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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー
しおりを挟む ちゃぷんと水音を立てて、鈴は浴槽に入る。
「このお風呂、昔は広く感じたのにな」
小さい時、里桜と水鉄砲で遊んだ記憶がある。悲しい事等感じる事無く当たり前の日常に安心していた。
『鈴ちゃん、君はどうしたいの?』
どうしたいのか、判らない。隼人が好きだ。ただ、自分の知らない隼人が怖かった。
ーーーそうだ…怖かった。まるで隼人さんが知らない人に見えたんだ。
あの日、テストを褒めて欲しくて、良い子だねって抱き締めて欲しくて。なのにあんな物を見たら辛いじゃないか。裏切られたような、悲しい瞬間。
「パジャマ、置いておくわよ?」
薫がガラス越しに云う。
「は~い」
鈴は返事をして、浴槽の縁に頭を乗せた。天井は湿気で黒ずみ、まるでお化けの顔みたいに見える。昔里桜とビビって泣いた。
ーーー今頃、隼人さんは、兄ちゃんはどうしているだろう。
鈴はぼんやりとしながら、浴槽から出た。
「かあちゃん、出たよ?」
リビングで話し声が聞こえ、思わず隼人かとドキンとしたが、夕方車に乗せて貰った親子が居た。
「こんばんは、鈴ちゃん」
「こんばんは。原田さん。さっきは助かりました」
鈴はお辞儀をして薫の隣に腰を下ろす。十二畳の居間にテーブルが在り、向かい側に原田親子が座っている。熊のように大きな息子は、今年大学を出て実家の農家を継ぐらしい。
「武ちゃん、大きくなったわよね? 男前だし」
薫が褒めると、ちらりと武が鈴を見て紅くなる。
「鈴ちゃんも美人さんになって~昔から可愛かったけど、モテるんじゃない?」
鈴は苦笑いをして薫を見る。どうやら、この親子は鈴を女の子だと思っているらしい。薫は澄ました顔で、とんでもない事を云い出した。
「もう許婚が居るのよ~お医者さんで~写真見る?」
「まあ~」
「許嫁!?」
「か、かあちゃん!?」
おばさんは頬を染めて、見たいわと楽しそうにはしゃぎ、武は項垂れて母親に恥ずかしいぞと突く。薫は隼人と、小学生の頃の鈴の写真を原田親子に見せた。隼人の膝に乗って、鈴が隼人の頬にキスをしている写真だ。こんなのいつも持って歩いてるのかと、頭が痛くなる。
「カッコいいわね~、鈴ちゃんが羨ましいわ」
鈴は紅くなり、そこへ武が鈴の手を握る。
「明日村の祭り在るんだけど、俺と見に行かないか!? こんな色男なんかより、俺が数倍いいじゃないか!」
何故か武の闘争心に火が点いたようだ。
「「「……」」」
鈴と薫と原田母がその手を見詰める。
「行って来たら? 気分転換になるわよ?」
薫の後押しで、鈴は頷き武は喜んだ。
その後、鈴と薫は玄関先で原田親子を見送り、薫は和室のタンスの上に置いていた紙を、鈴に見せた。
「あっ!」
ぴらりと広げられた紙は戸籍謄本だ。鈴がこちらへ来る前に、気になっていた戸籍の確認で市役所へ行ったのだ。思い出した記憶の中で、伯母の鈴音が心に引っ掛かっていたからだ。そして、事実を知って納得した。
「話しがあるから来なさい。鈴」
鈴は薫が客間へ行くのを、黙って後に連いて歩いた。人の荷物を探るなんて酷い。
「…ばあちゃんは?」
「自治会」
湯飲みを片付けながら、薫は部屋の隅に正座する鈴を、可笑しそうに見て笑う。
「そんな所に居ないでこっち来なさい。お茶、おかわりはいる?」
「いらない」
薫は肩を竦めて、溜息を零す。
「なあに? 養子だったからって、いきなり家族じゃないみたいに考えてない?」
「このお風呂、昔は広く感じたのにな」
小さい時、里桜と水鉄砲で遊んだ記憶がある。悲しい事等感じる事無く当たり前の日常に安心していた。
『鈴ちゃん、君はどうしたいの?』
どうしたいのか、判らない。隼人が好きだ。ただ、自分の知らない隼人が怖かった。
ーーーそうだ…怖かった。まるで隼人さんが知らない人に見えたんだ。
あの日、テストを褒めて欲しくて、良い子だねって抱き締めて欲しくて。なのにあんな物を見たら辛いじゃないか。裏切られたような、悲しい瞬間。
「パジャマ、置いておくわよ?」
薫がガラス越しに云う。
「は~い」
鈴は返事をして、浴槽の縁に頭を乗せた。天井は湿気で黒ずみ、まるでお化けの顔みたいに見える。昔里桜とビビって泣いた。
ーーー今頃、隼人さんは、兄ちゃんはどうしているだろう。
鈴はぼんやりとしながら、浴槽から出た。
「かあちゃん、出たよ?」
リビングで話し声が聞こえ、思わず隼人かとドキンとしたが、夕方車に乗せて貰った親子が居た。
「こんばんは、鈴ちゃん」
「こんばんは。原田さん。さっきは助かりました」
鈴はお辞儀をして薫の隣に腰を下ろす。十二畳の居間にテーブルが在り、向かい側に原田親子が座っている。熊のように大きな息子は、今年大学を出て実家の農家を継ぐらしい。
「武ちゃん、大きくなったわよね? 男前だし」
薫が褒めると、ちらりと武が鈴を見て紅くなる。
「鈴ちゃんも美人さんになって~昔から可愛かったけど、モテるんじゃない?」
鈴は苦笑いをして薫を見る。どうやら、この親子は鈴を女の子だと思っているらしい。薫は澄ました顔で、とんでもない事を云い出した。
「もう許婚が居るのよ~お医者さんで~写真見る?」
「まあ~」
「許嫁!?」
「か、かあちゃん!?」
おばさんは頬を染めて、見たいわと楽しそうにはしゃぎ、武は項垂れて母親に恥ずかしいぞと突く。薫は隼人と、小学生の頃の鈴の写真を原田親子に見せた。隼人の膝に乗って、鈴が隼人の頬にキスをしている写真だ。こんなのいつも持って歩いてるのかと、頭が痛くなる。
「カッコいいわね~、鈴ちゃんが羨ましいわ」
鈴は紅くなり、そこへ武が鈴の手を握る。
「明日村の祭り在るんだけど、俺と見に行かないか!? こんな色男なんかより、俺が数倍いいじゃないか!」
何故か武の闘争心に火が点いたようだ。
「「「……」」」
鈴と薫と原田母がその手を見詰める。
「行って来たら? 気分転換になるわよ?」
薫の後押しで、鈴は頷き武は喜んだ。
その後、鈴と薫は玄関先で原田親子を見送り、薫は和室のタンスの上に置いていた紙を、鈴に見せた。
「あっ!」
ぴらりと広げられた紙は戸籍謄本だ。鈴がこちらへ来る前に、気になっていた戸籍の確認で市役所へ行ったのだ。思い出した記憶の中で、伯母の鈴音が心に引っ掛かっていたからだ。そして、事実を知って納得した。
「話しがあるから来なさい。鈴」
鈴は薫が客間へ行くのを、黙って後に連いて歩いた。人の荷物を探るなんて酷い。
「…ばあちゃんは?」
「自治会」
湯飲みを片付けながら、薫は部屋の隅に正座する鈴を、可笑しそうに見て笑う。
「そんな所に居ないでこっち来なさい。お茶、おかわりはいる?」
「いらない」
薫は肩を竦めて、溜息を零す。
「なあに? 養子だったからって、いきなり家族じゃないみたいに考えてない?」
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