飛竜誤誕顛末記

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第二章 将軍様のお家に居候!

第8話 カッコイイ、実用編

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『おぉーっ!最高かよ』

食堂を出た後、バルギーが連れて来てくれたのはなんと浴場だった。
4~5人くらいが入れるくらいの広さの浴場は、綺麗なタイルで飾られてて異国情緒がある。
部屋の片側の壁には、壁面に沿うように細長く低めの浴槽があり、もう片側には日本の銭湯と同じように入浴できるようなサイズの浴槽があった。
浴室と同じ室内に脱衣所もあって、小さな壁で仕切られているだけだ。

「ケイタ、服はここに」
バルギーが俺に籠を渡してくれた。
どうやらバルギーも一緒に入るらしく、さっさと服を脱いでいく。
あの川原の風呂以来なのでテンション爆あがりで、俺もバルギーの隣で服を脱いだ。

エリーは床に下ろしたら、浴室へ走って行ってしまった。
見ていたら、浴槽の近くで止まって機嫌よさそうに揺れている。
さすが茸だ、温かく湿っている室内はエリーには気持ちが良いみたいだ。

完全に裸になった俺に、バルギーが布を渡してくれた。
体を洗うための手拭いだろう。
「ありがとう」
俺は手拭いを肩にかけて浴室へ行こうとしたが、バルギーに無言で肩を掴まれ止められた。
「なに?」
「一応、隠しなさい」
肩にかけてた手拭いを取られ、腰に巻かれる。
見るとバルギーも腰に布を巻いていた。
俺は面倒だから隠さない派だけど、バルギーは隠す派なんだな。

浴室に入ると、まず細長い浴槽がある方へ連れて行かれた。
よく見ると浴槽の両端の壁に穴が空いてて、お湯が川のように常に流れる仕組みになっていた。
「ケイタ、まずここで体を洗うんだ」
浴槽のそばにはいくつか手桶が置いてあって、中には石鹸と粗めに編まれた布が入っている。
その布で体を洗うらしく、バルギーが実際に使って見せてくれる。
あれ、じゃあこの腰に巻いてる布って隠すためだけのものか?

壁側を流れる湯は、体を流すためのものらしい。
俺もバルギーに倣って体を洗う。
石鹸は意外と泡立ちがよく、久しぶりにちゃんと体を洗っていると実感できるものだった。
『うは、すっげぇ垢がでる』
久しぶりに体を洗ったせいか、少し硬めの布で擦ると面白いくらい垢がポロポロと出てきた。
ちょっと楽しくなって、つい擦り過ぎてしまったら、気付いたバルギーに止められた。
「何している、擦りすぎだっ。止めなさい、真っ赤になっているじゃないか」
はは、やり過ぎたな。
布を取り上げられてしまったので、大人しく手桶に湯を汲み体の泡を流す。
髪の毛もベタついて気持ち悪かったから、石鹸でガシガシと手早く洗い流した。

『はぁー、スッキリした!』
1週間以上ぶりの風呂とか、冷静に考えるとマジヤバいよな。
水で拭いたりはしていたけど、俺結構臭かっただろうなぁ。
つい確認するように腕に鼻を寄せてみたけど、ちゃんと石鹸の匂いだけで臭かったりはなくて安心した。
ベタつきのとれた体と髪の毛は、清潔感を取り戻したと実感できるもので実に気持ちが良かった。

体を洗い終わったら、もう一つの浴槽に連れて行かれた。
バルギーが入ったのを確認して、俺も浴槽に体を沈める。
『あぁ・・・・気持ち良すぎる・・・』
バルギーが作ってくれた川原の風呂も露天風呂みたいで良かったけど、やっぱりちゃんとした風呂は違う。
湯加減も最高で、体から一気に力が抜けていく。
浴槽の縁にへにゃりともたれ掛かって、俺は湯の温かさを堪能した。
あぁ、あったけぇー。逆上せるまで入ってたい・・・。
あまりの心地よさに、顔の筋肉が緩みまくっている。
俺、今相当締まりの無い顔してんな。

「ケイタ、あまり人前でその様な顔をしてはいけない」
声を掛けられて、バルギーを見たら何故か気まずそうな顔をしている。
何だ、ちょっとだらしな過ぎたか。
少し嗜める様な響きだったので、体を起こして居住まいを正してみた。
「あ、ごめん」
「・・・いや、私の前ならかまわない」
バルギーが咳払いしながら、少し目を逸らした。

しかし、こうやって改めて見ると、バルギーは本当に惚れ惚れするようなガタイをしている。
何処もかしこも太く分厚く盛り上がっていて、鍛え抜かれた体だ。
こちらの世界に来て会った人達は皆逞しくてデカかったけど、バルギーはその中でも特にデカイと思う。
バルギーって30後半か・・もしかすると40代いってるよな。
それくらいの歳って、もっとダラシない体型になってくると思うんだけど。
バルギーって軍人さんっぽいから、やっぱ日頃から鍛えてるんだろうな。
これで、顔も良いとか。
日本では余り見ない様な立派な髭も男らしいし。
同じ男として色々羨ましすぎる。
体の大きさは仕方ないにしても、頑張れば俺ももうちょっと筋肉は付けられるかな。

「ケイタ、そんなに見られると少し照れるのだが・・・」
ガン見し過ぎたようで、バルギーが少し困ったように眉を下げていた。
おっと、不躾過ぎたな。
「ごめん」
でも、俺は純粋にバルギーの肉体美に感心していただけだ!
ちょうど良い言葉も兵士達から教えてもらったし、俺は良いと思ったところは褒める主義だから、その気持ちを正直に言葉にしてみた。

「バルギー、かっこいい」
「っ!?」
覚えたばかりの、逞しさを褒める言葉だ。
「ケイタ・・どこでそんな言葉を覚えてきたんだ」
「ここ、かっこいい、ここ、ここ」
特に逞しい太い腕や胸筋、腹筋とかを指さしてその筋肉の素晴らしさを賞賛してみる。
「きょ・・・局所的だな」
少し戸惑ったような感じでバルギーが頷いてくる。
『背中とかも凄いよな「ここ、かっこいい」』
バルギーの背中を覗き込み、逞しい肩甲骨あたりの筋肉を軽く突いてみた。
「っ・・・」
くすぐったいのか、バルギーの体がピクリと小さく跳ねた。
「あ、ごめん」
バルギーを見上げたら、少し顔が赤かった。
なんだ照れてるのか、褒めすぎだったかな。

「ケイタは・・・鍛えている体が好みなのか・・」
「何?」
「こういうのが好きか?」
バルギーが目の前でデケェ力瘤を作って見せてくれた。うお、すっげぇ。
なんだ、鍛えるのが好きかってこと?
そりゃあ、男だったら逞しい体になるのは憧れるだろ。
「かっこいい、好き」
俺も、それなりに体を鍛えるのは好きだ。
「そ・・・そうか」
俺の答えに、バルギーが少し嬉しそうにしている。
こんだけ鍛えてるんだから、バルギーもきっと筋肉談話が好きなんだろう。
もっと言葉を覚えたら、バルギーと筋肉談話に花を咲かせたいものだ。

「ワタシ、ここ、少し、かっこいい」
せっかくなので、俺も自分の腹筋をバルギーに見せてみる。
日本にいた頃には、それなりに誇れた程度には割れている俺の自慢の腹筋だ。
まぁ、バルギーのバキバキな腹筋に比べたら全然だけど。
見えやすいように浴槽の縁に腰掛けて、腰に巻いたタオルをギリギリまで下げて腹筋を披露する。
「っ?!」
『ほら。一応割れてんだろ?つっても、バルギーのとは比べもんになんないけどなー!』
自分の腹筋を撫でさすりながら、俺はだはははと笑った。
『バルギー?』
腹をベチベチ叩きながら笑っていたけど、バルギーが妙に静かで反応がない。
『どうした?・・・うおっ』
顔を覗き込もうとしたら、いきなり腕を掴まれて湯船の中に引き込まれた。
「・・・体が冷えるから、ちゃんと浸かりなさい」
『ちょ、いきなり引っ張んなよ。驚くだろっ・・・って、バルギー顔赤いけど、大丈夫か?』
「お前といると、色々と試されている気がしてならん」
バルギーは耳まで赤くなっていて、心なしか少し辛そうな表情をしていた。

え、この人こんな短時間で逆上せてんのか?
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