闇に咲く華

吉良龍美

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闇に咲く華

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「どうしたんだ? こんな所で?」
 人懐こい平川は、律に駆け寄りふと、香った香水に眉を上げた。
「なんだデートだったのか?」
 肘で律を突く。律は眉間に皺を寄せながらクンっと、右腕を上げて匂いを嗅いだ。甘ったるい匂いは里沙を思い出す。早く洗い流したい。
「…デートじゃない」
「え?」
「デートじゃないってば」
 ムッとした律が歩き出し、平川は背後に居た塾生達に「またな」と手を振って、律の後を追う。
「なあ? どうしたんだよ? あ、なんかさあ、腹空かね? ファミレス行かないか?」
 その時、律の腹がく~っと鳴った。平川が笑う。律は真っ赤になって平川を睨んだ。


「ご注文は以上で宜しいですか?」
 ウエイトレスが、注文を受けて離れていくと、平川はおかわり自由のドリンクを取りに行く。律はスマホの画面を眺めて電源を切った。
「お前あんな所で何やってたんだ?」
「…ラブホ行ってた」
「………マジ? カラオケ抜け出して? 入って三十分位だったし」
 身を乗り出した平川が、双眸を見開いて律を凝視する。
「まさか同じクラスの…」
「バカ違う」
 平川が律の否定にホッとする。
「OL二人にナンパされてそのまま」
「おまっ、えぇぇぇぇっ!!!」
「うるさい」
 ラストオーダーを受ける客達が振り返る。
「お待たせ致しました、シーフードサラダと取り分け様の小皿です」
 ウエイトレスはにっこりと微笑して、カウベルの鳴った入口へ行く。
「可愛い顔してスゲエな」
「可愛いって云うな」
「…なんだよお前ら」
 ウエイトレスに案内されて、空いている席に着こうとし竹塚は二人に気付いた。
「あ、先生! 俺塾帰り~」
「なら早く帰れ」
 竹塚はちらりと律を見る。
「え~、俺達育ち盛り食い盛り~」
「お前はまだ成長する気か? 平川」
 律は向かい側に座る竹塚を一別する。
「先生こそどうしたんだ?」
 平川がずびずびとコーラを飲む。律は注文したリゾットが届いたので、スプーンで食べ始めた。平川は律の隣に座った。
「あ? 俺は歓迎会の帰り。で、り…堀井はどうした。家族が心配するんじゃないのか」
 律は口に運びかけたリゾットを皿に戻す。
「『先生』には関係ない」
「…えっと…」
 睨み合う律と竹塚を前に、平川は顔をひきつらせる。
「ま。俺には『関係』無い事だったな」
 竹塚の言葉に、ズキンと律の胸が痛む。その痛みが何処から来るのか、律は解らなかった。それから一時間程で、三人はファミレスを出た。ムアッとした夜気に不快を感じながら、律は左へ歩く。
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