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第三章 将軍様はご乱心!
第4話 おチンピラなお客様
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「ほれ今日の分の報酬だ。確認しろ」
「わーい、ありがとー」
何時も通り報酬を受け取って、金額を確認してから財布に突っ込む。
すっかりこの世界の硬貨も見慣れて、金額の確認も直ぐに出来るようになってきた。
日雇いの仕事を始めてから毎日それなりに忙しくしているおかげか、あっという間に2ヶ月以上経ってしまった。
色々な職に手を出しているけど、意外とどれもそれなりにこなせている。
基本的には内職系な仕事が多いけど、ありがたい事に雇い主からは何時も高評価を貰えた。
ザウラも良くやったと褒めてくれる。
どうやら労働者への評価は手配した斡旋所の評価にも繋がるらしく、俺が高評価を取るたびにザウラはご機嫌だった。
俺としては普通に指示された通りに仕事をしているだけのつもりだったから、何でそんなに何時も良い評価を貰えるのか分からなかったけど、最近になってようやく気がついた。
この世界の人たちは、基本的にちょっと大雑把なんだ。
良く言えばおおらか。悪く言えば雑だ。
同じ日雇い労働者達と一緒に働いていると、その仕事ぶりに驚く。
とにかく、雑で適当だ。
指示された内容や手順を軽く無視するし、とりあえず出来ていれば良いと言った感じだ。
例えば、廃材の糸の紡ぎ直しでは、解しが足りない、紡ぎが均一じゃ無いと言った感じで、出来上がる糸は太さが不均一なボコボコの仕上がりで、大量の粗悪品が作り上げられててちょっと笑えた。
んなもん、解しをきちんとして、紡ぎも少し慎重にやれば、それなりに均一な太さの糸になる。
こういう納品系の仕事は、納めた品の品質と数で金額が決まる。
他の連中には時間が掛かるから報酬が減るだろうと笑われたが、大量に粗悪品を作るよりも、もう少し質の高いものを幾つか作った方が報酬は良いんだ。
実際ザウラに報酬を貰いに行ったら、俺が一番高評価で高報酬だったと教えてくれた。
はん、ざまぁみやがれ。
他の仕事もだいたい同じような感じで、確かにあの仕事ぶりが通常であれば、俺の仕事はとても丁寧に見えるだろう。
おかげさまで、最近では一度仕事をした店からわざわざ名指しで仕事の依頼を貰う事も増えてきた。
指名で仕事を貰えると、通常よりも報酬が上乗せされるから俺としては嬉しい限りだ。
指名料ってやつだな。
「いやー、お前は本当最高の人材だったわ。連れてきてくれたバンには感謝だな」
「わー、ザウラが珍しく素直。気持ち悪ーい」
「うるせぇ」
「俺にも感謝してよー」
「あ?勿論してるぜ。お前ほんと評判いいからな。お前目当てでウチを再利用する店も増えたしよ」
斡旋所はいわゆる派遣会社みたいなものだ。
手配した労働者の評価が悪ければ、雇用主はおなじ斡旋所には次の求人依頼を出さず、他の斡旋所へ流れてしまうらしい。
だから、指名が入るような人材はそこの斡旋所にとっては看板商品みたいなものだ。
つまり、俺はたった2ヶ月程度でザウラの店の看板を張る人材の1人になっているらしい。
内職部門のスーパー派遣社員って感じだな。
そのおかげで、同じ仕事内容でも他の労働者に比べて俺の基本報酬は少し高く設定されていたりもする。
いつの間にか上がっている報酬が不思議でザウラに聞いたら、人気の高い人材は競争率が高いから雇用主も自分のところに来てもらえるように特別報酬を上乗せするらしい。
俺が初めて働いた時、薬師の爺さんが次回の仕事で報酬を上乗せしてくれると言っていたのも、つまりはこの特別報酬とか指名料の事だったらしい。
「お前、他の斡旋所に声掛けられても絶対に行くなよ。声掛けられたら、まずは俺に相談しろ。絶対だぞ」
最近では、俺が他の斡旋所に引き抜かれるのをザウラがえらく警戒している。
「行かないってば。ここが1番通うのに場所近いし」
「ほんとか?頼むぞ」
「大丈夫だって」
俺が頷いても、ザウラは少し心配気だった。
「そうだ、ケイタ。そろそろ仕事の種類を増やしてみたくないか?」
「増やす?」
「あぁ。お前、この2ヶ月でかなり言葉が喋れるようになっただろ」
ザウラの突然の提案に首を傾げたけど、返ってきた返事に納得する。
確かに、俺はこの2ヶ月の間にかなり喋れるようになった。
今まではバルギーやセフ先生に言葉を習う以外には、屋敷の人達や露天商の人たちと少し話す程度だったのが、働き始めてから接する人間の数も話す時間も段違いに増えた。
労働者達は仕事中とにかく良く喋るので、いやでも会話スキルが鍛えられたし。
ただ、俺が身につけた言葉は少し乱暴らしくて、バルギー達には言葉が崩れたと嘆かれたけど。
だって、セフ先生やバルギー達に教えてもらう言葉よりも、街の人たちの言葉の方が簡単で話しやすいんだもん。
「今まではあまり喋れなくても大丈夫な仕事を選んでたが、そろそろその条件を外しても良いと思うんだ。どうだ?」
「んー、言葉が大丈夫か自分じゃ分かんないけど、ザウラが大丈夫って言うなら良いと思う」
「よし」
「どんな仕事が増えんの?」
「今までは内職系が多かったが、接客の仕事とかどうだ?食堂の給仕係とか市場で物売りの店番とか」
あぁ、客の前にも出る仕事か。
それなら、多分問題なく出来ると思う。
食堂のホールスタッフとか、元の世界でもバイト経験があるから。
さほど内容は変わんないだろ。
「うん、分かった。夜遅くならなければ大丈夫」
バルギーと約束したから、時間だけは守ってもらう必要があるけどな。
「あぁ、分かっている。食堂も日中の時間だけだ」
「なら大丈夫」
「よし。それじゃ、次回からはそう言う仕事も選んどく。報酬も内職よりは良いし、そっちでも評価が高ければ更に収入が上がるぞ」
イエーイ、やったねー。
上手くいけば依頼主の層が増えると、ザウラがニヤリと笑う。
なんだ、それが目当てか。
と、言うわけで。
早速今日は昼の食堂の仕事を選んでみた。
ザウラは言葉通りに接客業の仕事を探していてくれて、今日の職場は賄いが有るってのに引かれて選んだ。
こういう仕事は継続での雇用が基本だけど、まずは日雇いで仕事ぶりを見てから継続して雇うか判断する店も多いんだそうだ。
俺は色々やりたいから継続しなくても良いんだけどね。
今まではエリーも一緒に連れて仕事してたけど、客の前に出る仕事だと流石に連れてこれないのでザウラに預けてきた。
置いていかれる事に怒り拗ねるエリーを一生懸命宥め説得してたら、ザウラには何とも言えない顔で見られてしまった。
あぁ、エリー今ごろ寂しがってるだろうな。
俺もエリーが居ない状態が久しぶりで、いつも籠がぶら下がっている腹あたりがスカスカして寂しい。
仕事が終わったらいっぱいかまってやらなきゃ。
「おう、ケイタ。これを2番と6番テーブルだ」
「はーいっ」
「ごちそーさん。勘定頼む」
「ありがとうございまーすっ。すぐ行きまーす!」
「おーい、水くれー」
「はーい、ただいまー!あ、いらっしゃい。お兄さん、そこの席どーぞ!」
客で埋まる店内を忙しく走り回りながら、料理の配膳、会計、片付け、席案内をこなして行く。
目の回る忙しさだが、仕事内容は元の世界でやった飲食店のバイトと何ら変わらない。
注文は通ってるか、待ちぼうけしている客はいないか、水は足りているか、席は片付いているか、洗い場の皿が溜まっていないか。
店内の様子を小まめに確認しながら、効率的に客を回せるよう仕事の優先順位を決めて動く。
「はーい、お待たせでーす。赤銅貨7枚ね。まいどー」
勘定を貰って客を見送ったら、すぐに席を片付ける。
「お水お待たせー。おじさん良い男だから、多めに注いであげまーす」
「ぶはっ、なんだそりゃ」
「お兄さん、注文どーぞ!」
「肉定食で」
「はーい、親っさん肉定食ひとつー!」
洗い物を流しに入れて、新たに出来上がった定食を客に運ぶ。
あー、この忙しさ働いてるって感じがあって良いな!
「オヤジ、妙に元気なの入れたな」
「おう。小さいから役に立つか心配だったが、よく働く。ほら、ケイタこれも持っていってくれ」
「はーい」
「いらっしゃいませー」
「ん?見たことねぇ顔だな」
「本当だ。新しく入ってきたのか」
「はっ、ずいぶん小さいのを入れたな」
新たに5人くらいの集団が店内に入ってきたけど、ちょっとガラの悪い雰囲気だ。
凄いな、異世界でもガラが悪い人間って変わらないんだな。
歩き方とか仕草とか笑い方とか。
自分たちは強い人間なんだぞーって全身でアピールしてる。
「こちらの席どーぞ」
昔観たヤクザ映画に出てくるチンピラ達を彷彿とさせるけど、常連っぽいし親っさんも気にして無いから別に何か問題を起こすとかも無いだろう。
って思ったんだけど。
うっざいわー、このおっさん達。
マジで。
もう、絡んでくる絡んでくる。
何でもないような用でしょっちゅう呼ばれて、行くたびに絡まれる。
しかも、その絡みがどれもセクハラめいたものばっかりで余計腹が立つ。
「坊主、ほっそい腰してんなぁ。尻もちいせぇし、可愛いじゃねぇか」
「触るのは禁止でーっす」
「おっと」
尻から腰にかけてを無遠慮に撫で回されて、力いっぱいはたき落とす。
「こっちに来いよ、俺たちと話そうぜ」
横から腕を掴まれたかと思ったら、力いっぱい引っ張られ膝の上に座らされる。
「アー、スイマセーン。ワタシ言葉ワーカリマセーン。」
「嘘こけ、さっきまで普通に喋ってただろうが。あだっ」
足を軽く踏んでやって、拘束する力が弛んだ隙にさっさと膝から降りる。
「あ、すいまっせーん。足が滑りました」
なんだ、お前らホモか。
「なんだつれねぇな」
「ははは、面白い坊主だ。おい、お前ぇ結構この子好みだろ。こう言う若くて細っこいのいじめるの好きだもんな」
「ふっ・・確かにな。珍しい顔立ちだが可愛い顔してるし、中々そそる体をしてる」
俺の体の上を、舐めるように男達の視線が這っていく。
・・・なんか、すげぇおぞましい会話をしてねぇかコイツら。
「坊主、夜も居んのか?」
「夜?」
「あぁ、夜もここで仕事してるなら、俺達が買ってやるぜ」
ちょ、待て。何の話をしてるんだ。
「お前の花はいくらだ?何本でも買うぞ」
・・・うっえー、本気で気持ち悪ぃー。
こいつら本当にホモだー。
「・・・・・・気になる?」
「お、夜居るのか?」
男達の期待に輝く目に鳥肌が立つけど、腐っても金を落としていく大切な店の客だ。
「・・・気になるなら、確かめにまた夜来てくーださい」
そして、夜にもまた金を落としていけ。
俺は居ねーけどな!
「悪いなケイタ。あいつら夜の客なんだが、少し素行の悪い連中でな。あまり相手しなくていいぞ」
「大丈夫でーす」
面倒な男達を適当にあしらって台所へ戻れば、親っさんが渋い表情で謝ってきた。
この店は本来は夜がメインの飲み屋だ。
あいつらの話を聞いた感じ、多分夜には花を売るような女の人達も働いているんだろう。
そう言うのを期待して俺に絡んでくるとか、昼間っから迷惑な連中だ。
まぁ、ああ言う客は一定数居るからな。
元の世界で働いていた時も、似たような経験があるから特に気にはならない。
どうせ、もう二度と会うことも無いような人間だし。
「わーい、ありがとー」
何時も通り報酬を受け取って、金額を確認してから財布に突っ込む。
すっかりこの世界の硬貨も見慣れて、金額の確認も直ぐに出来るようになってきた。
日雇いの仕事を始めてから毎日それなりに忙しくしているおかげか、あっという間に2ヶ月以上経ってしまった。
色々な職に手を出しているけど、意外とどれもそれなりにこなせている。
基本的には内職系な仕事が多いけど、ありがたい事に雇い主からは何時も高評価を貰えた。
ザウラも良くやったと褒めてくれる。
どうやら労働者への評価は手配した斡旋所の評価にも繋がるらしく、俺が高評価を取るたびにザウラはご機嫌だった。
俺としては普通に指示された通りに仕事をしているだけのつもりだったから、何でそんなに何時も良い評価を貰えるのか分からなかったけど、最近になってようやく気がついた。
この世界の人たちは、基本的にちょっと大雑把なんだ。
良く言えばおおらか。悪く言えば雑だ。
同じ日雇い労働者達と一緒に働いていると、その仕事ぶりに驚く。
とにかく、雑で適当だ。
指示された内容や手順を軽く無視するし、とりあえず出来ていれば良いと言った感じだ。
例えば、廃材の糸の紡ぎ直しでは、解しが足りない、紡ぎが均一じゃ無いと言った感じで、出来上がる糸は太さが不均一なボコボコの仕上がりで、大量の粗悪品が作り上げられててちょっと笑えた。
んなもん、解しをきちんとして、紡ぎも少し慎重にやれば、それなりに均一な太さの糸になる。
こういう納品系の仕事は、納めた品の品質と数で金額が決まる。
他の連中には時間が掛かるから報酬が減るだろうと笑われたが、大量に粗悪品を作るよりも、もう少し質の高いものを幾つか作った方が報酬は良いんだ。
実際ザウラに報酬を貰いに行ったら、俺が一番高評価で高報酬だったと教えてくれた。
はん、ざまぁみやがれ。
他の仕事もだいたい同じような感じで、確かにあの仕事ぶりが通常であれば、俺の仕事はとても丁寧に見えるだろう。
おかげさまで、最近では一度仕事をした店からわざわざ名指しで仕事の依頼を貰う事も増えてきた。
指名で仕事を貰えると、通常よりも報酬が上乗せされるから俺としては嬉しい限りだ。
指名料ってやつだな。
「いやー、お前は本当最高の人材だったわ。連れてきてくれたバンには感謝だな」
「わー、ザウラが珍しく素直。気持ち悪ーい」
「うるせぇ」
「俺にも感謝してよー」
「あ?勿論してるぜ。お前ほんと評判いいからな。お前目当てでウチを再利用する店も増えたしよ」
斡旋所はいわゆる派遣会社みたいなものだ。
手配した労働者の評価が悪ければ、雇用主はおなじ斡旋所には次の求人依頼を出さず、他の斡旋所へ流れてしまうらしい。
だから、指名が入るような人材はそこの斡旋所にとっては看板商品みたいなものだ。
つまり、俺はたった2ヶ月程度でザウラの店の看板を張る人材の1人になっているらしい。
内職部門のスーパー派遣社員って感じだな。
そのおかげで、同じ仕事内容でも他の労働者に比べて俺の基本報酬は少し高く設定されていたりもする。
いつの間にか上がっている報酬が不思議でザウラに聞いたら、人気の高い人材は競争率が高いから雇用主も自分のところに来てもらえるように特別報酬を上乗せするらしい。
俺が初めて働いた時、薬師の爺さんが次回の仕事で報酬を上乗せしてくれると言っていたのも、つまりはこの特別報酬とか指名料の事だったらしい。
「お前、他の斡旋所に声掛けられても絶対に行くなよ。声掛けられたら、まずは俺に相談しろ。絶対だぞ」
最近では、俺が他の斡旋所に引き抜かれるのをザウラがえらく警戒している。
「行かないってば。ここが1番通うのに場所近いし」
「ほんとか?頼むぞ」
「大丈夫だって」
俺が頷いても、ザウラは少し心配気だった。
「そうだ、ケイタ。そろそろ仕事の種類を増やしてみたくないか?」
「増やす?」
「あぁ。お前、この2ヶ月でかなり言葉が喋れるようになっただろ」
ザウラの突然の提案に首を傾げたけど、返ってきた返事に納得する。
確かに、俺はこの2ヶ月の間にかなり喋れるようになった。
今まではバルギーやセフ先生に言葉を習う以外には、屋敷の人達や露天商の人たちと少し話す程度だったのが、働き始めてから接する人間の数も話す時間も段違いに増えた。
労働者達は仕事中とにかく良く喋るので、いやでも会話スキルが鍛えられたし。
ただ、俺が身につけた言葉は少し乱暴らしくて、バルギー達には言葉が崩れたと嘆かれたけど。
だって、セフ先生やバルギー達に教えてもらう言葉よりも、街の人たちの言葉の方が簡単で話しやすいんだもん。
「今まではあまり喋れなくても大丈夫な仕事を選んでたが、そろそろその条件を外しても良いと思うんだ。どうだ?」
「んー、言葉が大丈夫か自分じゃ分かんないけど、ザウラが大丈夫って言うなら良いと思う」
「よし」
「どんな仕事が増えんの?」
「今までは内職系が多かったが、接客の仕事とかどうだ?食堂の給仕係とか市場で物売りの店番とか」
あぁ、客の前にも出る仕事か。
それなら、多分問題なく出来ると思う。
食堂のホールスタッフとか、元の世界でもバイト経験があるから。
さほど内容は変わんないだろ。
「うん、分かった。夜遅くならなければ大丈夫」
バルギーと約束したから、時間だけは守ってもらう必要があるけどな。
「あぁ、分かっている。食堂も日中の時間だけだ」
「なら大丈夫」
「よし。それじゃ、次回からはそう言う仕事も選んどく。報酬も内職よりは良いし、そっちでも評価が高ければ更に収入が上がるぞ」
イエーイ、やったねー。
上手くいけば依頼主の層が増えると、ザウラがニヤリと笑う。
なんだ、それが目当てか。
と、言うわけで。
早速今日は昼の食堂の仕事を選んでみた。
ザウラは言葉通りに接客業の仕事を探していてくれて、今日の職場は賄いが有るってのに引かれて選んだ。
こういう仕事は継続での雇用が基本だけど、まずは日雇いで仕事ぶりを見てから継続して雇うか判断する店も多いんだそうだ。
俺は色々やりたいから継続しなくても良いんだけどね。
今まではエリーも一緒に連れて仕事してたけど、客の前に出る仕事だと流石に連れてこれないのでザウラに預けてきた。
置いていかれる事に怒り拗ねるエリーを一生懸命宥め説得してたら、ザウラには何とも言えない顔で見られてしまった。
あぁ、エリー今ごろ寂しがってるだろうな。
俺もエリーが居ない状態が久しぶりで、いつも籠がぶら下がっている腹あたりがスカスカして寂しい。
仕事が終わったらいっぱいかまってやらなきゃ。
「おう、ケイタ。これを2番と6番テーブルだ」
「はーいっ」
「ごちそーさん。勘定頼む」
「ありがとうございまーすっ。すぐ行きまーす!」
「おーい、水くれー」
「はーい、ただいまー!あ、いらっしゃい。お兄さん、そこの席どーぞ!」
客で埋まる店内を忙しく走り回りながら、料理の配膳、会計、片付け、席案内をこなして行く。
目の回る忙しさだが、仕事内容は元の世界でやった飲食店のバイトと何ら変わらない。
注文は通ってるか、待ちぼうけしている客はいないか、水は足りているか、席は片付いているか、洗い場の皿が溜まっていないか。
店内の様子を小まめに確認しながら、効率的に客を回せるよう仕事の優先順位を決めて動く。
「はーい、お待たせでーす。赤銅貨7枚ね。まいどー」
勘定を貰って客を見送ったら、すぐに席を片付ける。
「お水お待たせー。おじさん良い男だから、多めに注いであげまーす」
「ぶはっ、なんだそりゃ」
「お兄さん、注文どーぞ!」
「肉定食で」
「はーい、親っさん肉定食ひとつー!」
洗い物を流しに入れて、新たに出来上がった定食を客に運ぶ。
あー、この忙しさ働いてるって感じがあって良いな!
「オヤジ、妙に元気なの入れたな」
「おう。小さいから役に立つか心配だったが、よく働く。ほら、ケイタこれも持っていってくれ」
「はーい」
「いらっしゃいませー」
「ん?見たことねぇ顔だな」
「本当だ。新しく入ってきたのか」
「はっ、ずいぶん小さいのを入れたな」
新たに5人くらいの集団が店内に入ってきたけど、ちょっとガラの悪い雰囲気だ。
凄いな、異世界でもガラが悪い人間って変わらないんだな。
歩き方とか仕草とか笑い方とか。
自分たちは強い人間なんだぞーって全身でアピールしてる。
「こちらの席どーぞ」
昔観たヤクザ映画に出てくるチンピラ達を彷彿とさせるけど、常連っぽいし親っさんも気にして無いから別に何か問題を起こすとかも無いだろう。
って思ったんだけど。
うっざいわー、このおっさん達。
マジで。
もう、絡んでくる絡んでくる。
何でもないような用でしょっちゅう呼ばれて、行くたびに絡まれる。
しかも、その絡みがどれもセクハラめいたものばっかりで余計腹が立つ。
「坊主、ほっそい腰してんなぁ。尻もちいせぇし、可愛いじゃねぇか」
「触るのは禁止でーっす」
「おっと」
尻から腰にかけてを無遠慮に撫で回されて、力いっぱいはたき落とす。
「こっちに来いよ、俺たちと話そうぜ」
横から腕を掴まれたかと思ったら、力いっぱい引っ張られ膝の上に座らされる。
「アー、スイマセーン。ワタシ言葉ワーカリマセーン。」
「嘘こけ、さっきまで普通に喋ってただろうが。あだっ」
足を軽く踏んでやって、拘束する力が弛んだ隙にさっさと膝から降りる。
「あ、すいまっせーん。足が滑りました」
なんだ、お前らホモか。
「なんだつれねぇな」
「ははは、面白い坊主だ。おい、お前ぇ結構この子好みだろ。こう言う若くて細っこいのいじめるの好きだもんな」
「ふっ・・確かにな。珍しい顔立ちだが可愛い顔してるし、中々そそる体をしてる」
俺の体の上を、舐めるように男達の視線が這っていく。
・・・なんか、すげぇおぞましい会話をしてねぇかコイツら。
「坊主、夜も居んのか?」
「夜?」
「あぁ、夜もここで仕事してるなら、俺達が買ってやるぜ」
ちょ、待て。何の話をしてるんだ。
「お前の花はいくらだ?何本でも買うぞ」
・・・うっえー、本気で気持ち悪ぃー。
こいつら本当にホモだー。
「・・・・・・気になる?」
「お、夜居るのか?」
男達の期待に輝く目に鳥肌が立つけど、腐っても金を落としていく大切な店の客だ。
「・・・気になるなら、確かめにまた夜来てくーださい」
そして、夜にもまた金を落としていけ。
俺は居ねーけどな!
「悪いなケイタ。あいつら夜の客なんだが、少し素行の悪い連中でな。あまり相手しなくていいぞ」
「大丈夫でーす」
面倒な男達を適当にあしらって台所へ戻れば、親っさんが渋い表情で謝ってきた。
この店は本来は夜がメインの飲み屋だ。
あいつらの話を聞いた感じ、多分夜には花を売るような女の人達も働いているんだろう。
そう言うのを期待して俺に絡んでくるとか、昼間っから迷惑な連中だ。
まぁ、ああ言う客は一定数居るからな。
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