鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

吉良龍美

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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

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「…目印?」
 鈴は背後の山と無人駅を眺める。
「なんも無~い。でも駅の名前OOOだって。…母ちゃん『クマに注意』って看板が…ヤバい」
『…そうだわ、GPSっ! 解った私が行くから…動くんじゃないわよ? 駅の待合スペースに居なさい』
 薫に云われて判ったと云い掛け、鈴の眼の前に車が一台停まった。
「どうしたのお嬢さん、ひとり?」
 見知らぬおばさんが、軽トラックの運転席から、顔を出す。
『…やだ、何どうしたの?』
 携帯電話から聞こえる声に、薰は青ざめる。鈴はといえば、携帯を耳にあてながら困った様子で呟いた。
「え~と? 多分良い人? 誘拐は低い確率かな? うち、金無いし」
 鈴は多分大丈夫じゃん? のノリで云ってみた。が、薫はブチ切れた。昔鈴が小さい時に起きた誘拐未遂があったのを思い出す。その時は隼人が見付けて難を逃れた。
『ちょっと? 知らない人に連いてかないでよ! 怖いわよ!! やだ、母さんっ車出して!』
『薫、落ち着きなさい』
『落ち着けないわよ! なんで里桜はそこにいないのよ!?』
「あ~う…ん成り行きでね、うん、ちょっと」
 ---やばい母ちゃんのお仕置き決定だ。
 どうしようと鈴は冷や汗だ。その時トラックの荷台から、青年がひょっこり身体を起こした。熊のように身体がでかい。どうやら寝ていたらしい。
 鈴からは見えなかったけれど、この人も悪い人じゃなさそうだ。
「あれ? もしかして鈴ちゃんじゃね?」
 鈴とおばさんがびっくりした。誰だあんたはと、鈴は後退る。万が一の逃げの体制に入った。
 ---本当にうち金無いから、医者の家族になったけど、多分無理。
「あら云われてみたら、天音さんとこの。懐かしいわね、大きくなって!」
「…」
『ちょっと聞いてんの!? 鈴』
 鈴はぱちくりと瞬きして、両手を組んでおばさんを見上げた。鈴の勘だけどこの人達は良い人だ。
「何か食べ物ありますか?」
 盛大な音が、鈴のお腹で鳴った。
 だって、朝から何も口にしていない。親子はびっくりして、笑い出す。
『鈴! ったら! もうっ!』
 この後薫にしこたま説教を喰らう鈴だった。

「ばあちゃん、蛙!」
 縁側から飛び込んできた蛙に、鈴は大はしゃぎで捕まえる。ギックリ腰で動けなかった祖母のさえは、一週間を過ぎた辺りから動けるようになり、久しぶりの孫登場で大喜びだ。
「鈴、窓そろそろ閉めて来てくれる?」
「は~い」
「……パパ、里桜をお願いします。すみません、え? まだ帰ってない? きっと生徒会の用事が終わらないのよ。私からも電話しておきますから」
 受話器を置いて、薫は溜め息を零す。
 鈴は時折遠くを見ては思い出したように笑う。このゆったりとした時間が好きだ。
「…鈴、お風呂入って来なさい」
「は~い」
 鈴はバスタオルを受け取り、外に在る小屋へ向かった。
 さえの家の風呂は家屋の外に在る。鈴は蛙の鳴き声を聴きながら、満月を見上げた。
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