秘書は蜜愛に濡れる

吉良龍美

文字の大きさ
上 下
12 / 16

秘書は蜜愛に濡れる

しおりを挟む
 バレンタインを前日に控えた日曜日、高平奈緒は実家の台所で、チョコレートを湯煎に掛けていた。
 片手には料理本。
「奈緒さん、お砂糖は此方に置いておきますからね?」
 長年家政婦として勤めてくれるトキが、ダイニングテーブルに砂糖の入った瓶を置いた。
「有り難うトキさん」
「毎年チョコレートを手作りなさるんですから、偉いですわよ。私は店で買って来てしまいますのに」
 トキが感心しながら、奈緒の手元を眺める。
「おや? 今年も手作りかい?」
 父、高平龍之介が欠伸をしながら台所へやって来る。
 華奢な身体に優雅な仕草。小説家の彼は漸く仕事が一段落したのか、顔は疲労感を匂わせたが美丈夫と評される、紳士然とした姿は読者だけでなく近所でも人気が有る。
「父と会長の分は其方に在りますよ」
 見れば、小さなラッピングされた箱が二つ。
「有り難う奈緒。毎年楽しみにしているんだよ。今年は私も何かやるかな? 聡がびっくりするようなサプライズとか」
 聡とは、奈緒の恋人、細川大樹の父親で細川製薬会社会長だ。
 何を隠そう、龍之介と聡は幼なじみで現在進行形の恋人同士だ。
「では今のそれは?」
 奈緒の手元を見ながら、興味津々とばかりに訊く。そこへトキがクスクスと笑った。
「大樹さんのに決まってますでしょうにね~?」
 奈緒が目許を染めて、片手に持った本をテーブルに置く。
「大樹はもうだいぶ前からチョコレートケーキなんです。女子社員達が毎年固形物のチョコレートをくれますからね。私にチョコレートケーキをせがむので」
 云って奈緒は真っ赤になった。
「トキさんは洗濯物を取り入れないと、天気予報で夕立があると云ってました」
「ま、大変だわ」
 トキが慌てて庭へ行く。
「それと」
 凄まれて龍之介がビクッと震えた。
「編集部の方と仕事の打ち合わせで、出掛けるんじゃなかったんじゃ?」
 直後、龍之介の真っ青になった。
「うわ~トキさん! 僕のワイシャツ、ネクタイ! クリーニングどうしたっけ!?」
 慌てて庭に声を掛け、自室へ駆け込んで行く。奈緒は溜め息を零して、オーブンを温める為に動いた。
「高平さんはい」
 廊下で奈緒は女子社員数名に取り囲まれ、有名デパートのロゴ入りチョコレートを手渡された。
「有り難う御座います」
 微笑すると女子社員達がぽ~っと惚ける。
「……奈緒、ちょっと」
 社長室から不機嫌そうに大樹が手招く。
「今行きます。皆さん、始業間近ですよ? 職場に戻りましょうね?」
 にっこり微笑の奈緒に、女子社員数名達が、まるで幼稚園児よろしく『は~い』と返事をする。
「奈緒!」
 大樹が呼ぶ。
 妬きもちをやく大樹に胸をムズムズさせて、奈緒は社長室へ入って行った。
 浴室からシャワーの音が聞こえる。奈緒はガウンを着た姿で、テーブルにチョコレートケーキをセッティングする。
 脱衣所の開閉が聞こえ、頃合いを見て冷やして置いたシャンパンを用意した。
「今年のチョコレートケーキも美味そうだ」
 玄関脇には、二人が貰ったチョコレートの戦利品が、山と置かれて在る。二人は並んでソファーに腰掛けると、唇を重ねて見詰め合う。
「ご馳走になろうか」
「大樹…」
 目許を染めてソファーに寝そべる奈緒のガウンを開くと、白い肌に二つの小さな乳首が二つ現れた。大樹はチョコレートのクリームを人差し指で掬い、乳首のひとつに塗り付ける。
「あ、ん」
 奈緒が吐息を零すと、大樹を奈緒を見詰めたまま、身を屈めた。
「ぁっ」
 胸を迫り上げる姿はもっととせがむ。ソファーの背に方脚を載せ、もう方脚はラグの上を滑る。その間に大樹が座るので、あられもない姿はまるで妖艶なる女神だ。
「美味いな。奈緒は料理上手だ」
 云いながら、また新たにチョコレートのクリームを指に掬い取り、震える下肢に塗り付ける。
 奈緒は荒い息を吐き出して、脚許に居る大樹を見た。
「此処も美味そうだ」
 刹那、奈緒は甘い声を上げて泣き、大樹の少し固めの髪を掻き抱く。
「だい…きっ」
 愛しさが胸に広がり、奈緒は己の乾く唇を舐めた。
「…ふ……」
 涙に霞む視界に、大樹の視線を捉えてキスを促した。紅い舌をチロリと見せれば、低く唸る大樹が背を伸ばす。大樹のキスは熱い。大樹の胸も手も熱い。
 吐息すら愛しくて、奈緒は泣いた。
「も…う」
 訴えれば、大樹は奈緒の方脚を己の肩に載せる。
「ひっ…」
 熱い。
 最奥に迫る全てが奈緒を追い上げる。
 ソファーが大きく軋みを上げて、恋人達は今宵も愛を語り合う。
 大樹の米髪から落ちる汗を胸に受け止めて、奈緒は甘くせつない愛を味わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

【エロ好き集まれ】【R18】調教モノ・責めモノ・SMモノ 短編集

天災
BL
 BLのエロ好きの皆さま方のためのものです。 ※R18 ※エロあり ※調教あり ※責めあり ※SMあり

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

監禁した高校生をめちゃくちゃにする話

てけてとん
BL
気に入ったイケメン君を監禁してめちゃくちゃにする話です。

首輪 〜性奴隷 律の調教〜

M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。 R18です。 ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。 孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。 幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。 それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。 新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。

読み切り 過激☆短編集

まむら
BL
一話完結の小説を置いています。 スカトロ表現など過激な表現があるため、苦手な方は読まれないでください。 全てR-18です。

処理中です...