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〜第1章 学院生活〜

第16話 〜班別対抗 アリスVSルング〜

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 一週間後━━━━━━

 10組の生徒たちは、班別対抗試験のためラ=グーア魔王学院の裏側にある魔樹の森へ来ていた。
 薄気味悪さの漂う深い森が広がっており、渓谷や山が見える。その広大な土地は、魔法の訓練をするのにちょうどいいだろう。

「それじゃ……二班に分かれて、早速班別対抗試験を始めます。最初は、ルング班」

 ヘカーがそう口にすると、ルングが前に出る。

「皆さんに……お手本を見せてあげてください。」

「わかったわ。」

 ふっと……ルングが微笑する。

「じゃ、相手の班は……」

 ルングが私を見るや否や……じっと睨んでくる。
 そんな顔をしなくとも……逃げるわけがないだろう。

「私がやろう」

 クルミと一緒に前に出た。

「では……最初はルング班、アリス班による班別対抗試験を行います。結果は成績に影響しますから、手を抜かず、しっかりやってください」

 そう言って、へカーは他の生徒をつれて森から出ていく。
 監視は使い魔や大鏡を使って行うのだろう。
 <魔王軍スサノオ>の班別対抗試験は、言わば模擬戦争だからな。
 巻き込まれてはただではすまない。

「覚悟はいいかしら?」

 <滅びの魔眼>で、強気にルングが私に向けて睨んでくる。
 私はそれを堂々と受けとめた。

「誰に……ものを言っている?」

「相変わらず、偉そうな奴だわ……。ちゃんと約束は覚えてるわよね?」

「ああ。もちろんだとも……。」

「口約束じゃ信用できないわ。」

「それは、こちらも同じことだ。」

 俺が<契約魔法>をかけようとすると、ルングは同意せずにそれを破棄した。

「……おや? 信用できないと言ったのはそっちのはずだが?」

「あなたの<契約魔法>じゃ、どんな契約を割りこまされるかわかったものじゃないわ。」

 ふむ。私を落伍者と侮らず、しっかり根源を見据えているようだな。

「その子にやらせなさい……。」

 ルングは私の後ろにいたクルミに視線を向ける。
 <滅びの魔眼>に睨まれても、彼女は動じず……じっと姉を見返した。

「わたしでいいか……?」

「……ああ、別に誰がやっても問題ない。」

 クルミは手の平をかざし、<契約魔法>の魔法陣を展開する。
 魔法文字で条件を記すと、ルングはそれに調印した。

 両者の同意がない限りは、決して違えることのできない魔法の契約が結ばれる。

「さて、陣地はどちらがいいかしら?」

「……好きに決めればいい。どこでも同じだ。」

「あ、そ。じゃ、東側をもらうわ……。」

 まぁ……必然的に、私たちの陣地は西側となる。

「……ねえ。覚えてなさい? その傲慢な態度、後で後悔させてあげるわ……。」

 ぷいっと振り返り、ルングは班員たちを引き連れて、魔樹の森の東側へ去っていった。

「さて、私たちも行くか」

「……そう……やな……。」

 適当に歩き、森の西側に辿り着く。
 そこでしばし待機した。

「さて、そろそろだな……」

 上空を飛ぶフクロウから、<思念通信タルパ>が送られてくる。

「それではルング班、アリス班による班別対抗試験を開始します。始祖や原初の名に恥じないよう、全力で敵を叩きのめしてくださいっ!!」

 始祖や原初の名に恥じぬよう……か。
 別段、私は好き好んで敵を叩きのめしていたわけではないのだがな。

 神話の時代は今のように平和ではなかったし、単にそうすることで最も成果を上げられるから、そうしたまでのことだ。
 本来は平和主義者なのだが、どうもその辺りをこの時代の連中は誤解しているようだ。

 そもそも私が好戦的な性格だったら、落伍者の烙印などを押されて黙っているはずがないだろうに……。

 まあ、仕方ない。今に始まったことではないか。

「……作戦はどないするんや?」

 クルミが淡々と尋ねてきた。

「といっても……。二人だからなぁ……。」

 ルング班はクラスの半数、ざっと五○人はいる。

「クルミの意見は?」

 尋ねると、無表情で彼女は考え込む。

「わたしのクラスは築城主ヨグ=ソトース。<創造建築ブラフマー>の魔法が得意……やで??」

 すでに<魔王軍>の魔法は使用済みだ。
 配下にはクラスを自由に割り振ることができるが、クルミは<創造建築>の魔法が得意ということで、築城主にした。

 築城主のクラスは城やダンジョンを建築したり、防壁や魔法障壁を構築する魔法に、正の魔法補正がかかる。<魔王軍>の術者である俺の魔力によって、更にその力を底上げすることも可能だ。

「<創造建築>で魔王城を建築する。魔王城は加護により魔王オーディンの能力が底上げされる。籠城には有利や。」

 妥当な戦術だな。私とクルミの力が最大限に発揮される。

「だが、たぶんルングはそう来るだろうと読んでるぞ」

「じゃ、どうするんや……?」

 ……まぁ、正直な話だが……戦術は考えるだけ無駄だ。
 なにをどうやったところで、私が負けるわけがないのだからな。
 とはいえ、どうせならルングの慌てふためく顔が見たい。

「向こうが絶対に予想していない戦術で裏をかく……」

 クルミは無表情で……じっと私を見返す。

「例えば、どんな……?」

「魔王のクラスは配下に魔力を分け与える分、単独では弱くなる。魔王城を建て、加護を利用するのが定石だ」

 魔王城にいる場合に限り、魔王のクラスは普段よりも強い力を発揮することができる。
 もっとも、築城主次第ではあるがな。

「だから、こっちの魔王城は囮にして、私が単独で向こうの魔王城に乗り込む」

「…………なるほどな。」

 クルミは驚いたように頷く。

「……それでどうだ?」

「……無謀すぎんか?」

 はは、と私は爽やかに笑った。

「向こうもそう思ってるだろう。だからこそ、裏をかける」

「それで大丈夫なん?」

「まあ、普通はこんな作戦で裏をかいたところで、魔法の集中砲火で蜂の巣にされるのがオチだろうがな。それも、戦術が有効なほど力が拮抗していればの話だ」

 心配しているのか、クルミは驚いたまままま固まっている。

「……不安か?」

 そう……尋ねると、ふるふるとクルミは首を振る。

「不安は不安や……。でも、アリスは強いから信じてるんや!!」

 なかなかクルミはわかっているようだな。
 彼女は、私の根源をその魔眼でしっかりと見つめている。

「……囮は、任せたぞ」

 クルミはこくりと……うなずく。

「……気をつけてな!!」

「ああ、手加減は得意じゃないからな……。」

 すると、クルミが目をぱちぱちさせた。

「アリスが……やで……?」

「私に……? 気をつけてだと?」

 思わず訊き返していた。
 クルミは可愛く小首をかしげる。

「おかしいか……?」

「……あぁ……いや。」

 ふふ、と腹の底から笑いがこみ上げる。
 まさか戦闘で私が心配されるとは思いもしなかった。
 これが友達というものか。いやはや、新鮮な感覚だ。だが、存外に悪くない気分だな。

「クルミも気をつけろよ?」

「分かった……。」

 そして私は手を振って、クルミと別れ、俺はまっすぐルング班の陣地である東側の森へ向かった……。

 しばらくすると、後方から大きな魔力が流れ出す。
 振り向けば、西の森の三箇所に巨大な城が建っていた。クルミの魔法だろう。恐らくは囮のためのハリボテだろうが……。この短期間であれだけ巨大な魔王城を三つも建設するとは、彼女の魔力はクラスでも群を抜いている。

 私を除けば……、の話だがな。

「さて……。向こうの反応は……?」

 魔眼を働かせて、<思念通信>を傍受する。
 すぐに……声が聞こえてきた。

「ルング様。敵陣に三つの城が建てられました」

「恐らく二つは罠ね……。残りの一つに、向こうの魔王が潜んでいるはずよ」

「一つずつ……城を破壊しますか?」

「いいえ。この短期間じゃ、いくら、クルミでも完全な魔王城は創造できないわ。時間を稼いで、その間に堅牢な魔王城にするつもりでしょう。その前に叩くわ。」

「了解。ご指示をください!!」

魔剣士オーランス魔導士アビス治療士イシス召喚士アザトースの部隊編成で、それぞれの魔王城に向かってちょうだい!!」

「了解しました!」

 なるほど。魔剣士、治療士、魔導士、召喚士、の部隊が三つか。ということは一、二人がこっちの魔王城に向かっているというわけだな。

 半数以上を自分の陣地に残すとは、思ったよりも手堅い戦術をとるものだ。

 さて━━━━━━━━。

「ふむ……。ようやく城を建てたか。」

 予想よりも時間がかかったが、向こうの陣地に巨大な魔王城が出現している。目的地がなければ、さすがの私も移動できないからな。

 だが、これで━━━━━━━と、俺は<転移魔法>を使った。

 視界が真っ白になり、次の瞬間……目の前にルング班の建てた魔王城があった。

 傍受した<思念通信>が、頭の中にうるさく響いた。

「る、ルング様っ!?」

「どうかした?」

「て、敵の魔王が……エリザベス・アリスがいきなりこの城の前に現れましたっ!?」

「はあっ!? いったいどうやって……?」

「わかりません。呪術師カオスが注意深く自陣の魔力の流れを見ていましたが、本当にいきなり現れましたっ!! なにか我々の知らない魔法を使ったとしか思えませんっ!!」

 ルングがはっと息を飲む音が聞こえた。

「……まさか……失われた魔法<転移魔法>……? そんなわけ……でも、それ以外に……。」

 ふむ……。実際に見ていないのに感づくとは、頭は柔軟なようだな。

「いいわ。どのみち、魔王が単独で乗り込んでくるなんて、殺してくれって言ってるようなものだもの。裏をかいたつもりかもしれないけど、ただの無謀と戦術をはき違えていることを教えてあげなさいっ!」

「……それは、どうかな?」

 <思念通信>に割り込むと、ルング班は慌てふためいた。

「な……どういうことだ? なぜ<思念通信>に奴の声が聞こえているっ!?」

「わ、わかりません。魔法陣にもなんの問題もなく、聞こえるはずがありませんっ!」

「……だが、実際に聞こえているだろうっ!! 早く原因を解析しろっ!! <思念通信>が傍受されている可能性があるぞっ!!」

 はぁ……、やれやれ。騒がしいことだな。

「原因は組み立てた魔法術式だ。魔法陣の再現率89%というのは、全体的に低次元すぎて傍受しろと言っているものだったぞ」

「馬鹿な……再現率89%なら、国家レベルの秘匿通信だぞっ! それが傍受できるだとっ!?」

「奴の言葉に騙されるなっ! なにか他に原因があるはずだっ!」

 まったく。丁寧に教えてやったというのに信じないとはな。

「問題ないわ……。」

 ルングの一声で、配下の者たちは冷静さを取り戻した。
 まあまあのカリスマと言えるだろう。

「いくら<思念通信>が傍受されても、向こうは魔王単独だもの。こちらの築城主……十人がかりで創造したこの魔王城を、第一層すら突破できるはずがないわ!!」

 築城主が十人か。なかなか堅牢な作りなのだろうな。
 城の中にはいくつもの異界、いくつものトラップ、そして魔王を強化するため、いくつもの加護が備わっているだろう。

 しかし━━━━━━。

「ずいぶんと……軽そうな城だな。」

 私はまっすぐ魔王城へ歩いていき、その壁に手をやる。

「無駄よ……!! 反魔法も多重にかけられているもの。」

「魔法ばかりを警戒するとは、戦闘というものをわかっていない。」

 ぐっ……と壁に爪を立てる。俺の指が城にめり込んだ。

「覚えておけ。城というのはもっと重く作るものだ!!」

 ガガ、ガガガ、ガガガガドオオォォォッと音がする。
 その音の原因は……魔王城が地面から抜けていく音である。

「な、なにが起きているのっ!? 呪術師っ?」

「し、信じられません……!! 奴は……エリザベス・アリスはこの城を持ち上げようとしていますっ!!」

「なぁ……!? そ、そんなことができるわけが……!!」

 そこから魔王城が地面から完全に抜け、私はそれを片手で持ち上げていた。

「……嘘でしょ……。加護も受けていない魔王にどうしてこんな力が…………一体、どうやって……?」

「確かに<魔王軍>を使えば、その力をクラスに左右される。だが、言っておくが、そもそも私とお前らとでは地力が違うぞ。」

 ゆっくりと自分の体を回転させる。持ち上げたルングたちが作った魔王城はそれに伴い、ゆらりと回る。
 次第に遠心力がついてきて、ルングたちが作った魔王城はどんどんと高速で振り回されていく。

「きゃ、きゃああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」

「ば、化け物がぁっ! 城を持ち上げただけじゃなく、振り回しているだとっ!?」

「や、やめろぉぉっ! なにをする気だっ!! やめろぉぉぉぉっ!!」

 ふむ……。これしきで情けのないことだ。
 反魔法は十全に練っていたが、物理は無警戒だったようだな。

 そもそもこの時代の連中は、平和になれすぎて体の鍛え方がなっていない。

 術式だのなんだのを練る前に、強い魔法を使うには、まず体力が必要なのだ。

「ほら……。うまく受け身をとれ!! ……でないと、死ぬぞ!!」

 遠心力をつけたルングたちが作った魔王城を私は思いきり投げ捨てる。風を切りぶっ飛んでいく巨大な魔王城は、ズガアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーンッという音が森林中に鳴り響きながら……地面へと叩きつけられた。
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