飛竜誤誕顛末記

タクマ タク

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第二章 将軍様のお家に居候!

第11話 竜だ!

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『ぎゃーーーっ!喋ったーー!!』

馬に触れていた手を引っ込めて、思わず後ずさってしまった。
初めて空に浮かんでいる島を見た時と同じくらいの衝撃だった。
こっちの馬って喋るのか!?
【・・・まさか私の声が聞こえているのか?】
やっぱり喋ってる!

『バルギー!馬が喋ってるぞ!?』
「楽しいか?ケイタ」
「随分、興奮してますね。楽しそうだ」
バルギー達は何故か微笑ましげに俺を見るだけで、馬が喋っている事には特にリアクションが無い。
こっちの世界では、馬が喋るのは当たり前の事なのか?

【人間、こっちにおいで。本当に私の言葉が分かっているのか?】
グルグル考えていたら、首を伸ばした馬に襟を噛まれて引き寄せられた。
『ひえっ』
【どうなのだ?分かるのか?】
巨大な顔が迫ってくる。
『わわ分かる。分かるから!』
【ほぉ、・・これは驚いた】
『・・って、あれ?もしかして日本語喋ってる?』
混乱する思考のなか、この馬の喋っている言葉が全部理解できる事に俺は気付いた。
【ニホン語?よく分からないが、私達は人間の言葉は持たない。音ではなく意識に話しかけるから音としての言葉は必要ない】
『そうなの?』
【あぁ。私もお前の出す“音”ではなく“意識”の方を読み取って理解している】
『・・・へぇ。他の馬もそうなの?』
【そうだ】
すげぇ。俺いま馬と普通に喋ってるぞ。
しかも、この世界に来てから一番意思の疎通が出来てる。

『こっちの世界の動物は皆喋るのか?』
【・・どの生き物も、何らかの意思の疎通の手段はあるだろう?】
『えっと、人間と喋る事ができるかどうかって意味で』
【あぁ、そういう意味ならできない】
『じゃぁ、馬だけ?』
【・・ふむ、分かっていないな?我々も普通は人間と会話を交わすことは出来ない】
馬が人間らしい仕草で首を横に振った。
『・・・喋ってんじゃん、今』
【だから、驚いているんだ】
あ、驚いてるんだ?
馬の表情は分からないから、これが当たり前なのかと思った。
『え、じゃぁ。人間と喋ったのは俺が初?』
【そうだ。お前はなぜ私の言葉を理解できるのだ?】
『いや分かんねぇよ。俺だって驚いてるのに』
馬と一緒に首を傾げてしまった。

「ケイタは動物が好きそうだな。とても楽しそうだ」
「そうですね。まるで馬と喋っているみたいです」
「ラビクも珍しく愛想が良い」
この異常事態の説明が欲しくてバルギー達を振り返るけど、2人は和やかに談笑していて、俺と馬の会話には気付いていないようだ。

【他の者達の言葉も分かるのか?】
馬がそう言うと突然大きく嘶いた。
その声に反応するように、小屋の奥で草を食んでいた他の馬が2頭近づいてきた。
【お前達、この人間に話しかけてみろ】
【人間に?何故だ】
【いいから。面白いぞ】
【・・・・初めまして?】
『・・えっと、初めまして』
ラビクに言われて渋々話しかけてきた馬に返事をする。
【っ?!】
【返事をしたぞ?!】
俺の言葉に、馬達が驚いたように一歩後ずさった。
【・・私以外の声もちゃんと聞こえてるな】
『うん。俺の声も通じてるね』

【どういうことだ?人間が返事をするなんて】
【なぜ私達と話せるんだ?】
新たに来た2頭は、恐る恐るといった感じで俺に近づいてくる。
一頭は白い馬で、もう一頭は黒ブチだ。
【さぁ、私にも何故かは分からん。この人間にも分からないみたいだが】
【人間に見えるけど、実は竜とか?】
【いや、どう見ても人間だ。鱗も無い】
【だが、他の人間と比べて臭くはないな】
【本当だ。あまり人間臭くない】
【不快な臭いがしないぞ】
3頭の馬が俺そっちのけで話しながら、いきなり俺の頭をフンスフンスと嗅いでくる。
デカイ馬3頭の顔が寄ってくると、流石に迫力があるな。
今まで大人しく肩に座っていたエリーも、さすがに馬3頭の圧に負けたのか怯えた様にプルプルと震える。
そっと襟元を緩めて広げてやると、エリーはそそくさと服の中に逃げて行ってしまった。
ズボンに挟み込んだインナーの腹部分にエリーがちょうど良く収まっている。
『エリー、しばらくそこにいな。後で出してやるから。・・・って、お前らもう嗅ぐなよー。俺そんなに変な匂いするのか?』
匂いを嗅ぎ続ける馬達に、さすがに居心地が悪くなる。
【変では無いが、他の人間とは違う匂いがするな】
【何故だろうね。人間の嫌な匂いがしない】
【なんだか面白い人間だなぁ。お前なんていう名前だ?】
黒ブチの馬が戯れる様に、俺の髪を一房食んで引っ張ってきた。
わーやめて、髪の毛抜けちゃう。禿げたらどうするんだー。
そこの資源は有限なんだ。
『ちょ、引っ張るなって。俺の名前は敬太な。お前達は?』
【私はラビクだ。そこの大きい方の人間と契約している】
まず、黒い馬が名乗ってくれた。
大きい方というとバルギーの事だろうか。
『契約?って何?』
【人間と竜の相互契約だ。人間が竜に名前を捧げて、竜がその名前を受け入れたら契約完了だ】
『・・・ごめん、全く分からない。ってか、馬だろ?なんで竜の話なんだ』
【何を言っている。我らは竜だ】
『ん?竜?馬じゃないの?』
【馬だぞ。馬は竜だろう】
『馬は竜なのか?』
あ、駄目だ。分かんない。
【なんだ、そんな事も知らないのか?我らは馬竜という竜だ。常識だろう】
『馬竜・・・・こっちの世界の馬って竜なんだぁー・・・』
確かに足は恐竜っぽいもんなぁ。
・・・・どうしよう、この世界難しい。
俺の常識、全く通用しないっぽいぞ。
『えーっと、じゃあ契約ってのは、人間が竜に名前を付けて竜が了承すると成立するってこと?』
【そうだ。我々は基本的に契約した人間しか乗せない】
『なるほど。って事は、ここにいる馬は皆人間と契約してるのか』
【その通りだ。俺はそこの赤毛の人間と契約している。ジャビだ】
今度は黒ブチがイバンを鼻先で示しながら、名前を教えてくれた。
ジャビはちょっと人懐こそうな印象の馬だ。
その隣の白い馬の名前も聞こうと視線をやると、白馬は少し寂しそうに小さく首を振った。
【私の契約者は先日戦で死んでしまってね。今は名前が無いから、新米兵士達の中から気に入ったものと新しく契約を結ぶ予定だ】
『そうか、契約してる人亡くなったのか。何だか悪いこと聞いちゃったかな。ごめん』
【かまわない、仕方のない事だ】

「ケイタ、だいぶ馬に懐かれているな」
白い馬との間に少ししんみりした空気が流れたが、それをぶった斬るように後ろからバルギーが機嫌良さそうに声を掛けてきた。
しまった、馬と喋れた衝撃でちょっとバルギー達のこと忘れてた。

「バルギー、馬!『俺、馬と喋れるぜ!?』」
とりあえず馬と話せた驚きを伝えようと思ったけど、説明できるほど言葉が分からない。
どうジェスチャーで伝えようかと悩んでいると、ラビクがそっと顔を近づけてきた。
【ケイタ、我々と言葉を交わせる事は隠しておけ。我々と話す時は音は必要ないから、話したい時には頭の中で声を出せば良い】
何故かラビクが口止めしてくる。
なんで隠す必要があるのか聞きたかったけど、その前にバルギーに肩を引き寄せられてしまった。
「この黒い馬はラビクという。少し気難しい性格だから心配していたが、どうやら大丈夫そうだな。珍しくケイタには気を許しているようだから、これなら一緒に乗れそうだ」

まだ馬達に色々聞きたいんだけど、バルギーがラビクを連れて小屋を出ていってしまう。
手早く鞍や手綱を着けると、バルギーは高い位置にあるラビクの背中に難なく跨った。
すげぇな、あんな高い場所どうやって乗り上げるんだ。
「イヴァン、ケイタを」
「はっ」
感心したようにバルギーを見上げていたら、突然後ろからイバンに抱き上げられた。
『うわっ』
両脇に手を差し入れられて、そのまま持ち上げられている。
嘘だろ。そんな猫持ち上げるみたいに軽々と・・・・。
急に高くなった目線に驚く暇もなく、今度は上からバルギーに抱き上げられる。
イバンとバルギーの手によって、あっという間に馬上だ。
気付けば俺はバルギーに背後から抱きしめられる形で、ラビクに跨っていた。
一気に高くなった目線に、尻がゾワりとする。
ひょー、高いー。落ちたら死ぬぞコレ。
「そんなに緊張しなくていい。私がちゃんと支えている」
硬直した俺に、バルギーが少し笑っていた。
いやいや、笑い事じゃないぞバルギー。
マジで高くて怖いんだからな。


「さぁ、ケイタ。このまま私の屋敷に行くぞ。私の、家に、行く。分かるか?」
おぉ、なんだ。バルギーの家が目的地だったのか。
正直朝から何も分からないままバルギー達について来てたから、どこに向かっているか気にはなってたんだよ。
目的地がわかって、ちょっと安心した。
「私、分かる。バルギー、家」
「そうだ。ここから近いから直ぐに着くぞ」

そうか、ついにバルギーの家に行くのか。
バルギーと初めて会った岩穴から長い道のりだったけど、とうとうバルギーの家に着くのかと思うと中々感慨深いな。
バルギーん家ってどんな感じなんだろ。
バルギーの家族とか居るのかな。
楽しみだな。
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