闇に咲く華

吉良龍美

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闇に咲く華

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「律君」
 二人が階下へ下りると夏紀がホッとして、ダイニングテーブルに巻き寿司と暖かな緑茶を出した。
「取り敢えず巻き寿司にしてみたんだけど」
「ありがとうございます。美味しそう」
「母さんのは韓国風に作るから美味いぞ? 韓国人の友人から昔教わったらしい。本場のキムチも手作りなんだ」
 無料アプリで書いて送る。
「へぇ」
「白菜のキムチ、平気なら食べてみる?」
 夏紀ホワイトボードに書いて見せると微笑んだ。
「是非」
 すると、律の前に白菜のキムチが運ばれた。早速食べてみる。
「美味しいっ」
 竹塚と夏紀も微笑んで席に着くと食べ始めた。
 三人で一緒に食べる時間。律は当たり前の筈の時間を無駄に過ごしてしまった。奪われたのだ和也達に。それが悔しい。もしかしたら今も里沙は生きていたかも知れなかったのだ。
 ーーー思い出した。お母さんは料理が上手だった。お菓子作りも、僕を抱き締める暖かさも。
 律が涙を零したのを、竹塚と夏紀はギョッとした。
「辛かったか律?」
「まぁ、無理して辛い物食べなくても良いのよ? 今水をっ」
 慌てて立上がった夏紀に律は止めた。
「違う、美味しくて、お母さんが料理上手だったのを思い出したから…」
 竹塚と夏紀は顔を見合わせた。
「律君を育ててくれたお母さんは、とても素敵なお母さんだったのね」
 ホワイトボードに書かれた言葉に、律は大きく頷いた。
 ーーーなのに、お母さんはあの人達に…。
「…ごめんなさい。折角の食事の時間なのに」
「平気よ。気にしないで」
「そうだぞ律。気にするな、足りなければ俺のも食うか?」
「あんたはちゃんと食べなさい。巻き寿司に嫌いな物が入ってるからって、食べ残しは許しませんよ?」
「うっ…」
 竹塚が固まる。
 律は首を傾げながら、二人の遣り取りに会話が聞こえなくても、大体の見当が付いて律は苦笑した。


「湯加減はどうだ?」
 浴室の外から竹塚が様子を伺う。無料通信アプリを利用して、防水の携帯で会話をする。
「大丈夫だよ」
 ピロロンと扉の向こうで音がする。身体はだいぶ元の状態に戻って、ひとりで頭や身体を洗えるようになった。
「明日は診察の日だから、今夜はゆっくり休めよ」
「うん」
 ーーー先生に触れたいな。
 そう思ってひとり紅くなる。別荘での時間は堀井家に引き取られて以来、心から安らげる時間になった。
 ーーーほんの数日前のような感じだ。
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