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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
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走って行く後ろ姿の里桜を見送る。
ーーー早く戻って来て。
ふと、視界に保護者や生徒の人混みの中であずさを見掛けた。が、直ぐに見えなくなった。
ーーー気のせい?
此処に居る筈はないと、鈴は肩を竦める。写真を撮られながら、昨夜の隼人を思い出していた。
ーーー嘘吐いちゃった。いつか記憶が戻ったら、きっと僕は幻滅去れるんだろうな。
でもその頃は自分はアメリカだ。もう日本には帰らないつもりでいる。
この眼に焼き付けよう。友達の顔。剛や春彦。小早川の家族。
ーーー隼人さん。
「鈴」
ジンがカメラを手にやって来る。背が高いのでよく目立つ。今日も女生徒達が纏わりついて来た。それには鈴が呆れる。
「ジン。ご飯は? 食べたの?」
「いや。校内は賑やかで好かん。早く静かな所に行きたいんだが」
「ジンさん、それなら私達と学校抜け出してどっか行こうよ!」
「あ、ずるい、私も!」
「私も行く!」
ジンが眉間に皺を寄せる。女はどうも苦手らしい。
「こらお前ら、クラスはどうした!?」
背後から疾風が怒鳴る。女生徒達が悲鳴をあげて、「けちっ!」と叫んで散らばった。
「まったく」
「ありがとう助かった」
珍しくジンがホッとする。鈴がくすくすと笑った。疾風が眼を細める。昨夜は鈴の様子がおかしく、泣いて何が遭ったかは結局話してはくれなかった。
「あとで鈴にサプライズがあるからな?」
疾風がにんまりと笑う。が、刹那ジンが周りを一瞥した。
「……鈴、俺から離れるなよ?」
ジンが屈んで鈴に耳打ちする。鈴が顔を上げる。
「あの女の気配がする」
「っ!?」
鈴の肩が揺れた。見間違いではなかったのだ。
写真撮影は終わりとばかりに、ジンは鈴を衝立の向こう側に連れて行く。脳裏に見掛けたあずさが浮かんだ。やはり来ていたのだ。彼女が来ていたということは、隼人も来ているのだろうと推測する。
「…鈴、どうした?」
剛が鈴とジンを見る。鈴の顔が蒼白だった。ジンが教室内の気配を探る。
「あの女が来ている」
ジンのその言葉だけで剛は真顔になった。鈴はあずさに、昨夜隼人に会ったのがばれたのではと心配する。
ーーーもう、会わないのに。隼人さんには幸せになって欲しいのに。
「鈴君、顔色悪いよ?」
女生徒のひとりが云う。
「保健室行った方がいいぞ? 此処は落ち着いてるから大丈夫だし」
「そうね。鈴君行ってきなよ」
「…ありがとう」
鈴は体操着に着替えると、ジンと二人保健室へ向かった。
保健室はシンと静まりかえって誰も居なかった。
鍵は掛けられていなかったので、鈴とジンは中へ入った。遠くで賑やかな声がする。
「此処で待て。薬を探すから」
ジンは鈴をベッドに腰を下ろさせると、薬棚を漁った。
「…ジン」
鈴はジンの後姿を見詰めて、ジンを呼ぶ。鈴の声にジンが振り返った。喧騒が遠く聞こえる。
「僕……アメリカに行く」
「―――鈴?」
薬を探す手を止めて、ジンは歩み寄り鈴の隣に腰を下ろした。ジンが隣に座ったのを眼の端に捉えると、俯いた鈴は唇を開く。心臓がドクドクと鳴った。
「だから…」
鈴は乾いた唇を舐める。
「ジンに……来て欲しい。一緒に」
「っ!」
ジンが双眸を見開き、感極まって鈴を抱き締めた。鈴は左手でジンの右腕に触れる。
「一緒に…ジン」
鈴が顔を上げる。鈴は胸の奥がギュッと苦しくなった。でもそれは不快ではない。今はこの男が愛おしいのだと、魂が訴えていた。
そう、いつの間にかこの人を、ジンを好きになっていたのだ。
ーーー早く戻って来て。
ふと、視界に保護者や生徒の人混みの中であずさを見掛けた。が、直ぐに見えなくなった。
ーーー気のせい?
此処に居る筈はないと、鈴は肩を竦める。写真を撮られながら、昨夜の隼人を思い出していた。
ーーー嘘吐いちゃった。いつか記憶が戻ったら、きっと僕は幻滅去れるんだろうな。
でもその頃は自分はアメリカだ。もう日本には帰らないつもりでいる。
この眼に焼き付けよう。友達の顔。剛や春彦。小早川の家族。
ーーー隼人さん。
「鈴」
ジンがカメラを手にやって来る。背が高いのでよく目立つ。今日も女生徒達が纏わりついて来た。それには鈴が呆れる。
「ジン。ご飯は? 食べたの?」
「いや。校内は賑やかで好かん。早く静かな所に行きたいんだが」
「ジンさん、それなら私達と学校抜け出してどっか行こうよ!」
「あ、ずるい、私も!」
「私も行く!」
ジンが眉間に皺を寄せる。女はどうも苦手らしい。
「こらお前ら、クラスはどうした!?」
背後から疾風が怒鳴る。女生徒達が悲鳴をあげて、「けちっ!」と叫んで散らばった。
「まったく」
「ありがとう助かった」
珍しくジンがホッとする。鈴がくすくすと笑った。疾風が眼を細める。昨夜は鈴の様子がおかしく、泣いて何が遭ったかは結局話してはくれなかった。
「あとで鈴にサプライズがあるからな?」
疾風がにんまりと笑う。が、刹那ジンが周りを一瞥した。
「……鈴、俺から離れるなよ?」
ジンが屈んで鈴に耳打ちする。鈴が顔を上げる。
「あの女の気配がする」
「っ!?」
鈴の肩が揺れた。見間違いではなかったのだ。
写真撮影は終わりとばかりに、ジンは鈴を衝立の向こう側に連れて行く。脳裏に見掛けたあずさが浮かんだ。やはり来ていたのだ。彼女が来ていたということは、隼人も来ているのだろうと推測する。
「…鈴、どうした?」
剛が鈴とジンを見る。鈴の顔が蒼白だった。ジンが教室内の気配を探る。
「あの女が来ている」
ジンのその言葉だけで剛は真顔になった。鈴はあずさに、昨夜隼人に会ったのがばれたのではと心配する。
ーーーもう、会わないのに。隼人さんには幸せになって欲しいのに。
「鈴君、顔色悪いよ?」
女生徒のひとりが云う。
「保健室行った方がいいぞ? 此処は落ち着いてるから大丈夫だし」
「そうね。鈴君行ってきなよ」
「…ありがとう」
鈴は体操着に着替えると、ジンと二人保健室へ向かった。
保健室はシンと静まりかえって誰も居なかった。
鍵は掛けられていなかったので、鈴とジンは中へ入った。遠くで賑やかな声がする。
「此処で待て。薬を探すから」
ジンは鈴をベッドに腰を下ろさせると、薬棚を漁った。
「…ジン」
鈴はジンの後姿を見詰めて、ジンを呼ぶ。鈴の声にジンが振り返った。喧騒が遠く聞こえる。
「僕……アメリカに行く」
「―――鈴?」
薬を探す手を止めて、ジンは歩み寄り鈴の隣に腰を下ろした。ジンが隣に座ったのを眼の端に捉えると、俯いた鈴は唇を開く。心臓がドクドクと鳴った。
「だから…」
鈴は乾いた唇を舐める。
「ジンに……来て欲しい。一緒に」
「っ!」
ジンが双眸を見開き、感極まって鈴を抱き締めた。鈴は左手でジンの右腕に触れる。
「一緒に…ジン」
鈴が顔を上げる。鈴は胸の奥がギュッと苦しくなった。でもそれは不快ではない。今はこの男が愛おしいのだと、魂が訴えていた。
そう、いつの間にかこの人を、ジンを好きになっていたのだ。
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