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闇に咲く華
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ーーー用心しないと…。先生、今頃怒ってるだろうな。携帯持って来なくて(どちらにしろ)良かったかも知れない。
窓ガラスに映る姿に、すっかり痩せ細った律は苦笑した。
ーーー先生は僕の何処が好きになったんだろうな。
律は竹塚を思い出す。初めて逢ったときは格好良くてひと目で律は恋をした。
ーーー背が高くて声が低くて、律を抱く腕の力強さにときめいて。
自分はそんな竹塚が好きだ。本当は離れたくはなかった。ずっと側に居たかった。でも、いつかあの家が標的になったら、迷惑を掛ける。涙が出そうになってグッと眼に力を入れた。
もう少しで、日付が変わる。クリスマスだ。ひとりは慣れている。あの家に引き取られてから。冷えた食事にひとりぼっちの離れでの生活。誕生日もクリスマスの日も。
ーーー僕は。
切なくて苦しい。
ーーーお母さんは悔しかっただろうな。実の息子じゃないのに…知らずに僕を育てて。
竹塚親子だけは違った。安心できる場所。大好きな場所。
律は窓ガラスに額をくっつけた。
「翔?」
車の鍵を手に出掛けようとする竹塚に気付いた夏紀が、カーポートへ駆けて来る。
「別荘へ行ってみる。レオンを連れて行くから!」
「別荘!? まさか」
「もし律が見付かったらすぐ連絡をしてくれっ」
律が他に行くとすれば、別荘しか思い当たらない。念の為律と仲の良かった生徒に電話を掛けたが、来ていないと云う。それに嘘は無いと考えて、残る予想は別荘だった。
『先生俺も探すから』
電話を掛けた生徒達が泣きそうになって云ってきた。
『先生律を助けてやってくれよっ、あんな誹謗中傷なんかどうせ律への妬みだろ? 俺許せないよ』
ーーー誹謗中傷なんかごく一部で、お前を知らない連中が面白がっているだけだ。
レオンは大人しく後部座席に居る。レオンも心配なのだ。
「律、早まるなよ」
呼ばれた気がした律は、電車から降りて後方を振り返った。東京駅までタクシーで行き、そこから三つ乗り換えて漸く河口湖駅まで来た。車なら高速で大体一時間半あれば着く。
ーーーどうか先生が先回りしていませんように。
律は別荘にあったという井戸を目指した。幽霊でも良いから会いたかった。
ーーーもう成長したから、見ても解って貰えないかも。
雪がふわりと舞い散る。律は足許の寒さにゾクリとしながら、タクシーを探した。
「高速なら早いと思ったのに、今こんな時に限って事故渋滞だなんてっ!」
もし律が見付かったら、夏紀から携帯に連絡が来る筈だ。中央自動車道からなら近いと考えたが、間が悪いことに渋滞にはまってしまったのだ。仕方なく途中で一般道へ下りるとカーナビから一番近いルートを検索する。まだ富士河口湖町までが遠い。焦りで苛々とすると、レオンも感じ取ったのかソワソワと外を眺めていた。
窓ガラスに映る姿に、すっかり痩せ細った律は苦笑した。
ーーー先生は僕の何処が好きになったんだろうな。
律は竹塚を思い出す。初めて逢ったときは格好良くてひと目で律は恋をした。
ーーー背が高くて声が低くて、律を抱く腕の力強さにときめいて。
自分はそんな竹塚が好きだ。本当は離れたくはなかった。ずっと側に居たかった。でも、いつかあの家が標的になったら、迷惑を掛ける。涙が出そうになってグッと眼に力を入れた。
もう少しで、日付が変わる。クリスマスだ。ひとりは慣れている。あの家に引き取られてから。冷えた食事にひとりぼっちの離れでの生活。誕生日もクリスマスの日も。
ーーー僕は。
切なくて苦しい。
ーーーお母さんは悔しかっただろうな。実の息子じゃないのに…知らずに僕を育てて。
竹塚親子だけは違った。安心できる場所。大好きな場所。
律は窓ガラスに額をくっつけた。
「翔?」
車の鍵を手に出掛けようとする竹塚に気付いた夏紀が、カーポートへ駆けて来る。
「別荘へ行ってみる。レオンを連れて行くから!」
「別荘!? まさか」
「もし律が見付かったらすぐ連絡をしてくれっ」
律が他に行くとすれば、別荘しか思い当たらない。念の為律と仲の良かった生徒に電話を掛けたが、来ていないと云う。それに嘘は無いと考えて、残る予想は別荘だった。
『先生俺も探すから』
電話を掛けた生徒達が泣きそうになって云ってきた。
『先生律を助けてやってくれよっ、あんな誹謗中傷なんかどうせ律への妬みだろ? 俺許せないよ』
ーーー誹謗中傷なんかごく一部で、お前を知らない連中が面白がっているだけだ。
レオンは大人しく後部座席に居る。レオンも心配なのだ。
「律、早まるなよ」
呼ばれた気がした律は、電車から降りて後方を振り返った。東京駅までタクシーで行き、そこから三つ乗り換えて漸く河口湖駅まで来た。車なら高速で大体一時間半あれば着く。
ーーーどうか先生が先回りしていませんように。
律は別荘にあったという井戸を目指した。幽霊でも良いから会いたかった。
ーーーもう成長したから、見ても解って貰えないかも。
雪がふわりと舞い散る。律は足許の寒さにゾクリとしながら、タクシーを探した。
「高速なら早いと思ったのに、今こんな時に限って事故渋滞だなんてっ!」
もし律が見付かったら、夏紀から携帯に連絡が来る筈だ。中央自動車道からなら近いと考えたが、間が悪いことに渋滞にはまってしまったのだ。仕方なく途中で一般道へ下りるとカーナビから一番近いルートを検索する。まだ富士河口湖町までが遠い。焦りで苛々とすると、レオンも感じ取ったのかソワソワと外を眺めていた。
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