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カラオケに無理矢理誘われて危ない目に会いそうになって必死で逃げ出す。彩香ちゃんの家に戻って魔界戦隊ボードを調べるとどうも怪しい。

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あらすじ

 カラオケに無理矢理誘われて危ない目に会いそうになって必死で逃げ出す。彩香ちゃんの家に戻って魔界戦隊ボードを調べるとどうも怪しい。

 原宿駅の方向に歩き出すと、目の前を男の子達にふさがれた。さっきの良一君だ。
「ねえ君たち、さっきカラオケに行きたいっていってたよね」と良一君が馴れ馴れしい手つきて江実矢君の手を取りながら言った。
「そんなこと言ってません」と彩香ちゃんがきっぱり否定したけど「いや、ちゃんと言ったじゃないか、僕はちゃんと覚えてるよ」と良一君は納得しない。
「だから、私達そんな事言ってません」ともう一度彩香ちゃんがきっぱりと断ったが「さっき言ってたよなあ、そうだろう」と他の男の子達にも声を掛けた。さっき一緒に話したのは良一君だけで他の男の子達なんか関係ないはず。
 彩香ちゃんが江実矢君の手をとって無理矢理に引っ張ろうとすると今度は良一君が江実矢君の手を反対側にひっぱった。
「痛い、」と江実矢君が悲鳴を上げたので彩香ちゃんは思わず江実矢君の手を離してしまったがもう遅い。他の男の子が江実矢君の後ろからお尻を押すような格好でどんどん歩き出しちゃってる。仕方なく彩香ちゃんが駆け出すと有紀も後ろからついていった。男の子達はどんどん先に進むので、彩香ちゃんは半分駆け足で必死で追いかけた。走りながらスカートがめくれちゃうけど有紀もそんな事なんか気にしてなんかいられない。
 竹下通りを抜けて大通りの角を曲がると大きなビルにカラオケ「バンブー」という看板が見えた。男の子達が店に入ろうとしたとき、やっと有紀と彩香ちゃんは男の子達に追いついた。ここまできたらもう一緒にカラオケをするしかない。適当に相手をしてすぐ帰ろうと思って、仕方なくみんなでカラオケをすることになった。
 エレベータで上がってカラオケルームに案内されると男の子達はすぐにソファに座って曲を選び始めた。江実矢君と彩香ちゃんと有紀の三人に男の子が三人というのはどう考えたって危ない。カラオケだけで済むわけがない。
 こうなったら彩香ちゃんと有紀の2人で江実矢君を守るしかない。手早く有紀がカラオケのマイクを取って彩香ちゃんと江実矢君に渡した。もう伴奏なんかどうでもいいから、ともかく歌って誤魔化すしかない。彩香ちゃんが「ケロロ軍曹」の主題歌を大声で歌い始めると、江実矢君も歌い出した。有紀も男の子達が近づかないように用心して、男の子が来たら蹴飛ばしてやろうと思って身構えた。
 男の子達はなかなか歌う曲が決まらないらしくてまだ歌集を広げて番号を確かめてる。「ケロロ軍曹」あとは幼稚園の時いつも歌ってた「大きなクリの木の下で」を有紀が歌い始めた。踊りも一緒だから、これならなんとかごまかせる。他にも歌う曲が思いつかないので、繰り返して「大きなクリの木の下で」を歌ってると、男の子が紙の帽子を被って、彩香ちゃんの横で一緒に歌い始めた。お酒が少しはいってるらしくて、立っていても足元が危なっかしい。
「大きなクリの」とどら声で歌いながら、男の子が彩香ちゃんに身体を押しつけてくるので彩香ちゃんは困った顔で眉を歪めた。
「大きなクリとリスの下」と男の子達がエッチな替え歌を歌い始めて、このままじゃ不味いことになりそうだと気がついた。
「トイレに行かせて下さい」と有紀が大きな声をだして歌を止めた。
「おい、勇二お前いっしょにいってやれ」と男の子の一人が踊る手を止めて大声をだした。江実矢君と並んで踊っていた男の子が一人前に出て有紀の前に立ちはだかった。
「一人で行けます」と有紀が慌てて言い返したが逃げられると思ったのか一人でトイレに行かせては貰えそうにない。仕方なく勇二と呼ばれた男の子の後から部屋をでると、勇二君はすぐに有紀の腕を抱え込んだ。
 両手でしっかりと掴まれるととても女の子の力では逃げられない。階段のすぐ横のトイレの前まで来ると、勇二君がいきなり有紀をトイレの横の鏡に押しつけてきた。思わず声を上げて助けを呼ぼうとしたが、顔が冷たいガラスに押しつけられて声が出せない。
「おいお前なにやってんだ」とすぐ後から男の人の声が聞こえた。
「何でもないです」と勇二君が知らん顔して言い返したが「何でもないわけ訳ないだろう、いやがってるじゃないかこの子、まだ中学生だろう」と男が怒鳴りつけてきた。
「妹なんでも、いまトイレに行く所なんです」と勇二君が誤魔化すと「あ、そうか、トイレはこっちだぜ早くしな」と言って男の人はすぐに男子トイレに入ってしまった。
「トイレに行かせてください」と有紀がまた大声をだすと勇二君はやっと有紀の身体から手を離した。有紀は慌ててトイレの個室に入ると携帯を出して彩香ちゃんに「今トイレにいるけどどうしよう」とメールした。彩香ちゃんからメールの返事が来ない。
 きっと男の子達に絡まれてとてもメールの返事など出来ないにに違いない。
 携帯でさっきの魔界戦隊の情報ボードを見てみると、ちょうどいまカラオケルームに居る彩香ちゃん達の写真がアップされてる。2人ともソファーに押し倒されて逃げられない。
 こうなったら今すぐでも2人を助けに行くしかない。
 どうしようと思ったとき、さっき階段に消火器が置いてあるのを見たのに気がついた。消火器があるってことは、きっとそのすぐそばに火災報知器があるに違いない。火災報知器を押せばきっと大きなベルの音がなって、誰かが「火事だー逃げろ」と大きな声をだすはずだ。そうすれば上手いこと彩香ちゃんと江実矢君を連れて逃げ出せるはず。
 どうにかして火災報知器さえ押せればなんとかなると思って、トイレを出るとすぐ目の前で勇二君が待ちかまえてる。
 有紀がトイレから出てくるのを見て勇二君がすっと近づいてきて、有紀の前に立ちはだかった。勇二君の手が伸びで有紀の手を掴んでしっかりと押さえて離さない。
「ねえ、勇二君」と有紀はちょっと甘えた声で、膝をかがめて品を作って言ってみた。勇二君の頬がぴくっと動いて、なんだかこれはうまく行きそうな予感がした。
「私ね、勇二君と二人っきりになりたいの、その方が勇二君もいいでしょう」と頑張って心にもない台詞を口から押し出すように言うと勇二君もまんざらではない様子。
 もう一押しだと思って「さっきみたいに邪魔されちゃうとやでしょ」と有紀が言うと勇二君も「そうだね」と顔を綻ばせて頷いた。
「ねえ、こっち」と有紀が声を掛けながら、勇二君の手をひっぱって階段の方に歩きかけた。勇二君もすぐに有紀と一緒に歩き出したのでこれなら大丈夫と有紀は思った。
 階段を降りた途中の踊り場に、消火器が置いてありそのすぐ上に火災報知器のボタンがあるのが見えた。有紀は火災報知器のボタンを背にして、壁に寄りかかると火災報知器の場所を確かめた。背中を横にずらして、火災報知器がちょうどお尻のあたりに触れたとき有紀は指先で火災報知器のボタンを押し込んだ。
「リリリーンン」というベルの音がすぐ耳の後ろから響いてきた。
「火事だーー」と階段の下から大きな怒鳴り声が聞こえて来た。階段を店員らしい男の人が駆け上がってくると、勇二君を突き飛ばして消火器を抱えて「火事はどこだー」と大声を張り上げた。勇二君は背中から床に倒れ込んで、すぐには起きあがれない。
「こっちです」と有紀が店員を案内して、さっきのカラオケの部屋に戻った。
 ドアを開けて中を見たが部屋には誰もいない。変だと思って店員が部屋の中を確かめると、ソファーのすぐ下で彩香ちゃんと江実矢君が押し倒されて男の子達が上からのし掛かってる。
「助けて、有紀ちゃん」と彩香ちゃんのかすれた声を聞いて店員が「また、お前らか。お前らなにやってんだバカヤロー」と大声を張り上げた。どうもこの男の子達しょっちゅう同じ手で女の子をナンパしてるらしい。店員のが男の子の腹を思い切り蹴り上げると「ギャフン」とうめき声をだして男の子の身体が飛び跳ねた。他の男の子達が立ち上がって店員に飛びかかろうとしたが、すぐに弾き返された。随分強いと思ってびっくりして見ていると、店員の男の子は手を広げて映画のシーンみたいにポーズを取ってる。その隙に彩香ちゃんが起きあがって江実矢君を部屋から連れ出した。
 廊下を出て、階段を降りようとするとさっき店員に突き飛ばされた勇二君が両手を左右に広げて、階段の前で通せんぼしてる。彩香ちゃんは腹が立ったのか怒った顔で、思い切り走り出すと勇二君に体当たりした。彩香ちゃんの体当たりは小学校の時男の子達に恐れられたプロレス並の威力だ。男の子達に校庭の裏に呼び出されて取り囲まれた時も彩香ちゃんの体当たりに全員が地面に倒されちゃったことがあるくらいだ。その時以来彩香ちゃんに刃向かう男の子は小学校には居なかった。
 肩口から勢いをつけて、みぞおち深くぶつかられて勇二君はそのまま階段を真っ逆さまに回りながら落ちていった。勢いがついて階段の踊り場を転げ回ってそのまま一階のホールまで勇二君の身体が落ちた。
 上の階から避難してくる客達の勢いにおされて、三人も大あわてで階段を駆け下りた。受付前のホールには、もう大勢の客が我先にと出口めがけてごった返してる。有紀は勇二君のことが気になって、勇二君の横を急ぎ足で駆け抜けながら、横目で様子を確かめてみた。
 必死に身体を起こそうとしてる所を見ると、死んじゃってはいないみたい。怪我でもしてないかと心配な気がしたけど、いまそんな事を気にしてる暇はない。彩香ちゃんが有紀の後ろから勇二君の横を通り過ぎようとしたとき、いきなり勇二君が手を伸ばして彩香ちゃんの足首を掴んだ。彩香ちゃんは驚いて足で蹴飛ばして勇二君の手を振り解こうとしたが、勇二君が力一杯押さえていてどうにもならない。勇二君の口元が変に歪んでるのを見て、有紀はどきっとした。彩香ちゃんのミニスカートの下が、勇二君の目の位置からだと丸見えだ。
 彩香ちゃんも何で勇二君が変な顔してるのか気がついて怒り狂った顔で、勇二君の上にまたがった。あれをやるんだと有紀はとっさに思った。
「彩香スペシャル」あの必殺技を彩香ちゃんは勇二君に仕掛けるつもりなんだ。彩香ちゃんが後ろ向きに、勇二君の突き出たお腹の上にしゃがんで腰を降ろすと、両手で勇二君の膝を抱え上げた。
 彩香ちゃんが両足の踵を勇二君の股間に交互にぶつけると勇二君の悲鳴がホールに響いた。この彩香スペシャルは小学校の時、彩香ちゃんが「電気アンマ」より強力な技をと工夫して編み出した必殺技だ。一度でもこの技を食らった男の子は廊下で彩香ちゃんとすれ違っても端に寄って逃げようとするくらいだった。
 勇二君はもう大人だが、男の子の急所は大人だろうが、子供だろうが一緒だ。勇二君の甲高い叫び声を聞いて、これはもう勇二君が気絶すると思った時勇二君がとんでもない行動に出た。必死になって身体を起こすと、後ろから彩香ちゃんの上半身に抱きついたのだ。
江実矢君も困った顔でどうしたらいいのか判らないらしく黙って立ちつくすだけだ。
 こうなったらもう自分がやるしかないと有紀はすばやく勇二君の広げた足の前に駆け寄って、思い切り勇二君の股間を蹴り上げた。
「グエー」と叫びにもならない声をだして勇二君が身体を震わせて、動かなくなった。
 気絶しちゃったらしいけど、そんなこと有紀の知ったことではない。彩香ちゃんは勇二君の足が絡まってるのですぐには立ち上がれない。江実矢君と有紀が両脇から彩香ちゃんの足を抱え上げてやっとのことで、勇二君から彩香ちゃんの身体を引き離した
 まだ足元がおぼつかない彩香ちゃんを江実矢君と有紀とでひっぱって原宿の駅まで駆けだした。
 原宿の駅で電車に乗ると、渋谷で地下鉄に乗り換えた。電車が動き出してしばらくたって、彩香ちゃんの様子もだんだんと落ち着いてきた。
 駅を降りて三人でまず彩香ちゃんの家に行くことにした。
 彩香ちゃんが手伝って江実矢君を着替えさせるとお化粧も落とした。
 江実矢君が帰った跡に「ねえ、有紀ちゃん、ちょっとお茶飲んで行ってよ」と彩香ちゃんが言うので、有紀は一緒に彩香ちゃんの部屋に入った。
「今日はね、パパもママもいないの、だからゆっくりしていってね」と言いながら、彩香ちゃんが紅茶を出してくれた。
「今日は大変だったから疲れちゃった」と彩香ちゃんが呟くと有紀の目の前で着替えを始めた。女の子同士だから見られても全然気にしてない様子。
「ねえ、さっき凄かったわよね、あんなの初めて」と彩香ちゃんに言われたけど、今日は凄いことだらけなのでどれが一番凄かったのかなんて判らない。
「あの、さっきの魔界戦隊の情報ボードの事なんだけど」と有紀が半分言いかけると「う、調べてみればすぐ判るから」と彩香ちゃんが有紀の言葉を遮った。
 彩香ちゃんが学習机に座ると、すぐにインターネットにパソコンを繋いで画面を表示した。
 彩香ちゃんが検索ワードをいくつか試してみるとすぐに魔界戦隊の情報ボードは見つかった。
 すぐにパソコンの画面一杯に魔界戦隊のボードが表示されると、画像がいっぱい載せられている。ついさっきアップロードしたばかりらしい画像はクリックしてみると動画で、女の子が一杯映ってる。
 それについさっきのカラオケ店で撮ったらしいビデオも載ってる。それもクリックしてみると、彩香ちゃんがソファーの上に江実矢君と一緒に押し倒されているビデオだ。見ていた彩香ちゃんもびっくりして腰をぬかしちゃったみたいで、身体が凍り付いたまま動けない。
 ビデオが止まった後、彩香ちゃんがやっとのことで気持ちを取り直すとパソコンを操作して魔界戦隊のポードを色々調べ始めた。画像の一覧を一つ一つ見ていると、このあいだ久美子ちゃんが持ってきたのと同じビデオらしい画像を見つけた。
 暗証番号もボードに書いてあるので、入力してみるとすぐにビデオの再生が始まった。やっぱり誕生会の時みんなで見たのと同じ危ないビデオでだ。久美子ちゃんはわざと、あのビデオを見せてそれで女の子達を誘おうとしたらしい。あのUSBメモリーに入ってたビデオは、久美子ちゃんが家庭教師の東大生からもらったって言ってた。
「もっとビデオが見たかったら家庭教師の東大生を紹介するから直接会って暗証番号を教えてもらってね」と久美子ちゃんが言ってたのはどうも怪しい。
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