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闇に咲く華
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ーーーどうしたら。この怒りから律は掬われるんだっ。
律の手が竹塚の背中で震えている。律は泣きながらボンヤリと天井を見上げていた。
空はどんよりと白い雲に覆われて、律は女性介護士からリハビリにと、廊下を徒歩で何回か往復し、身体が慣れてくると今度は階段を上り下りしていた。律が目覚めて一週間が経った。平川が律に抱き付いて泣き、耳が聞こえないことを竹塚は深く憤っていた。
「律君疲れたろ? 水分補給にこれ飲んでね」
ゆっくりと口の動きで何を話しているのか、ジェスチャーしながらペットボトルの水を手渡されたので、長椅子に座って半分ほど飲んだ。
律が今居るのは、リハビリ専門の階で、鉄棒のような物に手を付いて歩く練習をする人や、ベッドの上で脚の上げ下げや腰の捻りなどしている患者が居る。
「やあボウズ、今日も来たのか」
老人が声を掛けてきたが、声が聞こえないので律は首を傾げる。
「すみません滝さん、律君耳がちょっと」
「そうなのか? 可哀想に。そういえば介護士さんよ。此処の院長、息子に障害起こして捕まっちまったけど、その息子って此処に入院してんのか?」
「え」
側に居た男性看護師が固まる。介護士と眼を合わせると、介護士が律を椅子から立上がらせ、リハビリ室から連れ出した。
「…あの人何を話してたの?」
「大した事じゃ無いよ。クリスマスが近いって話し」
小さなメモ用紙に書いて見せると、律は「ふうん」と興味なさそうに云う。
ーーーきっと違うことだよな。おじいさんの顔見たら、楽しい話しじゃないの解るよ。
介護士が気を遣っているのは理解していた。今朝もマスコミが病院前に居るのが、窓から見えていたのだ。
談話室のテレビから、この病院の映像が映っていたし、字幕が出ていたのでマスコミの標的が自分なのだと知った。
ーーーお父さん辞職に追い込まれたのか…。ってか、父親じゃなかったんだな。
待合室の椅子に、誰かが置き忘れていた週刊誌を、律は雑誌の見出しに身震いしたのだ。
『院長夫人、長男をレイプ。妊娠した子供を長男が、院長の愛人の子供とすり替えか』
『引き取った実の子供を院長夫人が虐待。子供は院長の暴力で重症。意識不明』
『別荘に在った壊された井戸の仲から白骨遺体』
律は週刊誌の記事を読んでいくと、馬鹿らしくなってゴミ箱に捨てた。全てを律は思い出したのだ。
あの日、母親が律を守るために出てくるなと眼で訴えて。もし助けに出て行っていたなら、一緒に殺されていたかも知れない。
意識が戻ってから、平川が泣きながら「意識が戻って良かった」と云っていたが、律はもう来るなと叫びたかった。でも云えない。友人にそんな事云えるわけが無い。心配して毎日見舞いに来ていたと、看護師達が紙に書いて教えてくれていたから。
「…お母さんに会いたい」
殺されてしまった人。何も悪い事なんてしていなかった。律を捨てたなんて直子の嘘だった。
「僕は此処に居るのに、なんで? お母さんを返してよっ」
ベッドの枕を幾度となく涙で濡らした。
「……食事を摂らない?」
竹塚が仕事を終えて見舞いに来ると、婦長から律が昨夜から食事を摂らないと告げられた。
律の手が竹塚の背中で震えている。律は泣きながらボンヤリと天井を見上げていた。
空はどんよりと白い雲に覆われて、律は女性介護士からリハビリにと、廊下を徒歩で何回か往復し、身体が慣れてくると今度は階段を上り下りしていた。律が目覚めて一週間が経った。平川が律に抱き付いて泣き、耳が聞こえないことを竹塚は深く憤っていた。
「律君疲れたろ? 水分補給にこれ飲んでね」
ゆっくりと口の動きで何を話しているのか、ジェスチャーしながらペットボトルの水を手渡されたので、長椅子に座って半分ほど飲んだ。
律が今居るのは、リハビリ専門の階で、鉄棒のような物に手を付いて歩く練習をする人や、ベッドの上で脚の上げ下げや腰の捻りなどしている患者が居る。
「やあボウズ、今日も来たのか」
老人が声を掛けてきたが、声が聞こえないので律は首を傾げる。
「すみません滝さん、律君耳がちょっと」
「そうなのか? 可哀想に。そういえば介護士さんよ。此処の院長、息子に障害起こして捕まっちまったけど、その息子って此処に入院してんのか?」
「え」
側に居た男性看護師が固まる。介護士と眼を合わせると、介護士が律を椅子から立上がらせ、リハビリ室から連れ出した。
「…あの人何を話してたの?」
「大した事じゃ無いよ。クリスマスが近いって話し」
小さなメモ用紙に書いて見せると、律は「ふうん」と興味なさそうに云う。
ーーーきっと違うことだよな。おじいさんの顔見たら、楽しい話しじゃないの解るよ。
介護士が気を遣っているのは理解していた。今朝もマスコミが病院前に居るのが、窓から見えていたのだ。
談話室のテレビから、この病院の映像が映っていたし、字幕が出ていたのでマスコミの標的が自分なのだと知った。
ーーーお父さん辞職に追い込まれたのか…。ってか、父親じゃなかったんだな。
待合室の椅子に、誰かが置き忘れていた週刊誌を、律は雑誌の見出しに身震いしたのだ。
『院長夫人、長男をレイプ。妊娠した子供を長男が、院長の愛人の子供とすり替えか』
『引き取った実の子供を院長夫人が虐待。子供は院長の暴力で重症。意識不明』
『別荘に在った壊された井戸の仲から白骨遺体』
律は週刊誌の記事を読んでいくと、馬鹿らしくなってゴミ箱に捨てた。全てを律は思い出したのだ。
あの日、母親が律を守るために出てくるなと眼で訴えて。もし助けに出て行っていたなら、一緒に殺されていたかも知れない。
意識が戻ってから、平川が泣きながら「意識が戻って良かった」と云っていたが、律はもう来るなと叫びたかった。でも云えない。友人にそんな事云えるわけが無い。心配して毎日見舞いに来ていたと、看護師達が紙に書いて教えてくれていたから。
「…お母さんに会いたい」
殺されてしまった人。何も悪い事なんてしていなかった。律を捨てたなんて直子の嘘だった。
「僕は此処に居るのに、なんで? お母さんを返してよっ」
ベッドの枕を幾度となく涙で濡らした。
「……食事を摂らない?」
竹塚が仕事を終えて見舞いに来ると、婦長から律が昨夜から食事を摂らないと告げられた。
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