闇に咲く華

吉良龍美

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闇に咲く華

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 食事を済ませて慌ただしく片付けると、竹塚は荷物とレオンを車に乗せ、律が助手席でシートベルトを締めたのを確認すると、車を走らせた。
 途中パーキングエリアで休憩を取り、竹塚の自宅に着いたのは、日付が変わる少し前だった。
「お帰りなさい、二人共」
 竹塚の母親が、ガレージに居た二人に声を掛けて出迎える。
「ただいま」
 律は余程疲れたのか眠って中々起きないので、竹塚が律を抱き上げた。
「あらまぁよく眠っているわね」
 母親が微笑んでレオンにおいでと手招きをする。
「途中のパーキングエリアから、寝ちまったんだ」
「余程疲れたのね。客間にお布団を用意しているから、そちらに運んであげなさい」
「サンキュー、助かる」
「……一応、直ちゃんに連絡した方が良いかしら?」
「それはしなくても良いよ」
「…そう?」
 竹塚の母親が首を傾げて、でも直ぐに「その方が良いわね」と呟いた。姪の直子と律は仲が良いとは聞いていなかったので、こちらで一晩預かる事は伏せた方が良いと考えた。
 竹塚が律を客間に寝かせてると、リビングで母親がアルバムを広げていた。
「…アルバム? 懐かしいな」
「ほら、今朝電話で話した律君の顔。昔の直ちゃんに似てるって話したでしょう?」
「っ!」
 竹塚は急いでダイニングテーブルに出されたアルバムを見て、息を呑んだ。
 この家の庭で遊ぶ直子の、多分小学生ぐらいの姿がそこには在った。どのページにも直子の顔と律の顔が重なる。
「…なんだよこれ…」
 ゾッとした。背筋に悪寒が走る。そして…。
「あぁ、これ懐かしいわね。別荘の裏庭。古い井戸が在って、よく井戸に近付くなって、云ったの。あんた覚えてる?」
「覚えて…いや、そうだ覚えている。よく爺さんが危ないからって、その内蓋をしないと駄目だって、でも確かその後中々井戸に蓋がされてなくて、不思議だった」
「そりゃあそうよ。昔から井戸には神様が居るから、下手に蓋なんてしたら罰が当たるって、お婆ちゃん生きてたときに猛反対して」
「…あの井戸、今は無くなって更地になっていたんだ」
「えっ!? そうなの? 私聞いてないわよ? 私が別荘に行ったの、建て替えてから一度も行っていなかったから、もしかしてその時かしら?」
「母さん、あの別荘なんで建て替えたんだ?」
 キョトンとして、母親が考え込む。
「…そうね。建て替えるって云いだしたのは直ちゃんで、お金は全面的に直ちゃんの旦那さんなのよ? 確か。お爺ちゃんが別に建て替えても構わないって云ってたらしいし」
 ーーーそれにしても。
 直子の高校入学の写真が、親戚の集まりで撮られた写真にはまるで、律がそこに居るような錯覚に陥りそうになった。
 ーーー初めて律を見た時の、違和感があった事を思い出す。誰かに似ていると思った。
「律はもしかしたら」
 産まれて直ぐに堀井和也の愛人の子供とすり替えられた? 直子はそうとは知らずに、律を愛人の子だと信じて…。でも誰が赤子のすり替えを?
「母さん、この事はまだ黙っていてくれないか?」
「……あんたがそう云うなら。何か考えがあるの? やっぱり律君は…」
「解らない、偶然にしては可笑しい。誰かが動いたとしか…」
 竹塚はアルバムを前にして、ただ、茫然とするしか出来なかった。
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