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魔界レンジャーの案内で地下の魔界の大宮殿に着くと希美ちゃんと江実矢君の結婚式の最中だ。なんとか逃げ出すしかない。

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あらすじ
 魔界レンジャーの案内で地下の魔界の大宮殿に着くと希美ちゃんと江実矢君の結婚式の最中だ。なんとか逃げ出すしかない。

 チアリーダーの女の子達は魔界レンジャーに案内されてステージの裏手に歩き始めた。いったい何が起こるんだろうか。有紀は彩香ちゃんと一緒に女の子達の列に紛れ込んで一緒に歩き出した。
 ステージの裏手に進むと魔界の入り口は、さっきよりずっと大きく開いている。黒色レンジャーが先頭に立つと、女の子達は魔界の入り口から地下道に一列で降りていく。魔界の地下道は前来たときと同じに、足元がふわふわとしていて歩きづらい。しばらく地下道を降りていくと、分かれ道がいつくも見えた。黒色レンジャーに案内されて狭い道に入ると、だんだんと道が細くなっていく。
 そのままずっと薄暗い坂を歩き続けると、だんだんと道が広くなって急に大広間に出た。地下の魔界の大宮殿が目の前に広がっていて有紀はびっくりして目を見開いた。天井からは水晶のようなつららが垂れ下がり、あちこちに池がある。宮殿の真正面には大きな椅子が二つ並んでいる。豪華な宝石で飾れれた椅子は、王様と女王の椅子みたいだ。右側の椅子に江実矢君が座ってる。その左側に座ってるのは希美ちゃんだ。
 江実矢君は学ランみたいな黒い制服に銀色の飾りのついた服を着てる。まるで銀紙を使って折り紙でも作ったような、飾りを見て彩香ちゃんは可笑しくて笑い出しそうになった。だけど有紀は江実矢君の格好に見覚えが有るのに気がついた。あの魔界大王も同じ格好をしていた。
 希美ちゃんは紫とピンク色の縞模様のドレスを着ている。上半身は胸が大きく開いて、レースの飾りがいっぱいついてるけど希美ちゃんの胸が小さすぎるのでお色気なんかありゃしない。ガーターベルトをしてるけど、スカートが短すぎて紫とピンク色のパンティーは丸見えだ。それにストッキングは大柄の編み目の入った高級そうなお色気のあるブランド品らしくて、まだ中学生の希美ちゃんには全然似合わない。
 王座の前の広間には、大勢の魔界の魔物達が集まっている。魔物達は豪華な衣装に着飾って、みな真面目な顔で大人しく立ってる。ちょうど中央に、大きなウェディングケーキが用意してあるのが目に入った。蝋燭が一杯並んだウェディングケーキは数え消えないほど段が重なっている。生クリームの飾り付けの上にはイチゴが沢山ならんでいてチョコレートでお祝いの言葉も書いてある。魔界の言葉で書いてあるチョコレートの文字は何が書いてあるのか判らないけど、きっとおめでとうとの言葉に違いない。
 彩香ちゃんのお誕生会の時ママが作ってくれるバースデーケーキと比べても何倍も超豪華なケーキだ。そしてケーキのすぐ前のテーブルには大きな王冠が用意してある。
 テーブルの横にはデパートの手提げ袋みたいな包みが沢山積み上げられていて、結婚式の引き出物らしい。なんと希美ちゃんはあの、魔界大王の娘でこれから希美ちゃんと江実矢君が結婚するらしい。江実矢君の戴冠式も一緒にやって、江実矢君がこの魔界の大王になるってことだ。
 王座のすぐ後ろには、アメジストリングが5つピラミッド型に組んであり、中に小さな人形の様な黒い物が見える。薄黒い固まりからは、銀の飾りの付いた服がはみ出して顔が半分だけ見えている。小な固まりに縮められちゃったのは、あの魔界大王だ。アメジストリングの魔力で、魔界大王を幽閉してしまったのだ。
 王座の裏手は、薄暗い洞窟になっていてあのタコ怪人が大きな足をくねらせて立ちはだかっている。その両側には桃色レンジャーと青色レンジャーが居る。チアリーダーの女の子達はひとりづつ順番にタコ怪人の前に連れて来られてる。
 桃色レンジャーと青色レンジャーが女の子の両手を掴んで左右にひっぱって立たせると、タコ怪人の長い足が、女の子の身体に巻き付いて撫で回してる。女の子の身体に足の先が食い込むと女の子の身体が震えだした。タコ怪人の背中の大きな膨らみが真っ赤に輝いて膨れ上がってる。こうやって女の子の生命エネルギーを取りだしてるらしい。
 次にタコ怪人の足の先が小さい消しゴムくらいの大きさにちぎれると、女の子の身体の中に押し込まれた。見たことのあるその形はあのグローパーだ。グローパーを入れられると、変な事をされても逆らえなくなるし、生命エネルギーがグローパーに溜まるんだと良一君がいってたけど、グローパーはタコ怪人の足の先だったんだ。だから生命エネルギーを吸収すると大きくなって、沢山集まるとタコ怪人の子供に成長するんだ。だとするとタコ怪人の分身がこれからどんどん生まれて来ちゃうてことだ。女の子達はグローパーを取り付けられた後タコ怪人の後に続く洞窟の通路に進んでいく。このあと女の子達がどうなるのかさっぱり見当もつかない。
 タコ怪人の足が一本細長く伸びて、アメジストリングまで伸びてるのに有紀は気がついた。取りだした生命エネルギーはタコ怪人の背中の膨らみに溜まると、魔力に変換されてアメジストリングに流れ込んでるんだ。魔界大王を封印するためには、それだけ強力な生命エネルギーが必要なんだ。アメジストリングに魔力を注入するために、こうして女の子達の生命エネルギーが必要なのだ。それでファッションモデルの女の子や、バレーボールの選手やチアガールの女の子達を大量に誘拐する必要があるんだ。それも希美ちゃんが江実矢君と結婚したくて、タコ怪人に魔界戦隊レンジャーが持ってるアメジストリングを集めさせたのだ。
 魔界が出来る前からある不思議な力のあるリングで全部で7つある。タコ怪人はもともとアメジストリングをしまっておく金庫の番人なんだ。希美ちゃんが以前大魔王におねだりして二つ出してもらって、希美ちゃんが魔界から普通の世界に行くときに持っていって一つは自分で持ってて、もう一つは結婚の約束をした江実矢君に渡したんだ。
 だけどタコ怪人は魔界大王を倒して自分が魔界の支配者になろうと前からたくらんでいた。アメジストリングは全部で7個だ。
 今は希美ちゃんと江実矢君が一つづつ持ってるけど、残りの5つのアメジストリングを使えば、魔界大王を封印できる。それで魔界大王は由美ちゃんを使って魔界戦隊の持っているアメジストリングを集めさせたんだ。そうすればタコ怪人は自分が魔界の支配者になれると密かにチャンスを狙っていたんだ。
 希美ちゃんには魔界大王が決めた結婚相手の義信さんがいる。だけど希美ちゃんが結婚したいのは江実矢君だ。魔界大王は希美ちゃんの結婚相手を義信さんに決めている。いくら希美ちゃんがわがままでも魔界大王が決めたことには逆らえない。そこでタコ怪人が希美ちゃんをけしかけて、魔界大王を封印してしまう企みだったんだ。
 アメジストの残りの5つはタコ怪人の孫娘の由美ちゃんが、タコ怪人が金庫から取りだしたあとすぐにこっそりと持ち出してしまったのだ。そして魔界のアメジストリングの魔力で魔界戦隊レンジャーを結成してタコ怪人を倒そうとしてたんだ。由美ちゃんの父親は魔界大王の忠実な部下で、タコ怪人が魔界を支配するなんて由美ちゃんはとても許せなかったんだ。
 タコ怪人はドラマの収録の振りをして、江実矢君を誘拐してイカ怪人を江実矢君に化けさせたんだ。イカ怪人が魔界から破門されたなんてのは、嘘だったんだ。それにイカ怪人は女だから、江実矢君のズボンの前が膨らんでないのもあたりまえ。そのイカ怪人が他の魔界戦隊レンジャーを上手くだまして、由美ちゃんが他の魔界戦隊のレンジャーと付き合いたいって事にして騙したんだ。
 由美ちゃんは男狂いで毎晩違う男に抱かれたいなんて江実矢君に化けたイカ怪人に吹き込まれたら魔界戦隊のレンジャーだってやっぱり男だ。すっかりその気になって、由美ちゃん相手にあんな事やこんな事をしてみたくなるのも当たり前。しまいには由美ちゃんはタコ怪人に捕まってアメジストリングは取り上げられちゃて、今ではタコ怪人の奴隷だ。他の魔界戦隊レンジャー達もみな、由美ちゃんに騙されてアメジストリングを取り上げられてタコ怪人の手先になっちゃってる。
 江実矢君が魔界の大王になったって、本当の魔界の大王が勤まる訳がない。このままだったらタコ怪人が魔界の陰の支配者になっちゃう。魔界がタコ怪人に支配されたら、地上の世界だって大変な事になる。女の子はみんなタコ怪人の餌食にされちゃうに違いない。こうなったら何とかして、希美ちゃんと江実矢君の結婚式を止めさせるしかない。そのためにはどうしても江実矢君を助け出さないといけないんだ。だけどどうやって助けるか判らない。
 彩香ちゃんはすぐ目の前に火災報知器があるのに気がついた。なんで魔界に火災報知器があるのか判らない。これを押せばなんとかなるかもしれない。だけど目の前にタコ怪人が立ちはだかって居てとても近づけない。
 有紀が彩香ちゃんに顔を向けると、彩香ちゃんも有紀の目を見て合図した。彩香ちゃんがタコ怪人の注意を引きつけるから、その間に火災報知器を押すという作戦だ。
 彩香ちゃんがタコ怪人の裏手に回ると急に身体をくねらせて「いやんだめー」と大きな声で叫んだ。目の前を並んで順番をまっていたチアリーダーの女の子達が一斉に彩香ちゃんの方に振り向いた。タコ怪人も女の子に巻き付けていた足を止めて、大きな体を彩香ちゃんの方に向けた。タコ怪人の大きな頭がブルンと震えると、彩香ちゃんは恐くて足が震えだした。恐くて叫びたいのを必死で我慢しながら彩香ちゃんはもう一度「もう、いやーん」と大声で叫んだ。
 タコ怪人は彩香ちゃんがなんでそんな言葉を大声で言うのか訳が分からないらしくて、八本の足をぐるぐると廻した。急に超電磁ブラジャーが振動を始めて、大きくなったり小さくなったりを繰り返しはじめた。まるでお餅が伸びるように、超電磁ブラジャーの胸の膨らみが前に突き出したり引っ込んで潰れたりを繰り返してる。
 何がどうなってるのか判らない。
 怪訝な顔で首を傾けながらタコ怪人が彩香ちゃんに近づくと、タコの足先を一本彩香ちゃんの足首に絡ませた。タコ怪人が絡ませた足をぴんと引っ張ると、彩香ちゃんは急に身体を震わせて「ああんだめ、そんなのだめ」と叫んで一歩前に歩み出た。急にタコ怪人の背中の膨らみが赤くなったり青くなったりと点滅を始めた。タコ怪人の足先が、彩香ちゃんの身体に巻き付こうとした。彩香ちゃんから生命エネルギーを抜き取ろうとしたらしい。
 だがタコ怪人の足の先がビリッと震えると、すぐにすっ飛んで彩香ちゃんの身体から離れた。超電磁ブラジャーがタコの足を跳ね返したらしい。
 もう一度タコ怪人の足が、彩香ちゃんの胸に巻き付こうとしたが今度はタコ怪人の身体が丸ごと跳ねて飛び上がった。この隙にと有紀が火災報知器に歩み寄ったけど、すぐにタコ怪人の足が有紀の足元に絡みついてきた。
 火災報知器に手を伸ばそうとしたけど、どうやってもだめ。タコ怪人の足にきつく締め付けられて動けなくなった。桃色レンジャーと青色レンジャーがすぐに彩香ちゃんと有紀に駆け寄ってくると手をねじり上げた。
 背中の裏で手を捻り上げられると痛くてもうとても逆らえない。そのまま引きずり廻されて王座の前に連れてこられると、希美ちゃんが鞭をもって待ちかまえてる。希美ちゃんは彩香ちゃんの顔を見て、江実矢君を横取りされるとでも思ったらしい。
「なによ、あんたなんか。これからは、あなたは私の奴隷なのよ」と言って鞭で彩香ちゃんを叩きつけようとした。
 ぴしゃっと鞭の先が彩香ちゃんの胸に飛んできたけど、鞭は途中で跳ね返されてぴゅんと戻った。この超電磁ブラジャーには鞭を跳ね返す力があるらしい。
 長い鞭の先が跳ね上がると、天井まで届いて跳ね返ってきた。鞭の先が天井に届いたとき、天井の岩が崩れて泥水と一緒にウェディングケーキの上になだれて落ちてきた。
 一瞬の出来事に、誰にも止めようがない。
 天井近くまで重ねられていたウェディングケーキはあっという間に崩れて泥だらけになってしまった。これじゃあ、結婚式は台無しだ。希美ちゃんの顔がまるで爆発したみたいに、怒った顔になった。
「なな、なによ、なにすんのよ、」と言葉に詰まると、希美ちゃんは大きく鞭を振り上げた。
 希美ちゃんが思い切り腕を伸ばして鞭を叩きつけると彩香ちゃんの超電磁ブラジャーにまた跳ね返された。今度は鞭の先が横に跳ねて並んだ魔界の魔物が慌てて逃げ出した。希美ちゃんがもう一度こんどは思い切り勢いをつけて鞭を叩きつけようとした時急に江実矢君が希美ちゃんの手を掴んだ。江実矢君が両手でしっかりと希美ちゃんの手を握ると、急に希美ちゃんは恥ずかしそうにしてうつむくと「なにすんのよ」と小さく囁いた。
 江実矢君が「彩香ちゃんには手を出さないって約束だよ」と大きな声で希美ちゃんを叱りつけたのが有紀にもはっきり聞こえた。江実矢君は希美ちゃんと結婚する交換条件に彩香ちゃんには手をださないとタコ怪人に約束させたらしい。
「何よ、私そんなの聞いてないわよ」と希美ちゃんが江実矢君の手を振り解いて鞭を大きく振り回そうとすると、江実矢君が希美ちゃんから鞭を取り上げた。
「ちょっと何のつもりよ」と希美ちゃんが江実矢君から鞭を取り返そうとしたが江実矢君は手に力を入れて押し返した。なんどか希美ちゃんが押し返された後偶然に二人のアメジストリングが触れ合ってピカッと火花が出た。
 驚いた江実矢君の手がすべって鞭を落としそうになった。慌てて鞭を持ち直そうとしたとき、鞭の先がふっと揺れて希美ちゃんの身体に触ってしまった。ちょっと触っただけだが、よっぽど痛かったのか希美ちゃんは急にその場に倒れ込んだ。
 江実矢君が慌てて希美ちゃんを助け起こそうとすると、希美ちゃんは顔色を変えて「許してください、お願いします、もう何でも言うとおりに致します」とその場に四つんばいになった。
「何度でも鞭で叩いて下さい、お願いします」と希美ちゃんが言い出すので彩香ちゃんはびっくりして様子を見ていた。変だと思ってたけど、この鞭は普通の鞭じゃなくて特別に魔力があるらしい。そう言えば魔界戦隊ショーの時もタコ怪人が桃色レンジャーを鞭で叩いてた。あのときも桃色レンジャーはなんだか様子が変だったけど、この鞭で叩かれると気持ちが良く成っちゃうらしい。
 逃げるには今しかない。
「一緒に逃げるのよ」彩香ちゃんが江実矢君に駆け寄った。
「早くして」彩香ちゃんが大声を出すと、江実矢君も鞭を持って駆けだした。だが逃げだそうとした目の前にタコ怪人が現れた。大きく足を広げて、立ちはだかった姿は気味が悪くてとても正視できない。
 江実矢君が鞭をしならせて、タコ怪人を打ち付けたが鞭が跳ね返った。するりとタコ怪人の足が伸びてきて江実矢君の持った鞭を取り上げようとした。だが今度はタコ怪人の足が、ぴしゃりと逆に叩きつけられて跳ねて飛んだ。
 タコ怪人は女の子達の生命エネルギーを背中に充電器に溜めてるから鞭が効かない。だけどタコ怪人の足は、先が長くて生命エネルギーが弱くしか届かないから鞭には敵わないのだ。
 またタコ怪人の手が真正面から伸びてきたが、ふと右と左から別の手がいっぺんに伸びてきた。いくら鞭の魔力が強くても、左右同時には叩けない。
 彩香ちゃんの足にタコ怪人の足が届いてくると、彩香ちゃんの身体を引っ張り上げて宙に持ち上げた。彩香ちゃんの身体が真っ逆さまになって、タコ怪人の真上に持ち上げられるた。
「さあ、鞭を渡すんだ」とタコ怪人がお腹に響くような低い声で怒鳴りつけてきた。だが江実矢君はすばやく床に寝そべった希美ちゃんのそばに駆け寄った。いくらタコ怪人が彩香ちゃんを人質にしても、江実矢君が希美ちゃんを人質にしてしまえば、江実矢君の勝ちだ。
「なによ、私と彩香ちゃんのどっちが大事なのよ」と希美ちゃんは今度は口をとんがらかせて江実矢君に言い寄った。その時、有紀に凄いアイデアが思いついた。
 有紀がこっそりと江実矢君の耳元で作戦を囁くと、さっそく江実矢君が鞭を希美ちゃんに叩きつけた。希美ちゃんの身体に鞭が当たると、希美ちゃんは身体をくねらせてまた床に四つんばいになった。もっと強く叩けばいいのにと思ったけど江実矢君はそれで精一杯らしい。
「タコ怪人の足を口に入れるんだ、お前の口の中に入れてしゃぶるんだ」と江実矢君が希美ちゃんの背中を鞭でこづきながら命じた。
「だめ、ぜったいだめ、本当にゆるして」と希美ちゃんは狼狽えて手足をばたばたさせると今度は大声で泣き出した。
「絶対らめー」と声にも成らない口調で泣き崩れる希美ちゃんを見て有紀はこれでうまく行ったと思った。タコ怪人の足は、女の子から生命力を奪うすごい威力がある。いくら希美ちゃんでも、あのタコ怪人の足なんかを口に入れられる訳がない。それにタコ怪人の足をしゃぶったりしたら、あの桃色レンジャーと同じにタコ怪人の奴隷に成っちゃう。
「じゃあ、このタコ怪人に抱きつなさいよ」と今度は有紀が冷たい口調で希美ちゃんに命じた。
「そそ、それもだめ」また希美ちゃんが泣きじゃくった。
 希美ちゃんが抱き合う相手は、結婚相手の江実矢君しかいない。魔物とは言えタコ怪人なんかと抱き合ったら、もう江実矢君と結婚なんかできなくなっちゃう。
「じゃあ、服を全部脱いで裸になんなさいよ」とまた有紀が冷たい口調で希美ちゃんに言いつけた。
「それもだめ、ほんと許して」と希美ちゃんが必死で床にはいつくばって頭を下げた。希美ちゃんはこの魔界の女王様になるはずの女の子。部下の魔物の前で裸になんか成ったら、もう女王様になんか成れっこない。
「じゃあ、僕たちがここを出るまで、動くなと命令するんだ」と江実矢君がこれぞとばかりに希美ちゃんに命じた。希美ちゃんは気分が落ち着くまでなんどか大きく息を吐いてから、魔物の前に立って身体を反り返らせて胸を張った。
「全員静まれー、整列、前ーならえ」と希美ちゃんが大声で命じると、タコ怪人が彩香ちゃんをそっと江実矢くんの目の前に置いた。そのあとすぐにタコ怪人は希美ちゃんの前に立つと全部の足を上に掲げて直立不動になった。
 前列に並んだ魔物達も、みなタコ怪人と同じ格好で両手を上げると、後に並んだ魔界達が一斉に前習いを始めた。前から後へと魔物達の中を前習いの動作が波のようにして伝わって行く。列の最後まで前習いが済んだのを確かめると希美ちゃんが「これでいいですか」とまだ怯えた口調で江実矢君に報告した。
 広い地下の城で魔物達が一斉に前習いをしてるを見てると、まるで朝の朝礼みたい。動くと希美ちゃんに叱られると思ってるのか、魔物達は立ったまま身動き一つしない。逃げるなら今がチャンスだと有紀は彩香ちゃんの手を引っ張った。このチャンスを逃したらもう逃げ出すチャンスは絶対ない。
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