35 / 54
闇に咲く華
しおりを挟む
食事を済ませて慌ただしく片付けると、竹塚は荷物とレオンを車に乗せ、律が助手席でシートベルトを締めたのを確認すると、車を走らせた。
途中パーキングエリアで休憩を取り、竹塚の自宅に着いたのは、日付が変わる少し前だった。
「お帰りなさい、二人共」
竹塚の母親が、ガレージに居た二人に声を掛けて出迎える。
「ただいま」
律は余程疲れたのか眠って中々起きないので、竹塚が律を抱き上げた。
「あらまぁよく眠っているわね」
母親が微笑んでレオンにおいでと手招きをする。
「途中のパーキングエリアから、寝ちまったんだ」
「余程疲れたのね。客間にお布団を用意しているから、そちらに運んであげなさい」
「サンキュー、助かる」
「……一応、直ちゃんに連絡した方が良いかしら?」
「それはしなくても良いよ」
「…そう?」
竹塚の母親が首を傾げて、でも直ぐに「その方が良いわね」と呟いた。姪の直子と律は仲が良いとは聞いていなかったので、こちらで一晩預かる事は伏せた方が良いと考えた。
竹塚が律を客間に寝かせてると、リビングで母親がアルバムを広げていた。
「…アルバム? 懐かしいな」
「ほら、今朝電話で話した律君の顔。昔の直ちゃんに似てるって話したでしょう?」
「っ!」
竹塚は急いでダイニングテーブルに出されたアルバムを見て、息を呑んだ。
この家の庭で遊ぶ直子の、多分小学生ぐらいの姿がそこには在った。どのページにも直子の顔と律の顔が重なる。
「…なんだよこれ…」
ゾッとした。背筋に悪寒が走る。そして…。
「あぁ、これ懐かしいわね。別荘の裏庭。古い井戸が在って、よく井戸に近付くなって、云ったの。あんた覚えてる?」
「覚えて…いや、そうだ覚えている。よく爺さんが危ないからって、その内蓋をしないと駄目だって、でも確かその後中々井戸に蓋がされてなくて、不思議だった」
「そりゃあそうよ。昔から井戸には神様が居るから、下手に蓋なんてしたら罰が当たるって、お婆ちゃん生きてたときに猛反対して」
「…あの井戸、今は無くなって更地になっていたんだ」
「えっ!? そうなの? 私聞いてないわよ? 私が別荘に行ったの、建て替えてから一度も行っていなかったから、もしかしてその時かしら?」
「母さん、あの別荘なんで建て替えたんだ?」
キョトンとして、母親が考え込む。
「…そうね。建て替えるって云いだしたのは直ちゃんで、お金は全面的に直ちゃんの旦那さんなのよ? 確か。お爺ちゃんが別に建て替えても構わないって云ってたらしいし」
ーーーそれにしても。
直子の高校入学の写真が、親戚の集まりで撮られた写真にはまるで、律がそこに居るような錯覚に陥りそうになった。
ーーー初めて律を見た時の、違和感があった事を思い出す。誰かに似ていると思った。
「律はもしかしたら」
産まれて直ぐに堀井和也の愛人の子供とすり替えられた? 直子はそうとは知らずに、律を愛人の子だと信じて…。でも誰が赤子のすり替えを?
「母さん、この事はまだ黙っていてくれないか?」
「……あんたがそう云うなら。何か考えがあるの? やっぱり律君は…」
「解らない、偶然にしては可笑しい。誰かが動いたとしか…」
竹塚はアルバムを前にして、ただ、茫然とするしか出来なかった。
途中パーキングエリアで休憩を取り、竹塚の自宅に着いたのは、日付が変わる少し前だった。
「お帰りなさい、二人共」
竹塚の母親が、ガレージに居た二人に声を掛けて出迎える。
「ただいま」
律は余程疲れたのか眠って中々起きないので、竹塚が律を抱き上げた。
「あらまぁよく眠っているわね」
母親が微笑んでレオンにおいでと手招きをする。
「途中のパーキングエリアから、寝ちまったんだ」
「余程疲れたのね。客間にお布団を用意しているから、そちらに運んであげなさい」
「サンキュー、助かる」
「……一応、直ちゃんに連絡した方が良いかしら?」
「それはしなくても良いよ」
「…そう?」
竹塚の母親が首を傾げて、でも直ぐに「その方が良いわね」と呟いた。姪の直子と律は仲が良いとは聞いていなかったので、こちらで一晩預かる事は伏せた方が良いと考えた。
竹塚が律を客間に寝かせてると、リビングで母親がアルバムを広げていた。
「…アルバム? 懐かしいな」
「ほら、今朝電話で話した律君の顔。昔の直ちゃんに似てるって話したでしょう?」
「っ!」
竹塚は急いでダイニングテーブルに出されたアルバムを見て、息を呑んだ。
この家の庭で遊ぶ直子の、多分小学生ぐらいの姿がそこには在った。どのページにも直子の顔と律の顔が重なる。
「…なんだよこれ…」
ゾッとした。背筋に悪寒が走る。そして…。
「あぁ、これ懐かしいわね。別荘の裏庭。古い井戸が在って、よく井戸に近付くなって、云ったの。あんた覚えてる?」
「覚えて…いや、そうだ覚えている。よく爺さんが危ないからって、その内蓋をしないと駄目だって、でも確かその後中々井戸に蓋がされてなくて、不思議だった」
「そりゃあそうよ。昔から井戸には神様が居るから、下手に蓋なんてしたら罰が当たるって、お婆ちゃん生きてたときに猛反対して」
「…あの井戸、今は無くなって更地になっていたんだ」
「えっ!? そうなの? 私聞いてないわよ? 私が別荘に行ったの、建て替えてから一度も行っていなかったから、もしかしてその時かしら?」
「母さん、あの別荘なんで建て替えたんだ?」
キョトンとして、母親が考え込む。
「…そうね。建て替えるって云いだしたのは直ちゃんで、お金は全面的に直ちゃんの旦那さんなのよ? 確か。お爺ちゃんが別に建て替えても構わないって云ってたらしいし」
ーーーそれにしても。
直子の高校入学の写真が、親戚の集まりで撮られた写真にはまるで、律がそこに居るような錯覚に陥りそうになった。
ーーー初めて律を見た時の、違和感があった事を思い出す。誰かに似ていると思った。
「律はもしかしたら」
産まれて直ぐに堀井和也の愛人の子供とすり替えられた? 直子はそうとは知らずに、律を愛人の子だと信じて…。でも誰が赤子のすり替えを?
「母さん、この事はまだ黙っていてくれないか?」
「……あんたがそう云うなら。何か考えがあるの? やっぱり律君は…」
「解らない、偶然にしては可笑しい。誰かが動いたとしか…」
竹塚はアルバムを前にして、ただ、茫然とするしか出来なかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
つまりは相思相愛
nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。
限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。
とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。
最初からR表現です、ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる