天使は甘いキスが好き

吉良龍美

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天使は甘いキスが好き

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 伊吹の返答に、成田が手に持っていたサッカーボールを落とす。二人の背後で、玉木は困り顔で、十和子を見た。
「こんにちは。直ぐそこで遭遇しまして…」
 玉木も十和子も苦笑いだ。英治はフフンと、鼻を鳴らす。成田はムッとした。
「だったら、おれもいくっ!! おじさんいい!?」
 振り返って、成田が叫ぶ。
「なんでおまが、ふががっ!」
 玉木は慌てて英治の口を押さえた。
「構わないよ? ね? 多い方が愉しいし。英治は良い子だよな?」
 玉木が無理矢理英治の頭を押さえて頷かせた。
 ーーークソおやじめっ。
 そんな英治を成田が見てにやりリと笑う。
「そうだよな? え・い・じ・くん」
 ーーーおまえがいうなっおにもつおとこっ。
 英治は心の中で毒吐く。
「…い、いってきます」
 十和子に手作りのクッキーを持たされて、外へ出る。
「行ってらっしゃい。ではすみませんがお願いします」
「こちらこそ。お預かりします」
 玉木はバックシートの扉を開ける。伊吹を真ん中にして、英治と成田が座った。玉木はやれやれと肩を竦めて、ドライバーズシートの扉を開けると、車を発進させ、雲行きの激しくなりそうな後部座席を、ルームミラー越しに玉木は見て、伊吹がひとりキョロキョロと車内を見渡していた。
「伊吹君、車好きかい?」
 玉木に訊かれて、大きく頷いた。
「うんっすき!」
 両サイドの英治と成田が、何を勘違いしたのかドキンとして、自分の胸を押さえた。
「このくるまスエーデンのくるまでしょ?」
「よくしっているね。これはボルボだよ?」
 玉木は感心して、微笑む。伊吹は頬を染めて、両サイドの視線に気付いた。
 ーーー?? なにかわるいこといったかな??
 両サイド二人は同じ事を考えていた。
 ーーーいぶきはとしうえがこのみなのか!?
 玉木は背後からの殺気に、やれやれと再び肩を竦めた。


 平片の家は、空手道場を営む日本家屋の家で、敷地をぐるりと竹の屏に囲まれている。道場の入り口から少し離れた玄関の、インターホンを鳴らす。監視カメラが恵を移す。先祖代々受け継がれた道場は、かれこれ二百年は続くらしい。【平片空手道場】と書かれた看板が、デンと立て掛けられている。
「久しぶりだな、此処に来るの」
 昔はよく従兄に連れられて来た物だ。恵は見学する側に回っていたが。
「おう、待ってたぞ」
 横開きの玄関をガラリと開けて、平片がはにかんだ笑顔を見せる。
「はい。注文のポテチ。皆は?」
 平片はサンキュウと、受け取って恵を中へ促す。
「お邪魔しま~す」
「はい、どうぞ。…で、他の奴はまだなんだよ」
 相変わらずな広い玄関から、恵は平片の後に続く。
「おじいちゃんは?」
「じいちゃんも旅行」
「あぁ、だからか」
「当たり前。あのじいちゃん居たら、アダルトビデオ観れねぇって」
 あからさまな言葉に、恵は紅くなる。
「あ、電話」
 二人はリビングに入ると、テーブルの上に置かれていた平片の携帯が鳴っていた。
「もしもしあぁ。え? ん~そうか解った。…んじゃな?」
 恵は椅子に座ると、懐かしいリビングを見渡した。隣は十二畳の畳の部屋が二間続きになっている。平片がチラリと恵を見た。
「何?」
「ん? えっと……あいつら来れなくなったって」
「……え?」
 恵はキョトンとする。
「二人共。家の用事が入ったらしい」
 二人来れなくなった。と、平片が云い、平片は自分の頬が熱くなるのを感じた。
「んじゃ、俺と平片だけか」
「そ、そうだな、うん」
 平片が携帯をジーパンのポケットにしまう。恵はふうんと、頬杖を着いて平片を見上げた。平片はキュンと胸が鳴って、眩暈を覚えた。
 ーーーう、可愛すぎるっ。しかもこ、今夜一晩恵と二人っきり!
 神様有り難うと、無心論者が都合良く有り難がる。頭上でファンファーレが鳴った。
「…から、携帯。おい、平片?」
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