闇に咲く華

吉良龍美

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闇に咲く華

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 唇が重なる。律はぼんやりとこの男は『用済み』だと認識した。今日、会ったのがこれで八回目だ。律は大人を信用しない。里沙がそうであるように…。ただ彼だけは特別に安心できる居場所だと思っていたのに。
「……今度大学まで迎えに行こうか?」
 そんな事を云い出す物だからだから、もう終わりにする。
「ごめん。目立つのは嫌いなの。あなた凄くカッコいいから、ほら…女子がさ…」
 干渉されるのは嫌い。深入りされたくはない。だから。
「…そうか」 
 残念そうに男が離れた。律が男に出逢ったのは、SNSで空の風景を呟いた事による物だった。コメントを寄せて来たのがこの男だったのだ。それから他愛の無い会話をSNSで語り、男から会わないかと誘われた。
 律は寂しかったのだ。
 律の家は、県内でも名の知れた病院の息子で(正確には養子になって『息子』になったのだが)律の父親の和也は外に女を作り、律が産まるとマンションを女に買い与えていたが、本妻の直子との間に居た長男が大学の帰りに事故に遭い、今も意識不明の重体のまま、万が一を考え、和也が律を正式に引き取ったのだ。
 律の母親の里沙は他に若い男を作り、律を捨てたのもこの頃だ。居場所のない家庭内に、律は息苦しさを感じても、仕方の無い事だった。
 律は逡巡した末、男に逢った。俳優のようにカッコイイ男に『兄』のような憧れを抱くようになったのは、仕方が無いと云える。
 それから暫くして、身体の関係を結んだのは想定外だったが、律は嫌ではなかった。
 むしろ、男の場の慣れた仕草や愛撫に、律は溺れたのだ。それが、この男への愛情から来るのかは律は解らない。男が律を背中から抱き締める。
「……もうそろそろ名前を教えてくれないか?」
 律の頬に自身の頬を摺り寄せる。くすぐったいと律が笑う。重ねられた唇に吐息が触れて、律は答えるように舌を差し出した。
まだ『恋』を経験した事の無い律にとって、SEXそのものは寂しさを紛らわす『動物的本能』だと、解釈していたのだ。律は離れていく体温に、淋しいと思った事を、胸の奥に終い込んだ。
 律の携帯から、男の携帯番号が消えたのはその日のうちだった。


 夏の日差しを避けるように、律は校舎に駆け込んだ。振り返ると眩しい光と五月蝿く鳴く蝉の声。
「律」
 呼ばれて昇降口の奥に視線をやる。もう全校集会は終わったのか、生徒達がダラダラと歩いていた。
「おはよう平川」
「もう九時を回ってんぞ、また寝坊か? 今日から二学期なのに。相変わらずだなお前」
「あ、おはよう、律~」
 女生徒が数名手を振ってくる。律は笑顔で挨拶を返す。
「そういや今日から新しい教師来てるぞ」
「へ~。何処のクラス?」
 二人は並んで歩きながら、階段を上がって行く。
「俺らのクラス。副担だってさ。すげーカッコいいぜ? 女子が騒いでる」
 律は「ふ~ん」と、興味無さげに云う。
「どうでもいいや」
 律は教室に入ると、自分の机が在る窓際へ行く。ベランダのコンクリートに日差しがキラキラと照り返す。律はカーテンを閉めた。
「かったる~」
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