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天使は甘いキスが好き
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太一が助手席から問う。嫌な予感が過る。
「…煙が…っ別荘の方だ!」
アクセルを踏み込んで消防車の後を追う。後方から救急車もやって来る。まぎれもなく南川家の別荘だった。車を停めて二人は車外に飛び出し、消火活動に走る隊員に龍之介が駆け寄る。
「すみません、中に人が!」
「えっ!? ちょっと危険ですから下がって、私達に任せて!」
太一は燃え盛る別荘を見上げ、何処かから入れないかと眼を泳がせた。その刹那。
「っ!」
大木の根元に立つ女性に、太一が息を呑む。
「……かおる?」
ふらりと歩み寄り、信じられないと顔を横に振る。
「かおる、頼む、あの子が…恵が此処に居るなら助けてくれっ恵を私から奪わないでくれっお前を裏切っていた事は謝る。あの子を連れて行かないでくれっ!」
かおるは寂しそうに太一を見詰めた。かおるは何も語らずふいと歩き出し、太一は追った。するとかおるが頭上を指差し、太一も見上げる。大きな窓からは黒煙が出ており、まさかとかおるを凝視した。
「細川さん!」
呼ばれて太一は龍之介を振り返る。
「人影がっ! 恵が居るっ」
太一の指差す方向を見上げる。以前恵が飛び降りた場所だ。
「恵…恵っ!!」
龍之介は窓を見上げて叫んだ。
恵はびくりとして窓を見る。傍にかおるが立っていた。
「恵っ居たなら返事してくれっ!」
「恵っ!」
太一と龍之介だ。恵はふらりと立ち上がって、窓に飛びついた。二人は恵を確認して、ほっとする。太一が急いで消防隊員を呼びに走った。
「恵っ」
「龍之介さんっ」
恵はだが見下ろして脚が震えた。一度落ちた恐怖が蘇ったのだ。
「抱き留めるっ恵!!」
両手を広げる龍之介に恵は顔を横に振る。
「無理だ……」
『恵』
恵はかおるを振り返った。
『大丈夫よ、勇気を出して』
恵は泣きながらかおるを見詰める。片腕にはギブスがされ、脚が竦んで動かない。
「恵、怖いなら俺がそっちへ行く」
恵は驚いて下に居る龍之介を見た。背後にとうとう火の手が上がって来たのだ。
「ダメだよ、来ちゃダメだっ!」
熱い炎が書棚へ移る。
『恵、信じて。あなたの大切な人を。怖くはないわ。お母さんがついてるもの』
「お母さん」
恵は再び龍之介を見、歯を食い縛って窓枠に膝を着いた。
「恵っ」
消防隊員を連れて戻った太一が、窓から躍り出る恵に驚愕する。
白いシーツがまるで羽のように舞い、天使が舞い降りるかの様な姿に、その場に居た誰もが息を呑んだ。スローモーションの様な光景は一瞬で終わり、恵を抱き留めた龍之介はきつく恵を抱き締めた。
「恵、君が死んだら俺は生きて行けない」
恵は無事に外へ出れた事にホッとして、龍之介の頬に触れた。
「俺、全部思い出したよ?」
「…恵」
「こんな俺でも龍之介さんは好いの?」
「あぁ。君じゃなけりゃダメだ」
恵は泣きながら微笑んだ。
その後消防隊員から救急隊員へ引き継がれ、恵は救急車で病院へ運ばれた。ギブスで固定された腕の骨に変わりが無く、念の為検査入院で一晩を病院で過ごす事になり、恵は思いっきり太一に甘えた。
「お母さんが助けてくれたんだよ?」
信じられないでしょと、恵が云う。だが太一は双眸を細めて何度も頷いた。
「そうだな。かおるはお前を助けてくれたんだな」
太一は睡魔に誘われてうつらうつらとする恵の頭を撫でると、お休みと告げて窓の外を眺めた。
「遺体の損傷が激しいので、なんとか頑張ってDNA検査で調べます」
警察から云われ、龍之介は夕闇の中別荘を見上げた。屋根と骨組みだけが残り、見るも無残な建造物は、不気味な姿を晒し、辺り一面焦げた臭いを漂わせていた。
「…煙が…っ別荘の方だ!」
アクセルを踏み込んで消防車の後を追う。後方から救急車もやって来る。まぎれもなく南川家の別荘だった。車を停めて二人は車外に飛び出し、消火活動に走る隊員に龍之介が駆け寄る。
「すみません、中に人が!」
「えっ!? ちょっと危険ですから下がって、私達に任せて!」
太一は燃え盛る別荘を見上げ、何処かから入れないかと眼を泳がせた。その刹那。
「っ!」
大木の根元に立つ女性に、太一が息を呑む。
「……かおる?」
ふらりと歩み寄り、信じられないと顔を横に振る。
「かおる、頼む、あの子が…恵が此処に居るなら助けてくれっ恵を私から奪わないでくれっお前を裏切っていた事は謝る。あの子を連れて行かないでくれっ!」
かおるは寂しそうに太一を見詰めた。かおるは何も語らずふいと歩き出し、太一は追った。するとかおるが頭上を指差し、太一も見上げる。大きな窓からは黒煙が出ており、まさかとかおるを凝視した。
「細川さん!」
呼ばれて太一は龍之介を振り返る。
「人影がっ! 恵が居るっ」
太一の指差す方向を見上げる。以前恵が飛び降りた場所だ。
「恵…恵っ!!」
龍之介は窓を見上げて叫んだ。
恵はびくりとして窓を見る。傍にかおるが立っていた。
「恵っ居たなら返事してくれっ!」
「恵っ!」
太一と龍之介だ。恵はふらりと立ち上がって、窓に飛びついた。二人は恵を確認して、ほっとする。太一が急いで消防隊員を呼びに走った。
「恵っ」
「龍之介さんっ」
恵はだが見下ろして脚が震えた。一度落ちた恐怖が蘇ったのだ。
「抱き留めるっ恵!!」
両手を広げる龍之介に恵は顔を横に振る。
「無理だ……」
『恵』
恵はかおるを振り返った。
『大丈夫よ、勇気を出して』
恵は泣きながらかおるを見詰める。片腕にはギブスがされ、脚が竦んで動かない。
「恵、怖いなら俺がそっちへ行く」
恵は驚いて下に居る龍之介を見た。背後にとうとう火の手が上がって来たのだ。
「ダメだよ、来ちゃダメだっ!」
熱い炎が書棚へ移る。
『恵、信じて。あなたの大切な人を。怖くはないわ。お母さんがついてるもの』
「お母さん」
恵は再び龍之介を見、歯を食い縛って窓枠に膝を着いた。
「恵っ」
消防隊員を連れて戻った太一が、窓から躍り出る恵に驚愕する。
白いシーツがまるで羽のように舞い、天使が舞い降りるかの様な姿に、その場に居た誰もが息を呑んだ。スローモーションの様な光景は一瞬で終わり、恵を抱き留めた龍之介はきつく恵を抱き締めた。
「恵、君が死んだら俺は生きて行けない」
恵は無事に外へ出れた事にホッとして、龍之介の頬に触れた。
「俺、全部思い出したよ?」
「…恵」
「こんな俺でも龍之介さんは好いの?」
「あぁ。君じゃなけりゃダメだ」
恵は泣きながら微笑んだ。
その後消防隊員から救急隊員へ引き継がれ、恵は救急車で病院へ運ばれた。ギブスで固定された腕の骨に変わりが無く、念の為検査入院で一晩を病院で過ごす事になり、恵は思いっきり太一に甘えた。
「お母さんが助けてくれたんだよ?」
信じられないでしょと、恵が云う。だが太一は双眸を細めて何度も頷いた。
「そうだな。かおるはお前を助けてくれたんだな」
太一は睡魔に誘われてうつらうつらとする恵の頭を撫でると、お休みと告げて窓の外を眺めた。
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警察から云われ、龍之介は夕闇の中別荘を見上げた。屋根と骨組みだけが残り、見るも無残な建造物は、不気味な姿を晒し、辺り一面焦げた臭いを漂わせていた。
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