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立志館学園のチアリーディング部の助っ人に江実矢君が決まる。後ろ向きに宙返りする大業のバックフリップができる女の子が他にいないのだ。

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あらすじ
 立志館学園のチアリーディング部の助っ人に江実矢君が決まる。後ろ向きに宙返りする大業のバックフリップができる女の子が他にいないのだ

 二人で中学校に登校して教室に入ると、江実矢君が授業の始まる前に教科書を広げていた。どっからどう見ても普通の江実矢君だけどなんだか最近いつもと違うような気がする。彩香ちゃんも同じ気持ちらしくて、何度か江実矢君の様子を横目で確かめていた。
 授業が終わって帰ろうとすると、校庭にチアリーディングの女の子達が並んでる。真っ赤なチアリーディングのユニホームは、超ミニのデザインでスカートがボックスに成っている。身体の線にぴったしのユニフォームを着ていると、まだ中学生だけど女の子達は胸が大きく飛び出して見える。まだ中学一年生くらいの女の子は足も細くて身体も華奢だけど、中学三年生くらいの女の子は体つきももう高校生並みで足も太くてがっしりしてる。見かけない女の子達で、立志館学園のチアリーディング部らしい。
 校舎の窓からは、カーテンの陰で男の子達の視線がユニフォーム姿の女の子に釘付けになってる。担任の先生の話ではこの中学にチアリーディングのできる女の子を捜しにきてるらしい。もうすぐ全日本チアリーディング選手権が目前だけど猛練習で怪我をして、人数がたりないので困り果てて内の中学に話しが来たと言うことだ。一番困っているのはピラミッドのトップパーソンで、バックフリップができる女の子を捜してるんだとか。
 バックフリップと言うのは、大きく足を拡げて後ろに宙返りする大技だ。中学生でバックフリップができる女の子なんてそうそう探してもいるわけない。他にも技は一杯あるんだけど、バックフリップが一番難しいのでバックフリップさえできればあとは練習すればなんとかなるらしい。
 まずは体操部ならなんとか成るだろうという話しで、体操部の女の子達が練習用のレオタードに着替えて集合した。校庭の朝礼台の前に立志館学園のチアリーディング部の女の達が並んで、体操部の女の子が順にバックフリップに挑戦することになった。女の子の並んだすぐ後ろには、体操で使うマットが何段にも重ねて置いてある。体操部の女の子達は慣れてないので、ピラミッドの上に載るのだけでも一苦労してる。チアリーディング部の女の子達がまず二段のピラミッドを組んで、その一番上に登るんだけど誰もできない。
 途中でバランスを崩してしまって、ピラミッドから落ちてしまう。落ちたときに地面に尻餅をついた女の子は痛くてしばらくは立ち上がれない。なんとか一人だけ危ない格好でピラミッドの三段目に登ることができたけど、なかなか立ち上がれない。バランスを崩しそうになってやっとの事で立ち上がったけど、怖くて今にも泣き出しそうな顔。
 ピラミッドは三段で一番上に載るとまるで校舎の二階くらいの高さになる。いくらマットが置いてあってもそんな高い所からは怖くてとても宙返りなどできない。チアリーダーの女の子が「じゃあ、一二の三」とかけ声をかけても足がすくんで動けない。よろけてピラミッドが崩れそうになるともう立ってなんか居られない。ピラミッドからやっとのことで降りてくると、怖くて泣き出してしまった。
 結局誰もできなくて、他に誰かいないかと見回してみるとすぐそばのテニスコートにスコート姿のテニス部の女の子達が並んでる。さっきからコートの横でこっちの様子を見ていたらしい。先生がテニス部の女の子を呼ぶと、これは不味いと思ったのか女の子達はさっと姿を消して体育館の裏に逃げてしまった。テニス部の女の子達だって痛い目に遭うのはいやに違いない。
 チアリーディング部の指導の先生が、こっちを見て手を振って手招きしてるのが見えた。彩香ちゃんのすぐ隣でさっきから江実矢君も校庭を見学してる。どうも呼ばれているのは江実矢君らしい。指導の先生がこの間の立志館学園の学園祭で江実矢君がファッションショーに出たのを覚えていたんだ。
 あのときは机が崩れてキャットウォークから転落しそうになったのを宙返りして床に無事に降りた。それでチアリーディングのバックフリップもやればきっと出来ると期待してるみたいだ。江実矢君は男の子だけど色も白くて小柄で見た目も可愛らしいからチアリーディングのトップパーソンにはぴったしだ。
 チアリーディング部の指導の先生に大声で呼ばれて江実矢君は駆け足でグランドに降りた。まずはチアリーダーの女の子達が組んだピラミッドの一番上に登らなければいけない。その為には女の子達の手や足にしっかりつかまって、女の子達の身体に抱きつきながら他の女の子に身体を持ち上げてもらわないとできない。
 中学生とは言え立志館学園のチアリーダーの女の子達は皆体格もよくて、胸の結構大きい子ばかりだ。男の子の江実矢君がその女の子達のピラミッドに登るとあって、彩香ちゃんは気が気じゃない。江実矢君の手が女の子の胸や肩に触れるたびに、彩香ゃんの眉が寄って不満そうな顔をしてる。
 江実矢君も慣れてないせいか、なかなかすぐには女の子の身体につかまる事ができない。あちこちから女の子の手がさしのべられて、江実矢君の身体を上に押し上げるとやっとピラミッドの一番上に立てた。
 最初はしゃがみ込んだ姿勢だったけど、両手を女の子の肩から外して立ち上がった姿勢は今にも崩れそうで危なくて見ていられない。彩香ちゃんが大声で「頑張ってー、恵美ちゃん」と声を掛けたけど、江実矢君はビラミットに立っているので精一杯。
「じゃあ、いくわよ、一、二の三」と女の子が声を掛けた。
 江実矢君の身体が後ろに仰け反ると、あっという間もなく大きく足を開いて宙返りをしてそのまま下に落ちた。マットに身体がついた瞬間に江実矢君の身体がマットの中に沈み込んだ。
「あ、危ない」と彩香ちゃんが叫んだが、すぐに江実矢君はマットの中から立ち上がって彩香ちゃんに手を振った。校舎の窓から見ていた、男の子や女の子達はびっくりして声もでなかったがすぐにみんなが拍手をしてくれた。これでもうチアリーディングの助っ人は江実矢君に決定。そうは言ってもチアリーディングは女の子の競技だ。いくら江実矢君でも女の子の格好なんかできるわけがない。だけチアリーディング選手戦は、今年から男の子でも参加できるというので先生方も納得した。
 翌日から江実矢君は立志館学園の朝練に朝早くから参加して、そのあと区立北側中学に来る事になった。立志館高校は地下鉄で数駅先だから朝の授業には間に合うはず。すこし位は授業の始まる時間に遅れてもいいからと言うことになった。
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