天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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 まだ変声期を終えない、少女の様な声。自分よりも少しでも若いというだけで美加は面白くないのだ。常に注目を浴びていないと気が済まない。
「恵君? 私美加っていうんだけど」
 電話の向こうで恵が息を呑むのが解る。恵の怯えが垣間見えた様で美加は上機嫌になった。
【…あの、俺に何か】
「ごめんなさいね? 突然。龍君が教えてくれたのこの携番。それで今電車に乗る処なんだけど。恵君、龍君に電話して『美加さんのピアス、龍君のベッドに落としたみたいだから、明日大学に来る時持って来て』って、伝えて欲しいの」
 恵は暫し絶句した様だと美加は思う。当たり前だ。恋しい人が、元彼女とベッドに居たとなれば尚更だ。
【…どうして俺が? ご自分で云えば良いでしょう?】
「そうしたいけど電車内は携帯禁止でしょ?」
 とは云う物の実際電車内で携帯を掛け捲りだ。美加は将来の夢は【女優】を夢見た事もあったぐらいだ。高校時代は演劇部で常にヒロイン。それらしく話すのはお手の物だ。
 美加は大学で龍之介と知り合い、直ぐに付き合い出しすと、もっと刺激が欲しくて竜之介の親戚に手を出したのだ。しかも同じ大学で。まさか浮気がばれて破局すなんて思いもしなかった。美加は龍之介が自分に心底惚れられていると思っていたのだ。だから油断した。
「この後横浜まで行くの。ピアスは母からのプレゼントなのよ。大事な物だから、恵君なら龍君の生徒さんだし、可愛い生徒さんの言葉なら龍君聞いてくれると思って。私さっき龍君と喧嘩しちゃって。電話しづらいのよね」
 美加は内心舌を出す。
【…解りました…先生には伝えておきます】
「恵君優しいっありがとう。私せめて最後にって龍君に抱いて貰って……激しかったな」
 恵は息を呑んで無言になる。
「やっぱり私忘れられなくて…また龍君とやり直そうって云ったら。彼…OKしてくれたの。そこにちょっと喧嘩しちゃって…恵君応援してね? 先生が幸せな結婚してくれたら、嬉しいでしょう?」
 恵は金槌にでも撃たれたかの様に、頭を押さえた。聞いていられない。虫唾が走る。携帯をプツリと切った。
「やあだ~急に電話を切るなんて! 非常識な子。でも良いわ。あんな子に龍君を渡す物ですか。あんなカッコイイ男他にも眼を付けてる子がいっぱい居るんだから。諦めないわよ。龍君たら可哀想に、私に振られてショックだったのね? あんな子に走るなんて。眼を覚まさせなくちゃ」
 美加は携帯をバッグに入れて、恵には横浜と云っていたのに、自分はさっさと川口駅行きの改札口へ向かう。ショッピングの為、鼻歌を小気味良く歌いながら。

「…おい。恵、恵?」
 平片の声に、恵は蒼い顔で見上げた。身体がおかしい。フラフラする。
「今の電話、誰から? あいつじゃないのは確かだろ? その顔色じゃ…」
 平片の勘の良さには脱帽だ。
「うん…龍之介さんの…元彼女から」
「はあ!? なんだそりゃ! って、おい、恵っ!」
 恵は龍之介を問い詰めようと玄関へ走り掛けたが、自分の女々しさに気付いて腹が立った。が、深呼吸して、取り敢えず落ち着こうとリビングへ戻った。
「……おい、恵どうしたんだよ?」
 平片が恵を心配して連いて歩く。恵は平片を一瞥し、携帯電話で龍之介を呼び出した。心臓がバクバクする。携帯電話を持つ手が震える。三コールで龍之介が電話に出る。
「…もしもし?」
【恵? どうした? もう飯食ったか?】
 いつもの声。いつもの龍之介。
 ーーーむかついてきた。
「…今さっき、美加さんから電話があった」
【えっ!?】
 龍之介が電話の向こうで驚愕する。バサバサと、雑誌が落ちる音がした。
 ーーーすげぇ動揺してんの。
 臓腑が煮え滾りそうだ。こんな自分を知りたくはなかった。嫉妬で気が狂いそうだ。
「龍之介さんのベッドにピアスを落としたから、明日大学へ来る時持って来て欲しいって」
 心のどこかが崩れていく。胸の底から冷えて行く。太一の顔が瞼を過ぎる。
「応援してくれって。龍君とやりなおすって…やり直すからって云われたの」
【恵っ? 何を云ってるんだ!? 美加とは何も】
「最後に抱いて貰ったと云っていたよ? 結婚、するんでしょう? あの人と。良かったねっ!」
【何を云って!? 結婚なんかっ】
 恵は居た堪れなくなって、携帯の電源を切り、ソファーにドカリと腰を下ろした。
「……恵」
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