飛竜誤誕顛末記

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第一章 将軍様を街までお届け!

第11話 将軍様の迷推理

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**ヴァルグィ視点**
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ケイタという子供は、本当に不思議な存在だ。

荷車に積まれたものは、どれもこれも見た事のない珍しいものだが、それを当たり前のように扱い、消費することに躊躇いが無い。
商人であれば商品はもっと大切に扱うだろうに、そんな感じが全くない。
商人のような計算高い雰囲気もない。
私は早い段階で、ケイタは商人の子供では無いだろうと判断していた。

岩穴を出てから、ずっとケイタの素性について考えていた。
ケイタからは、町民や労働者達の子供のような逞しさや粗暴さは感じない。
富裕層の子息だろうかと考えるが、それも違う気がする。
人に世話され慣れている感じはなく、自分の事は自分でできる。
むしろ、人の世話をする事に抵抗は無さそうで、嫌な顔ひとつせず怪我をした私の面倒を見てくれている。
では、屋敷の使用人のような者かと思えば、それにしてはとても態度が馴れ馴れしい。
私の首に下がる証明印には将軍を示す軍の階級印も入っているが、それを見てもケイタの態度は特に変わらなかった。
労働に向かない小柄な体に、娼館の者かと一瞬考えたが、それにしてはスレたところもないし、特有の退廃的で媚びた雰囲気も纏っていない。
どのような階級の者なのか、どのような環境で育ってきたのか、全く正体が分からなかった。

ケイタが空に浮かぶ神島や大竜に驚く様子には、こちらも驚いた。
こんな意識すらしたことも無いほど当たり前のものを、ケイタは知らないのだ。
生活に欠かせない魔法石も、初めて見たかのようだった。
ケイタの反応は、まるで生まれて初めて外に出たかのようなもので。
その反応をみて、私は一つの可能性に辿りつく。

・・・まさか、今まで何処かに幽閉されていたのか?

そう考えれば、やや異常とも言えるケイタの常識知らずも納得できる。
金持ちの稚児として、ずっと室内に閉じ込められていたのかもしれない。
悲壮な雰囲気もないので、寵愛されてそれなりに大切に扱われていたのか。
だが、生活に不可欠な魔法石も知らないなど、よほど厳しく制限された生活だったのでは無いだろうか。
もしかしたら、外では生きていけないよう生活に必要な常識を何も教えられずにいたのかもしれない。
幼い頃からそれが当たり前だったのなら、己の不幸にさえ気付かないだろう。

そんな私の仮説を裏付けるかのように、ケイタは証明印を持っていなかった。
川で服を洗っている下着姿の彼を観察したが、印を通すための首飾りも腕輪も何もつけていない。
証明印は、身分を証明するために不可欠なものだ。
どこの国の所属なのか、どの階級か、どの様な生業の者か、あらゆる情報の印がある。
普通は生まれた時に親から与えられ、育つ内に印が増えていくものだ。
罪人や奴隷ですら、印を持っている。
証明印が無いと言うことは、この世に存在しないのと同じことで。
何の権利もなく、何の保証も受けることが出来ない。
これを与えないのは、恐ろしく残酷な仕打ちである。

私も、今まで印を持たない者など見たことが無いし聞いたこともない。
つまりケイタを閉じ込めていた者は、彼を人間扱いしていなかったと言うことだ。
寵愛していたのだとしても、それは愛玩動物を可愛がるのと違わない。
ただ、悪趣味な者達は性奴や愛人達の性器などにそれらを着ける事もあると聞いたことがある。
もしかしたら、ケイタもそう言うところに着けているのかもしれない。
探るように視線をそちらに移せば、ケイタに抗議されるように視界を遮られてしまった。
どのように扱われていたのか。
なぜ、森で彷徨っていたのか。
頭は悪くなさそうだから、自力で逃げ出してきたのかもしれない。

やはり性的な虐待を受けていたのだろうか。
それを想像して、私はとても不快な気持ちになった。

体を拭いてスッキリした後、美味そうに魚に齧り付いている彼を眺める。
そいつに食われかけていたケイタを見た時は、正直心臓がすくみ上がった。
怪我のせいで彼の傍へ助けに行けず、とても不甲斐ない思いをしたが、彼は自力で魚を倒した上で、それを食べれるかと無邪気に聞いてきたのだ。
彼からは食われかけたという恐怖や緊張感はなく、むしろ誇らしげであった。
好奇心が強く無邪気で、警戒心が薄い彼は、心配で目が離せない。
証明印のこともあるし、ここまで常識がないのでは1人で生きていけないだろう。
やはり、国についたら直ぐに私が保護しなくては。

服が乾かず下着姿のままだった彼は、昨晩と同じように抱き込もうとする私に散々抵抗した。
流石に、肌が直接触れる状態で男に抱きしめられるのは恐いのだろうか。
男を意識するようなケイタの反応に、彼を閉じ込めていたであろうヤツの気配を感じて、何故か無性に腹が立った。

もちろん、そんな薄着の状態で毛布も使わずに寝させるつもりはない。
抵抗する彼を拘束するように、強引に抱きこめば。
小さな体は、難なく私の胸の中に収まる。
何やら分からない言葉で文句を言いながら抵抗しているが、片腕だけでも簡単に抑え込めてしまう。
何と非力で頼りないことか。
これでは暴漢等に襲われでもしたら、いとも容易く手籠にされてしまうでは無いか。
一瞬、手籠にされ泣き乱れるケイタの姿を想像してしまったが、直ぐに頭の中から打ち消す。
何を考えているんだ私は・・。

直接触れた肌から伝わるケイタの温もりに、どうしてだろうか妙に心が騒いだ。
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