闇に咲く華

吉良龍美

文字の大きさ
22 / 54

闇に咲く華

しおりを挟む
 女性が首を傾げると、竹塚は慌てて母親の夏紀の背を押しながら、キッチンへ向かう。
「律、右手が洗面所だから手を洗ってうがいして来い。この奥がリビングだから」
「? …はい」
「ちょっと翔?」
「いいから!」
 キッチンへ消えた二人を見送って、律は云われた場所へ行く。レオンが物珍しそうに着いてきた。律はレオンの右頬を撫でてみる。するとうっとりと眼を瞑ったレオが可愛くなった。
「お前は暖かいなレオン。…いいな、犬が居て」
 律は家屋に動物が居ることに憧れていた。友人の何人かはこうして、犬や猫が一緒の生活スペースにいる。
「羨ましい……なんて思っちゃダメなのにな」
 律はしゃがんで、レオンの首にそっと抱き付いた。


「ねぇ、あの子もしかして直ちゃんとこの?」
 夏紀が食器棚から器を出すと、取り敢えずカウンターに置く。
「あぁ。あいつはまだ知らないから云うなよな?」
「……話していないの? あんたがそれでいいなら構わないけど、妹の聞いてた話しとなんだか違うみたいね、あの子」
「まあな。叔母さんの話しだけ聞いて、鵜呑みにするのもどうかと思うけど。あいつは直ぐ怒るけど泣き虫だし、根は優しいヤツだから…なんだよその眼は」
 珍獣でも見るような眼で見る夏紀に、竹塚は訊く。
「ちゃんと先生遣ってるのね。偉いわ~」
「先生だよこれでも」
 夏紀に律を抱いたとは云えず、さっさと自分も手を洗いに洗面所へ向かった。


「美味しい」
 夏紀の手料理はどれも旨かった。肉じゃがに鱈の餡かけ、筍の炊き込みご飯を律はおかわりをした。
「喜んで貰えて嬉しいわ。うちの男達は美味しいとも不味いともなんにも云わないし」
 チラリと夏紀が息子を見る。
「美味しいです。あったかいご飯、家の中で食べるの凄く久し振り」
「「……」」
 竹塚と夏紀が眼を合わせる。律は幸せそうに噛み締めて、最後に緑茶を飲んだ。手を合わせて「ごちそうさまでした」と云うと、夏紀が両眼を潤ませて台所へ逃げる。
「律君、またうちにいらっしゃいね? またご飯ご馳走してあげるから」
 台所から大きな声がした。
「はい。ありがとうございます」
 竹塚は向かい側で律の声を聞きながら、台所できっと涙ぐむ母親を思って溜め息を零す。
「飯食ったら病院な」
「うん」
 ソファーの脇に置いていた鞄を手にすると、レオンがもう帰るの? と頭を律の手に押し付ける。律は名残惜しそうにレオンにハグをすると、背後で竹塚が眼を細めた。
「レオンはすっかり律が気に入ったようだな」
「そう? だと良いな」
「律君本当にまた来てね?」
 夏紀が台所から出てくる。律は改めてお辞儀をした。
「はい。夕飯凄く美味しかったです。ありがとうございました」
 二人を見送りに玄関へ向かうと、レオンも「ワン」と尻尾を振った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

Please,Call My Name

叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。 何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。 しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。 大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。 眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。

猫と王子と恋ちぐら

真霜ナオ
BL
高校一年生の橙(かぶち)は、とある理由から過呼吸になることを防ぐために、無音のヘッドホンを装着して過ごしていた。 ある時、電車内で音漏れ警察と呼ばれる中年男性に絡まれた橙は、過呼吸を起こしてしまう。 パニック状態の橙を助けてくれたのは、クラスで王子と呼ばれている千蔵(ちくら)だった。 『そうやっておまえが俺を甘やかしたりするから』 小さな秘密を持つ黒髪王子×過呼吸持ち金髪の高校生BLです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

処理中です...