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天使は甘いキスが好き
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「うん、げんき~」
平方が伊吹の頭を撫でる。
「……久しぶりだな恵」
「久し振り」
後の言葉が出てこなくて、恵は俯いた。平方は伊吹の目線を合わせる。
「伊吹は何か良いことでもあったのか?」
「うん! きょうね、あかちゃんがぼくのいえにきたのっ」
「そうか。お前ももうお兄ちゃんだな」
平片に云われて、伊吹は双眸を輝かせる。
「ひらかたのにいちゃんもみるでしょう?」
「そうだな」
「はやくはやくっ」
伊吹は玄関へ走る。伊吹はインターホンを鳴らした。
「恵」
平片が恵に歩み寄る。恵は平片を見詰める事が出来ず、俯いたままだ。
「…少し痩せたか」
「あ…あぁ。食欲がなくて…」
「ちゃんと食え。只でさえ食が細いんだから」
どこまでも優しく、恵を包み込むように話し掛ける。けれど、平片が恵に触れようとして、その手を下げた。
「平片…」
恵は右手で胸を押さえる。罪悪感が胸をいっぱいにした。
「あいつとは…寄りが戻った様だな」
恵は俯いたまま頷いた。平片には申し訳無くて…。結局、平片の恵への想いを断るのだ。
自分ならきっと辛いだろう。
「やっぱり、離れられないって解ったんだ。…平片俺」
「あぁ、云うなそれ以上。俺が辛くなる」
平片は片手で自分の頭をガシガシと掻き乱す。恵は眉根を寄せた。いっそ詰られた方がましかと思う。けれど、平片はそんな人間ではないと恵が一番知っていた。
「謝るなよ? へこむから。今でも俺はあいつを認めてないしさ」
俺は諦めが悪いんだと、恵に云う。恵は泣きそうになるのを耐えた。心の中ですまないと。声に出せない分、恵は顔を上げて平片を漸く見詰め返す事が出来た。
「ひらかたのにいちゃんっ、はやく! あかちゃんまってるんだからね?」
伊吹に呼ばれて、そちらを見る。
「…平片ありがとう」
恵は平片の背に向かって云う。平片は片手を上げて振った。
平片は仏壇に手を合わせ、十和子にお辞儀をする。
「久しぶりに食事をして行く? 裕太君」
「ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えて」
平片はリビング横の仏間に置かれた、二つのベビーベッドに近付いて、スヤスヤと眠る赤ん坊を見比べる。
「どっち似だ?」
平片は、双子の赤ん坊を見比べる。
「ぼくににたの!」
平片は笑い出す。
「そりゃまあ、そうだ。目許はおばさんに似てるかな」
「おくちはおとうさんだよ?」
伊吹は嬉しそうに云う。伊吹はかおるが死んでから、泣いてばかりいたので恵は夜ベッドの中で、『伊吹、いつまでもお母さんの事で泣いていたら、お母さん安心して天国に行けないよ?』と諭すと、伊吹は恨めし気に、真っ赤な眼を恵に向けた。
大きな眼には涙がいっぱいで紅くて。まるでウサギのようだった。
『どうして? おかあさんがしんだの、ぼくがはやくあかちゃんでてておいでっていったから? それでおかあさんしんだの? ぼくのせい? ぼくのせいで、おかあさんてんごくいけないの?』
恵はそれは違うよと、伊吹を抱き締めた。
『まず、赤ちゃんは神様が伊吹に寂しくない様に、プレゼントしてくれたんだ。伊吹や俺が、辛い事に耐えられる様に。神様は俺達を試してるのかもな…お母さんが死んで、人の命の重さに対して、忘れてはいけないよって。プレゼントは、俺達が寂しくない様に、お母さんが残したんだと想おうか。神様は、お母さんが余りにも綺麗な優しい人だったから、神様が恋をしたんだろうね』
伊吹はヒクッと泣く。
『かみさまはおかあさんにこいをしたの? でも、おかあさんはぼくたちのおかあさんだよ? かみさまはひどいよ』
『酷くは無いさ。天国は暖かくて、お花がいっぱい咲いていて。でも、俺達が一生懸命に生きて、爺さんになったら、天国でお母さんに会えるさ』
『それまであえないの?』
『そんな事は無いさ。お母さんは姿形を変えて、伊吹に会いに来てくれるよ』
『でも、ぼくにはみえない』
平方が伊吹の頭を撫でる。
「……久しぶりだな恵」
「久し振り」
後の言葉が出てこなくて、恵は俯いた。平方は伊吹の目線を合わせる。
「伊吹は何か良いことでもあったのか?」
「うん! きょうね、あかちゃんがぼくのいえにきたのっ」
「そうか。お前ももうお兄ちゃんだな」
平片に云われて、伊吹は双眸を輝かせる。
「ひらかたのにいちゃんもみるでしょう?」
「そうだな」
「はやくはやくっ」
伊吹は玄関へ走る。伊吹はインターホンを鳴らした。
「恵」
平片が恵に歩み寄る。恵は平片を見詰める事が出来ず、俯いたままだ。
「…少し痩せたか」
「あ…あぁ。食欲がなくて…」
「ちゃんと食え。只でさえ食が細いんだから」
どこまでも優しく、恵を包み込むように話し掛ける。けれど、平片が恵に触れようとして、その手を下げた。
「平片…」
恵は右手で胸を押さえる。罪悪感が胸をいっぱいにした。
「あいつとは…寄りが戻った様だな」
恵は俯いたまま頷いた。平片には申し訳無くて…。結局、平片の恵への想いを断るのだ。
自分ならきっと辛いだろう。
「やっぱり、離れられないって解ったんだ。…平片俺」
「あぁ、云うなそれ以上。俺が辛くなる」
平片は片手で自分の頭をガシガシと掻き乱す。恵は眉根を寄せた。いっそ詰られた方がましかと思う。けれど、平片はそんな人間ではないと恵が一番知っていた。
「謝るなよ? へこむから。今でも俺はあいつを認めてないしさ」
俺は諦めが悪いんだと、恵に云う。恵は泣きそうになるのを耐えた。心の中ですまないと。声に出せない分、恵は顔を上げて平片を漸く見詰め返す事が出来た。
「ひらかたのにいちゃんっ、はやく! あかちゃんまってるんだからね?」
伊吹に呼ばれて、そちらを見る。
「…平片ありがとう」
恵は平片の背に向かって云う。平片は片手を上げて振った。
平片は仏壇に手を合わせ、十和子にお辞儀をする。
「久しぶりに食事をして行く? 裕太君」
「ありがとうございます。それじゃ、お言葉に甘えて」
平片はリビング横の仏間に置かれた、二つのベビーベッドに近付いて、スヤスヤと眠る赤ん坊を見比べる。
「どっち似だ?」
平片は、双子の赤ん坊を見比べる。
「ぼくににたの!」
平片は笑い出す。
「そりゃまあ、そうだ。目許はおばさんに似てるかな」
「おくちはおとうさんだよ?」
伊吹は嬉しそうに云う。伊吹はかおるが死んでから、泣いてばかりいたので恵は夜ベッドの中で、『伊吹、いつまでもお母さんの事で泣いていたら、お母さん安心して天国に行けないよ?』と諭すと、伊吹は恨めし気に、真っ赤な眼を恵に向けた。
大きな眼には涙がいっぱいで紅くて。まるでウサギのようだった。
『どうして? おかあさんがしんだの、ぼくがはやくあかちゃんでてておいでっていったから? それでおかあさんしんだの? ぼくのせい? ぼくのせいで、おかあさんてんごくいけないの?』
恵はそれは違うよと、伊吹を抱き締めた。
『まず、赤ちゃんは神様が伊吹に寂しくない様に、プレゼントしてくれたんだ。伊吹や俺が、辛い事に耐えられる様に。神様は俺達を試してるのかもな…お母さんが死んで、人の命の重さに対して、忘れてはいけないよって。プレゼントは、俺達が寂しくない様に、お母さんが残したんだと想おうか。神様は、お母さんが余りにも綺麗な優しい人だったから、神様が恋をしたんだろうね』
伊吹はヒクッと泣く。
『かみさまはおかあさんにこいをしたの? でも、おかあさんはぼくたちのおかあさんだよ? かみさまはひどいよ』
『酷くは無いさ。天国は暖かくて、お花がいっぱい咲いていて。でも、俺達が一生懸命に生きて、爺さんになったら、天国でお母さんに会えるさ』
『それまであえないの?』
『そんな事は無いさ。お母さんは姿形を変えて、伊吹に会いに来てくれるよ』
『でも、ぼくにはみえない』
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