飛竜誤誕顛末記

タクマ タク

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第一章 将軍様を街までお届け!

第4話 第一村人発見!

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ここに来て初めて出会った人間は、髭を生やした異国の男だった。
第一村人発見・・?
突然登場した俺に向こうも驚いたようで、洞窟の奥に座っていた男は驚愕の表情でこちらを見つめている。

良かった、この世界にも人間ちゃんといた!
しかもちゃんと俺と同じ外見だ。
目が一つとか腕がいっぱいあるとかの人種じゃなくて、良かったっ!
今まで意識しないようにしてたけど、俺以外に人間がいない世界だったらどうしようって実はめっちゃ不安だったんだ。
まずは挨拶だよな。明るくフレンドリーに。第一印象は大切だから。

「初めまして、こんにちは!」
笑顔で元気に、精一杯友好的に挨拶をした結果。
『っ!?・・』
男は腰から剣を引き抜き、俺に切先を向けた。
「ぎゃーっ!」
人生で初めて向けられた凶器に、俺はリヤカーごと勢いよく後ずさる。
『何者だ!』
剣を俺に向けたまま、男が鋭く叫ぶ。
言葉は分からないが、すごい警戒されていることは分かった。
『カルバックの民かっ!』
「わぁ、ごめんなさい!ごめんなさい!怪しい者じゃないんですぅ!」
今にも斬りかかられるんじゃないかと、必死で敵意がないことをアピールする。
両手を挙げて降参ポーズだ。
『・・・何だ、その妙な言葉は』
男が訝しげにこちらを睨んでくるが、何を言っているのか分からない。
『私の言葉が分からないのか?』
男は剣を向けてくるが、座ったまま此方に近づいてくる気配はない。
攻撃してくるというよりも、近づくことを警戒している感じだ。

これは、大人しく立ち去った方が良いのだろうか。
でもせっかく出会えた人間だし、せめて街とか村とかまでの道を教えてほしい。
ていうか、この異世界の森でまた1人になりたく無い。

できれば、こちらに敵意がない事を理解してもらって警戒を解いてもらえるのがベストなのだが・・。
距離をとりながら、ちらりと向こうを窺えば。
こちらを観察するような男の視線とぶつかる。
強い視線に怯みそうになるけど、態度を軟化してもらう糸口がないか、俺も必死で向こうの様子を探った。

そして、暗がりに目が慣れてきた頃、ようやく俺は気が付いた。

なんか・・・この人、ちょっと満身創痍じゃないか?

見える範囲内でも、細かい傷やアザが沢山ある。
地面にただ座っているだけかと思ってたけど、よく見れば岩壁に寄り掛かって身体を支えているような感じだ。
もしかして、近寄って来ないんじゃなくて動けないのか?

「なぁ、あんたもしかして怪我してるのか?・・・大丈夫か?」

言葉は通じないだろうけど、相手を刺激しないよう極力柔らかく声を掛けてみると
『・・カルバックの者では無いのか?聞いたことの無い言葉だが共通語も分からないのか』
相手から強い戸惑いを感じた。

「ごめん、何言ってるか分からないんだけど。えーっと、ちょっと待ってろ」
向けられたままの剣が怖いので、極力目線は外さず背中を見せないようにしたまま、ゆっくりリヤカーの荷台に向かう。
手早く救急ボックスとペットボトル飲料水を取り出して、俺は覚悟を決めて男に近寄った。
『近づくなっ』
突然近づいてきた俺に驚いたのか、男が警告するように剣を軽く突き出す。

「大丈夫、これ以上近寄らないから。取り敢えず、痛み止めやるからさ」
俺は剣の届かないギリギリの距離で足を止めて、救急ボックスから薬を取り出した。
まずは飲料水のペットボトルを、男の足元へ投げる。
男は警戒するように足元のペットボトルを見つめていたが、やがて恐る恐るそれを手にとった。
剣を持っていない方の手は怪我をしているのか、ボトルを拾い上げる動きがかなりぎこちない。

『何だこれは・・ガラスか?・・何故こんなに柔らかいんだ__それに見事な程透明だな』
男は不思議そうにペットボトルを観察しながら、何やら感心したように呟いている。
あぁ、プラスチックが珍しいのか?
男は物珍しそうにボトルを色々な方向から眺め、硬さを確かめるように握ったりしているが、全く蓋を開ける気配は無い。
うん、これは理解していないな。
っていうか、きっと蓋の開け方とかも分からないよな。

「あーー・・・、ごめん、ちょっと一回返して」
そっと声をかけると、男はハッとしたように下がりかけていた剣先を持ち上げた。
こいつ・・・ペットボトルに夢中で、ちょっと油断してたな。

「それ、返して。蓋開けるから」
ペットボトルを指さして、こちらに戻すようジェスチャーをする。
男は何となく理解したようで、少し名残惜しそうにしながらもペットボトルをこちら向かって転がした。
俺は、それを拾い上げると素早くキャップを捻り開封して
そのまま男の目の前で、安全性を証明するように中身を一口飲んで見せた。

『・・それは、まさか水なのか』
少し驚いたような男の足元へ蓋を軽く絞めたボトルを再度転がしてやると、今度は躊躇いなく拾い上げられた。
『私に、これをくれるのか・・?』
伺うような男の様子に、飲め飲めと水を飲むジェスチャーをする。
俺の開け方を見ていたからか、男はさほど迷うこともなくキャップを回して外した。
匂いを嗅いだりして中身を確認しているようだけど、俺が最初に飲んで見せたのが良かったのか、男は警戒しながらもそっとボトルに口をつけた。

口に含んだそれが本当にただの水だと理解したのか。
次の瞬間、男はもの凄い勢いでボトルの中身を飲み始めた。
水がみるみると減っていく。
喉が渇いていたのかもしれない。
あっという間に空っぽになったボトルを見て、俺はもう一度リヤカーから同じものを持ってくる。
あらかじめキャップを緩めておいて、男の足元にまた転がす。
男は少し迷うような素振りを見せたが、再び水に口をつけて、今度はボトルの半分ほどの量を飲んだ。

「喉渇いてたんだな。ほら、薬」
男が水を飲み終わるのを待って、今度は握りしめていた痛み止めの薬を投げる。
フィルムに包まれた薬を、彼はそっと拾いあげた。
『何だこれは?』
「それは痛み止めな。ほら怪我いっぱいしてるから。分かるか?薬」
怪我を指さしてから薬を飲むジェスチャーをするが、うまく伝わっていないようで、男は不審そうに渡された薬を見るだけだ。
「はぁ・・しょうがねぇな」
仕方なしにもう一つ薬を取り出し、自分用の水を持ってくる。
さっきと同じように、男の目の前で今度は薬のフィルムを破って中身を飲んで見せる。
俺はどこも痛くないが、別に問題ないだろ。
「な?毒じゃねぇから、大丈夫だって」
次はそっちの番だと、再度薬を飲むように促す。
『・・・・なるほど、薬だと言いたいのか?』
男は何か納得したように頷き、しばらく考え込んでからフィルムを破って中身を口に運んだ。
しかし、薬を口に入れる直前でピタリと止まると、俺を静かに睨みあげる。
『私を騙したら、ただでは済まさんぞ』
ゾッとするほど低い声で唸られ、俺はビシリと硬直する。
え、何。なんで急にそんな恐い声出すの?
固まる俺をよそに、男は見せつけるように薬をゆっくりと嚥下した。

何となく威嚇されたような気がして、俺はそっとリヤカーの側に戻った。
いつの間にか、外はだいぶ暗い。
うーん、俺ここに居て大丈夫なのかな。でも、もう外歩くには暗すぎるしなぁ。
それに、友好的で無くても、怪我人を放っていくのも後味が悪いし。
向こうは積極的に襲いかかってくる感じでも無いから、離れて様子をみてみるか。
2~3mくらいの距離をとって、俺は岩穴の入り口ギリギリに陣取る。
男は黙ってこちらを見てたけど、距離をとったおかげか剣は地面に降ろされた。
それを見て、取り敢えずこの距離ならいても良いってことだろうと俺は勝手に解釈する事にした。

リヤカーの荷台を漁って、荷物の隙間埋めに詰めていた手回し式LEDランタンと毛布を取り出す。
かなり暗くなってきたので、灯りが必要だ。
ついでに一斗缶に詰まった非常食のビスケットも数袋取る。
湿っていなさそうな地面を選んで腰を下ろし、持ってきたランタンの取手を充電のため必死に回し始める。
意外としんどい。
しばらく回し続け十分に充電されたことを確認してスイッチを入れると、強い光ではないが俺の周りが明るくなった。
奥にいた男がギョッとしたように、体を揺らしたのが分かった。
あちらにも光が届くようにと、俺と男の中間位にランタンを置く。
それから、数枚ずつ包装されたビスケットを数袋と新しいペットボトルを2本、男の足もとに投げておいた。
男はしばらくそれを見つめていたが、比較的すぐに受け取ってくれた。
別に餌付けしようってわけではないが、警戒が薄くなったような気がして、ちょっと嬉しい。
変に刺激したくないので、それ以上は干渉せず俺は自分の定位置に戻って、自分のぶんのビスケットを食べ始める。
非常食用だからか通常のビスケットより大きめのそれは、二袋食べると結構腹に溜まった。
ほんのり甘いビスケットは、意外と美味しかった。
やることも無く、すっかり暗くなった外をぼんやりと眺めれば、今までに見たことの無いくらいの満点の星が広がっていた。
「はぁー、スゲェー・・・。めっちゃ綺麗」
写真でみるような絶景に感動を覚える。
まぁ、でかい島が浮いているのと、月が紫なのがちょっと引っかかるが。
目の前をまた、キノコの集団が走り抜けた。
「ほんとに、ここ地球じゃ無いんだな」

夜になって気温が下がり、俺は肌寒さに毛布の中で体を縮めた。
疲れのせいか、徐々に眠気が襲ってくる。
武器をもった人間が側にいるのに、我ながら緊張感が足りないと思うけど眠いものは眠い。
これ、多分さっき飲んだ痛み止めの副作用だな。
妙に強い眠気の原因に思い当たって、同じ薬を飲んだ男をそっと見ると。
お?もしかして、あいつも寝てる?
男は剣を握りしめたまま、目を瞑っていた。
しばらく様子を見てたけど、どうやら本当に眠っているようだ。
そっと立ち上がって静かに近づくけど、起きる様子はない。
今までで一番の最接近にドキドキするが、男を起こさないように忍足で側にいき。
俺はそっと、そいつに毛布を掛けてやった。
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