飛竜誤誕顛末記

タクマ タク

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第一章 将軍様を街までお届け!

第17話 無頓着な子供

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**ヴァルグィ視点**
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ケイタは私が思っているよりもずっと芯が強く、そして強情な人間だった。

華奢な体に、きっと私を引き続けるのも直ぐに限界が来るだろうと思っていた。
もちろん、そんな限界まで歩かせる気もなかったのだが。
なるべく体力を温存したくて、彼には悪いが好意に甘えてギリギリまで運んでもらおうと思っていた。
彼の様子を見ながら、無理そうな兆しが見えたら直ぐに荷台から降りようと。
進みは遅くなるかもしれないが、杖代りの枝を拾ったことで自力でも歩けるようになったから、彼と並んで森を進もうと思っていたのだ。

しかし、予想に反してケイタは疲れを見せることもなく、気丈に荷車を引き続けた。
か弱い子供かと思ったが、弱音を吐くことなく、疲れに倒れる事もなく力強く進む。
凛と前を見据えて進むその姿は、彼の芯の強さを表していて、美しささえ感じた。

力強さだけではない。
彼は、とても明るく無邪気で、そして賢い。
言葉が分からなくても、怯む事なく私に接してくる。
身振り手振りで可能な限り自分の意思を伝えようとしてくるし、こちらの意思も一生懸命受け取ろうとする。
そのおかげか言葉を覚えるのも早いし、覚えると嬉しそうに直ぐに使ってくるのが、なんとも可愛い。
たった数日しか共に居ないのに、彼の人柄にはとても心を惹かれた。

だがその反面、色んな意味で恐ろしいほど自分に無頓着で困らされる事もある。

まず、人の目に対する意識が低すぎる。
川で簡易風呂を作ってやった時には、無邪気に喜びながら惜しげもなく裸体を晒し、とても驚かされた。
大衆浴場などでも、人前では普通腰布を巻いたりと局部は一応隠すものだ。
だがケイタはそんな事はせず、無防備な姿のまま湯に浸かりウットリとした危うげな表情を見せてきた。
そういう姿は伴侶や恋人の前だけでするものだが、彼は全く分かっていないようだった。

目のやり場に困りながらも、証明印の有無を確認する為、その時に彼の局部を見たが、予想通りそこには何も付けていなかった。
やはり彼は愛玩用の稚児として印も与えられず幽閉されていたのだろうと、密かに確信する。
私の前でも平気で無防備な姿を晒すのは、そのように育てられているからなのだろう。
可哀想に。

私の体を拭き出した時には、本当に困った。
ケイタの様子を見れば純粋に親切心でやってくれているのは分かったが、裸で男の体を拭くなど誘っている以外の何物でも無い。
一生懸命背中をタオルで拭ってくれるが、湯で温まった肌が時々触れてくるのが堪らなかった。

こう言うことも、稚児として教えられた事なのだろうか。
本人からは淫靡な雰囲気はなく誘っているような気配は全く無いが、何も知らない男だったら確実に勘違いしている。
ケイタにそのつもりが無いと分かっている私でさえ、下半身に血が集まりそうになり焦った。

ケイタの無防備さは危うすぎる。
街に戻っても、このままではあっという間に男たちの餌食になってしまう。
私が守って、彼に常識と警戒心を持つことを教えていかなくては。

そして、恐ろしいことにケイタは自分が傷つく事にも無頓着だった。

足を滑らせ荷車に突き倒されるように転んだ彼は、自分の怪我よりも真っ先に私の怪我を案じた。
私が乗っていたせいで重くなっていた荷車は、相当な衝撃を与えた筈なのに。
ケイタは、荷車が倒れないようにと必死で踏ん張ってくれた。
ケイタ自身よりも私の無事が優先されたのだと、彼に守られたのだと分かった時は、自分の無力が恥ずかしかった。
起き上がった彼の体を確認すれば、背中に大きな内出血を作っていて。
背中から腰にかけて白い肌が赤黒く変色している様は、とても痛々しかった。

背中の状態もさることながら、血まみれになっている手を見た時は、思わず怒りを覚えてしまった。
血豆が潰れ皮膚が破れてしまっているそれは、明らかに転んだだけで出来たものではない。
もっと早い段階から、そうなっていた筈だ。
それなのに、何故こんな状態になるまで放っておいたのか。
自分の怪我には無頓着なのか、何も言わずに我慢していたケイタに、腹が立った。
なぜ、私に言ってくれなかったのか。
腹立たしさについ強く叱ってしまったが、ケイタは頑なに大丈夫だとしか答えなかった。

本当はケイタにではなく、自分自身にこそ一番腹が立っていることは分かっていた。
元気そうだから大丈夫だろうと、甘く考えていたのだ。
少し考えれば、あの小さな体がこんな重労働に慣れている訳が無いと分かっていた筈なのに。
ケイタが思った以上に疲れや痛みを隠す事が上手かったなど、言い訳に過ぎない。
言われなくても、いち早く私が気付くべきだったのだ。
楽観視していた自分を殴りつけてやりたい気分だった。

子供の八つ当たりのようにケイタへ不機嫌をぶつけてしまったが、ケイタは気にすることもなく手当てをした私へありがとうと笑顔を向けてきた。
その寛容なケイタの姿に、とても切ない気持ちになる。

もっと自分を大切にしてほしい。
怪我のこともそうだし、安易に男の欲を煽るような真似もしないでほしい。
本人に自覚がなくても、油断すればそれらの報いはケイタ自身に降りかかるのだから。
ケイタの危うい感覚が、私は心底恐ろしいと感じた。

信じられないことに、手当を終えるとケイタは何事もなかったかのように再び進もうとした。
私がそんな事を許すと思っているのだろうか。
大人しく休息するよう荷車を阻止し、渋る彼を強引に休ませた。

やはり相当疲れていたようで、背中の手当てついでに筋肉を解してやれば、気持ちよさそうにしながら、あっという間に眠ってしまった。
全身の筋肉もかなり硬くなっていて、ここ数日の彼への負担がどれ程大きなものだったのか分からされた。

ケイタが本当に気持ち良さそうな表情をしていたので、夜寝る前にもまたしてやろうと思ったのだが、私はすぐに其れを後悔する羽目になった。

夜食後、早々に横になったケイタの体を再び揉んでやっていたら、どうにも彼の体を知らずうちに刺激してしまったようで。
慌てたようにケイタが私の手を止めてきて、訝しむ私にあっけらかんと兆したソコを見せてきた。
余りにも羞恥を感じさせない動作に、布を押し上げているケイタのソレを見ても一瞬理解出来なかった。
ただ疲れを取ってやりたかっただけで、そんなつもりは無かったのだが、敏感な箇所でも触れてしまったのだろうか。

慌てる私にケイタは呆れたようにため息をついていた。
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