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天使は甘いキスが好き
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「大変、お父さん会社遅刻するよ?」
太一は大丈夫だと答えた。
「有給休暇を取ったから。それよりお腹空いてないか?」
「空いた…でも玲と愛って? 誰?」
太一と十和子が眼を合わせる。
「何を云ってるの? かおるさんの産んだ子供で、あなたの弟と妹よ?」
恵は呆然とし、太一を見る。
「え? お祖母ちゃん、何云ってんだよ? お父さん、一緒にお母さんのお見舞い行こう? 俺此処嫌だよ」
恵は起き上がろうとして、全身打撲の痛みに恵は唸る。
「なんで俺怪我してんの!? 産まれたって何? ねぇなんで外雪降ってんの? ここは何処なの? おかしいよ、お母さんはまだ産んでないよ!」
十和子は恐怖で真っ青になり、両手で口を覆った。
「とにかく先生をっ」
慌てた太一がナースコールのボタンを押した。
「……記憶後退ですね」
診察室で、太一と十和子が眼を見張る。
「少なくとも此処数か月の記憶が、すっぽり抜け落ちてるんです」
「そんなっ!?」
十和子は怒りで震えだす。
「怖い思いをしたんだわ、あの子。かおるさんがまだ生きていると信じて…窓の外の雪を見て、あの子なんて云ったと思いますか!? 『俺事故にでも遭ってずっと眠ってたのかな』って…あの子がまたかおるさんの、母親の死に直面する破目になるなんてっ」
十和子はずっと泣きっぱなしだ。
「…母さんこれから一度自宅に戻って、ワゴン車をレンタルして来るよ。恵が動けないなら、仕方ないし、双子の顔も見せてやりたい」
「…え? えぇそうね。そうだわ。今は私があの子の母親代わりなんだもの。しっかりしなくては…」
十和子はハンカチで涙を拭いた。十和子は太一を院外で見送って、病室に向かう。
「お祖母ちゃん? 俺喉乾いた」
「今買って来てあげるわね? 何が良いの?」
「コーヒー」
「コーヒー? あなたコーヒーが好きだった?」
「解んない。でも飲みたいんだ。頼んで良いかな」
「いいわよ? この病院売店が無いから、コンビニへ行って来るわ。ついでに何か本でも買って来るわね?」
「うん」
恵は薬の効果が残っているのか、またトロンとした眼で見送る。
「双子が産まれてたんだ。俺どの位寝てたのかな? 学校どうしよう。勉強大分遅れているだろうなぁ…」
お母さんにおめでとうと云いたい。子育て手伝うから。恵は左手を見て、薬指に嵌められた指輪を見付けた。
「誰のだろう? 俺の? サイズぴったりだ」
指輪を見詰めていたら、なんだか哀しくなって来た。
「俺、この指輪を知ってる?」
「…恵」
呼ばれて恵は声のする方へ顔を向ける。
「良かった、気が付いたんだね?」
薔薇を両手に持って、恵に微笑む。背が高くて声のトーンが低い。
「……どなたですか?」
「っ恵…?」
冗談では無く、真面目な顔で云われた龍之介は、薔薇の花束をベッドの脇に置く。男の首に巻かれた、雪のように白いマフラーを、恵は見詰めるなり身体が震えだした。
「…やっ!」
「龍之介だよっ! まさか恵っ!?」
龍之介が怯える恵の肩に触れた。
「あら細川さん。今お見舞いにいらした方が、綺麗なお花を持って恵君の部屋を訊いてましたけど。ご親戚の方ですか? 凄くカッコイイって、今皆で話して…」
十和子は呆然とし、怒りで震えると病室へ急いだ。背後で買い物袋を盛大に落とした音がして、二人を驚かせた。
「南川先生!? 何をしにこちらへ来たんですか! あなた方のせいで恵は記憶がっ!!」
龍之介が呆然と立ち尽くし、恵を見下ろした。全身打撲で動けない恵を、十和子が駆け寄って抱き締める。
「この子にはもう会わないで下さいっ警察を呼びますよ!!」
「どうかされましたか?」
看護師が騒ぎに気付いて遣って来る。
「もうこの子の前に現れないでっ!!」
十和子の悲痛の叫びに、龍之介は真っ蒼になって頭を下げる。出て行く龍之介の背中が悲しみに震えていた。
太一は大丈夫だと答えた。
「有給休暇を取ったから。それよりお腹空いてないか?」
「空いた…でも玲と愛って? 誰?」
太一と十和子が眼を合わせる。
「何を云ってるの? かおるさんの産んだ子供で、あなたの弟と妹よ?」
恵は呆然とし、太一を見る。
「え? お祖母ちゃん、何云ってんだよ? お父さん、一緒にお母さんのお見舞い行こう? 俺此処嫌だよ」
恵は起き上がろうとして、全身打撲の痛みに恵は唸る。
「なんで俺怪我してんの!? 産まれたって何? ねぇなんで外雪降ってんの? ここは何処なの? おかしいよ、お母さんはまだ産んでないよ!」
十和子は恐怖で真っ青になり、両手で口を覆った。
「とにかく先生をっ」
慌てた太一がナースコールのボタンを押した。
「……記憶後退ですね」
診察室で、太一と十和子が眼を見張る。
「少なくとも此処数か月の記憶が、すっぽり抜け落ちてるんです」
「そんなっ!?」
十和子は怒りで震えだす。
「怖い思いをしたんだわ、あの子。かおるさんがまだ生きていると信じて…窓の外の雪を見て、あの子なんて云ったと思いますか!? 『俺事故にでも遭ってずっと眠ってたのかな』って…あの子がまたかおるさんの、母親の死に直面する破目になるなんてっ」
十和子はずっと泣きっぱなしだ。
「…母さんこれから一度自宅に戻って、ワゴン車をレンタルして来るよ。恵が動けないなら、仕方ないし、双子の顔も見せてやりたい」
「…え? えぇそうね。そうだわ。今は私があの子の母親代わりなんだもの。しっかりしなくては…」
十和子はハンカチで涙を拭いた。十和子は太一を院外で見送って、病室に向かう。
「お祖母ちゃん? 俺喉乾いた」
「今買って来てあげるわね? 何が良いの?」
「コーヒー」
「コーヒー? あなたコーヒーが好きだった?」
「解んない。でも飲みたいんだ。頼んで良いかな」
「いいわよ? この病院売店が無いから、コンビニへ行って来るわ。ついでに何か本でも買って来るわね?」
「うん」
恵は薬の効果が残っているのか、またトロンとした眼で見送る。
「双子が産まれてたんだ。俺どの位寝てたのかな? 学校どうしよう。勉強大分遅れているだろうなぁ…」
お母さんにおめでとうと云いたい。子育て手伝うから。恵は左手を見て、薬指に嵌められた指輪を見付けた。
「誰のだろう? 俺の? サイズぴったりだ」
指輪を見詰めていたら、なんだか哀しくなって来た。
「俺、この指輪を知ってる?」
「…恵」
呼ばれて恵は声のする方へ顔を向ける。
「良かった、気が付いたんだね?」
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「……どなたですか?」
「っ恵…?」
冗談では無く、真面目な顔で云われた龍之介は、薔薇の花束をベッドの脇に置く。男の首に巻かれた、雪のように白いマフラーを、恵は見詰めるなり身体が震えだした。
「…やっ!」
「龍之介だよっ! まさか恵っ!?」
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「この子にはもう会わないで下さいっ警察を呼びますよ!!」
「どうかされましたか?」
看護師が騒ぎに気付いて遣って来る。
「もうこの子の前に現れないでっ!!」
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