天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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 平片の手が嬉しくて、でも頬が緩みそうになるのはなんだか恥ずかしくて。
「何百面相してんだ?」
 鈴は云われた事にキョトンとする。
 ーーーやべ。こいつこんなに可愛かったか!?
「そういう裕太はなんで真っ赤なんだよ」
 鈴はギュッと繋いだ手を握り締めた。
「あれ? 細川?」
 不意の声に、二人は繋いでいた手を咄嗟に放してしまった。鈴が振り返ると、クラスメイトの上村が手を振って遣って来たのだ。
「二人してどうした?」
 平片はぺこりと頭を下げた。
「お久しぶりです、先輩」
 中学時代、上村は平片と同じ野球部で、キャプテンをしていた。
「お前また背が伸びたな」
 そういう上村は、チラリと鈴を伺う。
「珍しいじゃん。お前達が一緒なんて。俺これから買い物なんだけど、鈴も行くか?」
 平片は上村の言葉に、鈴を伺い見る。あえて『鈴』と、名指しで来た。だが鈴は顔を横に振る。今は平片と二人きりで居たい。だから…。
「ごめん。これから裕太と従兄弟の家に行くんだ」
 鈴は申し訳なさそうに云うと、上村はそうかとガッカリした。
「それならしょうがないな。そういえば、俺最近眼ぇ悪くなったのかな?」
「「?」」
 平片と鈴が眼を合わせる。
「二人が手ぇ繋いで 歩いてたと思ったんだが」
「!」
「気のせいだよ」
 鈴が微笑んで云う。
「そうか? おかしいな」
 上村の言葉に平片はふと気付いた。此処は学校に近いのだ。無神経に平片が鈴に触れれば、鈴が次期生徒会長になった時困るのは鈴だ。
「僕達急ぐからごめんね? 上村また来年に。良い年を」
「…あぁ。引き止めて悪かったよ。また来年な」
「うん。また」
「それじゃ、先輩。失礼します」
 平片と鈴は踵を返して歩き出す。上村は拳を握り締めて、鈴の平片に話し掛ける横顔を見詰めていた。

「…大丈夫かな上村先輩」
 平片の言葉に、鈴は首を傾げる。
「具合悪そうだった?」
 鈴のお門違いな勘違いに、平片は頭を抱えたくなった。
「そうじゃなくて…いいか? 鈴。あの先輩には近付かない方がいいぞ」
「え? なんで? 上村はただのクラスメイトだし…それに次期生徒会の書記に決まってるんだ。近付くなは無理だと思うけど」
「なにいっ!!」
 平片の大声に、擦れ違った女性が驚いて振り返る。
「俺も入る、生徒会っ」
「あのねぇ…もう役員決まってるの。っていうか…」
 鈴は微笑むと、平片もつられて紅くなる。
「ヤキモチ?」
「なっ」
 鈴は笑いながら駆け出すと、平片が慌てて追い駆ける。
「わっ!?」
 刹那、階段に気付かずに落ち掛けた鈴を、平片の大きな手が捕まえる。鈴は平片の胸に抱き締められた。胸がドクンと鳴る。
「危ないな、眼が放せないのは相変わらずだぞ」
 鈴はムッとして、平片から離れた。
「相変わらずって、なんっ」
 平片は屈んで、鈴の柔らかな唇にチュッと音を立ててキスをする。触れるだけのキスだが、鈴は耳まで紅くなって平片を見上げた。
「俺達は今さっき恋人になったんだろう?」
「こっ」
 鈴は全身真っ赤になった。平片の変わりように鈴は戸惑う。
「大事な『鈴』を、変な奴が見詰めてたら、いくら俺だって心配するだろ」
「…心配し過ぎだってば」
 でも、嬉しい。もっとして欲しい。云って欲しい。
「自分の事が解らないんだよ鈴は。お前は只でさえ目立つんだから…え?」
 鈴は真っ赤になって、平片の袖を掴む。潤んだ青い双眸が、平片を見詰めた。
「裕太…」
 平片は眼を細めて鈴へと顔を近付けて行く。今は大降りの雪。皆傘を差していて、二人に気を止める事は無い。きっと、雪が二人を隠してくれる。今日はクリスマスイブ。
 生まれたての恋人達に、熱いキスが降る。
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