上 下
36 / 144

鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー

しおりを挟む
「…目印?」
 鈴は背後の山と無人駅を眺める。
「なんも無~い。でも駅の名前OOOだって。…母ちゃん『クマに注意』って看板が…ヤバい」
『…そうだわ、GPSっ! 解った私が行くから…動くんじゃないわよ? 駅の待合スペースに居なさい』
 薫に云われて判ったと云い掛け、鈴の眼の前に車が一台停まった。
「どうしたのお嬢さん、ひとり?」
 見知らぬおばさんが、軽トラックの運転席から、顔を出す。
『…やだ、何どうしたの?』
 携帯電話から聞こえる声に、薰は青ざめる。鈴はといえば、携帯を耳にあてながら困った様子で呟いた。
「え~と? 多分良い人? 誘拐は低い確率かな? うち、金無いし」
 鈴は多分大丈夫じゃん? のノリで云ってみた。が、薫はブチ切れた。昔鈴が小さい時に起きた誘拐未遂があったのを思い出す。その時は隼人が見付けて難を逃れた。
『ちょっと? 知らない人に連いてかないでよ! 怖いわよ!! やだ、母さんっ車出して!』
『薫、落ち着きなさい』
『落ち着けないわよ! なんで里桜はそこにいないのよ!?』
「あ~う…ん成り行きでね、うん、ちょっと」
 ---やばい母ちゃんのお仕置き決定だ。
 どうしようと鈴は冷や汗だ。その時トラックの荷台から、青年がひょっこり身体を起こした。熊のように身体がでかい。どうやら寝ていたらしい。
 鈴からは見えなかったけれど、この人も悪い人じゃなさそうだ。
「あれ? もしかして鈴ちゃんじゃね?」
 鈴とおばさんがびっくりした。誰だあんたはと、鈴は後退る。万が一の逃げの体制に入った。
 ---本当にうち金無いから、医者の家族になったけど、多分無理。
「あら云われてみたら、天音さんとこの。懐かしいわね、大きくなって!」
「…」
『ちょっと聞いてんの!? 鈴』
 鈴はぱちくりと瞬きして、両手を組んでおばさんを見上げた。鈴の勘だけどこの人達は良い人だ。
「何か食べ物ありますか?」
 盛大な音が、鈴のお腹で鳴った。
 だって、朝から何も口にしていない。親子はびっくりして、笑い出す。
『鈴! ったら! もうっ!』
 この後薫にしこたま説教を喰らう鈴だった。

「ばあちゃん、蛙!」
 縁側から飛び込んできた蛙に、鈴は大はしゃぎで捕まえる。ギックリ腰で動けなかった祖母のさえは、一週間を過ぎた辺りから動けるようになり、久しぶりの孫登場で大喜びだ。
「鈴、窓そろそろ閉めて来てくれる?」
「は~い」
「……パパ、里桜をお願いします。すみません、え? まだ帰ってない? きっと生徒会の用事が終わらないのよ。私からも電話しておきますから」
 受話器を置いて、薫は溜め息を零す。
 鈴は時折遠くを見ては思い出したように笑う。このゆったりとした時間が好きだ。
「…鈴、お風呂入って来なさい」
「は~い」
 鈴はバスタオルを受け取り、外に在る小屋へ向かった。
 さえの家の風呂は家屋の外に在る。鈴は蛙の鳴き声を聴きながら、満月を見上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

[BL]デキソコナイ

明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...