空気を作られてしまった俺は抵抗する暇も無く店の奥の個室へと連れて行かれる羽目になった。
イバンがバルギー側についてしまうと、どうやったって俺に勝ち目はない。
2人に口で勝てるわけが無いからな。
くそう、悔しいっ!
服くらい自分で買えるのに!
ってか、財布返せよ。
店舗を構えられるのは卸売りなどの専門業者か、身分の高い客を相手にするような高級品の店だけど、この通りは、どうやら業者ではなく高級品を扱う方の商店が軒を連ねているみたいだ。
多分、日本で言うところの銀座とか青山とかそんな感じか?
市場とは全然雰囲気が違う。
通りを歩く人間達も、仕草が上品だし着ているものも上等な気がする。
高級な雰囲気に俺はちょっと萎縮しちゃうけど、バルギー達は慣れているみたいでごく自然体だ。
そうだよな。
バルギー達って、上流階級な紳士って感じだもんな。
皆、基本的に粗暴な所がなくて品がいいんだよな。
鈍い俺でも、バルギー達の育ちの良さは分かる。
うーん、それに比べて俺の場違い感ったら。
俺的には市場のあの気どらない庶民的な空気の方がしっくりくるなぁ。
通りの雰囲気にはちょっと緊張するけど、見慣れない街並みは目新しくて楽しい。
道の真ん中を馬車のような乗り物が走っていて、立派な装飾の車が止まれば、身なりの良い客が降り立って店の中に入っていく。
普通の馬車と違うのは、車を引くのは馬ではなく大きな鳥と言うところだ。
「車を引くのって、馬じゃなくて鳥なんだな」
「あぁ、ケイタは鳥車を見るのは初めてか」
「うん。鳥車って言うんだ?でっかい鳥だな。車を引くのって馬だけかと思ってた」
「馬竜は全て軍の管理下だからな、契約できるのは馬軍の兵だけだ。だから馬車は軍所属の者か、国の高官、あとは王族くらいしか使えぬ。市民はあのように鳥が引く鳥車を使うのが一般的だ」
へー、知らんかった。
馬竜って皆軍所属なんだ。
にしてもデカイ鳥だな。
見た目はずんぐりむっくりしているけど、サイズはダチョウとかそんな感じ。
もしかしたらもっとデカイか。
何だっけ、あれに似てるんだよ。絶滅しちゃった鳥。
えーっと・・・ドードー?だっけ?
あの嘴のでかい感じが似ている。
「アレって食えるの?」
俺の言葉にイバン達が揃って笑いを零した。
「お前はすぐにそれを聞くのだな。あれは食わんよ。大切な移動手段だからな」
バルギーも可笑しそうに目元を緩め、律儀に答えてくれる。
「そうなんだ。食いごたえありそうなのに」
「お前は少食の割には食い意地が張っている」
「だって気になるじゃん」
水族館でも美味そうとか食えるのだろうかとか、そんな事ばっか考えるタイプだからな俺。
昔彼女とデートで水族館行った時も、ペンギンコーナーで同じ事言って最低だと怒られた事があるし。
10代の頃の思い出だけど、あれから俺は全然変わってねぇんだな。
懐かしい記憶を噛み締めつつ、初めて見る巨大な鳥の丸焼きが頭の中に浮かんだ。
ぜってぇ食えると思うんだけどな。
通りに並ぶ店では、高価そうなジュエリーや衣服、帽子や靴、香油、文具など様々な商品が売られていて、どれも市場では見ないような上等なものばかりだ。
どこの店も、大きく開いた出窓部分に商品が並べられているから、何が売っているのかは直ぐに分かった。
元の世界でもお馴染みのショーウィンドウだけど、こちらの世界には透明のガラスは無いから窓は開けた状態だ。
こんなオープンな状態だと簡単に盗まれないか?
雨が降ったりしたら濡れちゃいそうだし。
「何を見ているんだ?欲しいものでもあったか」
「ん?ううん。そうじゃなくて、これ盗まれないのかなって。あと、雨とか風とかで商品が傷ついたりしそうで」
商品が陳列された無防備な窓を指さしたら、皆が少し不思議な顔をした。
「・・・・そうか。お前は魔法壁も知らないのだな」
「魔法ヘキ?」
「あぁ、そうだ。ケイタ手を貸してごらん」
言われるまま手を差し出したら、バルギーは俺の手を取って窓辺にそっと近づけた。
「っ!?」
何だこれ!?何だこれー!
何も無いはずの空間なのに、確かに手に触れる何かがあった。
「分かったか?」
バルギーに手を離されても、俺はそこをペタペタと触り続けた。
だって、見た目は何もないのに、ガラス窓があるように手を押し戻す感触があるんだ。
面白い。
「防護魔法の一つだ。風や雨も入らないし、外の暑さや寒さも防いでくれる。お前の部屋の窓にもかかっているのだが気付いていなかったのだな」
まんま窓ガラスと同じ役目だな。
見た目は何も無いから分からなかった。
そう言えば、俺の部屋は何時も格子窓全開だったけど、確かに夜になっても部屋の中が寒くなったりとかは無かったな。
「でも、外の風が入ってくる事はあったよ?」
「換気のために魔法壁を解いてる時もあるからな」
「はぁー、気付かなかった」
また一つ、俺の知らない常識を発見してしまった。
俺はびっくりしたけど、皆はそれを知らない俺の方にびっくりしてる感じだ。
やっぱりこういうごく当たり前の事程、意外と気が付かないんだよなー。
「ケイタここだ」
何もない空間に何かあると言うのが面白くて、通る店通る店全ての魔法壁を指でド突きながら歩いていたら、バルギーがある店の前で足を止めた。
衣服や靴などが並べられたそこは、重厚な雰囲気の店構えで何とも高級そうな店だ。
わー、凄いバルギーっぽい。
カルシクが素早く扉を開けば、バルギーが俺の背を押しながら慣れた様子で入店する。
「これは、馬将軍様!わざわざのお越しとは、ありがとうございます」
店に足を入れた途端、バルギーに気付いた店主が驚きの表情で慌てて奥から出てきた。
「直接こちらに来ていただけるとは光栄です。お申し付けいただければお屋敷まで参上いたしましたのに」
品の良い店主がとても恐縮したようにバルギーを迎え、深々と頭を下げている。
「突然すまぬな。今日はたまたま此方に来る事があったので、ついでにと思ってな」
「そうでございましたか。将軍様に直接ご来店いただくなど私どもにとってはこれ以上無いほどの光栄。ささ、こちらへどうぞ」
立派なソファへと案内されたけど、バルギーは自分が座るよりも先に俺に座れと促してきた。
言われるまま腰を下ろせば続いてバルギーとイバンも座る。
だけど、カルシクとハガンはソファの後ろにピシリと立ったままだ。
2人は座らないのか?
思わず後ろを振り向いてカルシク達を見上げたら、無言で前を向けと言う感じに顎をしゃくられてしまった。
そうか、座らないのか・・・。
「それでは、本日はどのような品をご希望でしょうか」
「あぁ、今日は私の服では無くこの子の服を揃えに来たのだ」
バルギーがそう言って、俺の背に手を添えてきた。
「え”?」
ちょっと、待て。
話が違う。
「お連れ様ですね。畏まりました。それでは採寸からでよろしいですか?」
「あぁ、頼む」
「ちょっ」
「では準備して参りますので、少々お待ちくださいませ」
いそいそと店の奥へと姿を消す店主を見送った後、思わず隣にあるバルギーの腕を強めに引っ張ってしまった。
「何で俺の服なんだよ!バルギーの服買うんだろっ!?」
「私の服を買うとは言っていないだろう」
「言っ・・・・てなかったけど・・・」
言ったっ!と文句をつけようと思ったけど、思い返せば確かに服を揃えるとしか言っていなかった。
「もう服はいっぱいあるから要らないってば!」
「だが、そろそろ季節が変わって寒くなってくる。寒さに備えた服も揃えなくては」
えぇ・・・あんな大量の服買っておいて、まさかの通年分の服じゃねぇのかよ。
「もう服くらい自分で買えるから、いいってば」
「いいや、お前の衣食住の世話は保護者である私の義務だ」
そんなこと無いと思う。
少ないとは言え、俺だって一応収入があるから身の回りのものくらい自分で買える。
「でも・・」
「ケイタ。将軍に買わせてあげなさい」
バルギーのプレゼント攻撃に抵抗しようとしたら、徐にイバンが口を開いた。
「だって、もういっぱい貰ってるし、自分で着る物くらい自分で買えるし・・」
「だが、お前が買うのは市場であろう?」
「?うん。そうだよ」
「自覚が無いかもしれないが、一応ケイタは将軍に保護されている立場だ」
「うん」
そうだな。それは分かっている。
客として迎えるって言ってくれたけど、現状どう見ても俺は客というよりも身元不明の迷子で、バルギーはその保護者だ。
「そうなると、お前にも一定の品格が求められるのだよ」
「ヒンカク」
「市場で買う服も悪くは無いが、将軍の家に滞在する人間が着るには少し格が落ちるからね。ケイタがその様な装いをしていれば、保護した者に服も満足に与えられないのかと保護者である将軍が笑われるのだよ」
それは・・・・考えていなかった。
そうか、身分が高いと面子ってもんが大切なんだな。
俺のせいでバルギーが侮られるのは・・・・駄目だ。
「じゃ・・・じゃあ、俺ここで服買う」
一揃え位なら多分自分でも買えると思う。
けど、もしかしたら財布が凄く軽くなっちまうかも・・・。
いや、でもイバンの言うことももっともだしなっ!
バルギーが馬鹿にされるのは絶対に嫌だ。
しかたなく覚悟を決め、震える手で財布を取り出したら、横から突然バルギーにそれを取り上げられた。
「きゃードロボー!返してー!俺の全財産ー!」
びっくりして取り返そうとしたけど、俺の手が届く前にバルギーは素早く懐にそれを突っ込んでしまった。
「誰が泥棒か。保護者として、お前が無駄遣いしないように預かるだけだ」
「ひーんっ、返せよー!無駄遣いじゃねーっ、俺の金だもん!イバンー!バルギーがー!」
思わず先生に言いつける子供のように、バルギーを指さしながらイバンを見れば、イバンは明らかに吹き出すのを我慢する顔だ。
「ヴァルグィ将軍を泥棒呼ばわりするとは・・さすがケイタだ」
笑い事じゃねぇぞ、イバン!
俺は大切なお財布を取られたんだぞ!
「先ほど将軍も仰っていたが、保護した者の世話は保護者の義務だ。将軍がお前に服を揃える事は当たり前の事だし、それは将軍の体面に関わる問題だ」
笑いを残しながらも、イバンが俺に言い聞かせるように説明してくれる。
「タイメン・・・何それ」
イバン、難しい言葉で俺を煙に巻こうとしていないか?
「何も気にせず、将軍に服を買ってもらいなさいという事だ」
やっぱり何も解決していないじゃないか!
話が戻ってる!
「お待たせいたしました。お部屋の準備が出来ましたのでどうぞ」
文句を言おうと口を開いた瞬間、奥から店主が戻ってきて、出かかった言葉が喉で止まった。
「あぁ、今行く。ほらケイタ行くぞ」
「ケイタ、将軍に恥をかかせてはいけないよ。さぁ、観念して行っておいで」
イバンに送り出され、バルギーに手を引かれ、これ以上駄々をこねられない空気を作られてしまった俺は抵抗する暇も無く店の奥の個室へと連れて行かれる羽目になった。
イバンがバルギー側についてしまうと、どうやったって俺に勝ち目はない。
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