65 / 98
天使は甘いキスが好き
しおりを挟む
「…そんな」
突然、恵の泣き叫ぶ声が病室の中から聞こえて来て、二人はびくりとした。伊吹がみるみる涙を溢れさせる。
「せんせいのべっそうにいったんでしょう!? どうしてたすけてくれなかったの!?」
「伊吹! もう二度とその先生の話も名前も出さないで! 恵の為なのよ、良い!?」
伊吹は肩を震わせてうわあ~と泣き出した。ナースステーションから、何事かと看護師が二人掛け付ける。病室の中では、恵が泣きながらかおるを呼んでいた。
「鎮静剤と、先生を呼んで来て!!」
「はい!」
先輩看護師に云われ、もうひとりの看護師が病室から駆け出す。太一が暴れる恵の両肩を押さえていた。
「けいにいちゃんっ」
伊吹は泣きながら十和子の手を握り締める。
「嫌だ、お母さんっ! お母さんっ!」
かおるが死んだ時、恵は長男の立場として我慢していたのだ。焼却場で焼かれて行くかおるを見送りながら、耐えていたのが今になって爆発した。精神的ダメージが重なった結果だった。医師がやって来て、恵の腕に鎮静剤を打つ。暫くして恵はショックで気を失った。
「…先生」
太一は恵の流した涙を指で拭う。
「大丈夫です。暫くは眼を離さないように。後、心療内科での受信をお勧めします」
「…心療内科ですか」
「えぇ。このままでは恵君の心が持たないでしょう」
太一は恵の手を握り締めた。自分の不甲斐無さに腹が立つ。自分の我侭で浮気をし、恵や伊吹に構ってやらなかった。まだ子供なのだ恵は。何も云わないが、きっと太一にいっぱい甘えたかったかもしれない。かおるが妊娠して、かおるの変わりに伊吹の世話を手伝って。
「恵、恵…。すまないっ良い父親ではなかった。寂しかっただろうにっすまない」
龍之介に太一の面影を求めて、きっとその後二人は恋をしたのだろう。叶わないかも知れないのに。別荘へ行かせるのではなかったと、思えば良いのか。只あの時、恵の心を癒せるのはもう、龍之介しか居ないだろうと思ったのだ。
「家に帰ったら、お前の好きな所へ行こう。な? 恵」
恵が産まれた日に、かおると二人で考えた名前。恵(めぐ)まれた人生が送れる様にと。
「恵、恵…すまない…」
恵はぼんやりと白い天井を見上げていた。枕の下で、携帯が振動を伝える。恵は紅く腫れた目許がひり付くのを、不快に感じた。恵が枕の下に右手を突っ込む。十和子は双子に交互でミルクを飲ませながら、恵を見た。
「恵、此処は病院なのよ? 携帯は」
「解ってる。…ねぇ、伊吹は?」
「お父さんと外で雪ダルマを作っているわよ」
雪ダルマの言葉に、恵は身体を強張らせた。十和子は双子のオムツを替えると、汚れたオムツを丸めて袋に入れ、トイレに向かう。恵は双子の方を見ると、よく似た顔で恵をジッと見詰めて来た。
恵の手にはシルバーの指輪が光っている。恵はまた涙が零れた。自分はいつからこんなに涙脆くなったのか。携帯のフラップを開くと『龍之介』の文字が在った。
『恵、昨日話せなくてごめん』
恵は返事を躊躇ったが、やはり昨日同様返事を打った。
『あなたは、俺の何?』
暫く返事に困ったのか、返事は返って来ない。不安になった。からかわれたのだろうか。その内十和子が戻って来たので、携帯を急いで布団の中に隠した。
「お祖母ちゃん、俺家に帰りたい」
「…そうね。先生に紹介状を書いて貰って、家に帰りましょうね?」
「うん。そうだ、お祖母ちゃんコンビニに行って貰って良い? 俺アイス食べたい」
「まあ、こんなに寒いのに? 良いわよ、何が良いかしら。伊吹も食べたがるでしょうね」
「俺バニラが良い」
十和子は微笑んで、財布の入ったバッグを手に、出掛ける。見れば双子はいつの間にかスヤスヤと眠っていた。恵は携帯を手に返事のメールを見る。
『驚かないで。嘘は付きたくないから。君の手にまだ指輪が在るなら、それは俺とのペアリングだ。ステンドガラスの展示されている、教会で誓い合った』
「教会…何? それってまるで?」
『誓い合ったって?』
『俺達は恋人同士なんだ』
恵はカッと紅くなって、鼓動を早めた。
ーーー男同士で? 俺がなんで? この人は嘘付いているの? でも…嘘は付きたくないって…。
恵は躊躇いながらメールを打つ。
突然、恵の泣き叫ぶ声が病室の中から聞こえて来て、二人はびくりとした。伊吹がみるみる涙を溢れさせる。
「せんせいのべっそうにいったんでしょう!? どうしてたすけてくれなかったの!?」
「伊吹! もう二度とその先生の話も名前も出さないで! 恵の為なのよ、良い!?」
伊吹は肩を震わせてうわあ~と泣き出した。ナースステーションから、何事かと看護師が二人掛け付ける。病室の中では、恵が泣きながらかおるを呼んでいた。
「鎮静剤と、先生を呼んで来て!!」
「はい!」
先輩看護師に云われ、もうひとりの看護師が病室から駆け出す。太一が暴れる恵の両肩を押さえていた。
「けいにいちゃんっ」
伊吹は泣きながら十和子の手を握り締める。
「嫌だ、お母さんっ! お母さんっ!」
かおるが死んだ時、恵は長男の立場として我慢していたのだ。焼却場で焼かれて行くかおるを見送りながら、耐えていたのが今になって爆発した。精神的ダメージが重なった結果だった。医師がやって来て、恵の腕に鎮静剤を打つ。暫くして恵はショックで気を失った。
「…先生」
太一は恵の流した涙を指で拭う。
「大丈夫です。暫くは眼を離さないように。後、心療内科での受信をお勧めします」
「…心療内科ですか」
「えぇ。このままでは恵君の心が持たないでしょう」
太一は恵の手を握り締めた。自分の不甲斐無さに腹が立つ。自分の我侭で浮気をし、恵や伊吹に構ってやらなかった。まだ子供なのだ恵は。何も云わないが、きっと太一にいっぱい甘えたかったかもしれない。かおるが妊娠して、かおるの変わりに伊吹の世話を手伝って。
「恵、恵…。すまないっ良い父親ではなかった。寂しかっただろうにっすまない」
龍之介に太一の面影を求めて、きっとその後二人は恋をしたのだろう。叶わないかも知れないのに。別荘へ行かせるのではなかったと、思えば良いのか。只あの時、恵の心を癒せるのはもう、龍之介しか居ないだろうと思ったのだ。
「家に帰ったら、お前の好きな所へ行こう。な? 恵」
恵が産まれた日に、かおると二人で考えた名前。恵(めぐ)まれた人生が送れる様にと。
「恵、恵…すまない…」
恵はぼんやりと白い天井を見上げていた。枕の下で、携帯が振動を伝える。恵は紅く腫れた目許がひり付くのを、不快に感じた。恵が枕の下に右手を突っ込む。十和子は双子に交互でミルクを飲ませながら、恵を見た。
「恵、此処は病院なのよ? 携帯は」
「解ってる。…ねぇ、伊吹は?」
「お父さんと外で雪ダルマを作っているわよ」
雪ダルマの言葉に、恵は身体を強張らせた。十和子は双子のオムツを替えると、汚れたオムツを丸めて袋に入れ、トイレに向かう。恵は双子の方を見ると、よく似た顔で恵をジッと見詰めて来た。
恵の手にはシルバーの指輪が光っている。恵はまた涙が零れた。自分はいつからこんなに涙脆くなったのか。携帯のフラップを開くと『龍之介』の文字が在った。
『恵、昨日話せなくてごめん』
恵は返事を躊躇ったが、やはり昨日同様返事を打った。
『あなたは、俺の何?』
暫く返事に困ったのか、返事は返って来ない。不安になった。からかわれたのだろうか。その内十和子が戻って来たので、携帯を急いで布団の中に隠した。
「お祖母ちゃん、俺家に帰りたい」
「…そうね。先生に紹介状を書いて貰って、家に帰りましょうね?」
「うん。そうだ、お祖母ちゃんコンビニに行って貰って良い? 俺アイス食べたい」
「まあ、こんなに寒いのに? 良いわよ、何が良いかしら。伊吹も食べたがるでしょうね」
「俺バニラが良い」
十和子は微笑んで、財布の入ったバッグを手に、出掛ける。見れば双子はいつの間にかスヤスヤと眠っていた。恵は携帯を手に返事のメールを見る。
『驚かないで。嘘は付きたくないから。君の手にまだ指輪が在るなら、それは俺とのペアリングだ。ステンドガラスの展示されている、教会で誓い合った』
「教会…何? それってまるで?」
『誓い合ったって?』
『俺達は恋人同士なんだ』
恵はカッと紅くなって、鼓動を早めた。
ーーー男同士で? 俺がなんで? この人は嘘付いているの? でも…嘘は付きたくないって…。
恵は躊躇いながらメールを打つ。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる