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天使は甘いキスが好き
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「当たり前だ」
「そこでだ。君にある課題を出そう」
「は?」
恵はクレッションマークで友人三人を見渡す。
「君を真の男の仲間入りをさせてやる」
「だからなんだよ?」
恵はじれったくなって訊く。
「兄貴の隠し持ってるDVD、実は無修正なんだ」
恵は刹那顔が引き攣った。漸く話しが飲み込めたのだ。
「恵君これは秘密だよん?」
平片およびその他友人は、にんまりと笑う。恵は首元まで紅くなった。
「週末に?」
帰宅した恵は早速、十和子に平片の家へ泊まる事のお許しを頂く為、顔の前で両手を合わせて頼んだ。十和子は昨夜の太一との会話を恵に、聞かれた後ろめたさもあり、駄目とは云い難い。
十和子は料理中のお鍋をかき回しながら困惑した。
「でも、あちらのご両親に迷惑じゃないの? それに毎回お断りしてなかった?」
「それは大丈夫。平片のお父さん達旅行だって。それに中学最後の思い出作りにってさ」
名目は『試験勉強』という事になっている。
「それと、お父さんには内緒にしてて欲しいんだ」
「…え?」
「今は話したくない。顔だって」
見たくないと云おうとしたが、言葉を呑んだ。十和子はふと、溜息を吐いた。
「恵。いくらなんでも、あなたのお父さんよ?」
「でもやだもん」
恵は恵で十和子とは違った後ろめたさがある。内心ドキドキしていた。
「そう…? 私は良いけど…問題は伊吹よねぇ。またついて行くって泣くんじゃないかしら?」
問題はそこだ。なんとか伊吹を丸め込んで、ついて来ない様にしなくては。平片達に約束させられたのだ。恵もたまには友人達と騒いで遊びたいのは実の処の本心だ。
「そっちはなんとかするから。あと、さ…」
十和子は夕飯の仕度をいったん止め、振り返る。
「ほんと、マジでお父さんには内緒にしてて欲しいんだ」
「…恵」
十和子は困って息を吐く。
「何を言っているか解ってるの?」
「そんなの解ってる! だから許せないんだよっあんな…お母さん心臓弱くなってるのに…もし知ったら」
もしかおるに太一の不倫が、裏切りが知れたら。綺麗な綺麗な優しい母。家に帰れば『おかえりなさい』と、十五の息子に優しくキスをするかおるに、いつも照れ臭くて、乱暴に腕でキスされた頬を腕でゴシゴシと拭いてしまっていた、罪悪感。本当は嬉しかったのに。それでもかおるは知っていてくれる。恵がかおるを尊敬し、大好きなのを。双眸に涙の膜が掛かる。
「…伊吹を迎えに行って来る」
「えぇ。お願いね、気を付けて」
「行って来ます」
恵はコートを羽織ったままで、ソファーにおいた鞄を取り自室に置いて来ると、玄関を出た。もう直ぐ十二月。クリスマスはもう直ぐなのに。子供の頃に信じていたサンタは居ない。いつの頃からサンタを信じなくなったのか、もう覚えてはいない。それは大人になるという事。恵はすっかり暗くなった、十七時の針を刺す腕時計を見ると、今日何度目かの溜息を吐いた。白い息が、まるで恵の凍て付いた心を表す様だった。太一が思い出すのは、恵の小さな頃の笑顔。小さい頃はよくこの腕にぶら下がったり、肩車をしてやった。恵が喜ぶからだ。恵が小学校三年生の時、かおるの妊娠を知って大いに喜んだ。兄弟が欲しいと一度だけクリスマスプレゼントに、街角でプラカードを持つ偽者のサンタクロースにおねだりしたのだ。かおるは驚いて、そのサンタの格好をした店員に平謝りをしたと、頬を染めながら太一に話した。
『やった! サンタさんがお願い聞いてくれたんだね?』
偶然、クリスマスを前に、かおるの妊娠が解ったのだ。恵は学校から帰れば、かおるのお腹に向かって、一生懸命に絵本を読んであげたり、撫でたりとかおるから離れなかった。喫茶店経営の仕事の邪魔になるからと、十和子に叱られても何処吹く風だ。常連の近所の奥様連中から、良いじゃないかと助け舟。恵はお母さんのお腹は俺が守ると云ったそうだ。そんなある日の夕方、標準よりも多少小さい恵の身体を肩車にして、公園の帰り道、太一は夕日を眺めながら、恵に語った。恵。男は強いだけじゃ駄目だぞ? 心の痛みも解る男にならなきゃな』
聡い子だと周りから云われて来た恵に、もう三年生だからどうかなと、太一は話してみる。十二月の半ば。クリスマスバージョンに庭を飾る近所を眺めながら、太一は恵に話して聞かせる。自分が父に教わった様に、今度は自分が息子に語る。
「そこでだ。君にある課題を出そう」
「は?」
恵はクレッションマークで友人三人を見渡す。
「君を真の男の仲間入りをさせてやる」
「だからなんだよ?」
恵はじれったくなって訊く。
「兄貴の隠し持ってるDVD、実は無修正なんだ」
恵は刹那顔が引き攣った。漸く話しが飲み込めたのだ。
「恵君これは秘密だよん?」
平片およびその他友人は、にんまりと笑う。恵は首元まで紅くなった。
「週末に?」
帰宅した恵は早速、十和子に平片の家へ泊まる事のお許しを頂く為、顔の前で両手を合わせて頼んだ。十和子は昨夜の太一との会話を恵に、聞かれた後ろめたさもあり、駄目とは云い難い。
十和子は料理中のお鍋をかき回しながら困惑した。
「でも、あちらのご両親に迷惑じゃないの? それに毎回お断りしてなかった?」
「それは大丈夫。平片のお父さん達旅行だって。それに中学最後の思い出作りにってさ」
名目は『試験勉強』という事になっている。
「それと、お父さんには内緒にしてて欲しいんだ」
「…え?」
「今は話したくない。顔だって」
見たくないと云おうとしたが、言葉を呑んだ。十和子はふと、溜息を吐いた。
「恵。いくらなんでも、あなたのお父さんよ?」
「でもやだもん」
恵は恵で十和子とは違った後ろめたさがある。内心ドキドキしていた。
「そう…? 私は良いけど…問題は伊吹よねぇ。またついて行くって泣くんじゃないかしら?」
問題はそこだ。なんとか伊吹を丸め込んで、ついて来ない様にしなくては。平片達に約束させられたのだ。恵もたまには友人達と騒いで遊びたいのは実の処の本心だ。
「そっちはなんとかするから。あと、さ…」
十和子は夕飯の仕度をいったん止め、振り返る。
「ほんと、マジでお父さんには内緒にしてて欲しいんだ」
「…恵」
十和子は困って息を吐く。
「何を言っているか解ってるの?」
「そんなの解ってる! だから許せないんだよっあんな…お母さん心臓弱くなってるのに…もし知ったら」
もしかおるに太一の不倫が、裏切りが知れたら。綺麗な綺麗な優しい母。家に帰れば『おかえりなさい』と、十五の息子に優しくキスをするかおるに、いつも照れ臭くて、乱暴に腕でキスされた頬を腕でゴシゴシと拭いてしまっていた、罪悪感。本当は嬉しかったのに。それでもかおるは知っていてくれる。恵がかおるを尊敬し、大好きなのを。双眸に涙の膜が掛かる。
「…伊吹を迎えに行って来る」
「えぇ。お願いね、気を付けて」
「行って来ます」
恵はコートを羽織ったままで、ソファーにおいた鞄を取り自室に置いて来ると、玄関を出た。もう直ぐ十二月。クリスマスはもう直ぐなのに。子供の頃に信じていたサンタは居ない。いつの頃からサンタを信じなくなったのか、もう覚えてはいない。それは大人になるという事。恵はすっかり暗くなった、十七時の針を刺す腕時計を見ると、今日何度目かの溜息を吐いた。白い息が、まるで恵の凍て付いた心を表す様だった。太一が思い出すのは、恵の小さな頃の笑顔。小さい頃はよくこの腕にぶら下がったり、肩車をしてやった。恵が喜ぶからだ。恵が小学校三年生の時、かおるの妊娠を知って大いに喜んだ。兄弟が欲しいと一度だけクリスマスプレゼントに、街角でプラカードを持つ偽者のサンタクロースにおねだりしたのだ。かおるは驚いて、そのサンタの格好をした店員に平謝りをしたと、頬を染めながら太一に話した。
『やった! サンタさんがお願い聞いてくれたんだね?』
偶然、クリスマスを前に、かおるの妊娠が解ったのだ。恵は学校から帰れば、かおるのお腹に向かって、一生懸命に絵本を読んであげたり、撫でたりとかおるから離れなかった。喫茶店経営の仕事の邪魔になるからと、十和子に叱られても何処吹く風だ。常連の近所の奥様連中から、良いじゃないかと助け舟。恵はお母さんのお腹は俺が守ると云ったそうだ。そんなある日の夕方、標準よりも多少小さい恵の身体を肩車にして、公園の帰り道、太一は夕日を眺めながら、恵に語った。恵。男は強いだけじゃ駄目だぞ? 心の痛みも解る男にならなきゃな』
聡い子だと周りから云われて来た恵に、もう三年生だからどうかなと、太一は話してみる。十二月の半ば。クリスマスバージョンに庭を飾る近所を眺めながら、太一は恵に話して聞かせる。自分が父に教わった様に、今度は自分が息子に語る。
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