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天使は甘いキスが好き
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『逃げるぞ!』
力強く握る手。強引に引っ張られて走った時の、早い鼓動。
『……鈴…好きだ』
クリスマスの日。初めて交わしたキスを、熱い肌を、鈴はこの先忘れないと思った。
『考えさせてくれ』
ーーー何を?
離れて行く手を追って、鈴は泣きながら平片を呼んだ。でも声が出ない。手を離さないで。苦しい。
ーーー此処は何処?
真っ暗で何も見えない。
ーーーみんなは何処なの?
『鈴』
声がする。小さな鈴が泣きながら上空を見上げる。小さな光が見えて、それへ鈴は手を伸ばした。
『帰って来い』
柔らかな唇が鈴の唇に触れる。鈴は大きく息を吸って、双眸を開いた。
「…鈴?」
白い天井。点滴が見えて、それが自分の腕に繋がっているのが視界に入った。手を誰かが握っている。不思議に思った鈴は声のした方へ顔を動かした。頭がぼんやりとして、何故平片が真っ赤な眼で泣いているのか不思議だった。「ゆ…た?」
平片はくしゃりと破顔して、鈴の手の甲を額に押し当てた。
「俺、お前がこの先起きなかったらどうしようってっ」
「こ、こは?」
「病院。お前上村達に車で連れてかれて…薬嗅がされて…中々起きなくて」
「ゆ、めを見て…た。昔の…」
そうしたら『考えさせてくれ』の言葉が。思い出して涙が米神を濡らした。
「何処か痛い所あるのか?」
心配になって平片が問う。握っていない方の手は鈴の頬に触れている。鈴は違うと云って、平片の眼を見詰めた。
「考えさせてくれって…祐太、もう僕の事きら」
「嫌う訳がない。ごめんきっと不安にさせてたよな…」
被さる様に言葉を発し、平片は息を吸う。
「将来の事を考えてた。俺、野球選手になりたかったけど、今は違う目標考えてた」
「?」
「ずっと一緒に居られる様に。頑張って英語勉強する。そしてお前を追っ掛けてイギリスに行く。俺は鈴を愛してるんだ鈴。鈴は?」
双眸を見開き、鈴は涙を零して手を伸ばす。
「僕も、愛してる」
平片はその手を握ったまま顔を寄せてキスをした。永遠を誓うキスを。
「待っててくれよな? 俺頑張って大学出て、お前を迎えに行くから」
そしてもう一度キスをしよう。
眠り姫の目覚めはキスだって決まっているんだから。
「…待ってる」
鈴は微笑んで眩しげに恋人を見上げた。
「俺、建築士の資格取って、お前を絶対に迎えに行くからな?」
「うん」
数年後。
平片がイギリスへ渡り、大きなバラを手に玄関の前でネクタイを整えながら、両親への挨拶を念仏の様に頭の中で何度もリピートしていたのは、云うまでも無い。
End
力強く握る手。強引に引っ張られて走った時の、早い鼓動。
『……鈴…好きだ』
クリスマスの日。初めて交わしたキスを、熱い肌を、鈴はこの先忘れないと思った。
『考えさせてくれ』
ーーー何を?
離れて行く手を追って、鈴は泣きながら平片を呼んだ。でも声が出ない。手を離さないで。苦しい。
ーーー此処は何処?
真っ暗で何も見えない。
ーーーみんなは何処なの?
『鈴』
声がする。小さな鈴が泣きながら上空を見上げる。小さな光が見えて、それへ鈴は手を伸ばした。
『帰って来い』
柔らかな唇が鈴の唇に触れる。鈴は大きく息を吸って、双眸を開いた。
「…鈴?」
白い天井。点滴が見えて、それが自分の腕に繋がっているのが視界に入った。手を誰かが握っている。不思議に思った鈴は声のした方へ顔を動かした。頭がぼんやりとして、何故平片が真っ赤な眼で泣いているのか不思議だった。「ゆ…た?」
平片はくしゃりと破顔して、鈴の手の甲を額に押し当てた。
「俺、お前がこの先起きなかったらどうしようってっ」
「こ、こは?」
「病院。お前上村達に車で連れてかれて…薬嗅がされて…中々起きなくて」
「ゆ、めを見て…た。昔の…」
そうしたら『考えさせてくれ』の言葉が。思い出して涙が米神を濡らした。
「何処か痛い所あるのか?」
心配になって平片が問う。握っていない方の手は鈴の頬に触れている。鈴は違うと云って、平片の眼を見詰めた。
「考えさせてくれって…祐太、もう僕の事きら」
「嫌う訳がない。ごめんきっと不安にさせてたよな…」
被さる様に言葉を発し、平片は息を吸う。
「将来の事を考えてた。俺、野球選手になりたかったけど、今は違う目標考えてた」
「?」
「ずっと一緒に居られる様に。頑張って英語勉強する。そしてお前を追っ掛けてイギリスに行く。俺は鈴を愛してるんだ鈴。鈴は?」
双眸を見開き、鈴は涙を零して手を伸ばす。
「僕も、愛してる」
平片はその手を握ったまま顔を寄せてキスをした。永遠を誓うキスを。
「待っててくれよな? 俺頑張って大学出て、お前を迎えに行くから」
そしてもう一度キスをしよう。
眠り姫の目覚めはキスだって決まっているんだから。
「…待ってる」
鈴は微笑んで眩しげに恋人を見上げた。
「俺、建築士の資格取って、お前を絶対に迎えに行くからな?」
「うん」
数年後。
平片がイギリスへ渡り、大きなバラを手に玄関の前でネクタイを整えながら、両親への挨拶を念仏の様に頭の中で何度もリピートしていたのは、云うまでも無い。
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