13 / 16
〜第1章 学院生活〜
第13話 〜魔王学院……初めての……?〜
しおりを挟む
数日たったある日の出来事━━━━━━━。
私は黒猫が届けてきた制服を着て、ラ=グーア魔王学院へ足を運んでいた。
ついに……ついに今日が初の登校日なのだ。
多くの生徒たちが正門をくぐり、ぞくぞくと校内へ向かっている。ふむ……。見れば、彼らが纏っている制服は二種類に別れている。
私が着ているのは黒の制服なのだが……。それ以外に、赤の制服を身につけている者もいるのだ。
ぱっと見では……半々といったところか? まぁ、学年でわけられているわけでもないようだ。
それから……まだもう1つ不思議なことがあって、校章に押された烙印も何種類かあるのだ。
私の校章は丸だ。それ以外には……五芒星、六芒星、七芒星、八芒星といったものがあった……。
しかし、見る限りでは……俺以外に丸の烙印を押された者はいなかった。
しかし、なんだ? 妙に視線を感じるような気がする。
私を気がついた途端、人間の殆どが興味深そうにこちらを見ている気がする。
入学試験のときはこんなことはなかったのだが、まあ、深く考えても仕方あるまい。なにかあるのなら、じきにわかる……と思いたい……。
まぁ、校内へ入るとそこに大きな掲示板が出されていた。新入生のクラス分けが載っている。
エリザベス・アリスの名前は10組の欄にあった。教室は第十教練場である。
勝手知ったる城の中、私は階段を上がり、教室へ向かった。
扉を開け、第十教練場に入る。机と椅子がずらりと並んでいる。中にいる生徒たちが一斉に私を見た。
━━━━━━ふむ。やはり、注目を浴びている気がするな。
しかし、まあ、これから同じクラスで共に過ごすのだ。
あまりこういうことは慣れていないが、最初の挨拶が肝心とも聞く。
ここは一つ、気さくな幼女と印象づけておくとしよう。
満面の笑みを浮かべ、可能な限りの爽やかな声で私は言った。
「みんな、おはよう! このクラスはこの私、元第10代目魔王 ヘルフリート・マーベラスが支配してやるからな! 逆らう奴は皆殺しとする!」
━━━━━━━まぁ、こんなところか。
え……? 心なしか、ドン引きといった空気が伝わってくるような気もするが、声に爽やかさが足りなかったか?
はぁ……私としたことが、登校初日で少々緊張してしまったか。
相も変わらず、こそこそとこちらを見ている視線の中に混ざって、物怖じしない堂々とした視線があった。黒い制服に身を包んだプラチナのブロンドの少女で私の親友であるクルミであった。
私は、深いため息を吐きながら、彼女の席まで歩いていく。
「よっ……!!」
挨拶すると、クルミは無機質な目を向けた。
「あぁ、おはよさん。」
「……えっと、隣いいか?」
「……あぁ? えぇで……?」
椅子を引き、クルミの隣に座る。
ついでに聞いてみようと思った。
「なぁなぁ……。今の冗談、どうだった?」
クルミは「はぁ……?」と言いながら小首をかしげた。
「……冗談……今のをか……?」
「……逆らう奴は皆殺しだってやつ。あれ……? まさか……。」
でも、まさか私は本気でそんなことを考えるわけがないからな。神話の時代では、結構ウケたのだ。「ご、ご冗談を……」とよく、配下の連中が口にしていたものだ。
「えぇっと……誤解されると思うで……?」
く……。やはり、そうか。
これが時代の違いというやつだな。
入学試験のときに、ジョークは自重しようと心に決めたはずが、つい口走ってしまった。
「はぁぁぁぁぁあ……。もう少しクラスに馴染んでからにした方がいいか?」
「んーー。そう……やな……?」
━━━━━━━━だが……しかし、まだ視線を感じるな。
「そう言えばだが……。さっきからずっと見られている気がするんだが、クルミ、なにか知ってるか?」
「そう言えばだけど……噂になってるで?」
噂になってるだと……。どう言った意味なのか知らないが一応、聞いてみることにする。
「私がかぁ……? なんて?」
「……怒らないで聞いてくれるか?」
私が怒る……そんなちっちゃい事で怒らないと思うのだが……。
「こう見えて、怒ったことはない方なんだ」
「その烙印……やで……?」
クルミが私の校章を指す。
「……それ、魔力測定と適性検査の結果を表してるんや。」
「ああ……そういうわけか。どういう仕組みなんだ?」
「芒星の頂点が増えれば増えるほど、優良なんやで。」
五芒星より六芒星、六芒星よりも七芒星みたいな感じの方が魔力測定と適性検査を足した結果が良いってわけか……。
え……ちょっと待った。私のは……?
「私の校章は芒星すらなくて、十字なのだが?」
「それは……魔王学院で初めての烙印なんや……。」
「なるほど……それは、どういう意味なんだ?」
「……その名も、落伍者と言うんや……。」
そう……淡々とした口調でクルミは言うのだった……。
「魔王学院は次代の魔皇を育てる学院。魔王の素質を持つ種族だけが入学を許可される」
登校日まで……暇だったので調べておいたが、始祖の魔王は第1魔王の事で、第2魔王からは、原初の魔王と言われ……それ以外は、魔皇という風に区別をするらしい。また、魔王族というのは始祖や原初の血を引く魔族のことをさすらしい。
「これまで魔王族で魔王の適性がないと判断された者はいないらしく……アリスは初めての落伍者なんや。」
一旦……言葉を切り、ため息を吐きながら改めて……クルミは言った。
「だから、噂になったちゅーことや……。」
━━━━━━━ふむ。なるほどな……。魔王の適性をどう判断しているのかはわからないが、少なくとも正真正銘の始祖や原初の魔王の適性があるのにも関わらず……。落伍者の烙印を押すとは、検査方法が間違っているとしか言いようがないな。
━━━━━━━学院に入ってやれば、向こうから勝手に私を見つけるとばかり思っていたが、どうやら考えた以上にこの時代の魔族は退化してしまったようだ。
「魔力測定は私の魔力が大きすぎて計れなかったからわかるが、適性検査は満点のはずなんだがな」
「そんなに自信があるんか……?」
「……ああ?」
なにせ第10代目の始祖……あぁ、ややこしい。原初の魔王の名前を言えだの、原初の気持ちを答えよだの、私についての質問ばかりだ。
万が一にも、間違えるはずがな……。
そこで、私はある問題点に発展する。
━━━━━━━いや、待てよ?
私はクルミに聞くことにした
「なあ、クルミ……第10代目魔王の名前って言えるか?」
クルミは無表情のまま、目をぱちぱちと瞬かせた。
「……第10代目の名前は、恐れ多くて呼んではならないんやで?」
━━━━━━━━なるほど。
「ちょっと……いいか?」
私はクルミの頭に手をやった。
彼女は特に嫌がるわけでもなく、不思議そうに視線を向けてくる。
「……どうしたや?」
「第10代目の名前を思い浮かべてくれ」
「はいよ……」
次の瞬間、クルミの思念を読み取る。
……すると、名前が浮かび上がった。
━━━━時と破滅を司る原初の魔王ベルファゴール・アストラル━━━━━━
「は……? 誰だよ、そいつ……?」
「おかしいか……?」
「この名前は、間違いだ」
……クルミは首を左右に振った。
「……これが正解なんや……。魔王の名前を間違える魔王族はいない……。」
「第10代目の名前は恐れ多くて口にしたらいけないんだったよ……な?」
クルミは思いっきり……うなずく。
「はぁ……。なるほど」
つまり、だ。みんながみんな、恐れ多くて口にしないようにしていたおかげで、1万年たった今、すっかり第10代目の魔王の名前を忘れ、間違った名前が語り継がれたってわけか。
なんという……アホな話なのだ。
よくよく考えてみれば、リリーノスは起源魔法が命懸けだと言っていた。第1代目の魔王と私を起源にしているのにその一部である私の名前さえ間違えているのだから、それは命懸けにもなるだろう。
そう言えば……第1代目の魔王の名は……?
クルミに聞くことにした。
「もう1回、手を置くから……第1代目の魔王の名を教えてくれ。」
「分かった……。」
━━━━━━創世を司る全能な始祖の魔王 ルーメント・グラン━━━━━━━
そんな馬鹿な……。第1代目魔王も間違っている。本来の名前は……「フラン=ク・ロード」だ。
たかだか名前でこの調子では、適性検査の始祖の気持ちを答えよ、というのも正解自体が間違っていたとしか思えない。
私が寝ぼけて「月禍万炎」をぶっ放したことも、魔族は誰一人死んでいなかったことも、恐らく伝わっていないに違いない。
「魔王の適性があるかどうかは、どうやって判断してるんだ?」
「時と破滅を司る原初の魔王の思考や感情に近い魔族ほど適性が高い」
なるほど。
「ちなみに時と破滅を司る原初の魔王は、どんな奴だと思われてるんだ?」
「冷酷で博愛を併せ持つ、完全完璧なる存在。常に魔族や仲間のことだけを考え、己の身を省みず戦ったんや。戦う事以外に欲はなく、崇高な心を持ち、また破滅的な振る舞いも、余人には計り知れない尊き心からくるものだったらしいで? 知らんけど……。」
なんなんだ……その完璧超人は……。
そんな奴がいるわけがないだろうが、馬鹿者が……。
伝説や伝承として盛るのは一向に構わないが、それを本当だと思い込んでどうするのだ?
この体たらくでは、不烙印を押されるのも無理のない話だな。
なにせ俺は、魔王の名前すら知らない落伍者と判断されたのだからな。
「ところで、烙印の意味はわかったのたが……制服が二種類あるのはどうしてだ?」
この教室にも黒と赤の制服を着た生徒は……半々だ。
「赤服は特待生。純血の魔王族」
「というと、リリーノスみたいなのようにか?」
クルミはうなずく。
「特待生は入学試験を免除されるんや……。」
「じゃ、あいつが、試験を受けてたのはなんでだ?」
「受けたい人は……受けてもいいんや。」
なるほど……。大方、自分の力を誇示したい人間が入学試験に出るのだろう。
どうりで雑魚ばかりしかいなかったわけだ。本当の強者であれば、わざわざ力を誇示するまでもないからな。
と、そのとき……遠くで鐘が鳴った。
「皆さん、席についてください」
顔を上げる。教室に入ってきたのは赤い法衣を纏った女性だった。彼女は黒板に魔法で文字を書く。
━━━━━へカー・ミスドゲル━━━━
「10組の担任を務めます、ヘカーです。1年間よろしくお願いします」
……ふむ。教員というだけあって、魔力はまあまああるな。
少なくとも、リリーノスなどではまるで歯が立たないだろう。
「早速ではありますが、まず初めに班分けをします。班リーダーになりたい人は立候補してください。ただし、これから教える魔法を使えることが条件になります」
いきなり授業が始まり……ヘカーは黒板に魔法陣を描いていく。
あれは<魔王軍>の魔法か。
「初めて見たと思いますが、これは<魔王軍>という魔法です。簡単に言えば、発動した術者を王として、配下の軍勢に特別な力を与えるものです。実践は授業で行います。今日は魔法陣を描き、魔法行使ができるかどうかのみ判定します。魔法行使ができた人には班リーダーの資格があります」
<魔王軍>という魔法特性から言えば、ここで班リーダーになった者とそうでない者とで、魔皇を目指す資格があるかどうかが振り分けられるのだろう。
「それでは、立候補したい方は手を挙げてください」
……迷いなく私は手を挙げた。
私が魔王だとわからない無能どもばかりだが、まあ、責めはしない。なにせ、俺の子孫たちなのだからな。責任の半分は私にあるようなものだ。
たとえすぐにはわからずとも、要は実力で証明すればいいだけの話だ。
しかし、案の定というべきか、クラスメイトたちの反応は芳しくない。
ぎょっとしたようにこっちを見ているのだ。
はぁ……。やれやれ。いくら不適合者だからといって、立候補したぐらいでこの反応か。
「黒服は立候補できないんや!!」
そうクルミが小声で教えてくれた。
確かに手を挙げているのは、私以外はみんな赤服だな。
つまり、純血でなければならないというわけか。馬鹿馬鹿しい話だ。
「アリス君でしたか。残念ですが、あなたには資格がありません」
「……それは、なぜだ?」
「あなたが混血だからです」
「混血だからといって、純血に劣る理由にはならないな」
そう言うと、ヘカーはムッとしたように言う。
「それは……皇族の批判ですか?」
やれやれ。どいつもこいつも、馬鹿の一つ覚えだな。
「くだらんことを言ってないで、純血が混血に勝ることを証明してみるんだな。できなければ、立候補させてもらうぞ」
ふうーー。とヘカーは大きなため息をつく。
「それはまったく逆です。証明は我らが魔王の始祖や原初達が行いました。もしも、混血が優れているというのでしたら、あなたが皇族に勝ることを証明することですね」
「ふむ……。では、それができれば立候補しても構わないということだな?」
「できれば…………の話です」
━━━━━━ふっと俺は笑う。
「その言葉、<契約魔法>させてもらったぞ」
「え、そんな……いつの間に……魔法行使を……?」
口約束を<契約魔法>の魔法で行うのは神話の時代じゃ常識だったのだが、これに気がつかないとは……教師失格だな。
ともかく、俺は立ち上がり黒板まで歩いていく。
「この<魔王軍>を開発したのは皇族か?」
「……ええ」
「術式の欠陥、見つけた……。」
「まさか。ありえませんね。<魔王軍>の魔法術式は1万年のも間、この形で伝えられています。誰も欠陥など見つけたことがありません」
「ちょうど1万年前に見つけたんでな。転生している間は修正できなかった」
俺は黒板に描かれた魔法陣の十箇所も書き換えた。
「これが……完璧な形だ。教員だと言うのなら見ればわかるだろう?」
ヘカーは信じられないといった表情で魔法陣を見つめている。
「そんな……たった十箇所書き換えただけで、これは、魔力効率が5割も良くなって……魔法効果が5.5倍……? こんなことって……」
……そして、教室中からどよめきが漏れる。
「……あいつ……何者なんだよ……?」
「初めて見た魔法陣の欠陥を指摘して、書き換えるなんて……そんな話、聞いたこともないよ……大体、学生は魔法研究の基礎にだって触れてないのに……」
「しかも、魔力効率が5割増しで、魔法効果が5.5倍って……」
「世紀の大発見だろ、これ……」
ふむ。これぐらいのことに驚いているとは、なんとも低レベルな話だ。しかも……
「ヘカー……少し、惜しいな」
ヘカーは俺を振り向く。
「魔法効果は10倍だ。この魔力門が、10個の魔法文字と干渉を起こし、根源へ二度働きかける韻を踏む」
「あっ…………」
ようやく気がついたのか……ヘカーは恥ずかしそうに身を小さくした。
「なんなら、私が代わりに教師をやってもいいぞ……?」
「……り……」
「ん……? なんだ……?」
「立候補を許可します……席に戻ってください。」
ヘカーは小さな声でしかも、私を睨みながら……そう言うのがやっとの様子だった。
私は黒猫が届けてきた制服を着て、ラ=グーア魔王学院へ足を運んでいた。
ついに……ついに今日が初の登校日なのだ。
多くの生徒たちが正門をくぐり、ぞくぞくと校内へ向かっている。ふむ……。見れば、彼らが纏っている制服は二種類に別れている。
私が着ているのは黒の制服なのだが……。それ以外に、赤の制服を身につけている者もいるのだ。
ぱっと見では……半々といったところか? まぁ、学年でわけられているわけでもないようだ。
それから……まだもう1つ不思議なことがあって、校章に押された烙印も何種類かあるのだ。
私の校章は丸だ。それ以外には……五芒星、六芒星、七芒星、八芒星といったものがあった……。
しかし、見る限りでは……俺以外に丸の烙印を押された者はいなかった。
しかし、なんだ? 妙に視線を感じるような気がする。
私を気がついた途端、人間の殆どが興味深そうにこちらを見ている気がする。
入学試験のときはこんなことはなかったのだが、まあ、深く考えても仕方あるまい。なにかあるのなら、じきにわかる……と思いたい……。
まぁ、校内へ入るとそこに大きな掲示板が出されていた。新入生のクラス分けが載っている。
エリザベス・アリスの名前は10組の欄にあった。教室は第十教練場である。
勝手知ったる城の中、私は階段を上がり、教室へ向かった。
扉を開け、第十教練場に入る。机と椅子がずらりと並んでいる。中にいる生徒たちが一斉に私を見た。
━━━━━━ふむ。やはり、注目を浴びている気がするな。
しかし、まあ、これから同じクラスで共に過ごすのだ。
あまりこういうことは慣れていないが、最初の挨拶が肝心とも聞く。
ここは一つ、気さくな幼女と印象づけておくとしよう。
満面の笑みを浮かべ、可能な限りの爽やかな声で私は言った。
「みんな、おはよう! このクラスはこの私、元第10代目魔王 ヘルフリート・マーベラスが支配してやるからな! 逆らう奴は皆殺しとする!」
━━━━━━━まぁ、こんなところか。
え……? 心なしか、ドン引きといった空気が伝わってくるような気もするが、声に爽やかさが足りなかったか?
はぁ……私としたことが、登校初日で少々緊張してしまったか。
相も変わらず、こそこそとこちらを見ている視線の中に混ざって、物怖じしない堂々とした視線があった。黒い制服に身を包んだプラチナのブロンドの少女で私の親友であるクルミであった。
私は、深いため息を吐きながら、彼女の席まで歩いていく。
「よっ……!!」
挨拶すると、クルミは無機質な目を向けた。
「あぁ、おはよさん。」
「……えっと、隣いいか?」
「……あぁ? えぇで……?」
椅子を引き、クルミの隣に座る。
ついでに聞いてみようと思った。
「なぁなぁ……。今の冗談、どうだった?」
クルミは「はぁ……?」と言いながら小首をかしげた。
「……冗談……今のをか……?」
「……逆らう奴は皆殺しだってやつ。あれ……? まさか……。」
でも、まさか私は本気でそんなことを考えるわけがないからな。神話の時代では、結構ウケたのだ。「ご、ご冗談を……」とよく、配下の連中が口にしていたものだ。
「えぇっと……誤解されると思うで……?」
く……。やはり、そうか。
これが時代の違いというやつだな。
入学試験のときに、ジョークは自重しようと心に決めたはずが、つい口走ってしまった。
「はぁぁぁぁぁあ……。もう少しクラスに馴染んでからにした方がいいか?」
「んーー。そう……やな……?」
━━━━━━━━だが……しかし、まだ視線を感じるな。
「そう言えばだが……。さっきからずっと見られている気がするんだが、クルミ、なにか知ってるか?」
「そう言えばだけど……噂になってるで?」
噂になってるだと……。どう言った意味なのか知らないが一応、聞いてみることにする。
「私がかぁ……? なんて?」
「……怒らないで聞いてくれるか?」
私が怒る……そんなちっちゃい事で怒らないと思うのだが……。
「こう見えて、怒ったことはない方なんだ」
「その烙印……やで……?」
クルミが私の校章を指す。
「……それ、魔力測定と適性検査の結果を表してるんや。」
「ああ……そういうわけか。どういう仕組みなんだ?」
「芒星の頂点が増えれば増えるほど、優良なんやで。」
五芒星より六芒星、六芒星よりも七芒星みたいな感じの方が魔力測定と適性検査を足した結果が良いってわけか……。
え……ちょっと待った。私のは……?
「私の校章は芒星すらなくて、十字なのだが?」
「それは……魔王学院で初めての烙印なんや……。」
「なるほど……それは、どういう意味なんだ?」
「……その名も、落伍者と言うんや……。」
そう……淡々とした口調でクルミは言うのだった……。
「魔王学院は次代の魔皇を育てる学院。魔王の素質を持つ種族だけが入学を許可される」
登校日まで……暇だったので調べておいたが、始祖の魔王は第1魔王の事で、第2魔王からは、原初の魔王と言われ……それ以外は、魔皇という風に区別をするらしい。また、魔王族というのは始祖や原初の血を引く魔族のことをさすらしい。
「これまで魔王族で魔王の適性がないと判断された者はいないらしく……アリスは初めての落伍者なんや。」
一旦……言葉を切り、ため息を吐きながら改めて……クルミは言った。
「だから、噂になったちゅーことや……。」
━━━━━━━ふむ。なるほどな……。魔王の適性をどう判断しているのかはわからないが、少なくとも正真正銘の始祖や原初の魔王の適性があるのにも関わらず……。落伍者の烙印を押すとは、検査方法が間違っているとしか言いようがないな。
━━━━━━━学院に入ってやれば、向こうから勝手に私を見つけるとばかり思っていたが、どうやら考えた以上にこの時代の魔族は退化してしまったようだ。
「魔力測定は私の魔力が大きすぎて計れなかったからわかるが、適性検査は満点のはずなんだがな」
「そんなに自信があるんか……?」
「……ああ?」
なにせ第10代目の始祖……あぁ、ややこしい。原初の魔王の名前を言えだの、原初の気持ちを答えよだの、私についての質問ばかりだ。
万が一にも、間違えるはずがな……。
そこで、私はある問題点に発展する。
━━━━━━━いや、待てよ?
私はクルミに聞くことにした
「なあ、クルミ……第10代目魔王の名前って言えるか?」
クルミは無表情のまま、目をぱちぱちと瞬かせた。
「……第10代目の名前は、恐れ多くて呼んではならないんやで?」
━━━━━━━━なるほど。
「ちょっと……いいか?」
私はクルミの頭に手をやった。
彼女は特に嫌がるわけでもなく、不思議そうに視線を向けてくる。
「……どうしたや?」
「第10代目の名前を思い浮かべてくれ」
「はいよ……」
次の瞬間、クルミの思念を読み取る。
……すると、名前が浮かび上がった。
━━━━時と破滅を司る原初の魔王ベルファゴール・アストラル━━━━━━
「は……? 誰だよ、そいつ……?」
「おかしいか……?」
「この名前は、間違いだ」
……クルミは首を左右に振った。
「……これが正解なんや……。魔王の名前を間違える魔王族はいない……。」
「第10代目の名前は恐れ多くて口にしたらいけないんだったよ……な?」
クルミは思いっきり……うなずく。
「はぁ……。なるほど」
つまり、だ。みんながみんな、恐れ多くて口にしないようにしていたおかげで、1万年たった今、すっかり第10代目の魔王の名前を忘れ、間違った名前が語り継がれたってわけか。
なんという……アホな話なのだ。
よくよく考えてみれば、リリーノスは起源魔法が命懸けだと言っていた。第1代目の魔王と私を起源にしているのにその一部である私の名前さえ間違えているのだから、それは命懸けにもなるだろう。
そう言えば……第1代目の魔王の名は……?
クルミに聞くことにした。
「もう1回、手を置くから……第1代目の魔王の名を教えてくれ。」
「分かった……。」
━━━━━━創世を司る全能な始祖の魔王 ルーメント・グラン━━━━━━━
そんな馬鹿な……。第1代目魔王も間違っている。本来の名前は……「フラン=ク・ロード」だ。
たかだか名前でこの調子では、適性検査の始祖の気持ちを答えよ、というのも正解自体が間違っていたとしか思えない。
私が寝ぼけて「月禍万炎」をぶっ放したことも、魔族は誰一人死んでいなかったことも、恐らく伝わっていないに違いない。
「魔王の適性があるかどうかは、どうやって判断してるんだ?」
「時と破滅を司る原初の魔王の思考や感情に近い魔族ほど適性が高い」
なるほど。
「ちなみに時と破滅を司る原初の魔王は、どんな奴だと思われてるんだ?」
「冷酷で博愛を併せ持つ、完全完璧なる存在。常に魔族や仲間のことだけを考え、己の身を省みず戦ったんや。戦う事以外に欲はなく、崇高な心を持ち、また破滅的な振る舞いも、余人には計り知れない尊き心からくるものだったらしいで? 知らんけど……。」
なんなんだ……その完璧超人は……。
そんな奴がいるわけがないだろうが、馬鹿者が……。
伝説や伝承として盛るのは一向に構わないが、それを本当だと思い込んでどうするのだ?
この体たらくでは、不烙印を押されるのも無理のない話だな。
なにせ俺は、魔王の名前すら知らない落伍者と判断されたのだからな。
「ところで、烙印の意味はわかったのたが……制服が二種類あるのはどうしてだ?」
この教室にも黒と赤の制服を着た生徒は……半々だ。
「赤服は特待生。純血の魔王族」
「というと、リリーノスみたいなのようにか?」
クルミはうなずく。
「特待生は入学試験を免除されるんや……。」
「じゃ、あいつが、試験を受けてたのはなんでだ?」
「受けたい人は……受けてもいいんや。」
なるほど……。大方、自分の力を誇示したい人間が入学試験に出るのだろう。
どうりで雑魚ばかりしかいなかったわけだ。本当の強者であれば、わざわざ力を誇示するまでもないからな。
と、そのとき……遠くで鐘が鳴った。
「皆さん、席についてください」
顔を上げる。教室に入ってきたのは赤い法衣を纏った女性だった。彼女は黒板に魔法で文字を書く。
━━━━━へカー・ミスドゲル━━━━
「10組の担任を務めます、ヘカーです。1年間よろしくお願いします」
……ふむ。教員というだけあって、魔力はまあまああるな。
少なくとも、リリーノスなどではまるで歯が立たないだろう。
「早速ではありますが、まず初めに班分けをします。班リーダーになりたい人は立候補してください。ただし、これから教える魔法を使えることが条件になります」
いきなり授業が始まり……ヘカーは黒板に魔法陣を描いていく。
あれは<魔王軍>の魔法か。
「初めて見たと思いますが、これは<魔王軍>という魔法です。簡単に言えば、発動した術者を王として、配下の軍勢に特別な力を与えるものです。実践は授業で行います。今日は魔法陣を描き、魔法行使ができるかどうかのみ判定します。魔法行使ができた人には班リーダーの資格があります」
<魔王軍>という魔法特性から言えば、ここで班リーダーになった者とそうでない者とで、魔皇を目指す資格があるかどうかが振り分けられるのだろう。
「それでは、立候補したい方は手を挙げてください」
……迷いなく私は手を挙げた。
私が魔王だとわからない無能どもばかりだが、まあ、責めはしない。なにせ、俺の子孫たちなのだからな。責任の半分は私にあるようなものだ。
たとえすぐにはわからずとも、要は実力で証明すればいいだけの話だ。
しかし、案の定というべきか、クラスメイトたちの反応は芳しくない。
ぎょっとしたようにこっちを見ているのだ。
はぁ……。やれやれ。いくら不適合者だからといって、立候補したぐらいでこの反応か。
「黒服は立候補できないんや!!」
そうクルミが小声で教えてくれた。
確かに手を挙げているのは、私以外はみんな赤服だな。
つまり、純血でなければならないというわけか。馬鹿馬鹿しい話だ。
「アリス君でしたか。残念ですが、あなたには資格がありません」
「……それは、なぜだ?」
「あなたが混血だからです」
「混血だからといって、純血に劣る理由にはならないな」
そう言うと、ヘカーはムッとしたように言う。
「それは……皇族の批判ですか?」
やれやれ。どいつもこいつも、馬鹿の一つ覚えだな。
「くだらんことを言ってないで、純血が混血に勝ることを証明してみるんだな。できなければ、立候補させてもらうぞ」
ふうーー。とヘカーは大きなため息をつく。
「それはまったく逆です。証明は我らが魔王の始祖や原初達が行いました。もしも、混血が優れているというのでしたら、あなたが皇族に勝ることを証明することですね」
「ふむ……。では、それができれば立候補しても構わないということだな?」
「できれば…………の話です」
━━━━━━ふっと俺は笑う。
「その言葉、<契約魔法>させてもらったぞ」
「え、そんな……いつの間に……魔法行使を……?」
口約束を<契約魔法>の魔法で行うのは神話の時代じゃ常識だったのだが、これに気がつかないとは……教師失格だな。
ともかく、俺は立ち上がり黒板まで歩いていく。
「この<魔王軍>を開発したのは皇族か?」
「……ええ」
「術式の欠陥、見つけた……。」
「まさか。ありえませんね。<魔王軍>の魔法術式は1万年のも間、この形で伝えられています。誰も欠陥など見つけたことがありません」
「ちょうど1万年前に見つけたんでな。転生している間は修正できなかった」
俺は黒板に描かれた魔法陣の十箇所も書き換えた。
「これが……完璧な形だ。教員だと言うのなら見ればわかるだろう?」
ヘカーは信じられないといった表情で魔法陣を見つめている。
「そんな……たった十箇所書き換えただけで、これは、魔力効率が5割も良くなって……魔法効果が5.5倍……? こんなことって……」
……そして、教室中からどよめきが漏れる。
「……あいつ……何者なんだよ……?」
「初めて見た魔法陣の欠陥を指摘して、書き換えるなんて……そんな話、聞いたこともないよ……大体、学生は魔法研究の基礎にだって触れてないのに……」
「しかも、魔力効率が5割増しで、魔法効果が5.5倍って……」
「世紀の大発見だろ、これ……」
ふむ。これぐらいのことに驚いているとは、なんとも低レベルな話だ。しかも……
「ヘカー……少し、惜しいな」
ヘカーは俺を振り向く。
「魔法効果は10倍だ。この魔力門が、10個の魔法文字と干渉を起こし、根源へ二度働きかける韻を踏む」
「あっ…………」
ようやく気がついたのか……ヘカーは恥ずかしそうに身を小さくした。
「なんなら、私が代わりに教師をやってもいいぞ……?」
「……り……」
「ん……? なんだ……?」
「立候補を許可します……席に戻ってください。」
ヘカーは小さな声でしかも、私を睨みながら……そう言うのがやっとの様子だった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。

【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
赤き翼の万能屋―万能少女と出来損ない死霊術師の共同生活―
文海マヤ
ファンタジー
「代わりのない物なんてない。この世は代替品と上位互換に溢れてる」
万能屋。
猫探しから家の掃除や店番、果ては護衛や汚れ仕事まで、あらゆるものの代わりとなることを生業とするもの。
そして、その中でも最強と名高い一人――万能屋【赤翼】リタ・ランプシェード。
生家を焼かれた死霊術師、ジェイ・スペクターは、そんな彼女の下を訪ね、こう依頼する。
「今月いっぱい――陸の月が終わるまででいいんだ。僕のことを、守ってはくれないだろうか」
そうして始まる、二人の奇妙な共同生活。
出来損ないの死霊術師と最強の万能屋が繰り広げる、本格ファンタジー。
なろうに先行投稿中。

異世界転生したならば自由でいたい〜我慢はしない!〜
脆弱心
ファンタジー
前世は苦労は自分からしてたでも何一ついい事なかった逆にそれでこの人はなんでもやってくれる便利な人扱いで都合良く使われて苦労が増えたほど。頼まれれば無碍にできなかったりした自分も悪いんだと思う、それで仕事が増えて増えて増えまくったところでポックリの35歳人生終わりで気がつくと不思議な空間まさかの異世界転生!?
ご褒美ですか?今度は自由でいいですか?
我慢はもうしません!
好きに生きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる