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天使は甘いキスが好き
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この別荘は高床式のログハウスなので、見下ろせば眩暈がしそうだ。ましてや普通の家三階分はある高さだ。それでも構わずに恵は窓を開けた。不快な身体の熱が、急速に冷めて行く。
「…恵君?」
身支度を整えて、俊彦が振り返る。雪に混じった風が、書斎に入り込んだ。
「おい! 何やってんだよ!?」
恵は窓を開けて窓辺の冊子に立っていたからだ。出血が、生々しく恵の双丘から太腿に伝い落ちる。
「俺、この雪みたいに綺麗になれる? 龍之介さんに嫌われない?」
俊彦は息を呑んだ。
「馬鹿な真似は止めてそこからこっちに下りろ」
恵は顔を俊彦に向ける。
「どうして?」
「どうしてって。当たり前だろう! 危ないじゃないかっ」
「だって…ねぇ、雪が俺を綺麗にしてくれるよね? また龍之介さんに愛してるって、云って貰えるよね?」
純粋な恵。言葉使いは乱暴だが、かおるに産んで貰った愛されたひとつの魂。恵は、足許へ紅い血が流れ落ちるのを感じて、身震いに身体を抱き締めた。
ーーーこれは何? 俺どうして此処に居るの?
恵は雪を、空を見上げた。
ーーー龍之介さんは何処?
恵は記憶を遡って、俊彦に強姦された事を思い出した。
「な、んで俺が?」
車のエンジン音が聞こえる。恵は振るえ上がった。
「おい恵君早いとこ服着てくれよ! 龍之介に見付かるぞ!」
俊彦に怒鳴られて、恵は車から降りて来た龍之介を見る。
「やだ…」
恵は顔を横に振る。龍之介の白いマフラーがひらめく。
「…恵君?」
俊彦は恵の異変に漸く気付く。
「やだよ…龍之介さんに嫌われたくないっ」
恵は顔を両手で覆う。指輪が頬に当たって、恵は左手を見詰めて空に向けた。
「俺、教会で誓ったんだ。愛してるって。だけど」
ーーーだけど…。
「捨てないで俺、龍之介さんに見捨てられたらっ!」
きっと、もう誰もこれ以上の愛を囁く事も、支え合う恋も出来ない。こんなに優しい愛を知らない。身体を重ね、愛を囁き合う事も。龍之介が教えてくれた。愛するという事。
「俺、きっとこの雪みたいに綺麗になるから。待っていて」
恵は羽が生えた様に、肌蹴たシャツを翻して空に向かった。
ーーーねぇ。 この雪のように真っ白になるから。龍之介さん。また微笑んでくれる? また沢山の愛を囁いてくれる? ねぇ。お願いだから。嫌ワナイデ…。
「恵君っ!」
龍之介は車から荷物を下ろそうとしていた。
「恵?」
出掛けた筈の俊彦が、書斎から手を差し伸べる。その先に在った者。そして、落ちて行く姿。
「恵っ!?」
地面に叩き付けられた恵に、龍之介が駆け寄った。恵の唇から血が流れ、はだけたシャツ一枚に、足許に流れた出血で、全てを悟った。龍之介は書斎へ顔を振り上げた。俊彦が呆然と立ち尽くしている。
「恵、恵聞こえるか!?」
龍之介は着ていたジャンバーを脱いで、身体に掛けてやる。恵の口元に耳を近付けたが、呼吸をしていなかった。龍之介は俊彦を再び見上げ。
「救急車を呼べっ! 俊彦!!」
肋骨に異常が無いか確かめると、心臓マッサージをし、人工呼吸を繰り返した。
「恵っ! 恵っ!!」
俊彦が携帯を片手に外へ飛び出す。
「今救急車が来る!」
龍之介は心臓マッサージを繰り返していた。
「死ぬなっ!」
暫くして、漸く遠くで救急車のサイレンが聞こえる。
「う、んっぐふっ」
恵が息を吹き返した。
「…恵君?」
身支度を整えて、俊彦が振り返る。雪に混じった風が、書斎に入り込んだ。
「おい! 何やってんだよ!?」
恵は窓を開けて窓辺の冊子に立っていたからだ。出血が、生々しく恵の双丘から太腿に伝い落ちる。
「俺、この雪みたいに綺麗になれる? 龍之介さんに嫌われない?」
俊彦は息を呑んだ。
「馬鹿な真似は止めてそこからこっちに下りろ」
恵は顔を俊彦に向ける。
「どうして?」
「どうしてって。当たり前だろう! 危ないじゃないかっ」
「だって…ねぇ、雪が俺を綺麗にしてくれるよね? また龍之介さんに愛してるって、云って貰えるよね?」
純粋な恵。言葉使いは乱暴だが、かおるに産んで貰った愛されたひとつの魂。恵は、足許へ紅い血が流れ落ちるのを感じて、身震いに身体を抱き締めた。
ーーーこれは何? 俺どうして此処に居るの?
恵は雪を、空を見上げた。
ーーー龍之介さんは何処?
恵は記憶を遡って、俊彦に強姦された事を思い出した。
「な、んで俺が?」
車のエンジン音が聞こえる。恵は振るえ上がった。
「おい恵君早いとこ服着てくれよ! 龍之介に見付かるぞ!」
俊彦に怒鳴られて、恵は車から降りて来た龍之介を見る。
「やだ…」
恵は顔を横に振る。龍之介の白いマフラーがひらめく。
「…恵君?」
俊彦は恵の異変に漸く気付く。
「やだよ…龍之介さんに嫌われたくないっ」
恵は顔を両手で覆う。指輪が頬に当たって、恵は左手を見詰めて空に向けた。
「俺、教会で誓ったんだ。愛してるって。だけど」
ーーーだけど…。
「捨てないで俺、龍之介さんに見捨てられたらっ!」
きっと、もう誰もこれ以上の愛を囁く事も、支え合う恋も出来ない。こんなに優しい愛を知らない。身体を重ね、愛を囁き合う事も。龍之介が教えてくれた。愛するという事。
「俺、きっとこの雪みたいに綺麗になるから。待っていて」
恵は羽が生えた様に、肌蹴たシャツを翻して空に向かった。
ーーーねぇ。 この雪のように真っ白になるから。龍之介さん。また微笑んでくれる? また沢山の愛を囁いてくれる? ねぇ。お願いだから。嫌ワナイデ…。
「恵君っ!」
龍之介は車から荷物を下ろそうとしていた。
「恵?」
出掛けた筈の俊彦が、書斎から手を差し伸べる。その先に在った者。そして、落ちて行く姿。
「恵っ!?」
地面に叩き付けられた恵に、龍之介が駆け寄った。恵の唇から血が流れ、はだけたシャツ一枚に、足許に流れた出血で、全てを悟った。龍之介は書斎へ顔を振り上げた。俊彦が呆然と立ち尽くしている。
「恵、恵聞こえるか!?」
龍之介は着ていたジャンバーを脱いで、身体に掛けてやる。恵の口元に耳を近付けたが、呼吸をしていなかった。龍之介は俊彦を再び見上げ。
「救急車を呼べっ! 俊彦!!」
肋骨に異常が無いか確かめると、心臓マッサージをし、人工呼吸を繰り返した。
「恵っ! 恵っ!!」
俊彦が携帯を片手に外へ飛び出す。
「今救急車が来る!」
龍之介は心臓マッサージを繰り返していた。
「死ぬなっ!」
暫くして、漸く遠くで救急車のサイレンが聞こえる。
「う、んっぐふっ」
恵が息を吹き返した。
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