天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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「だって、こんなの他の奴らに話せないじゃんか」
「あ…そうか。そうだな。おばさんの出産心配だろう? それじゃ。それに、十和子ばあちゃんが居てくれて良かったじゃないか。なんだ、そうか。それで【調理師】の学校って話しが出たのか」
 平方が納得とばかり、頷いた。恵を守ってやりたい。傍に居てやりたいと思った…。平片はカレーを一口頬張る。
「調理師の件は俺が勝手に。……そうだな、やっぱり調理師の勉強やる。迷ってたけど、うん、決めた。これからお祖母ちゃんには話すし、お母さんにも話してみようと思う」
「そうか。なら、俺応援するよ」
 恵は嬉しさに微笑む。
「ありがとう、平片。やっぱりお前に話して良かった」
 平片も頬を染めた。
「あの、さ。さっきの南川先輩? そいつには話したのか? 今の恵の話」
 恵は顔を横に振った。
「今大学で、教師になる勉強してるから。話せないよ。心配掛けたくないんだ」
 平片は自分が特別の様な気分になった。龍之介が知らない事を、平片だけが知る。
「そうだな。そいつは大学生だ。今大事な時期だもんな、恵は今の自分を考えれば良い」
 大人。その言葉に、恵は龍之介との間に在る壁を痛感した。

「なんだ南川、もう飲まないのかよ?」
 友人に酒を勧められて、龍之介は断る。
「悪酔いしそうだ。勘弁してくれ、明日の朝には皆帰れよ?」
「冷たーい。南川~もっと付き合え~」
 友人達が竜之介に絡む。
「これだから、飲み会は外が良いんだ。なんで俺の家なんだよ?」
 愚痴る龍之介に、友人達が顔を見合わせる。
「だって」
「なあ?」
「なんだよ」
 龍之介は首を傾げた。嫌な予感がする。
「美加がどうしてもお前のマンションでって云うからさ」
 やはりそうかと龍之介は溜息を吐く。今夜は皆で雑魚寝決定だ。美加だけは女性なので、龍之介のベッドを借りる事になった。龍之介はカーペットの上に横になる。携帯に表示した【恵】という名前を指でなぞる。こんなにも誰かを愛しいと感じた事は、今までに無かった事だ。
 図書室で見掛けてから、ずっと気に掛けていた。名前は? 歳は? 懐かしい制服の姿に、母校の生徒だと知る。長い睫毛に、日本人離れした顔立ちと瞳。彼が本の貸し出しで、どんな本を借りていたのかを調べたら、(傍を通り掛かって見掛けた)冒険ファンタジー物だった。名前も聞きたかったが、個人情報なので、そこまでは解らなかった。
 これではまるでストーカーの様ではないのか。今日は来るか、明日は来るかと想っていたら、気付いた。自分はあの子に夢中になっていたのだと。だから、男二人に絡まれても女王様の様に、きりっとした眼が、龍之介を動かしていた。
 恋に、男も女も関係ないんだと、初めて知る。傍に居るだけで、胸が温かくなる。その先を求めてしまう。守ってやりたくなる。知ったら、うろたえるだろうか? それとも【女】じゃないと拗ねて怒るか。
 その頃美加は気付かれない様に、龍之介のベッドの下へ自分の片方のピアスを置いた。美加はクスリと笑うと、布団に潜ったのだった。

 平片はソワソワとしながら、兄からこっそり借りたアダルトのDVDを手に、自室を熊の様に歩き回った。自分のベッドの横には客用の布団を敷いた。勿論、恵が寝るためだ。今恵はお風呂に入っている。アダルトビデオは男同士のホモビデオ物だ。
「面白そうだから見付けたとか云うか」
 だが、兄の部屋に何故ホモビデオがひとつだけ隠されてたのか、ひたすら疑問だが。
「お風呂ありがとう」
 平片は驚いて飛び上がった。
「…何してんだ?」
「へ? いや…その……この間話したビデオをな、借りて来たんだが」
 恵は思い出して、あぁと頬を染めて俯いた。
「やっぱり観るのか? 俺見た事なくて…」
「別にどうって事無いよ。今日は面白そうなの見付けてさ」
「「…」」
 平片が、ホモビデオのパッケージを見せる。恵は真っ赤になって固まった。興味はある。男同士のなんて、見た事もなければした事も無い。龍之介は、恵を大事にするからとキスしかしてくれない。
 ーーー何するか解んないけど、キスだけじゃ無いよな?? 多分。
「だ、大丈夫っうん。面白そうだな」
 ーーー恵ちゃん顔が引き攣ってるぞ?
 平片はドキドキしながらDVDをセットする。恵はパジャマの姿で、敷かれた布団の上に座った。それを視界に捉えながら、平片はリモコンを手にベッドに腰を下ろした。

 数分後。内容は過激すぎて、恵は真っ赤な状態で固まりまくった。
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