飛竜誤誕顛末記

タクマ タク

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第三章 将軍様はご乱心!

第12話 軍医カディ

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**ヴァルグィ視点**
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初めて聞く強く色を含んだケイタの艶声に、頭の中が真っ白になった。
先程までは、ただ怯えているだけだったように見えたのに。
何故か今度は熱に魘されるように、苦し気に眉を寄せて息を上げている。

そして固まる我々をよそに、ケイタはとうとう泣き出してしまった。
森に居た時も、屋敷に迎え入れた後も、時折不安そうな表情をすることはあっても、決して涙は見せなかったケイタが声をあげて泣いている。
その声に、涙に、心が引き裂かれる思いだった。
それだけ、ケイタにとっては辛い時間だったのだろう。
男達に弄ばれたうえ、処置のためとはいえ我々に押さえつけられて短刀を向けられたのだ。
だが、ケイタの様子がおかしいのも直ぐに分かった。
やはり、泣き声の中に明らかに艶を含んだものが混じっている。
「将軍・・・・ケイタの様子が・・」
イヴァンとハガンも戸惑ったようにケイタを見下ろしている。
「分かっておる」
この状況下で快楽の兆しを見せるなど普通では無い。
明らかに何かしら施された可能性が高い。
「将軍、これです」
今まで黙っていたハガンが、寝台の端に無造作に置かれていた盆から小さな椀を取り上げ、匂いを嗅いだ後に不快そうな表情でそれを差し出してきた。
男達がケイタを弄ぶのに使った潤滑油か何かかと思って、不快で視界に入れないようにしていたがどうやら違うらしい。
それを受け取って中を確認すれば、とろりとした赤い液体が入っている。
その色に、それが何かは直ぐに想像がついた。
念のため匂いを嗅いで確認すれば、想像通りの甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐった。
何度目か分からない怒りの波に襲われ、思わずその椀を天蓋の外に向けて力任せに投げてしまった。
外から椀の割れる音がする。
「カルシク、ケイタに夜香が使われた。店の者にどれだけの量を使用したか確認してこい。それと医師の手配も」
「はっ、直ぐに」
今直ぐにでもここに居た連中全員を斬り捨ててやりたい激情にかられるが、なんとかその気持ちを押さえつけてケイタの安全を優先する。
夜香は本来は少量の粉末を焚いて香として使う物だ。
効果もせいぜい寝所で若い娘や青年達の緊張を解く程度のものだが、酒や蜜に漬け込んだり丸薬などにして直接摂取した場合は違う。
使用者を苦しめる程の強い媚薬になる。
夜香を使われていたのなら、ケイタは今とてもツライ筈だ。
ずっと怯えて震えていたのだと思っていたが、そうではなく夜香の効果を我慢していたのだろう。
可哀想な事をしてしまった。
慰めるつもりで体を摩ったのも、ただケイタを苦しめただけだったのか。
「イヴァン、ハガンご苦労だった。もう良い」
「はっ。医師は先程手配しておりましたので直ぐに来る筈です」
流石はイヴァンだ。抜かりがない。
2人が素早く寝台から降りていくのを確認して、乱れてしまった外套をケイタにかけ直す。
「ケイタ、すまぬ。ツラい思いをさせてしまったな。直ぐに医師が来るから、それまでもう少しだけ待ってくれ」
私の声は届いているのか、ケイタは嗚咽をこぼしながらも頷いてくれた。
きっとこんなに泣くのも夜香の所為だろう。
あれは多めに使用すれば感情を昂らせる事もある。
ツラかったろうに。怖かったろうに。
こんな思いをさせない為に、私の印を与えて守るはずだったのに。

震えるケイタを不安な思いで見守っていれば、カルシクが慌てたように戻ってきた。
後ろには軍医のカディもついてきている。
「詳細は分かったのか」
イヴァンの言葉に、カルシクが頷く。
「はっ。店の者と客に確認したところ、練り夜香2粒と夜香蜜を二掬い仕込んだと・・・」
「なっ、こんな子供にそんな量を飲ませたのか!?何を考えているんだっ!」
イヴァンの声にも強い怒りが篭っている。
「・・・違います」
「違うとは?」
「飲ませたのではなく、その・・・下に入れたと・・・」
殺してやる。
それしか思わなかった。
ケイタに触れ玩具にした連中は全員殺してやる。
「練り夜香はここに連れてこられたときには既に仕込まれていたそうです」
「それならば夜香蜜など必要なかったであろう。何故その様なことを・・・」
「ケイタが言う事を聞かず客を怒らせたと。それで仕置きとして夜香蜜を一掬い飲ませて、もう一掬いは下に仕込んで紐を付けたらしいです」
イヴァンとカルシク2人の話を黙って聞いていたが、これ以上は怒りが抑えられなくなりそうだ。
「イヴァンもう良い。詳細は分かった、それ以上は聞きたくない。不愉快だっ」
私の怒りの篭った声に、全員が黙る。
「ここは私とカディだけで充分だ。お前達はここにいた者達の尋問を。ケイタを売りに来た者の捕縛を最優先で情報を集めろ」
命令を下せば、3人は頭を下げて無駄のない動きで中庭から出て行った。

「カディ、話は今聞いた通りだ。急いでこの子を診てくれ」
私の怒りの声を聞いても唯一平気な顔で立っていた男を天蓋の中に招く。
「全く、初対面がこんな状況とは」
私に似た顔の男がやれやれと言った表情で首を振っている。
「お前が全然会わせてくれんから、そろそろ勝手に見にいこうと思っていたんだが」
寝台に上がったカディが、診療箱を開いて準備を始める。
「取り敢えずこれを飲ませろ」
箱から小さな薬瓶を取り出し、私に差し出してくる。
「毒消しだ、中和作用がある。さっき聞いた話が本当なら夜香の摂取量が多すぎるから効果は薄いかもしれんが、無いよりはマシだ」
「分かった。・・・ケイタ、薬だ。飲みなさい」
グッタリしているケイタの体を起こし顎を掬いあげる。
瓶の中からはかなり強烈な臭いがしているが、薄く開かれた口に流し込めばケイタは苦しそうな顔をしつつも素直にそれを飲み下した。
「あぁ、良い子だ」
完全に薬を飲み込んだのを確認してから、再び体を横たわらせる。
やはり触られるのはツラいようで、薬を飲ませる間も始終小刻みに体を震わせていた。
掛けてやった外套越しでも、ケイタのそれが勃っているのは分かった。
「取り敢えず、傷がついてないか触られた所を確認するぞ」
カディの言葉に、考えないようにしていた事に向き合わされる。
ケイタが男達に犯されたかどうか、確認しなければならないのだ。
あの状況だ、最後までされている可能性は極めて高い。
だが予想が現実になった時、私は平静を保っていられるのか。
いや、既に平静など失っている。
今直ぐにでも、全員切り殺しに行ってやりたい。

「ヴァルグィ!ぼうっとするな」
カディの苛立たし気な声に、舌打ちを返す。
「舌打ちをするな。ほれ、この子をうつ伏せに」
「ケイタ、少し我慢しなさい」
仕方なく外套が落ちないように注意しながらケイタの体をうつ伏せにする。
「少し腰を上げるから、そこの枕を取ってくれ」
いかがわしい色の枕を渡せば、素早くケイタの腹の下に差し込まれる。
「んぅっ」
昂っているモノに枕が当たったのだろう、ケイタが悩ましい声を出す。
こんな声、自分以外の人間に聞かせたくなど無いのに。
「そんな顔で睨むな。こっちは治療の為にしているんだぞ」
「当たり前だ。それ以外で触れるなど許さん」
「まったく・・・・確認するぞ」
外套が上げられて、ケイタの小さな尻が晒される。
カディはその双丘を慎重に拡げて、そこを確認し始める。
「少し中も確認するからな」
そう言って、カディが中に指を差し込む。
思わず目を逸らしてしまった。
私もまだ触れた事が無い場所を他の男が触るなど、しかもその刺激でケイタが甘やかな悲鳴を溢すのだ。
ケイタの本意では無い事は分かっているが、気を抜いたら目の前の男を殴り飛ばしてしまいそうだ。
「ふむ、大丈夫だ。だいぶ弄られてはいるが、男性器の挿入は無かったみたいだな。大きな傷はついていない」
怒りに息を詰めていたが、カディの言葉に思わず腹の底から安心のため息を吐き出してしまった。
良かった・・・。
ケイタにとっては何も良いことは無いだろうが、最後までされていなかったならせめての救いだ。
「たいしたものだ」
カディが指を引き抜きながら感心したように呟く。
「何がだ」
「この子だよ。こんな量の夜香を仕込まれたら大体の人間は嫌でも自分から体を明け渡してしまうものだ」
「・・・・」
「この子は抵抗したのだろう。今でもちゃんと抵抗している。・・・・強い子だ」
そうだ。
ケイタは強い。
たとえ躓き倒れても、いつも私の心配など軽く跳ね除けて笑いながら立ち上がるのだ。
だから今回もそうであって欲しい。
「あぁ、とても強い」
私の言葉を聞いてカディが小さく笑った。
だが直ぐに表情を改めて、私に向く。

「さて、これから中の洗浄をしなくてはならないのだが・・・・」
「洗浄?」
カディの言葉にギョッとした。
「あぁ、入れられた夜香をこれ以上吸収しないようにな」
「・・・・どうするのだ?」
「これを使う」
カディが箱の中から灰色の棒を取り出した。
それが不浄石で出来たモノだと言うのは一目で分かった。
棒の先に赤と青の小さな魔石が嵌め込まれている。
何となく使い方が分かって、苦いものが込み上げてきた。
治療の為とはいえ、またケイタを苦しめるのだ。
「まぁ、大体使い方は分かるであろう。この棒を中に入れて魔力を流し込めば、魔石から適量の湯が流れて洗浄されたモノは不浄石に吸い込まれる」
カディが棒を持ち上げながら使い方を説明する。
「一応医療行為ではあるが、難しくは無いからお前でも出来る。どうする?私がした方が良いか?それともお前がやるか?」
「・・・・・私が」
これ以上、ケイタの乱れる姿を他者の目に晒したくはない。
私でも出来るなら、そうしたい。
「分かった。洗浄は2回繰り返せ。それと抵抗するかもしれないが必ずここまでは中に入れろ」
カディが、棒の根元にある印を指差す。
棒は挿入しやすい様になのだろう、先細りで根元に行くほど太くなっている。
太いのは不浄石の面積を広げて洗浄後のものを確実に回収する為だろう。
カディの示した印の部分はそれなりに太い。
こんなモノを入れたら痛いだろう。
ケイタを痛めつけるような器具に心が痛むが、苦しみから解放してやる為だ。
「分かった・・・すまないが2人きりにしてくれ・・・」
「外で待っている。終わったら呼べ」
カディは静かに中庭を出て行った。
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