天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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「…動くよ? 恵」
 龍之介はゆっくりと腰を動かした。恵はジンジンと痛む後孔に意識を集中させた。すると、痛みよりも快感がさざ波のように寄せては返すようになり、先程の電流の走ったしこりが、龍之介の陰茎で擦られて恵は喘いだ。
「あうっ!」
「ここだね? 恵の好い所」
「ああ、あ、んあっいやぁそこっ!」
「あぁ、恵…君の中が熱くて、俺のに絡みついて持って行かれそうだっ!」
 逃げようとする恵の腰を引き戻し、片脚を持ち上げて無理やり恵の身体の向きを変える。グリッと中で陰茎の角度が変わり、恵は甘い悲鳴を上げた。
「何か、来るっ来ちゃうっあ、ぁぁイク、イクっっ!!」
 ビクン、ビクンっと痙攣し、龍之介の陰茎をギュウッと絞る。
「ううっ!」
 恵が自分の腹と龍之介の腹に白濁で濡らす。すると、龍之介は呻いて恵の奥深い場所に快感を解き放した。熱い飛沫にも恵は甘い声をあげて震える。龍之介は身を屈めて恵の唇に吸い付いて、舌を絡めながら好きだと囁いた。まだ龍之介は物足りない。龍之介の陰茎は変わらず硬いままだ。恵は荒い息を吐きながら、浮上していく快感に身を熱くして…。
 恵は涙目になりながら、幼い顔を龍之介へと見上げ喘ぎ、龍之介の背に爪の跡を残した。

 龍之介の声に、恵は眼を覚ます。寝室のドアが少し開かれていて、龍之介の厳しい声が聞こえて来た。
「兎に角、これ以上恵を傷付ける事は、この俺が許さない」
 電話の向こうで、誰かが怒鳴るのが微かだが聞こえた。
「美加がなんと云おうが、俺には恵が必要だ」
 恵は胸がトクンと、高鳴った。起き上がろうとしたが、力が入らない。在らぬ処がズキリと痛み、恵は思い出してひとり紅くなった。
「誰にも恵は渡さない。今? 君には関係無いだろう。君と俺はとっくに終わってるんだ」
 電話の向こうで美加の声が聞こえる。恵は今全裸で、肩から下がキスマークでいっぱいなのに羞恥した。
 ーーー本当に、しちゃったんだ。
 思い出しただけで、胸が温かくなる。やはり、龍之介を忘れられなかった。改めて愛していると知る。太一の昔の優しい只の、父親の姿を龍之介に求めていたのは理解した。が、でも今は違う。それだけは間違いない。愛している。ひとりの人間として。
 電話が終わったのか、龍之介が水の入ったコップを手に、寝室へやって来た。
「起きたのか。身体の方は大丈夫?」
 訊かれて、恵は胸元まで毛布を持ち上げた。
「…少し、腰が痛い」
 正直に云う恵に、龍之介は微笑んで恵の米神にキスをした。恵の横に座ると、水の入ったコップを手渡す。
「途中で我慢が効かなかった。余りにも君が可愛過ぎて」
 低い声に、恵はドクンと胸が高鳴る。確かに途中から、龍之介は獣の様に恵を求めた。恵は頬を染めたまま、顔を横に振る。
「龍之介さんが感じてくれたら俺、嬉しい」
「君は? 恵。気持ち良くなかった?」
 恵は首筋まで紅くなって、龍之介に寄り掛かる。龍之介の着ているタオル地のガウンが、頬に当たる感触が気持ち良い。
「俺も、気が遠くなりそうだった…」
 恋人同士の甘い時間に恵はふと、自宅への電話を忘れていたのを思い出す。
「…電話しなくちゃ」
 クラシックな、壁掛け時計を見上げれば、既に深夜の零時を過ぎていた。
「もう、こんな時間!?」
「大丈夫。電話するって云ったろう?」
 恵はホッとして、伊吹を思い出した。きっとまた拗ねているだろうか。
「何? ホームシック?」
 恵はムッとしてそっぽを向いた。
「ごめん、ごめん。怒らないで、恵」
 恵はチラッと龍之介を見ると、笑って龍之介の唇にキスをした。
「もっと、してくれたら許してあげる」
 潤んだ眼で恵が龍之介を見上げる。龍之介は双眸を見開き、微笑む。
「俺の可愛い天使は、欲しがり屋さんなんだな。俺は嬉しいよ。また抱いてもいい?」
「……うん」
 甘いキスが、恵を幸福の中に引きずり込む。この幸福が、いつまでも続きます様に。恵は龍之介の腕の中で、願わずにはいられなかった。

 五歳ぐらいの泣き虫の小さな恵が、白い霧の中で立ち尽くしていた。あぁ。これは夢。暖かな空間の間で、光を求めて歩き出す。
『恵』
 何処からか声がする。ずっと聞いていた声。温かく、包み込む優しい声。
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